News 2001年12月5日 10:50 PM 更新

なぜ,“2人”のWinMXユーザーが逮捕されたのか?

「特に悪質だった」という2人のWinMXユーザーが逮捕された。だが,ACCSでは当初100人ものユーザーをマークしていたという。なぜ,この2人だけが逮捕されたのか? 理由は「悪質」だけではなかった。

 ファイル交換ソフト「WinMX」ユーザーが逮捕されたニュースは,「世界初」とコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)がアピールしたこともあり,ネット媒体だけでなく,テレビ,新聞などでも大きく報じられた。逮捕されたのは2人の学生だった。

 ACCSでは容疑者について,「共有していた時間とファイル容量から,特に悪質な2人」と説明しているが,なぜ,この2人だけが摘発されたのだろうか? もちろん,法律的には著作権法に違反(公衆送信権の侵害)したからだ。

 問題は,なぜ,この2人だったかである。多かれ少なかれ,他人の著作物を許諾なしにアップロードしていれば,全ユーザーが取締りの対象になるはずではないのか。やはり,WinMXでの著作権侵害行為を減らすために,「見せしめ」として逮捕したのだろうか?

 「見せしめ逮捕」は,公的に認められない話であるが,この件について,ACCS事業部事業調整課の葛山博志課長に理由を尋ねてみると,意外な答えが返ってきた。

 「どこまでがセーフで,どこからがアウトなのか,明確な線引きはできない。今回逮捕された2人が見せしめになってしまったことは本意ではないが,それが現実だ」。

 線引きはできない――それなら,逮捕されたユーザーと,されなかったユーザーの違いはどこにあるのだろうか? 

 1つは,既に報じられている通りだが,この2人が,他のユーザーを“圧倒”していたからだ。容疑者の1人である大学生は,ACCSが京都府警犯罪対策室の要請を受けて調査を行っていた3週間の間に,10日間もWinMXに接続しっぱなしだったという。

 もう1つの理由は,ACCSにそれほど多くのユーザーを追跡するほどのマンパワーがなかったことである。葛山氏は自嘲気味に“腕力がない”と表現するが,2人のユーザーの動向を3週間監視するだけでも,多大な労力を要したという。必然的に,ターゲットとなるユーザーの数は限られてくる。事実,ACCSでは当初,100人ものユーザーについて行動を調べていた。

 この説明を聞く限り,ACCSが調査していた3週間という期間に,WinMXを“ヘビー”に使っていたユーザーが捕まったということになる。だとすると,「逮捕されたユーザーは運が悪かっただけ」という意識が,WinMXユーザーの間で広まる可能性もある。

 葛山氏は,「WinMXでアプリをアップロードしているユーザーは全て摘発の対象になる」とした上で,「今回の摘発について,偶然の要素は否定しない。もしかしたら,逮捕されたユーザーと似たような条件のユーザーは他にもいたかもしれない」と認める。

 「ただし」と葛山氏は付け加える。

 「著作権侵害は,“交通違反”のように運が悪かったで済まされる問題ではない。これは“交通事故”だ。アプリケーションをアップロードすることで,他人の著作権を侵害している。他人に損害を与えていることを知ってほしい。今回の件で,本当に摘発されることを理解してもらいたい」。

違法ユーザーは全員摘発?

 だが,状況はほとんど変わっていない――というのが,ACCSのWinMXに関する認識である。「ユーザー摘発によって,WinMXから著作権侵害のアプリケーションが一斉になくなると予想していた。ところが,わずかに減ったくらいで,正直なところ,落胆している」(葛山氏)。

 11月28日の報道発表以降,ACCSにはISP(インターネットサービスプロバイダー)から,問い合わせが相次いでいるという。内容は,「おそらくファイル交換ソフトのユーザーだと思われる会員が,回線を占有している」「自分のサービス会員から,逮捕者を出したくない」などだ。

 さらに,当局は今も,WinMXユーザーの摘発に関心を持っている。実際にACCSに協力要請があったかは不明だが,葛山氏は「状況が変わらなければ,今後も刑事告発は考えられる」と話す。

 2人の逮捕者を出したにもかかわらず,相変わらずアプリケーションがアップロードされているのは驚きだが,ACCSもただ指をくわえて見ているだけではない。葛山氏によれば,ACCSでは既に対応策を用意しているという。

 詳細については,「公開すると回避される可能性が出てくるので,明かすことはできない」(同氏)とのことだが,イメージとしては,WinMXに限らずファイル交換ソフトを利用した著作権侵害行為を発見し,監視に必要な情報を自動で収集してくるシステムということのようだ。「現在はまだベータ版だが,年内には稼動する予定だ」(同氏)。

 このシステムが稼動すれば,悪質か否かに関わらず,ファイル交換ソフトで著作権を侵害している全てのユーザーを一斉摘発することになるのだろうか? 葛山氏は「このシステムを,新たな摘発に使うつもりはない」と強調する。ACCSでは,このシステムで収集されたデータをISPに提供し,ユーザーに対して,著作権侵害行為を止めるよう呼びかけてもらう計画だという。

 「常々口にしていることだが,ACCSの役割は,著作権侵害行為をなくすために,ユーザーを啓蒙すること。摘発は,最大の目的ではない。WinMXでの違法行為も,各種メディアで警告してきた。今回のWinMXユーザーの逮捕も,ACCSにとっては苦渋の選択だった」(同氏)。

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[中村琢磨, ITmedia]

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