News:アンカーデスク 2003年5月6日 02:29 PM 更新

指先で考える喜び――東プレ Realforce101(2/2)


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 第1の理由は、文章を書く人間特有の感覚なのかもしれないが、キーボードそれぞれに「書き心地」というものが存在するのである。

 Realforceの前に筆者が使っていたキーボードは、(あまり世間では評価されていないようだが)FILCOの「DFK-81E2」というモデルだ。メカニカルタッチだが比較的軽く押下できるもので、タイプするとカリカリと引っ掻くような乾いた音がする。これなどは、文豪よろしく原稿用紙に万年筆でカリカリと書き進めていくような感じがして、割と気に入っている。

 IBMのSpaceSaver 84key(関連記事)は、しっかりした打鍵感でその筋では有名だが、これはノートにボールペンで彫り込むように書いていく感じがするし、Realforceではカラー広告の裏側みたいなすべすべした紙に、サインペンでツルツルと書き連ねていくといった感じがする。

 筆者にとってキーボードは、紙やペンと同じようなものなんである。

書き続けるための道具

 書き心地が変わるということがそれほど重要なのか、と言われれば、もちろんそうだ。好きでネットに書き込みするにしろ、仕事をするにしろ、いかに新鮮な気持ちで目の前のタスクに立ち向かえるかは重要なファクターなのである。指先の感覚を通して気分をリフレッシュするという効果は、意外に馬鹿にできない。

 指をよく動かすと老化防止になりますよ奥さん! なんて、いかにもみのもんたが言いそうだが、脳の活性化と手を動かすことには重要な関係がある。これはホムンクルスという図を三次元化したイメージだが、神経細胞の量の割合を体の面積で表わしたものだ。

 手にはものすごい量の神経細胞があり、それだけ脳に密接に結びついている器官だということである。これを見れば、筆者がキーボードごとに違った書き心地を感じ、それによって気持ちがリフレッシュできるということも、ある程度、説得力のある話に聞こえないだろうか。

 もっとも、こういった指先の感覚がいろいろ楽しめるのは、キーボードが互換性のある入力デバイスとして作られているからであろう。そういう意味では、筆者はお仕着せのキーボードで我慢を強いられるノートPCでは、今ひとつ原稿を書こうという気にならないし、実は購買意欲もそれほどなかったりする。

 業界筋では、今年後半から来年にかけてTabletPCがブレイクすると見ているようだが、キーボードレスのこのPCが流行るようであれば、脳に対する刺激がどんどん少なくなっていくような気がする。

 ペンをバリバリ使うのさ、と言う反論も聞こえてきそうだが、マウス操作と文字入力のすべてが片手に集中するというのは、ちょっと偏ってないだろうか?

 キーボードはピアノのように両手を均等に使うから、高速入力が可能だし、脳の活性化にも役に立とうというものだ。執筆をする人間にとって、ツルツルの画面に向かってペンで書くというのはあまりいただけない。画面にキートップが出てきて、それに向かってぺたぺたタイプするというのなら、まあちょっとは面白そうだ。

 そういえば光キーボードという技術もあるようで、これはこれでどんな書き心地なのか、今からとても気になっている。

 2003年秋をめどに実用化ということらしいから、あと半年ほどだろう。筆者が小学生の頃、音楽の教科書の裏側に印刷された鍵盤で運指の練習をさせられてうんざりしたものだが、そういう感じなんだろうか。

 投射ポイントを変えてキーボード全体の大きさを自由に変えていいのか、やっぱり国内製品は日本語キーボードなのかといった素朴な疑問もある。指先の質感だけを提供する下敷きみたいなものも売られたりするとそれにまたこだわる人が出てきたりして、面白くなりそうだ。

 キーボードは、人によっては単なるスイッチの塊で、面白くもおかしくもないデバイスかもしれないが、タイプライターが発明された19世紀半ばから延々改良され続け、また愛されてきた入力装置である。

 手書き認識や音声認識など、新しい入力技術に比べればそれなりに制限があるのも事実だが、ここまで完成したものをいまさら放り投げる必要もないだろう。書くことを楽しみとして続けていくために、これもまた必要不可欠な機構なのである。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。



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[小寺信良, ITmedia]

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