モバイル端末やコミュニケーションツールの普及に伴い、時間や場所にとらわれないワークスタイルを取り入れる企業が登場しつつある。そんな中、さまざまなITツールを活用して先進的な働き方を実践する新興企業が急増している地域が兵庫県にあるという。
兵庫といっても神戸市などの都市部ではなく、もっと北部の山村地域――いわゆる“田舎”だ。彼らはなぜその地を選び、どのような働き方を実践しているのか。実際に兵庫の多自然地域を訪れ、そこで働く人々の声を聞いてみた。
神戸の中心地から60キロほど北に位置する兵庫県篠山市。豊かな自然環境を持つ同市の一角にオフィスを構えているのが「株式会社いなかの窓」だ。
「篠山にIT企業ができたって!」。オフィスの扉をくぐると、そう書かれた同社のチラシが目に入る。中高生時代の同級生たちで2015年1月に創業した同社は現在、市内の中小企業を中心に、約60社に向けてWebサイト構築や各種デザインなどの事業を行っているという。
「僕たち、東京に疲れて戻ってきたんです」――こう話すのは、同社の代表を務める本多紀元さん(26)。
市内の高校を卒業後、システムエンジニアを目指して大阪府内の工業大学(情報工学科)に進学した本多さんは、在学中に個人Webサイトを立ち上げた。サイトは順調に拡大し、開設2年目には広告収益だけで「1人なら食べていけるほど」になったが、「1回は東京に出てみよう」と心機一転で上京することに。だが、そこで待っていたのは想像以上にストレスフルな環境だったという。
「渋谷のWebベンチャーで社会人インターンとして働き始めましたが、せわしない日々にただ精神的にすり減るばかりでした。渋谷は人が多すぎるし、何よりきつかったのは日常的に満員電車に乗らないといけないこと。地元のようにジャージで近所を出歩くのもはばかられるし、こんな環境で働き続けるのはとても無理だと思いました」(本多さん)
共同創業者の1人である西本和史さんも、篠山市出身で都内の企業からUターンしてきた“東京脱出組”だ。
「新卒で都内の不動産会社に入社しましたが、東京での暮らしがあまりにストレスフルで。おまけに社内では上のポストが詰まっていて、少なくとも40歳までは課長に昇進できない人事制度になっていた。これはもう無理だと感じていた時に、もともと起業に関心があった本多からチャットで連絡があり、地元に戻って一緒に会社をつくる道を選んだんです」(西本さん)
都会帰りの彼らが立ち上げたのは、Webサイト制作やデザイン制作など篠山市になじみの薄い事業ばかり。「最初はそもそもニーズがあるか不安だった」が、その悩みもすぐに払拭されたという。
「いざ事業を始めてみると、Uターンした若者が起業するということで地元新聞に取り上げられ、地域で60年以上も事業をしている葬儀屋さんや塗装屋さんなどさまざまな会社に仕事をいただきました。中には親世代のつながりで仕事を受けることもあります。父親に『同級生がやってる会社のホームページ作ってやってくれんか』と言われたり」(西本さん)
一方、都市部で働いていた時の知人経由などで、今でも東京や大阪などから仕事の依頼を受けることもある。そうした際は、デルのノートPC「Inspiron」シリーズなどを活用し、SkypeでのWeb会議やファイル共有をしながら遠く離れた企業のWeb制作業務をこなしている。
同社のメンバーは創業者4人に契約ライターやデザイナーなどを合わせて約10人。そんな彼らの働き方へのこだわりは「できるだけ会社っぽくしないこと」だという。オフィスに決まった時間に出社する必要はなく、チャットツールやWeb会議でコミュニケーションしながら各自のペースで働けるようになっている。
「いまやノートPCを持ち出してクラウドにつなげばどこでも同じように仕事ができますし、離れた地域の人たちとも、Web会議ツールなどを使えば問題なくコミュニケーションできます。僕らのような働き方のスタイルは、今ほどITが発展していない数年前なら考えられなかったでしょうね」(本多さん)
自分たちの仕事の仕方や、制作した地元企業のWebサイトを通じて「地方でも面白い仕事ができることを発信していきたい」と本多さんは言う。「『いなかの窓』という社名は実は『田舎ノマド』とのダブルミーニング。やっぱり自分が生まれ育った地元が衰退していくのは寂しいので、僕ら自身も町を盛り上げつつ、ITを使えばこんな自由な働き方でもちゃんとビジネスができるということを示していきたいですね」。
兵庫県の山村地域で新規ビジネスを立ち上げているのは、Uターンしてきた地元出身者だけではない。「当社の社員は7人全員が他地域出身者です」と話すのは、篠山市のとなりに位置する丹波市でWebデザイン事業を手がける「株式会社ご近所」の小橋昭彦代表だ。
もともと都内でITベンチャーを経営していた小橋さんが丹波に同社オフィスを構えたのは2012年のこと。ネットの普及で地域を問わず情報が流通しやすくなった今、地方発の情報を増やしたいという思いから、一念発起でこの地に新オフィスを立ち上げた。
そんな同社がこだわっているのが、丹波地域だけにとどまらない働き方や事業を行うことだ。全社員がノートPCを使ってさまざまな場所で仕事できるようにしているほか、民家風のオフィスの2階には、ネット中継が可能なスタジオなどを設置している。
また最近では、オフィスの一部を他企業に貸し出し、テレワーカーを受け入れる取り組みも行っている。小橋さんによると、2015年11月のスタート時からの2カ月間で、都市部の大企業の社員など3人が同社オフィスでテレワークを体験したという。
「テレワーカーを派遣した企業の目的は、働く場所を変えて社員の集中力を高めること。実際、当社オフィスに訪れたテレワーカーたちはノートPCとデスクトップ仮想化基盤を活用し、普段通りの仕事をスムーズに行っていました。彼らの所属企業にとっても『ITを使えばこんな柔軟な働き方ができるのか』と実感するきっかけになったようです」(小橋さん)
なぜ今、兵庫県の山村部でIT・ネット企業が増えているのか。その背景には、同県が取り組む企業誘致の取り組みがある。
「兵庫県では、神戸などの都市部では多くの企業がオフィスを構えていますが、それ以外の多自然地域では労働人口の減少が進んでいます。その地で生まれた子どもたちも、学生時代に都市部に出てから卒業後に帰って仕事をしたくても、地元にやりたい仕事がなく、都市部で就職するケースが多い。その状況をなんとかしたいという思いがありました」――兵庫県庁の阪本明功さんはこう話す。
そこで同県が注目したのが「IT」だ。県の公式サイト「ひょうごの多自然地域ではじめるICTを活用したサテライトオフィス」を通じ、オフィス賃料や人件費補助などの支援策を紹介。ITを活用して地方でビジネスを立ち上げたい企業を積極誘致した。
「兵庫県は世帯カバー率99.7%の高速ネットワーク網が敷かれていますし、いまやPCがあればどこでも仕事ができる時代です。ITを活用した業態であれば、都市部ではなく多自然地域でも同じように仕事をできるはずだと考えたのです」と阪本さん。2013年10月に取り組みをスタートし、これまでに10社が同制度を活用して新規オフィスを立ち上げたという。
こうしたIT活用方針は企業誘致だけにとどまらず、県庁自体の業務でも生かされつつあるという。兵庫県庁では2015年、庁舎内にサテライトオフィス用のスペースを設置。出張所などから訪れた県職員が、県庁ネットワークにアクセスして普段と同じように仕事ができるようにした。
「育児や介護などの事情で、勤務地から離れた自宅などで働ける環境を必要としている人々はたくさんいます。都市部以外でもITを活用した先進的な働き方を取り入れる企業が増えると嬉しいですね」と阪本さんは話している。
薄く、軽く、フレキシブルに。デルは記事内にも登場した「Inspiron」シリーズのほか、高性能な法人向けノートPC「Dell Latitude」や、3-in-1スタイルのWindowsタブレット「Dell Venue Pro」などの提供を通じ、ビジネスパーソンの生産性を高める自由な働き方を支援しています。
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