人工知能は生命と同じく「目」を手に入れ、爆発的に進化する――AI研究の第一人者・松尾教授が語る企業と消費者のコミュニケーション変革

» 2016年11月29日 10時00分 公開
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 いたるところで耳にするようになった人工知能(AI)というワード。近年の進化は著しく、さまざまな産業でAIの活用が期待されている。

 そんなAI研究の第一人者である東京大学大学院の松尾豊特任准教授が、コンタクトセンター業を中心としたCRM(顧客管理)事業を手掛けるベルシステム24が主催する「『人工知能と共存する』コンタクトセンターテクノロジーの展望」セミナーに登壇し、「ディープラーニング」(機械学習)で盛り上がりを見せるAIの進化と、企業と消費者のコミュニケーション変革について語った。

photo 東京大学大学院の松尾豊特任准教授

 松尾准教授は2015年に出版した『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』がベストセラーになるなど、ここ数年のAIブームの火付け役になったとも言われている。古くから議論されてきたAIはなぜ今ここまで注目され、社会をどのように変える可能性を秘めているのか――企業ビジネスのこれからの在り方も予見させる内容に、多くの聴衆が耳を傾けていた。

期待と失望を繰り返す「AIブーム」 今は「50年来のブレイクスルー」

 AIという言葉が生まれたのは、今からちょうど60年前の1956年のこと。第1次、第2次とブームを繰り返し、現在は「第3次AIブーム」と言われている。今盛り上がるAIの中心にあるのはディープラーニングであり、これがいかにAIにとって「破壊的なイノベーション」であるかを松尾准教授は力説する。

photo 人工知能動向の歴史。過剰に期待されては失望されることを繰り返し、現在は第3次ブームを迎えている

 例えば、「ネコ」「イヌ」「オオカミ」の画像をコンピュータに見分けさせたいとき、従来のAIは人間が対象物を観察し「どこに注目すればよいか」という特徴を取り出してモデル化していた。

 「特徴量の抽出、モデル化の部分に大きく人間が介入していることが唯一にして最大の課題だった」(松尾准教授)。

photo 「ネコ」「イヌ」「オオカミ」の特徴を、AIが判断できるように人間が設定していた

 ところが、ディープラーニングによって膨大な量の画像をデータとして入力し、学習、出力を繰り返していくと、AIがそれぞれの特徴を学習し、画像に写っているのがネコ、イヌ、オオカミのいずれかをAI自体が“判断”できるようになる。

 ディープラーニングによって、AIは「データから学習する」という新たな強みを手に入れたのだ。松尾准教授はこれを「50年来のブレイクスルー」と表現する。

AIの爆発的進化は生物の「カンブリア紀」に似ている

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 「AIが人間の手を借りず、画像や映像に写っているものを認識できるようになる」。松尾准教授によれば、こうしたディープラーニングの特徴は「目の技術」と表現でき、AIが爆発的な進化をするきっかけになるという。その理由は生物学にあるという。

 地球が誕生してから45億年。生物の進化過程において、今から5億4200万年〜5億3000万年前の比較的短い期間に、突如として現存する全ての生物の種が出そろう「カンブリア爆発」と呼ばれる現象が発生した。長年謎だったその原因は諸説あるが、古生物学者のアンドリュー・パーカー氏は「生物が目を持つようになったから」という説を提唱している。

 一説によれば、目を持たなかった生物は「体に何かがぶつかったから逃げる」「ぶつけられたから食べる」といった行動しかできなかった。しかし、目を手に入れたことで生存率や捕食の成功率などが飛躍的に向上し、敵と出会ったときにも複数の戦略を取れるようになった。これによって生物が多様化して生物種が増えた――とされている。

 松尾准教授は、ディープラーニングによってAIが目を持つようになり、まさにこのカンブリア爆発と同じことが機械やロボットにも起こるのではないかと予測しているのだ。

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ディープラーニング革命の「3つのステップ」

 ディープラーニングによるAIの革命は、「認識(画像が認識できる)」「運動の習熟(ロボットが熟練した動きができる)」「言語の意味理解(文と映像の相互変換ができる)」の3つのステップに分けられるという。

 特に“画像認識分野”においては、2015年に人間の精度を超えるという急速な進展を見せたという。松尾准教授はこれを「数年後、歴史の教科書に載ってもいいくらいの出来事」と強調する。

 “運動の習熟”とは、人間の「慣れ」のようなものだ。報酬を得られると事前の行動を強化する強化学習により、ルールを人間が定義化することなく、ブロック崩しやインベーダーのようなゲームをAI自身がプレイしてテクニックを学習できるという。松尾准教授によれば、米ATARIの約60のゲームのうち、半数ではすでにAIが人間のハイスコアを超えている。AIは習熟を通じ、人間のような熟練した動きができるようになっているのだ。

 “言葉の意味理解”では近年、「写真の内容について自動で注釈を付ける」ことと、その反対に「入力した文章に応じて画像を描くこと」ができるようになったという。

 これらの「認識」や「運動の習熟」は、従来型の人工知能が最も苦手とする分野だった。研究者の間では「モラベックスのパラドックス(=子供でもできることほど難しい)」としても知られていたが、ディープラーニングにより、難しいことではなくなりつつあるという。松尾氏は「これこそが第3次人工知能ブームの本質」と話す。

「言葉の意味理解」が顧客接点に“破壊的な変化”をもたらす

 とはいえ、AIとディープラーニングにも限界はある。現代の自然言語処理は統計的なものに基づいて反応を返しているだけであり、言葉の意味を理解しているわけではない。したがって「人間が応対するコンタクトセンターの事業などは、付加価値が残り続ける」と松尾准教授は分析する。

 AIが言葉の意味を理解できるようになれば、革命的な変化をもたらす。特にビジネスの接客全般においては、より効率化が進むだろう。しかし、そこに至るまでには今後10年から15年はかかる見通しだ。

 一方、それまでに活用できるAIの技術も多い。代表的なものの1つは「音声認識」だ。ディープラーニングによって精度は相当上がり、人間をサポートする大きな力になるという。このことを踏まえて「人間がどうAIを活用していくか」が今後数年のポイントになると、松尾准教授は話す。

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 さまざまな産業において「自動化できるもの」はAIによって自動化の一途をたどると言われている。こうした中で「機械による接客=安価」「人間による接客=高価」というように、人間が関わるものは高付加価値化していく。

 特に「処理がAI、顧客接点が人間」である業態は、あらゆる分野で高付加価値になっていくという。今後、AIと人間をどうやって組み合わせていくかが重要になると松尾准教授は言う。「重要なのは、人間ならではの高付加価値の本質を追究していくことだ」(松尾准教授)

重要なアプローチは「AIと人間のハイブリッド」

photo ベルシステム24ホールディングス 執行役員の松田裕弘CIO

 では、進化したAIをどうビジネスに生かすか。ベルシステム24ホールディングス 執行役員の松田裕弘CIOは、コンタクトセンター業大手「ベルシステム24」での展望を話す。

 ベルシステム24は今後、顧客企業向けに提供しているFAQシステム、チャット、メール、SNS、電話といったサービスにおいて、エンドユーザー(その企業の顧客)とのファーストコンタクトをAIに担当させていく方針だ。企業にサポートを求める消費者自身の「自己解決力」を高め、サポートスタッフの負担を軽減するのが狙いという。

 基本的な1次対応はAIに任せるが、クリティカルな内容や1次対応に対する追加質問への返答など、2次対応は正確なユーザーの状況を把握できるスキルを持った人間が行う。松田CIOはこれを「AIと人間のハイブリッド」と表現する。

 人と人のコミュニケーションを成立させるには、いくら進化を遂げた最新のAIをもってしても100%の対応は現状難しい。AIと人間が適材適所で働き、相互補完することで、顧客満足度の向上とコスト適正化を実現するアプローチだ。顧客とのやりとりに応対するコミュニケーターの支援としてAIを利用する事例は多いが、ベルシステム24のやり方は、さらに一歩踏み込んだ活用と言えるだろう。その分難易度は高いが、そこには「技術の裏付け」が存在するという。

 松田CIOは一例として、自然言語処理技術「word2vec」を用いた対話エンジンを紹介した。これはいわば、高度な一問一答型検索エンジンで、既存の質問データと共通の単語がない質問文に対しても、適切な回答の選択肢を導き出せるというものだ。

 「一度仕組みができてしまえば、いかなる問い合わせに対しても、適した回答を簡単に導き出せるようになる」(松田CIO)

 高度なAIの開発で重要なものとしては「アルゴリズムと学習データ」が挙げられる。膨大なコミュニケーションのログ(サンプル)と人間が操るコミュニケーションノウハウが必要なのだ。ベルシステム24の場合は「コンタクトセンターの応対ログ」こそが膨大な学習データとなり、これまで数億件以上の顧客対応を行ってノウハウを蓄積している同社ならではの強みとなる。

 松田CIOのプレゼン冒頭に話のあった同社の新たなCRMプラットフォーム「Advanced CRM Platform」が実現し、“AIコンタクトセンター”が本格稼働した暁には、他社にまねできないコンタクトセンターという枠組みを超えた、顧客との新たなコミュニケーションプラットフォームが実現する可能性がある。

人工知能をビジネスに活用するため、企業が今やるべきこと

photo ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 サービスデザイナーの飯塚純也本部長

 イベントの後半セッションでは、ベルシステム24とパートナー企業の具体的な取り組みが紹介された。

 ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 サービスデザイナーの飯塚純也本部長は、場所を問わず顧客との接点を生み出す「オムニチャネル」の考え方をAI活用でさらに進化させられると話す。例えば、AIを活用して応対実績からエンドユーザーとオペレーターの相性を学習し、最適なマッチングを行える可能性があるという。



photo 空色 代表取締役の中嶋洋巳社長

 続いてパートナー企業として登場した空色 代表取締役の中嶋洋巳社長は、AIを活用し、一時対応はAIに、購入意思決定時には人が顧客対応を行うWebチャット接客ソリューション「OK SKY」の事例を紹介した。

 阪急百貨店に導入されているOK SKYの例に触れながら、サイト閲覧履歴の蓄積データをアフターサポートやコーディネイト提案、追加購入促進などに活用できることを解説していた。



photo ベルシステム24 マーケティング本部コンサルティング部の北岡豪史部長

 中盤にベルシステム24の松田CIOから、AIを活用したコンタクトセンターの展望に関する話があった一方で「AIは革新的技術であるが、魔法のつえではなく、ナレッジとそのマネジメントがあってこそ生きるものだ」と同社マーケティング本部コンサルティング部の北岡豪史部長は話す。

 AIを用いたシステムの運用では、知見や知識を常にメンテナンスする専任チームを作ることが重要なポイントだという。


 「人手で顧客対応をすること」を主な業務としてきたコンタクトセンターは今、最先端テクノロジーによって、企業と人をつなぐ重要な役割を担う存在に大きく変わりつつある。人とAIによる協働体制が生まれれば、企業と顧客との間をこれまで以上に密接につなぐサービスが実現できるかもしれない。

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提供:株式会社ベルシステム24
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ニュース編集部/掲載内容有効期限:2016年12月28日

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