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» 2018年07月23日 10時00分 公開

AIを使って早く帰ろう――竹中工務店が建設現場へのディープラーニング導入で目指すもの

[PR/ITmedia]
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 2020年に向け、建設業界ではいくつもの大規模プロジェクトが大詰めを迎えようとしている。そうした建設現場の指揮命令を担うのが現場監督(施工管理者)だ。現場監督の仕事は工程管理から品質管理、現場の安全管理、作業者のスケジュール管理まで多岐にわたり、激務というイメージを持つ人も少なくないだろう。

 そんな現場監督の業務負荷を減らそうと、新たなアプローチを始めた企業がある。日本を代表する大手ゼネコンの1社として、高層ビルディングからスタジアム、商業施設、神社・仏閣などの伝統建築物に至るまで、さまざまなジャンルの大型建築プロジェクトを手掛ける竹中工務店だ。

 同社はこれまでも業務効率化にいち早く取り組み、一定の成果を上げてきた。ただ、人手による作業が中心の建設現場だからこそ、効率化できない仕事も残っていたという。そこで同社が注目したのが、ディープラーニングの活用である。

夕方から始まる「現場写真整理」 業務効率化の大きな課題に

photo 竹中工務店の宮口幹太氏

 「建設業界では現在、長時間労働が大きな問題になっています。働き方改革に関連する新法令は建設業界に関して施行後5年間の猶予を与えていますが、当社でもこの問題に向けた取り組みを積極的に進めています。これは業界のリーダーとしての責務であり、優秀な若い人たちに建設業界を志してもらうために必要なことだと考えています」と、同社の宮口幹太氏(技術研究所 先端技術研究部 ロボティクスグループ長)は話す。

 そのために同社はITを活用したさまざまな業務効率化の施策を進め、既に一定の成果を上げている。だがその多くは、オフィス内で行われる事務作業の範囲にとどまっており、建設業界で多くの比重を占める建設現場業務の効率化は思うように進んでいなかったという。こうした現場の実情について、同社の栗原淳氏(東京本店 技術部 計画2グループ 課長)は次のように説明する。

 「建設現場は、場所も環境も毎回異なるため、オフィスワークのように共通の仕組みを一律に導入して業務を効率化するやり方が通用しません。また多くの作業が人手頼みで、労働集約的な性格が強いため、工場の製造ラインのように機械化による自動化が難しい面もあります。そのためこれまでは、なかなか労働時間の短縮が進みませんでした」

 例えば、建設現場の写真を撮影し、それを報告書にまとめる作業も、長らく人手に頼ってきた作業の1つだ。1つの建築物が完成するまでには「鉄筋工事」「コンクリート打設」「壁の設置」など、膨大な数の工程を経る。そして工事全体の品質を確保するために、それぞれの工程が完了した時点で、その工事が適切に行われたどうかを証明する写真を撮影し、報告書にまとめる。

 この写真は、かつては1平米当たり約1枚が撮影されていたが、建築物の品質基準が厳しくなった今では、1平米当たり約10枚もの写真を撮影する必要があり、現場監督にとって大きな負担になっていたという。

photo 栗原淳氏

 「現場監督は、昼間に建設現場でさまざまな写真を撮影し、夕方に事務所に戻ってきてから残業時間帯に撮影した写真を分類し、報告書を作成する必要がありました。デジタルカメラの導入と、報告書のシステム化によってある程度の効率化は達成できましたが、依然として多くの作業は人手に頼っており、さらなる効率化が求められていました」(栗原氏)

 同社は2014年から現場監督にiPadを配布し、専用アプリを通じて現場の情報を収集する仕組みを作り上げてきた。写真の撮影はiPadを使って行い、現場に設置したビーコンとiPadを連携させることで撮影場所を自動的に取得したり、iPadのユーザーを撮影者として自動的にシステムに入力したりする仕組みだ。だが「この写真は何の工事を撮影したものなのか」という情報を自動取得・登録する手段はなかったという。

 人手によらず、写真の仕分け業務を自動化する方法はないか――そこで同社が目を付けたのが、AIを用いた画像認識技術だ。

写真整理はAIで自動化できるか?

 建設現場で撮影した写真を画像認識AIで解析し、どの工程を撮影したものかを自動で認識できれば、現場監督の作業負荷をかなり軽減できるのではないか。そう考え、同社の研究部門は2016年から独自に画像認識技術の研究を進めてきたという。

photo 高井勇志氏

 「ちょうどその頃はディープラーニング技術が実用化され、オープンな環境下で簡単に実行できるサービスが出てきたタイミングでした。画像認識技術の知見を持つ技術者が社内に何人かいたことも、研究活動を後押しするきっかけになりました」と、研究プロジェクトの中心メンバーである高井勇志氏(技術研究所 先端技術研究部 知能情報グループ主任研究員 ※「高」ははしごだか)は話す。

 こうした研究が一気に実用化に動き出すきっかけとなったのが「Microsoft Azure Machine Learningサービス」との出合いだった。このサービスは、Microsoft Azureのクラウド環境上で機械学習を実行するために必要な環境一式を提供するものだ。

 高井氏らも以前から、普段の研究活動の中でMicrosoft Azureのクラウド環境を利用していたため同サービスの存在は知っていた。転機となったのは、栗原氏の知人の紹介で、日本マイクロソフトのエバンジェリストから直接プレゼンテーションを受ける機会を得たことだ。このプレゼンの内容が、社内で高く評価されたという。

 「画像認識でできることとできないこと、具体的なプロジェクトの進め方など、的確かつ具体的な内容を提案されて『これならいけるのではないか』という感触が得られました」と高井氏は振り返る。そこで同社は、マイクロソフトの技術者を交えた1週間の共同開発プロジェクトを実施。Microsoft Azure Machine Learningサービスを使ったプロトタイプの実装を試してみることにした。

「驚きの結果が得られた」――共同開発プロジェクトの手応えは

 共同開発プロジェクトには、竹中工務店から2人の研究員、マイクロソフトからは米国本社のエンジニアも含めた6人が参加。建設現場で撮影された大量の写真データをAIに学習させ、「その写真がどの工程を撮影したものなのか」を自動認識できる学習モデルの開発に取り組んだ。

photo 共同開発プロジェクト(ハックフェスト)の様子

 学習モデルの構築に用いる教師データは、竹中工務店が過去15年以上にわたって蓄積してきた大量の写真データの中から、人が最終チェックして約1万枚を採用。ディープラーニングのライブラリにはKerasを採用し、これをGPUを用いるディープラーニングの実行に最適化したMicrosoft AzureのIaaS環境「Deep Learning Virtual Machine」の上で並列実行した。

photo システム構成図
photo 松岡康友氏

 AIの学習状況のモニタリングには、ローカルPCに導入した「Azure Machine Learning Workbench」というツールを用いた。「クラウド上で並列実行している複数の学習モデルをそれぞれ手動で管理するのは極めて煩雑です。しかし、Azure Machine Learning Workbenchを使えばビジュアルな画面上で極めて簡単に管理でき、とても重宝しました」と、プロジェクトに参加した竹中工務店の松岡康友氏(技術本部 技術企画部 主任 企画担当)は話す。

 開発スピードとコストを重視し、ディープラーニングの実行環境にはオンプレミスサーバではなくクラウドを選んだ。「高スペックなハードウェアを自前で調達するとなると、時間もコストもかかりますし、AIの学習は毎日行うものではないため投資対効果もよくありません。その点、Microsoft Azure Machine Learningサービスなら、最新のGPUを備えたコンピューティング環境を必要なときに、必要な分だけすぐに調達できますので、時間もコストも大幅に節約できると考えました」(高井氏)

 マイクロソフトのエンジニアから直接レクチャーを受けながらモデルを構築した結果、「1回目に試したモデルから、驚くほど高精度の結果が得られた」と松岡氏は話す。この成果を基に、その後モデルをブラッシュアップしていった結果、十分実用に耐える認識精度を達成したという。

18年6月から建築プロジェクトに投入 1人当たり毎日2時間相当を効率化へ

 共同プロジェクトを経て開発された“写真仕分けAI”は、現場への実戦投入に向けて進み始めている。2018年6月に着工した大規模プロジェクトを皮切りに、他のプロジェクトへの投入も随時検討していく考えだ。新システムの導入で、これまで毎日2時間ほどかかっていた写真の分類と登録の作業がほぼ不要になるため、現場監督の業務を大幅に効率化できると見込んでいる。

photo 約1万枚の写真データを学習させ、19種類の工事写真を仕分けできる学習モデルを構築した(de:code 2018での竹中工務店講演資料より)

 「認識率を上げるために鍵を握るのが、学習データの量と質です。これまでは、工事記録のために撮影した写真を学習に用いてきましたが、今後はAIの学習用途に特化した写真を撮影する専門要員をそろえて、学習データをより拡充していく予定です」と高井氏は話す。

 現時点で自動分類できる写真は19種類の工事に関するものだけだが、最終的には300〜400種類の工事を認識できるよう、今後も継続してモデルの学習とブラッシュアップを続けていくとしている。

 松岡氏は、学習モデルの構築についてもさらなる効率化を目指している。「今回はIaaS環境上で一から自前でモデルを構築する方法をとりましたが、今後新たなモデルを構築する際には、Microsoft AzureのCognitive Servicesを利用することも検討していきたい」という。


 現場業務は人手がかかって当たり前――そんな“常識”に真正面から立ち向かい、AIの導入によって乗り越えようとしている竹中工務店。人々の生活に欠かせない建築物を生み出す同社の仕事が、さらに魅力的で働きやすいものになるように、技術チームはこれからも挑戦を続けていく。

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