ペンコンピューティングの過去・現在・未来――Windows XP Tablet PC Edition開発者が語る(後編:Q&Aおよび未来)インタビュー(2/2 ページ)

» 2004年11月16日 22時46分 公開
[大出裕之,ITmedia]
前のページへ 1|2       

瀬戸 ところで、入力パネル上で改行やスペースのジェスチャが使えることはご存知ですか。スペースは、入力パネル上に何も文字が無い時に2ボックス以上にまたがるように、横に長い線を書くと、スペース文字が入力できます。

――東芝のマシンなどでジェスチャが入っており、かなり面白いと思っています。今回のOSのバージョンアップでは文字入力のほうに力が入っていますが、ジェスチャにも、入力のジェスチャと、OSの操作としてのジェスチャなど、さまざまあると思います。そのあたりはどうなのでしょうか。

瀬戸 タブレットPC にはバージョン1でも、Tablet PC 2005でも、ジェスチャ認識エンジンは入っており、どのソフトウェアでも使えます。ただし、OSの提供する機能として、どのジェスチャをどういう用途で使うかは、十分に吟味する必要があります。私個人の経験からいうと、ジェスチャというのは結構曲者なのです。非常に強力な代わりに、使い方を間違えるとユーザーの意志に反したことが起こりえる。例えば、30通りのジェスチャを使って、こーんなすごいことができますよ、というのがあっても、30通りのジェスチャを多くの人が間違いなく使いこなせるものではありません。

 ジェスチャをOSのレベルでナビゲーションとして使用するか、入力時でスペースなどで使うか、という選択肢がありました。Tablet PC 2005では、Tablet PC 入力パネルの中での入力補助としてまず入れてみよう、ということになりました。ジェスチャコマンドのアイデアそのものは、10年以上前からありました。タブレットPC開発チームでも、どこまで入れるかということで、プロトタイプを作り、ユーザービリティの検証を繰り返しています。ジェスチャは、手書き認識とはまた別の、次の改善点の大きなものでしょう。

 カリフォルニアのシリコンバレーで開発されたペンコンピューティング用の最初のOSの一つにPenPoint というOSがありました。私自身、その開発にも関わりましたが、そのOSはジェスチャを前面に出したOSで、デモはものすごく強力でした。ジェスチャそのものは操作は一瞬で、見えませんから、数十種のジェスチャを的確に指示できるようになると、まるでマジックを見ているように、いろいろな操作がペン一本で操れます。しかし、そうなるには、デモに慣れ、何ヵ月も訓練をつむ必要があります。ソフトウェアもそれに合うようにうまく組み合わせました。マジシャンがそうするようにです。

 タブレットPCが目指しているのは、確認して、テストをして、ほとんどのユーザーが問題なくなじめるように、入っていけるようなものを作りこみながら進化させることです。ユーザーと共に進化する、そういうことが非常に重要です。

そして昨今、ワイヤレス技術が進歩し、使いやすくなってきて、処理速度があがってきて軽量で使えるものができてきた。ペンコンピューティング自体が非常にいい時期に来ています。いろいろな条件がかつてないほどに揃ってきていると言えます。タブレットPCが、現在のPCユーザー、新たなユーザー、一人でも多くのお客様に、使って頂ける価値を提供できるように、うまくステップを踏んでいこうと思っています。

PDAはなくなるか

――タブレットPCが普及するにつれ、PDAはなくなると思いますか?

瀬戸 PDAを使用する用途、適した用途は別にあると思います。これまではタブレットPCが存在しなかった。だからPDAというソリューションを目いっぱい使おうということで伸びてきた。ここ数年、PDAに拮抗する形で、2つの進化が見られています。一つは、タブレットPCで、Windows XPベースですからいろいろなアプリケーションがそのまま動いてしまう。もう一つは、携帯電話です。これも非常な勢いで進化を続けていますから、PDAにとっては、まったく状況が変わってきます。昔は携帯電話は電話、PDAはPDAでした。今は、進化した携帯電話とタブレットPCがある。その中でPDAが生きる範囲がどれだけあるか、ということになると思います。

 我々がタブレットPCを作る時に考えたことのひとつには、携帯電話とタブレットPCでフル・ビジネスソリューションを提供したい、ということです。

 私自身、BluetoothつきのタブレットPCと携帯電話でフルビジネスソリューションにしています。携帯電話は、いつもBlutooth機能をONにして、ポケットに入れています。ちなみに今日は、午前中、調布の研究センターにいまして、新宿のオフィスに戻る電車の中でタブレットPCからバッグに入れた携帯電話経由でマイクロソフト米国本社のサーバにアクセスしていました。パケット網経由ですから、電車の中で、タブレットPCからインターネットにアクセスしているときに電話がかかってきても、耳についているBluetoothのヘッドセットが鳴って、電話にでることができます。タブレットPCからネットへの接続は切れません。

 新宿のオフィスにもどると、タブレットPCをドッキングステーションにセットし、LCDディスプレイ、キーボード、マウスで通常のデスクトップPCと同じ使い方をするわけです。社内のミーティングに行く時は、タブレットPCをドックからはずして持って行き、802.11の無線LANで社内ネットにアクセスしています。

 かつてXeroxでは、Dynabookというようなコンセプトがあって、漠然とこういう使い方を考えていました。そのコンセプトをもとに、Xeroxは最初のパーソナルコンピュータ、Altoを作ったわけです。その時は、Bluetoothは無かったし、公衆のパケット網もなかった。コンピューティング・パワーもずっと小さかった。メモリもずっと少なくて、768Kバイトあるワークステーションが欲しかったのを覚えています。キロバイトですよ。私のこのタブレットPCのメモリは512Mバイトですからね。ネットワークのスピードはインフラの問題ですが、それはそれで巨大なシステムが支えている。そういうことが全部そろって、使えるようになってきた。日本はそういう環境になっています。これは、すばらしいことですよ。

OSのペンコンピューティング用カスタマイズ

――Windowsのインタフェースで、どうして、よりペン操作に即したカスタマイズがなされないのか、と思います。

瀬戸 そういうものがいきなり完成された状態でOS全部に組み込まれるというのは、実際は難しい。少し出してみてマーケットやユーザーの反応を見て変えていくというスタイルが、物を作る、という場合の基本的なスタイルなのではないでしょうか。使う側の反応にお構いなしに、とにかく自分たちの考えで全部変えてみました、というだけでは普及は難しいと思います。

 どういうタイミングでどうマーケットの反応を見るか。マーケットから離れすぎてもいけないし引っ張りすぎてもいけない。先ほど申し上げたジェスチャなどは両刃の剣で、そういうものを使用したナビゲーションは非常に強力だし危険でもあります。ですが、WindowsのUIをペンでどうナビゲートするかを考え、そしてある程度まとまったものを出す、というのはおっしゃるとおり大切な点であり、次のステップだと思います。

 Tablet PC 2005まではどちらかというとインクの機能であったり手書き認識であったり、その周りのユーザーインタフェースを主にやってきました。そのあたりは解決策としても見えているし、検証もできている。そのほかの部分は次のステップだろう、と思います。時間はかかりますが、多くのお客様に使って使っていただけるようなものを、ステップを踏んで出していきたい。

――Windows XP Media Center Editionはリモコンで操作するユーザーインタフェースです。であれば、ペンで操作するユーザーインタフェースがどうなるのか、興味深いところです。

瀬戸 そうですね。キーボード中心のユーザーインタフェースは、コンピュータ中心の発想でした。WindowsのUIはキーボード、マウス中心に進歩してきたことは否めません。人間とコンピュータの関わり方という観点で、25年以上前に発明されたマウスは、パーソナル・コンピューティングにとって、画期的でした。ラップトップコンピュータが出て、人間がコンピュータを使うために、コンピュータがある場所に行くという形から、コンピュータを人間と一緒に持ち運ぶという形がでてきた。しかし、まだ、人間がコンピュータに対面して使っています。タブレットPCを抱えて使っていて感じることは、これは、私の娘が小さかったときに、ミルクを飲ませていた時の格好と同じ格好だ、ということです。

 Media Center Editionにしても、タブレットPCにしても、明らかに、ユーザーが得られる使用価値を中心にコンピュータの機能を作っています。これは、とても大きな進歩です。技術だけでなく、様々な要因がありますが、世の中がそれを求めている、我々は、一人でも多くの人に、一つでも多くの答えを出していきたいと思っています。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.