検索
レビュー

「新しいMacBook」を選ぶ本当の意味林信行の実機リポート(2/5 ページ)

新しいMacBookは、自分の目を信じる人だけに買うことが許された、久々のMacではないかと思う。

Share
Tweet
LINE
Hatena

「潔さ vs. 便利さ」は繰り返されてきた議論

 新しいMacBookでは、HDMI出力、DisplayPort 1.2出力、アナログRGB出力、USB 3.1 Gen 1をすべて1つに集約。そのポートがさらに電源コネクタも兼ねている。そんなの不便に決まっている、という人はいるだろう。


 初めてフロッピーディスクドライブの搭載をやめ、SCSIと呼ばれる1990年代のHDD接続技術を切り捨て、USB一本に絞った初代iMacが発表されたときも、同じような声をさんざん聞いた。

 でも、どうしてもそれが不便だと感じる人は、「あれは私向けじゃないから」とほかのパソコンを選べばいいだけの話だ。それをあえて声をあげて非難する人たちは、実は欲しくてたまらないのに、そこまで大胆な一歩を踏み出す勇気が持てない自分のふがいなさを製品への文句に転換して口にしているのかもしれない。

 製品に合わせて環境を変えることはできる。

 初代iMacの場合も、登場後しばらくすると、USBで外付けするフロッピーディスクドライブが発売された。iPodにはFMラジオチューナー内蔵のリモコンオプションが加わった。問題があるということは、一緒に一歩を踏み出した開拓者たちが解決策を編み出し、それがビジネスになるチャンスでもある。

 新MacBookは確かにポートが少ないかもしれない。常にUSBハブを持ち歩かないと使い物にならないのではないかと心配な人もいるだろう。ただ、今では容量の足りなさを補うためのクラウドストレージもあれば、最大1.3Gbpsのデータ転送速度を持つIEEE802.11ac接続の無線LANもある。

 そんなのスピードが遅くて不便? 内蔵SSDの容量が足りない?

 でも、内蔵ストレージの容量の大きさは、ただの時間稼ぎでしかない。これからの時代、我々は内蔵ストレージ、外付けストレージ、無線LAN接続のバックアップ用ストレージそしてクラウドという異なるストレージをどう使い回したら、この先もずっと使えるデータ管理ができるのかを編み出さなければならない。これは残念ながらアップルも完璧な答えを出していないし、1人1人のライフスタイル、ワークスタイルによっても異なる部分もあり、むしろ、今この時代にパソコンを使っている我々に課された使命かもしれない。

 256Gバイトの容量を1週間で、あるいは1カ月で使い切るという人は、世の中にそれほど多くはいないはずだ。容量やプロセッサーパワーで言えば、新MacBookはムービーをどんどん取り込んで編集するのにはどう考えても向かない。ムービー編集ができないというわけではなく、趣味のレベルでは十分だが、本格的な仕事としてのビデオ編集には向いていないということだ。ただし、それはスポーツカーで配送業はしないだろう、というのと同じである。

 もし主な目的が本格的なビデオ編集にあるのなら、ほかのパソコンを選ぶという選択肢もあるし、「それでもMacがいい」という人にはアップル自身もMacBook Proという別の選択肢を用意している(しかも、MacBookと同じ感圧トラックパッドに進化もしている)。

 パソコンの歴史を振り返れば、iMacに他社製のフロッピーディスクドライブをつないでいた人も、やがてはフロッピーに収まる程度の容量なら、メールで受け渡しをしたほうが手っ取り早いと考え、iPodでラジオもいいけれど、聞きたいタイミングで最初から聞けるPodcastという新メディアに目覚めた人たちもそれなりに多かった。


 新MacBookで、アップルは何も(かっこいいけれど)不便なパソコンを目指したわけではない。

 例えばUSB。競争が激しいWindowsの世界では、ユーザーからの不満の声が販売競争に与える影響を恐れるあまり、レガシーフリー(USB以前の古いテクノロジーを使ったポートを切り捨てること)への移行ができなかった。ある意味、回りの空気を読まずに済むアップルだからこそ、iMacで真っ先にレガシーフリーへの一番乗りを果たし、ほかのメーカーに道を示すことができた。

 アップルはキーボードからカーソルキーを取り払ってマウス操作が浸透するように狙った初代Macintoshのときから、ズルズルと“これまで通り”を続けようとするパソコン業界に、「不連続な進化」あるいは「次の時代への跳躍」を与え続けてきた。

 今回のMacBookも、やり方はかなり乱暴かもしれないが、まさに製品全体でそのことを表した製品だろう。

 ヘッドフォンジャックだけを残したあたりからも、それを読み取ることができる。仏Parrotの快適なワイヤレスヘッドフォン「Zik 2」を愛用している筆者は、Bluetooth接続すればヘッドフォン端子もいらないじゃないか、と最初こそ思ったが、バッテリー切れの心配がないヘッドフォンがないと、例えば、屋外での電話会議や録音音声の聞き直し中にバッテリーが切れたときに困ってしまう。それ以外にもホームパーティのBGM再生機としてMacBookを使いたいときなど、ヘッドフォン端子を使いたくなるシチュエーションは意外に多い。


 それなら、USBのヘッドフォンやヘッドフォン端子のアダプタを普及させればいいのでは、と考える人もいるかもしれない。でもそんなかさばるモノは持ち歩きたくない。それを言ったらビデオ出力用のアダプタも同じことだと指摘する人も出てくるだろうが、人前でプレゼンテーションをする人の数と、そうでない人の数が、比率的にどちらがどれくらい多いかはちょっと想像力が働らかせれば分かるだろう。

 今後、USB Type-Cが、MacBook以外のMac、そしてWindows機にも広がる未来を想像できれば、そもそもプロジェクターの側がUSB Type-Cにつながる端子を持っているほうが理想的な未来ではないだろうか。

 ただし、現状ではそうはいかない。だから、正直なところ、この新しいMacBookを使っていくうえでやせ我慢は必要かもしれない。しかし、それでも時代を先取りして、そういうスタイルを提言していく人がいるからこそ、時代が先に進む部分もある。

 MacBookは、まさに「そろそろ時代のほうを変えていこう」というattitudeを示すためのパソコンなのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る