[続報]原子力に依存しない「革新的エネルギー・環境戦略」:法制度・規制
政府が決めた「革新的エネルギー・環境戦略(案)」に対する反発が強まっている。原子力に依存しない安全なエネルギー供給体制を構築するという長期的な方向性を示したにもかかわらず、短期的な利害を優先する産業界などの抵抗によって前途多難な状況になっている。
9月14日に発表された「革新的エネルギー・環境戦略(案)」には2つの大きなテーマが含まれている。1つは原子力発電の収束であり、もう1つは省エネルギーと再生可能エネルギーの拡大だ。
このうち特に産業界が反発しているのは原子力発電の収束に関する部分である。日本経済団体連合会(経団連)を筆頭とする経済3団体が9月18日に以下のような反対声明を発表した。
政府は、この程、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」をとりまとめた。
これにより、国内産業の空洞化は加速し、雇用の維持が困難になることは明らかで、国家戦略会議がとりまとめた成長戦略とも全く整合性がとれていない。
「原発稼働ゼロ」を宣言すれば、原子力の安全を支える技術や人材の確保が困難となる。また、核不拡散・原子力の平和利用の重要なパートナーとして位置付け、日本との連携を強力に進めてきた米国との関係にも悪影響を与えるなど、国益を大きく損なう。
経済界として、このような戦略を到底受け入れることはできない。政府には責任あるエネルギー戦略をゼロからつくり直すよう、強く求める。
(以上、経団連の発表資料から抜粋)
原子力の御三家が顔をそろえる経団連
産業界を代表して政府のエネルギー戦略に反発しているのが経団連や関西経済連合会(関経連)である。経団連は副会長18人の中に、原子力産業の御三家と言われる東芝、日立製作所、三菱重工業のトップが顔をそろえている。関経連の会長は原子力発電を推進する関西電力の森詳介会長である。
原子力発電の収束によって最も大きなダメージを受ける企業のトップらが産業界を代表して堂々と国のエネルギー戦略を批判する光景は異常としか言いようがない。この20年間に長期的な視点を欠いた経営によって日本の産業界が競争力を失ってしまったにもかかわらず、さらにエネルギーの分野でも同じ失敗を繰り返すのだろうか。
もう一方の重要なテーマである省エネルギーと再生可能エネルギーの拡大を考えれば、極めて有望な市場が国内のみならず海外にも広がっている。政府は年末までに省エネルギーと再生可能エネルギーの拡大に向けた具体的な計画を「グリーン政策大綱」として策定する方針だが、これに対しても実現性などの面で産業界が批判的な立場をとる可能性は大きい。
現時点の戦略案では、省エネルギーと再生可能エネルギーの拡大計画として2015年、2020年、2030年の3段階におけるロードマップと目標値を示しているに過ぎない(図1)。いずれの目標値も難易度は高く、投資額は省エネルギーと再生可能エネルギーの双方を合計すると年平均で5兆円以上にのぼる。
本来は粛々と進めるべき原子力発電の収束よりも活発な議論が一刻も早く必要なところである。その点ではグリーン政策大綱に盛り込まれる中身が重要になってくる。日本のエネルギーの将来が原子力ではなく再生可能エネルギーにかかっていることは、すでに多くの国民の共通認識であり、大胆かつ着実な拡大戦略が求められている。
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