小売電気事業者に電源構成の表示を義務化、固定価格買取制度の電力は「FIT電気」に:動き出す電力システム改革(40)
政府は小売全面自由化にあたって事業者が守るべきガイドラインを拡充して、小売電気事業者には原子力・火力・水力など電源構成の表示を義務づける方針だ。固定価格買取制度の適用を受けた再生可能エネルギーの電力は「FIT電気」と表示したうえで、買取制度の説明文を加えるように求める。
第39回:「太陽光と風力の発電量、送配電事業者が地域ごとに予測へ」
固定価格買取制度を通じて買い取られた電力は「グリーン電力」などの表現で販売することはできなくなる。資源エネルギー庁が有識者を集めた委員会で議論を続けてきた問題が決着する見通しになった。固定価格買取制度を適用した再生可能エネルギーの電力は欧米の表現である「FIT(Feed-In-Tariff)」を使って、「FIT電気」と表記する案が有力だ(図1)。
CO2を排出しないことを想起させる「グリーン電力」「クリーン電力」「きれいな電力」といった表現は認めない。固定価格買取制度による買取費用は電力の利用者すべてが負担することから、原子力や火力を含めた電源全体のCO2排出量と同等とみなす必要があるためだ。「FIT電気」という表現は一般の利用者にはわかりにくいが、買取制度の説明文を加えることで理解を図る。
こうした電源構成の表示は現在の電力会社を含めて小売電気事業者すべてに対して義務づける。原子力発電所を再稼働させた電力会社の小売事業部門は電源構成に原子力を加える必要がある(図2)。さらに電力会社から電力の供給を受けて販売する事業者も原子力の比率を明示しなくてはならない。
水力は出力が3万kW(キロワット)以上の大規模な発電設備を対象にして、3万kW未満は再生可能エネルギーかFIT電気に分類する。火力発電や再生可能エネルギーの種別まで細分化して表示するかどうかは事業者が判断できる。各電源の比率は年度単位の調達計画をもとに算出する。
家庭を中心に原子力による電力の購入を嫌う傾向が根強くあるため、電力会社は電源構成の表示を義務化することに抵抗感を示していた。しかしパブリックコメントを通じて電源構成の表示を望む声が数多く寄せられたため、政府はガイドラインに加える方針を固めた。小売全面自由化にあたって新設する「説明義務等のガイドライン」に盛り込む予定だ(図3)。
このほかに「地産地消」という表現を使う場合の規定も設ける。最近は地域の資源を活用して、再生可能エネルギーの地産地消を推進する動きが全国各地で活発になっている。小売電気事業者が「地産地消」の電力であることを強調して販売するケースも想定できる。
ガイドラインでは発電設備の立地場所と電力の供給場所が同じ地域であることを前提に、地域の資源を活用した電力であることを具体的に説明するように求める(図4)。おおむね都道府県単位で限定できて、地域のどのような資源を使って発電しているかを説明する必要がある。
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