開発工数を95%削減 散在データを「AI Ready」に変える、ソフトバンク×BoxによるAIエージェントの変革
単発のタスク支援にとどまる生成AIの活用から、自律的に業務を遂行するAIエージェントの活用へ。この転換期でガバナンスやデータ整備の壁をいかに突破するか。ソフトバンクとBox Japanのインタビューから、AIエージェントを使った業務変革の在り方を探る。
生成AIの活用が叫ばれるようになって久しいが、実態はFAQ対応や議事録の要約といった単発のタスク支援にとどまっているケースが大半を占めている。そんな中、より高度かつ広範なAI活用を可能にする技術として、AIエージェントに大きな期待が集まっている。ただしこの技術もデータのサイロ化やアクセス権限管理の複雑さに阻まれて、PoC(概念実証)段階から前に進めていないのが実情だ。
この障壁を突破するためにソフトバンクとBox Japanが打ち出したのが、ソフトバンクの法人向けAIエージェント「AGENTIC STAR」とコンテンツ管理プラットフォーム「Box」の連携だ。
本記事は、Box Japanの佐藤範之氏とソフトバンクの上原郁磨氏のインタビューを通じて両社の連携によって実現するAIエージェントの未来とAI時代に競争力を高めるためのヒントを解き明かす。
※以下、敬称略。
AIエージェントの実装を阻む「ガバナンス」と「野良化」の壁
──2026年は「AIエージェント元年」とも呼ばれますが、日本企業におけるAIエージェントの普及についてどのようにみていますか。
佐藤: 生成AIの認知は高まっていて、業務システムに標準装備されたチャット機能などを通じて人々が生成AIに触れる機会は間違いなく増えています。しかしAIエージェントとしてAIに自律的に業務を遂行させる領域にまで踏み込めている企業は、ごくわずかです。
最大の壁は、セキュリティ対策とガバナンスへの懸念です。「機密情報を含んだ重要なデータをAIエージェントにつないで本当に安全なのか」という不安からアクセスを許可できず、データが散在しているため一元的な統制も効きにくい。そのため「どの業務から任せるべきか」という合意形成が進まないのが実情です。
上原: 私もお客さまと接する中で、AI活用のフェーズが変化してきているのを感じます。一部の先進的な企業や開発部門の方々は生成AIの領域を深く理解して使いこなしていますが、全社展開という次の一歩を踏み出そうとすると新たな課題に直面しています。
「営業向け」「マーケティング向け」といったように業務特化型のAIを各部門が独自に作り始めると、ログの管理や権限の制御が追い付かなくなるという問題です。「シャドーAI」や「野良AI」のような状態で使われ始めてしまい、「AIツールは入れたが、安全に管理・運用する方法が分からない」と立ち止まっているケースが多いのです。
「AGENTIC STAR」の自律性とBox連携がもたらすブレークスルー
──そうした課題を解決できる手段として、AIエージェントであるAGENTIC STARに期待が集まっているとお聞きしています。生成AIとAIエージェントの違い、AGENTIC STARの強みについて教えてください。
上原: 従来の生成AIは、人間が細かくプロンプトを入力して初めて動く“受け身”のツールでした。しかしAIエージェントは人間が目的さえ正確に伝えれば、AIが複雑なタスクの計画(Plan)を立て、実行(Do)し、結果を検証(Check)して修正(Action)するというPDCAサイクルを自律的に回します。
AGENTIC STARはソフトバンクが独自に開発・提供しているAIエージェントで、4つの特長があります。1つ目は、タスクごとに独立した「専用の仮想環境」が立ち上がる特許出願中の仕組みです。これによって、既存の環境や他のタスクに影響を与えることなく安全にタスクを実行できます。
2つ目は、通信キャリアである当社が自ら実践している厳しい基準に基づく「ガバナンス」です。LLM(大規模言語モデル)にデータを渡す前に個人情報を自動でマスキングする他、LLM監査ログやアクセスログ、アクセス制御などを備えています。AIエージェントをガバナンスの効いた環境で活用でき、シャドーAIや野良AIのリスクを抑制しながら安心して運用できます。
3つ目の特長は「マルチエージェント」です。日々進化する多様なAIモデルの中から、実行するタスクに最も適したモデルをAIが自律的に選択して、最適な回答を導き出します。
4つ目が、こちらも特許出願中の「長期記憶」の仕組みです。個人の利用履歴だけでなく、企業や組織の意思決定や判断の履歴をAIが吸い上げて、新たに判断する際の材料にします。使えば使うほど「企業のAI」として成長して、ナレッジを共有する構造です。
──AGENTIC STARは、なぜBoxとの連携に踏み切ったのでしょうか。
上原: 実は開発当初から、「Boxとは絶対に連携できるようにしたい」と考えていました。企業の重要なコンテンツを集約しているBoxとつながることで、AIエージェントとしての価値が最大化すると確信していたからです。今回の連携で、ようやくその理想が形になったと言えます。
Boxで「AI Ready」になったデータをAGENTIC STARが活用
──Boxにも「Box AI」というAIエージェント機能が備わっています。AGENTIC STARとの住み分けや連携のメリットを教えてください。
佐藤: Box AIの得意領域は、Boxに格納された非構造化コンテンツの処理です。契約書のチェックやレビューなど、Box内のドキュメント操作で完結する業務はBox AIが担います。
一方で、1つのAIだけで全ての業務プロセスを完璧にカバーするのは現実的ではないため、今後は適材適所で複数のAIエージェントが連携する世界になるでしょう。Boxは非構造化データをAI Readyな状態に変えるコンテンツ管理プラットフォームです。お客さまの複数のシステムをまたぎ、広範で包括的な業務プロセス全体をカバーするAGENTIC STARのようなAIエージェントと連携して活用されることで、その真価を発揮します。
例えば、コールセンター業務でお客さまから問い合わせのチケットが来た際、まずはAGENTIC STARが最初のハンドリングを行います。次に「関連するマニュアルやFAQはBoxにある」とAIエージェントが判断すると、MCP(Model Context Protocol)サーバ経由でBox AIにバトンタッチします。Box AIが膨大な非構造化データから正答を見つけ出してMCP経由で返すと、今度はAGENTIC STARが別のシステムを起動して、チケット管理やエンジニアの派遣手配まで自動で行います。
このようにコンテンツ基盤の役割を果たすBoxが非構造化データを「AI Ready」な状態に仕立て、これを活用しながら業務プロセス全体をAGENTIC STARがつなぐという役割分担が成立します。
上原: ユースケースの一例として、営業活動の進捗(しんちょく)管理も挙げられます。AGENTIC STARに対して「Boxに接続して営業活動の進捗を可視化し、ダッシュボード形式のHTMLレポートとして作成して」と指示を出したとしましょう。従来のBIツールは、非構造化データをそのまま読ませると情報に粗が出たりレイアウトが崩れたりすることがありました。
しかしAGENTIC STARとBoxが連携すると、Boxがデータを「AI Ready」な状態に構造化するため、AGENTIC STARはBoxにあるExcelなどのデータから精緻な情報を即座に引っ張ってこられます。「担当者ごとの売上実績はどうか」「先週との差分はどうか」といったレポートを短時間で生成できます。さらに、「グラフを追加して」「部門別の集計に変更して」といった追加の指示にも対話形式で対応可能です。自然言語で修正内容を伝えるだけで、レポートやダッシュボードを簡単に更新できます。
──既にAGENTIC STARを使って成果を挙げている事例はありますか。
上原: ソフトバンク社内の先行導入では、インフラ構築の工数を10人日から0.5人日へと約95%削減しました。モックアプリの開発時間を30時間から30分に短縮した実績もあります。
営業部門での資料作成・情報収集の初動効率化や問い合わせ対応の自動化など、非エンジニアの業務でも活用しており、業務効率化と生産性向上で大きな成果を挙げています。
「10x it!」でAIを使い倒す
──Box Japanは、ソフトバンクとの連携でどのような“化学反応”を期待していますか。
佐藤: ソフトバンクはAIサービスを販売するだけでなく、自社で使い倒して磨き上げています。以前、当社CTO(最高技術責任者)のBen Kusを交えて技術ディスカッションをしたのですが、AGENTIC STARの洗練されたアーキテクチャに関して、Benからの技術的な質問が止まらなくなったほどです。
Boxには、日本市場で2万2000社を超えるお客さまが重要な非構造化データを蓄積しています。確固たるコンテンツ基盤とソフトバンクの実践に裏打ちされた高度なAI実装力、全国をカバーする営業力が組み合わさることでさらに高い価値をお客さまに提供できるでしょう。
──今後の展望についてお聞かせください。
上原: AGENTIC STARは当初からグローバル展開を見据えて開発しています。その点、既にグローバル市場で確固たる地位を確立しているBoxのプラットフォームに乗せていただくことで、海外に事業展開している日本企業やグローバル市場も含め、より多くの国内外のお客さまに製品を一緒にお届けできると考えています。
──最後に、AIエージェントの導入に不安や課題を抱えている企業にメッセージをお願いします。
佐藤: Boxには大切にしている「7つのコアバリュー」があり、その中に「10x it!」(物事を10倍にする発想)という言葉があります。私はAIエージェントの活用で重要なのがこのマインドセットだと考えています。人間がやっていたことを効率化することに加えて、今まで人間ができなかったことを可能にする技術としてAIをあらためて捉え直すことが重要です。
上原: 日本企業は「100%安全で確実なもの」を求めるあまり、慎重になり過ぎる傾向があります。しかしBoxのような高度なアクセス制御とセキュリティ環境が担保されていれば、安全にトライ&エラーを重ねられます。まずは一部の業務からでも構いません。自社に蓄積しているナレッジとAGENTIC STARを掛け合わせて、失敗を許容しながらAIの力を引き出すことで、日本企業は必ず次の成長ステージに躍進できると信じています。
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株式会社Box Japan
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2026年8月20日