全行員3万5000人にChatGPT Enterpriseを導入 MUFGがOpenAIとの共創を選んだ理由
金融業界をリードする三菱UFJフィナンシャル・グループが、「AI-Nativeな企業」への変革を加速させている。OpenAIを共創相手に選び、全行員に「ChatGPT Enterprise」の活用を定着させた同社は、業務効率化にとどまらず、新たな金融体験の創出を見据えている。AI定着とガバナンスの要諦をキーパーソンに聞いた。
全行員約3万5000人に「ChatGPT Enterprise」を展開する――。機密情報の扱いに厳格なメガバンクが、なぜそこまで踏み込めたのか。三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の事業の中核を担う三菱UFJ銀行でデジタルソリューション部長を務める岩田廉平氏の答えは、“機能の○×比較”の外側にあった。それは、要件に応え、定着まで設計するOpenAIの「伴走」だ。
「使えない人がいてはいけない」 金融機関が直面した壁
機密データの扱い、コンプライアンス、ガバナンス――AIの全社展開を阻む壁は、金融機関であるMUFGにはひときわ高かったであろうことは想像に難くない。
同社は2024年度からの統合報告書に「AI-Nativeな企業」への変革を掲げてきた。「AIが人や業務、サービスや企業運営の中に自然に組み込まれている状態。行員の誰もがAIと協業して、企業全体を進化させ続ける状態を目指しています」と岩田氏は説明する。
一方で、機密情報の保護やアウトプットの業務利用範囲、ガバナンスの担保を巡って社内では多くの議論が交わされた。ただ、その構図は「推進派 対 慎重派」という単純なものではなかった。現場からは「個人的に生成AIの利便性を実感する機会が増えており、業務でも安全に使える環境が欲しい」という声が上がっており、社長以下、経営層も行員一人一人のAI活用が企業の変革につながると確信していた。
だからこそ議論は「使うか、使わないか」ではなく「どうすれば安心して使える環境を整えられるか」に向かった。残る問いは一つ。その環境を誰とつくるか、だ。
機能比較だけで選んだのではない 決め手は「伴走」
他社のサービスも検討した上で、MUFGが選んだのはOpenAIだった。「単に機能が良い、精度が良いという理由でOpenAIを選んだわけではありません」と岩田氏は言い切る。重視したのは、AI-Nativeな企業への変革という方向性を深く共有できること。その上で、構想段階から実装まで伴走できる相手かどうかだ。その要件を満たしたのがOpenAIであり、同社のソリューションがChatGPT Enterpriseだった。プロダクトありきではなく、理想の伴走者を追求した結果の選択だった。
パートナー選びで伴走を重視した理由は、同社の事業規模にある。三菱UFJ銀行の行員は国内約3万5000人(2026年6月現在)、関係者を含めると5万人に上る。単なるツールの導入にとどまらず、これほどの規模への定着を見据えていた同社にとって、米国や日本の大企業でAIの浸透を主導してきたOpenAIの実績は魅力的であると同時に「他社ができるなら、自分たちでも実現させられる」という確信につながった。
転換点もあった。2024年開始の中期経営計画では、20~30の特定業務のユースケースへのAI導入から着手した。しかしChatGPTのような対話型AIは、特定の業務に限定されるものではなく、行員一人一人が日々使うものだ。「AI-Nativeな企業を実現させるには、誰もが当たり前にAIを使いこなせる環境を作らなければならないと2025年に考えを改めました。AIは単なる便利なツールにとどまらず、企業に変革をもたらす存在だと認識を新たにしました」
これに伴い、AI推進の戦略は「特定業務でのユースケース開拓」「全行員による日常的な活用」の両輪を回すアプローチへかじを切った。これが、2025年中盤のChatGPT Enterpriseの導入、そして2026年1月以降の全行員への順次展開に発展した。
もっとも、全行員のAI活用を戦略として掲げることと、金融機関として安心して使える土台を作ることは別の課題だ。MUFGは自社の厳格なガバナンス要件とAI活用をどう両立させたのか。
データ保存場所からリスク表示画面まで 要件に応えたOpenAI
MUFGがOpenAIに求めた要件は、データの保存場所、入力データのサードパーティー送信をDPAで許容される範囲に限定、入力データをモデル開発改善のために利用することの禁止、権限管理、監査ログの機能拡充など多岐にわたった。OpenAIはこれらを不可欠な要素だと受け止め、すぐに対応できるものとできないものを切り分けてロードマップを示した。MUFG側も全要件がそろうのを待たず、リスクを管理しやすい情報区分から段階的に活用を広げた。
岩田氏は「日本の企業として、データの取り扱いには高い水準を求めました。両社間でかなりハイレベルなコミュニケーションを重ねた結果です」と振り返る。リスク管理部門の要望を踏まえ、利用時にリスクへの注意を促す画面も用意された。
技術面では、セキュアな利用環境の構築に向けたシステム面の整備を進めた。利用可能な情報の範囲もリスク管理やガバナンスの考え方に基づいて段階的に拡大し、現在では実務の中でChatGPT Enterpriseが活用されている。利用を一律に制限するのではなく、システムと運用の両面で安全性を確保することで、行員が業務の中で安心して活用できる環境を目指した。岩田氏は「最初から、あるべき理想に向けてOpenAIとプロジェクトを進めました」と語る。
「利用を促すだけでは広がらない」 定着をどう設計したか
安全に使える環境は整った。とはいえ、導入したツールが現場で使われずに終わるのはよくある話だ。「本部から利用を促すだけでは、なかなか広がりません」と岩田氏も言う。そこでOpenAIと共に構築したのが、300課店に及ぶ各営業店、本部に「AIチャンピオン」と呼ばれる伝道師を立て、現場の中から活用を広げる体制だ。OpenAIはMUFG専任チームを組成して各部店を回るプログラムを設計。全行規模のAI浸透運動「Hello, AI @MUFG」を通じた教育と研修も担っている。「機能の良しあしだけでなく、定着を図るこうしたアプローチが彼らは非常に優れています」と岩田氏は評価する。
運用には統制を組み込んだ。利用に当たっては定期更新されるeラーニングの受講が必須。AIの出力をそのまま次の人に渡すことは禁じて、人間が判断して責任を持つプロセスを教育で徹底している。まずは、短期的なROI(投資対効果)ではなく、「毎日のように使っているか、どこまで深く使っているかという指標を厳密に追っています」という。
活用の中身も育っている。役員のスピーチ作成や壁打ち、キャリア採用者の立ち上がりを企業の暗黙知で支援するものなど「カスタムGPT」を使った「AI行員」が各部門で作られた。
Apps in ChatGPTが変える顧客接点 社内改革の先へ
こうした取り組みは、社内の業務改革にとどまらない。2026年5月28日、MUFG、三菱UFJ銀行、マネーツリーの3社は、OpenAIの「Apps in ChatGPT」を通じた金融体験の提供を開始した。三菱UFJ銀行の連結子会社であるマネーツリーの基盤を活用し、Apps in ChatGPTを通じて口座残高や取引明細、カテゴリ別支出などの情報を自然な言葉での問いかけに応じて確認できる体験を提供している。
岩田氏が見ているのは、金融サービスの提供形態そのものの変化だ。「これまではお客さまがアプリケーションやWebサイトにアクセスして、必要な機能を探しにいく形が中心でした。今後は自然な対話の中で、お客さまの状況や意図をAIが理解して必要な金融サービスや情報を適切なタイミングで提供する形を目指しています」
ChatGPT上で商品の検索から購入までを支援する「Instant Checkout」や「Agentic Commerce Protocol」のように、AIが複数のサービスを横断して消費者を支援する世界では、「金融商品を単独で売るのではなく、日常生活の中に自然に組み込まれて提案できる将来になる」と岩田氏はみる。顧客接点をAIが担う時代には、「AIに正しく理解される金融サービス」をいち早く構築することが、次世代の競争優位性を左右する戦略的要件になるという読みだ。
「リスクがあるから止める」ではなく「どうすれば安全に挑戦できるか」
AI導入をためらう企業に対して、岩田氏はまずその懸念に理解を示す。セキュリティやコンプライアンスを重視する姿勢は当然であり、不可欠なプロセスだ。その上で同氏は「AIの進化は速く、今起きている変化は業務効率化だけでなく、働き方や顧客体験、企業の競争力そのものを変えるでしょう。重要なのは、リスクがあるから止めるのではなく、どうすれば安全に挑戦できるかを考えること。ガバナンスも、企業が安心して前に進むためのガードレールとして設計することが求められています」
MUFGの場合、そのガードレールを自社単独で作らなかったことが分岐点だった。金融機関の要件を一つ一つOpenAIに提示して、対応可能な機能や今後の方向性について対話を重ねた結果「活用範囲を段階的に広げ、全行員が利用できる」という到達点まで来た。それでも岩田氏は「今は環境が整ったという状態であり、まだ道半ばです。今後は行員の誰もがAIと自然に協業して、企業全体が進化し続ける状態を作りたいですね」と現在地を冷静に見る。
企業のAI活用で問われるのは単なる導入の成否ではなく、「定着の深さ」だ。そして、その深さまで一緒に伴走できる企業を選べるかどうか――MUFGの選定基準は、最初からそこに定められていた。
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OpenAI Japan合同会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2026年9月16日