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NVIDIA一強に挑む「ゴードン・ベル賞」研究者の挑戦──AMD Radeon GPUクラウドが示すローカルAIの新たな選択肢

生成AIを手元のマシンで動かす「ローカルAI」への関心が高まる一方、外部環境の変化でGPUが入手しにくい状況が続いている。そんな中、新興企業のDEGIMA AIは「AMD Radeon GPU」を利用できるクラウドサービスをリリースした。ローカルAI時代における新たな選択肢について、同社の考えを聞いた。

 生成AIを手元のマシンで動かす「ローカルAI」への関心が高まっている。「社外に出せないデータを扱いたい」「AIエージェントを気兼ねなく動かしたい」など理由はさまざまだが、共通の壁になるのがGPUだ。AI需要で価格は上がり続け「買ってみたら動かなかった」では済まない買い物になっている。

 そんな状況に一石を投じようとしているのが、新興企業のDEGIMA AIだ。同社はAMDと連携して、「AMD Radeon GPU」を利用できるクラウドサービスをリリースした。サインアップすれば、RXシリーズやPROシリーズなどの仮想GPU環境を時間単位でレンタルできる。

「AMD Radeon GPU」(提供:AMD)《クリックで拡大》

 DEGIMA AIを率いるのが、濱田剛氏だ。同氏は、グラフィックス用途外でのGPUの注目度が低かった2000年代、NVIDIA製GPUの計算プラットフォーム「CUDA」で天体物理学のシミュレーション計算を行う世界初の科学論文を執筆。その後、GPU型スーパーコンピュータ「DEGIMA」の開発を進め、2009年には高性能コンピューター分野で顕著な業績を称える「ゴードン・ベル賞」を受賞した。これらの成果については、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOも、2026年7月に来日した際に濱田氏の名前を挙げて言及していた。

 そんな濱田氏は今のAI業界に対して「NVIDIA一強の独占状態は、市場の不健全化を招く」と警鐘を鳴らす。なぜ今、DEGIMA AIはAMD Radeonのクラウドサービスをリリースするのか。DEGIMA AIが掲げる思想と、ローカルAI時代における新たな選択肢について話を聞いた。

DEGIMA AIの共同創業者兼CFOの龍野瑛氏

3800万円のスパコンでゴードン・ベル賞を取った研究者

 濱田氏が学生だった90年代、同氏は東京大学で天体物理学を研究していた。所属していたのは、銀河衝突のシミュレーションのために専用計算機を自作する牧野淳一郎氏の研究室だった。牧野氏は後に、Preferred Networksと神戸大学が共同開発するAIプロセッサ「MN-Core」を手掛ける人物だ。

 濱田氏は当時、回路構成を書き換えられる半導体チップ「FPGA」を使って研究のための計算機を開発していた。そんな中、NVIDIAのGeForceにCUDAが搭載されたのを目にし、自作してきたアーキテクチャと構造が似ていることに気付く。まだCUDAのマニュアルは世に広まっていない状況下だったが、リバースエンジニアリングで解析することで論文を書いた。後から振り返ると、それが世界初となるCUDAの科学論文だった。

 その延長で今度はGeForceを大量に組み合わせたスパコン・DEGIMAを長崎大学で構築。わずか3800万円の費用で開発した功績が評価され、2009年にゴードン・ベル賞の価格性能部門を受賞した。

 民主党政権下だった当時、「2位じゃダメなんですか」などの発言で話題になった事業仕分けで、スパコン「京」の開発計画が議論されていた。そんな中、濱田氏が桁違いの安さでスパコン開発を手掛けたこともあり、この成果はテレビ番組でも取り上げられたという。

 翌年には研究内容が変わり、より精度の高い演算処理が必要になった。当時のGeForceではこれを十分に扱えず、対応するRadeonでスパコンを組み直した。ここで開発した2号機がRadeonを採用した世界初のスパコンであり、世界中のスパコンの省電力性能を測るランキング「Green500」でも上位に入った。

LLM推論の時代、スパコンの知見が花開いた

 そんな濱田氏と一緒にDEGIMA AIを立ち上げたのは、DEGIMA AIの共同創業者兼CFOの龍野瑛氏だ。龍野氏は2020年に大学院を修了し、アマゾンジャパンを経て人工衛星スタートアップのアークエッジ・スペースに入社。同社の創業者の一人が濱田氏で、その事業について相談を重ねるうちに意気投合したという。

 そこで持ち上がったのが「濱田がもともとやってきたスパコンの世界が、ついに花開く」という話だった。2024~2025年にかけて、AI市場が学習フェーズから推論フェーズに移りかけていた。そこで2人は宇宙とは別に、Radeonのクラウドを手掛けるDEGIMA AIを立ち上げた。

 AI市場の変化について龍野氏は「日本でも多くの人たちが学習にトライして、日本語を話す小さなモデルまでは作れました。『でも本当に各サービスに組み込めるものは、ビッグテックにしか作れなかった』というのがこの数年の結論だと思っています」と振り返る。

 一方で「AIエージェントにタスクを任せる」という使い方が広まった今、推論については「出力が遅くてもいいから安い方がいい」という需要が急速に増えているという。このためDEGIMA AIは徹底したコスト志向で、サーバ向けではなく、ゲーミングやワークステーション向けのGPUを利用している。「なぜサーバではなくゲーミングなのか。それは一番安いからです。それ以上でも以下でもありません」

 同社のクラスタは、データセンター用のラックではなく一般的な棚型ラックにマザーボードを直接並べ、市販の扇風機で冷やす方式を採っている。仮想通貨マイニングで広まった、GPUをむき出しのまま棚に並べるリグに近い。その根底には「計算能力において、コストパフォーマンスがどこまで行っても全てだ」という考え方がある。師である牧野氏から濱田氏が受け継いだ思想だ。

SSHでつながる、手元のマシンと同じ環境

 DEGIMA AIのクラウドは、アカウントを登録してハードウェアを選べば時間単位で借りられる。SSHでリモート接続し、root権限で自由に環境を構築できる。「マシンが手元にあるか、クラウドにあるか。違いはそれだけです」と龍野氏は言う。

 ログインするとAIコーディングツールが立ち上がる。AMDのGPU向けソフトウェア基盤「ROCm」に慣れていないユーザーに対しても、AIが操作を支援する。濱田氏は「Radeonが利用可能な唯一のクラウドサービスとして、世界最安値圏で提供している」とアピールする。

 想定する使い方の一つが、ハードウェア購入前の事前検証だ。例えば、30BクラスのAIモデルをVRAM 24GBといった環境下で活用しようと考えているとき、自社のタスクは本当に実行できるのかを検証できる。「クラウドで使ってみて、このメモリ容量でこのAIモデルが動くと分かれば、導入のリスクが大きく減ります」と龍野氏は言う。

 AMDとしても、購入前に検証する流れが定着することを期待している。なぜなら、一般企業から「社内にAIサーバが必要だ」という問い合わせが増えている上に、実際にAMD Radeon AI PRO R9700の単品製品や搭載システムの販売が好調なためだ。DEGIMA AIのクラウドなら導入時と近い環境でRadeonを使えるほか、自社のローカルAIがトラブルで使えなくなった際も代替として利用できる利点がある。

「若者がベテランに勝てる」 ROCmという選択肢

 AMD RadeonとAMD ROCmが持つ大きな利点として、若手にとっても理解しやすい点がある。NVIDIAのCUDAは根本のアーキテクチャが20年前のもので、現在使いこなしているのは当時若手だった40~50代が多い。20年の歴史をかけて成熟した分、CUDAの世界での競争は激しく、これから参入したい初学者にはハードルが高い。

 一方、ROCmは2016年にリリースされたものだ。CUDAに比べると歴史が浅く、またオープンソースでもあるため、これからAI開発を始める人でも取っ付きやすい。龍野氏自身も、最初に触ったGPUは「Radeon RX 7900 XTX」でROCmからAI開発を始めたという。その後にCUDAも利用したが「ROCmで先に学んでいたため、スムーズになじむことができた」と話す。

 しかし龍野氏はROCmの現状を美化しない。ROCmに関する情報源はCUDAほど多くないため、開発に踏み込むなら熱意が要る。ただ、AIの推論用途に限れば話は別だという。ローカルでAIモデルを動かす定番ソフトウェア「llama.cpp」をはじめ、ROCmで動くオープンソースソフトウェアはすでに豊富にある。CUDAで書かれたコードからも比較的簡単に乗り換えられる仕様になっている。

 「ROCmを怖がらずに、むしろ味方につける。そのスタンスを取れるのは若者の特権だと思います」

※2026年8月27日 最新版 AMD ROCm 10 を提供開始。AI駆動の開発プラットフォームにより開発速度と性能最適化をさらに向上が可能。

競争がある市場を、次の世代に

 GPU市場がより発展していくために今何が必要か。この問いに対してDEGIMA AIは「健全な競争環境」と即答する。データセンター向けGPUとして「AMD Instinctシリーズ」が広く使われる一方、個人や中小企業が触れる領域では、NVIDIA前提の慣性が強い状況が続く。

 これまでのCPUやFPGAなどの歴史を振り返っても分かるように、2強が切磋琢磨する環境こそが各製品の価格高騰やベンダーロックインを防ぐことにつながり、最終的にはユーザーも恩恵を受けられる。このためDEGIMA AIは10年がかりで、若い世代がROCmに触れられる環境を整えてRadeonを扱える人材を育てることに注力したいと語る。

 「AIが次世代を担う子どもたちの手の届かない存在になりつつあることに危機感を抱いています。次世代がAIをブラックボックスとして受け取るのではなく、自動車やオートバイのように一度バラして組み直すことで腹の底から理解できる環境を残したい。その一念で、このフルスクラッチのクラウドを築き上げました」(濱田氏)

 自宅でAI開発を試したい個人でも、社内にAIサーバを立てたい企業でも、初学者としての最初の一歩は同じだ。まず時間単位でRadeonを借りて、使いたいモデルが動くかを確かめる。扇風機でスパコンを冷やしてきた研究者たちが作ったクラウドは、AI開発入門にふさわしいビギナーファーストのサービスといえるだろう。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2026年10月9日

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