生成AIブームが起きる前の技術トレンドを即座に思い出せるだろうか。「ChatGPT」が登場してからわずか2年弱で、生成AIはビジネストレンドの“主役”になった。従来のITでは難しかった「生成」という能力をイノベーションの原動力と捉えて、生成AIを導入したりインフラに投資したりする企業が増えている。
しかし、生成AIは過去に例がない技術なのでユースケースの検討やAI基盤の整備、データの取り扱い、セキュリティ対策など手探りで取り組む場合も多い。生成AIによるイノベーションにはこうした課題の解決が欠かせない。
「イノベーション創出には『協力』や『共有』を伴う試行錯誤が不可欠だといいます。生成AIにも同じことが言えます」――デル・テクノロジーズの上原宏氏は、科学記者マット・リドレーの言葉を紹介しながらこう話す。
同社は、生成AIを取り巻く課題の解決策を提示して企業のAI活用とビジネスの革新を推進すべく、有識者を招いたセミナー「生成AI基盤の最新トレンド 〜AIをすべてのデータに〜」(2024年7月30日開催)を開催した。同セミナーから生成AIの活用を加速させるヒントを紹介する。
生成AIへの期待が膨らむ一方で、本質的な価値が理解されていないと指摘するのは「生成AI導入の教科書」の著者である小澤健祐氏だ。
「ChatGPTがチャットbotとして優秀過ぎるが故に、生成AI=質問に対する回答を得るツールと誤解されてしまい、用途が限定的になっています。生成AIは入力した内容から文章や画像、音声などさまざまなものを生成できることが強みなのに、テキストの入出力だけだと捉えられがちです」
生成AI活用で成果を挙げている企業もある。小澤氏がモデルケースとして紹介したのは日清食品ホールディングスだ。同社は全社統合データベースを整備し、社内データと生成AIを連携させて販売分析や業務の効率化に取り組んでいる。RAG(検索拡張生成)を取り入れて社内データを反映した生成物の出力にも注力しているという。
小澤氏は社内データによる生成AIのカスタマイズの必要性を訴えて「どれだけ自社に最適化できるかが鍵です。2024年は生成AIとデータベースの連携がいかに重要なのか理解される年になります」と結んだ。
生成AIの導入で議論になるのが、クラウドとオンプレミス、エッジのどこにAIを導入するかという点だ。AIインフラの選定はデータを主軸に考えるといい。データが発生する場所がオンプレミスやエッジの場合、クラウドのAI基盤でデータを処理するには、収集したデータをクラウドに送信しなければならない。
データが生まれるオンプレミスやエッジにサーバやAIソフトウェアを置けば、大量のデータを低遅延で処理できる上にデータを外部に送信しないのでセキュリティ面でも強みがあると話すのは、生成AI活用普及委員会の協議員でもあり、エッジ向けAIサービス「AION」を提供するラトナの大田和響子氏(代表取締役社長)だ。
ラトナは工場などの現場業務の効率化策としてエッジAIを提案している。生成AIによる検品システムの導入などに取り組んだ経験から「エッジで生成AIを利用することは難しくない」と語る。
「生成AIのモデル選定やエッジ用に軽量化することなど乗り越えるべきハードルはさまざまあります。一番はAIインフラの使い分けに知恵を絞るべきでしょう。オンプレミスとクラウドには得手不得手があります。用途に応じたAIインフラを採用できるかどうかが成果を左右するはずです」
AIインフラの代名詞になったGPUを開発する米NVIDIAは、半導体だけでなくソフトウェアライブラリやネットワークソリューションなど生成AIの導入に必要な構成要素をフルスタックで提供している。エヌビディアの澤井理紀氏は「AIを構成する全要素を最適化することで、AI処理が加速する」と語る。
生成AIの利用には「基盤モデルの準備」「社内データとの連携」「演算環境の用意」「ツールやアプリケーション」という要素が必要になる。これを支援するAIソフトウェアが「NVIDIA AI Enterprise」だ。AIの基盤モデルのライブラリ、アプリケーション開発ツールなどのソフトウェアスタックを提供。クラウドやオンプレミスを問わず自社に適したインフラにAIを迅速に展開できる。
NVIDIA AI Enterpriseに含まれているのが、生成AIアプリケーションの展開に特化したマイクロサービス「NVIDIA NIM」だ。業界や業務ごとに最適化済みのAIモデルをコンテナ化して提供することで、一から開発するよりも工数や費用を抑えつつ、優れた性能も得られると澤井氏は説明する。
生成AI活用への期待が膨らむ一方で逆風もあると指摘するのはデル・テクノロジーズの増月孝信氏だ。オープンソースソフトウェア(OSS)など複数の要素を組み合わせる複雑さ、セキュリティやガバナンス面のリスク、導入費用の高さが障壁になっているという。
それらを解決するのが、AIインフラの導入ハードルを下げる“鉄板構成”の技術スタック「Dell AI Factory」だ。データの整備と保護、OSSを含むソフトウェアライブラリ、NVIDIA製品など検証済みのAIインフラ、多様なユースケースなどを一気通貫で提供。デル・テクノロジーズの知見を生かした「プロフェッショナルサービス」も含まれていて、ロードマップの作成からデータアセスメント、AIモデルのカスタマイズ、ビジネスへの適用まで伴走支援する。
「生成AIの導入は、ビジネス価値と実現可能性を併せて考えるといいでしょう。ここで重要なのがデータです。他社と差別化する要素であると同時に、データの有無や品質が実現可能性に影響してきます。データのアセスメントが必要になります」
4者による講演の後、セミナーは生成AI導入の論点を巡るパネルディスカッションへと移った。データを集めてAIに渡すのではなく、データがある場所にAIを導入する「Bring AI to your Data(AIをすべてのデータに)」は本当に必要なのか?――こんなテーマで、ラトナの大田和氏、エヌビディアの澤井氏、デル・テクノロジーズの増月氏が登壇した。
司会を務めたのはAIの研究と社会実装をリードする明治大学の高木友博氏だ。高木氏は「どのようなAI基盤がいいのか、AIの実行環境をどこに置くべきかなどに切り込んだディスカッションを進めていきましょう」と言って最初の質問を投げかけた。
――AIインフラは、クラウドとオンプレミス、エッジのいずれを選ぶべきか
「現状、この問題に答えはないでしょう」と口火を切ったのが大田和氏だ。生成AIの用途を明確に考えている企業は少ない。必然的にどれほどのデータをどう処理するか明確になっていないので「クラウドとオンプレミス、エッジの比較軸が存在しない」と続ける。
澤井氏は「優劣ではなく、両者は使い分けるもの」だと語る。クラウドは初期費用が安価だが、処理するデータの増加に比例して費用が増え、オンプレミスよりも高くなるケースがある。オンプレミスは初期費用が高額だが、一度調達すれば追加費用を抑えられる。必要最低限のリソースをオンプレミスで用意して、それ以上のリソースが必要ならクラウドを利用するのが現実的だと澤井氏はアドバイスする。
増月氏は「将来的にAIインフラの大半はプライベートクラウドを含むハイブリッドクラウド化する」と見通す。データはデータセンターやクラウド、エッジなどさまざまな場所で発生する。データをいかに効率的に使えるかを考えてITシステムをデザインする必要がある。
――データ活用の具体的な方法は
データ活用というと収集→成形→分析という手順を踏むケースが多い。しかしデータの発生場所が広範囲にわたる場合、データを1カ所に集める手間やタイムラグ、ITシステムの複雑化などが課題になる。データが生まれるエッジにAIを導入してリアルタイム処理を実現するのが理想的だと増月氏は語る。
エッジAIで処理できるデータ量には限界があるので、全てを活用しようとするのではなく目的に応じてデータを取捨選択するのがいいと大田和氏は助言する。必要なデータだけに絞ってAI分析したりクラウドに送信して処理したりするのが効果的だ。
――生成AIの能力を引き出すには
基盤モデルは汎用(はんよう)的に使えるが、業界特有の内容や専門性が高いコンテンツの生成が苦手という特徴がある。「基盤モデルは新卒社員のようなもので、専門的なAIにするには教育(カスタマイズ)が必要です」(澤井氏)
基盤モデルと社内データや専門資料などを組み合わせることで、生成AIをファインチューニングしたりRAGを適用したりとカスタマイズできる。データの転送量や処理の負荷が増えるので、クラウドよりもオンプレミスでの実施が有効というのが全員一致の見解だ。
「大規模言語モデルを使ったクラウド型の商用サービスと、オンプレミスで動かせるオープンソースの言語モデルの差が縮んでいます。後者をうまく使えば、AIモデルのカスタマイズや既存システムとの連携がやりやすくなるでしょう。両者の使い分けが重要になります」(高木氏)
――生成AIのセキュリティを巡る懸念を解消するには
生成AIやデータ基盤にクラウドサービスを利用している場合、クラウド事業者のセキュリティ対策や各種ポリシーを信じるしかない。オンプレミスは安全と思われがちだが、小さなエッジサーバが盗まれる可能性もあるなど「事細かに考えると、生成AIのリスク範囲が分からなくなってしまう」(大田和氏)
澤井氏は「生成AIだからと構える必要はない」という立場だ。すでに企業がITシステムのセキュリティ対策に乗り出しており、重要データはクラウドに置かずオンプレミスで厳格に管理するなど対策が講じられている。クラウドを使っているならアクセス権限の設定に注意するといった従来通りの対策が通用する。
「ハイブリッドクラウドを保護する『ゼロトラストセキュリティ』の導入など仕組みで守る対策と併せて、データ利用を統括する組織やルールを作ってガバナンスを強化することが重要です」(増月氏)
「AIを『AI』として使うのではなく、ITシステムの一部に組み込んで自然に使いこなすようになっていくでしょう。エッジ機器やサーバなどハードウェアの能力が向上していけば、クラウドに頼らなくても高度なAIシステムを構築できます。数年先を見据えてAIインフラを考えるのが良いでしょう」(高木氏)
本セミナーで、生成AIの活用におけるポイントから具体的なソリューションまで幅広いアドバイスが集まった。登壇者たちが口々に語ったのは、生成AI活用の目的を明確にすることで、ITインフラの選定やデータの活用法を検討しやすくなるという点だ。これを意識して生成AIの活用に取り組むのがいいだろう。
生成AIの活用についてもっと知りたい!
生成AIの活用やAIインフラの選定についてもっと知りたい――そんな読者は、デル・テクノロジーズが2024年10月3日(木)に都内で開催する大型イベント「Dell Technologies Forum 2024 Japan - AI Edition」に参加してみてはいかがだろうか。「AI Edition」と銘打ってAI関連の講演セッションやブース展示を予定している。
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| AI04 | AI時代のセキュリティ対策:セキュリティリスクと未来の展望 |
| AI05 | AI開発を軌道に乗せるまでのベストプラクティス |
Dell de AI(でるであい)とは──
「AIをビジネスで活用する」──そう言い表すのは簡単です。しかし、組織にとって本当に価値のあるアクションへ落とし込むには、考えるべきことがあまりに多すぎます。誰に相談すればいいのか、どうすれば成果を生み出せるのか。「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」は、そんな悩みを持つ企業や組織にポジティブな出会いや思いもよらぬうれしい発見──「Serendipity(セレンディピティ)」が生まれることを目指した情報発信ポータル(https://www.itmedia.co.jp/news/special/bz211007/)です。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2024年9月19日