詐欺電話にとって“最悪な悪夢”──悪質業者と長電話するAI 「ええと、何だったかな?」&自慢話を繰り返す(2/2 ページ)
電話で被害者をだまして信頼させ、現金などを詐取する特殊詐欺は世界中で問題になっている。それに対し、AIに相手をさせて詐欺電話をかけてきた相手をだまし、延々と会話を続けて時間を浪費させることで被害者を減らそうという取り組みが進められている。
「私は詐欺師の時間を浪費させ、弱者に接触できないようにさせた。それがポイントだ」とカーファー氏は言う。しかし自身も40分の時間を無駄にした。そこで思い付いたのが、自然言語処理を使ってAIに応対させ、詐欺師と会話させるというアイデアだった。「この新技術を使って詐欺電話ビジネスを破綻させ、採算が合わないようにさせたい」。
カーファー氏のチームはまず機械学習や自然言語処理を使って詐欺電話の内容や被害者をだます手口を分析し、典型的な詐欺の「台本」を特定した。
次に実際にかかってきた詐欺電話の会話や、詐欺メールの文面、SNSでのチャット記録などをAIに学習させて、そうした会話に似せた会話を生成できるようにした。
自然言語処理やAI音声クローニング技術の進化により、流ちょうに話ができて特定の人格になり切ることができ、一貫性のある会話を続けられるAIエージェントを開発することができたとカーファー氏は言う。
「われわれが開発したAIチャットbotは詐欺師をだます。だませそうな相手と話していると思い込んだ詐欺師は、botをだまそうとして時間を費やす」
未来に待つのは“AI代理戦争”?
英紙Guardianによると、オーストラリアの電話会社は20年12月以来、20億件もの詐欺電話をブロックしている。もしそうした電話をApateに転送して時間を浪費させることができれば、詐欺ビジネスは成り立たなくなるとカーファー氏は期待する。
現在はさまざまな年齢や人格の人物を想定して、イギリス英語やエジプト系の英語などさまざまな言葉を話すチャットbotのテストが行われているという。会話を続けながら詐欺電話に関する情報も収集し、さらなる対策に役立てたい考えだ。
いずれ詐欺グループ側が対抗して独自のAIを開発し、電話会社のAIと会話する展開もあり得るとカーファー氏は想像し、「詐欺チャットbotが本物の人からお金を盗む代わりに詐欺対策チャットbotと会話するようになれば、大きな勝利だ」と話している。
関連記事
- 「死別詐欺」「訃報海賊」にご用心 人の死に付け込んでクリック稼ぐ 自分の訃報を載せられた事例も
他人の死に付け込んで故人をしのぶ人をだまそうとするでっち上げの訃報や、クリック稼ぎを目的とするまだ生きている人の死亡記事が、ネット上で拡散して問題になっている。これらの問題は「死別詐欺」「訃報海賊」などと呼ばれているという。 - 「なりすまし広告の削除体制、公表を」総務省がMetaに要請 Facebook・Instagramの詐欺対策求め
総務省はMetaに対して、著名人になりすまして投資ビジネスなどに勧誘し、金銭を詐取する“なりすまし型偽広告”の対策を行うよう要請した。 - LLMから“有害”を引き出すアーケードゲーム「ハックマン」 AIに卑劣な言葉を吐かせたら勝ち
デンマークのコペンハーゲンIT大学とオールボー大学に所属する研究者らは、大規模言語モデル(LLM)の脱獄(ジェイルブレーク)を体験できるアーケードゲームを提案した研究報告を発表した。 - 生成AIに“アスキーアート”入りプロンプト入力→有害コンテンツ出力 米研究者らが新手の脱獄法発見
米ワシントン大学などに所属する研究者らは、大規模言語モデル(LLM)がアスキーアートを正しく認識できないという脆弱性を利用して、LLMに有害なコンテンツを出力させる新しいジェイルブレーク(脱獄)攻撃を提案した研究報告を発表した。 - Excelなどの“表計算ソフト専用”の大規模言語モデル 米Microsoftが「SpreadsheetLLM」発表
米Microsoftに所属する研究者らは、表計算ソフトを理解するための効率的な大規模言語モデルを提案した研究報告を発表した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.