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クリエイティブな仕事に正解はない──“AIとの雑談”は孤独を救うか? 「広告はスキップする時代」の働き方クリエイティブにAIを込めて(2/2 ページ)

クリエイティブディレクターとは一体どのような仕事か。その仕事は、AIによってどのように変化していくのか。博報堂/SIXのクリエイティブディレクター/ストラテジストである藤平達之さんが解説する。

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 そもそもの方針を決めるCDの作業は、正解がない、チャレンジしたい、テーマが難しい、といったさまざまな理由で、得てして孤独です。「ああでもない、こうでもない」といったクリエイティブディレクションに資する対話、いうならば「創造的雑談」を無限にしてくれる相棒として、AIは私たちと“共鳴”し合う存在(Withの関係)となっていくと思います。

 例えば、自分のディレクション案に対して「それは本当に正しいですか?」と問いかけてくれたり、想定されるリスクを列挙してくれたり、マルチエージェントのようにさまざまな人格で感想をフィードバックしてくれたり。このようなAIとの創造的雑談は、ディレクションを強くします。

 クリエイティブの仕事は、正解がないからこそ面白く、だからこそ人間がやる価値があるものだと思っています。ただし、それは、短絡的に「AIと相性が悪い」「AIにはできない」ということではないと思います。

 クリエイターは淘汰されるのか、あるいはAIにいいクリエイティブは作れるのか。そんな議論に時間を費やすよりも、積極的に「with」の関係性を模索し、自分のクリエイティビティを進化させる方法を考える。この問いに答えを出すために頑張ること自体が、これからのクリエイティブ・ディレクションの形の兆しになるのでしょう。

広告は「嫌い」「スキップ」 テクノロジーが変えた“広告への要求”

 広告会社のクリエイティブディレクターを取り巻く環境は、いま大きな転換期を迎えています。テクノロジーの進化で、運用という考え方がメジャーになり、ターゲティングやマルチクリエイティブを通じてPDCAを行うことが一般的になりました。クリエイターが一発ホームランを狙う世界では、とっくになくなっているのです。

 さらには「広告」自体も下火になってきています。広告が「嫌い」という状態を超え、「スキップする」という動詞も一般的に使われるようになっています。

 つまり「誰にとってもいいクリエイティブ」よりも「ターゲティングされたクリエイティブ」の時代で、見られにくいからこそ「追いかけて振り向いてもらう」という形の高度化が起きています。量と精度で成果を達成するという、担い手からするとすごくヘビーですが、一方で生活者にとっては少し鬱陶しくもあるのが広告の現在地です。

 そうした変化の中で、CDという仕事はなくなっていくのでしょうか。例えば、コンサルティング業界のような戦略的に指針を示す役割だけが残るのでしょうか。ポジショントークになってしまうかもしれませんが、私はそうは思いません。

 私は、ここ数年の担当業務の中で、Webドラマ、アパレルコレクション、株式投資サービス、コスメECサービス、プロジェクター付きスマートライトなどを担当しています。「それらの広告」ではなく、そのものに対してCDとして関与しています。

 広告業界という視点をもう少し俯瞰すると、いまは答えのない時代です。日本に関していえば、「成長」ではなく「成熟」の過程で、幸福の在り方をそれぞれが考えていく時代です。

 あれもこれもが停滞する中で、非連続というキーワードが重要だと語られています。そういう時代こそ、(広告表現にとどまらず)アイデア・企画の創造性を提供して、生活を前に進める幸せな提案をすることが、あらゆるフィールドで求められていると考えています。

 つまり、いまクライアントが求めているのは、事業や経営における「思いもつかなかったアイデア」や「今までになかった新しい一手」といえるのではないでしょうか。私たちが提供できるものは「広告の企画」ではなく「クリエイティビティがあるアイデア」になっている、とも捉えられるかもしれません。

 これまでの経験を振り返ると、クリエイティブディレクションというのは、広告以外にも活用できる、汎用的な思考スキルだと思います。つまり、いまの状況を、いままで固定されてきた「広告というHow」が解放されるとポジティブに捉えれば、新しい挑戦ができるのではないかとワクワクしています。

 そんな創造的行為の最も本質的なところでAIと人間がコラボレーションできたとき、そこにはどんな可能性が広がっているのでしょうか。もしかすると、それはそう遠くないうちにAIが教えてくれることかもしれませんが、それまでは自分でしっかりと考えたいと思います。

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