“殺された男”が裁判に出廷──遺族がAIで再現、法廷で陳述 “許しの言葉”語り、裁判官の心動かす
米アリゾナ州で3年前に射殺された男性の裁判にて、遺族が被害者を再現したAIを作成。本人の声で語らせた法廷陳述を実施した。
「私たちがあの日、あんな状況で出会ったことを残念に思います。別の人生があればきっと友達になれていたかもしれません」──米アリゾナ州で3年前に射殺された男性が、自分を殺した加害者の男にそう語りかけた。遺族がAIを使って生きている姿を再現し、本人の声で語らせた法廷陳述だった。
クリストファー・ペルキーさん(当時37歳)は2021年、あおり運転のロードレイジ事件(運転中に起こる怒り、不満に起因する事件)で激高したゲイブリエル・ホルカシタス被告に殺害された。同被告は25年3月に有罪評決を言い渡され、量刑言い渡しの公判が5月に同州マリコパ郡高裁で開かれた。
裁判官はこの公判で、遺族や友人の陳述に加えて、ペルキーさん本人のAI映像を流すことを認めた。被害者をAIで再現した映像が法廷で流されるのは初めてだったと伝えられている。
報道によると、映像は姉のステイシー・ウェールズさんが、夫の協力を得て制作した。生前の写真や動画をもとに、オープンソースの生成AIツール「Stable Diffusion」を「LoRA」(AIモデルに画像を追加学習させ、特定の絵柄の画像に寄せる技術)で調整して映像を合成。音声は本人の生前の声を生成AIとディープラーニングツールで再現し、ウェールズさんが書いた台本を読み上げさせた。
今も加害者を許す気持ちにはなれないというウェールズさんだが、自分の思いとは切り離してペルキーさんの人柄を考え、生きていたらこう言ったはず、という言葉を選んだと話している。
裁判官の心を動かした“AIの言葉”
AIのペルキーさんは量刑言い渡し公判で、自分を殺害したホルカシタス被告に向かって「私は許しを信じ、許しを与える神を信じます。今も信じています」と穏やかな表情で語りかけた。
映像の冒頭には「私は自分の写真と音声を使って、AIで再現したクリス・ペルキーです」という断りが入る。続いて生前のペルキーさんの映像が流れ、米軍に入隊してバグダッドに派遣されたことや、常に神への信仰心を大切にしていたことを紹介する。
その後“AIのペルキーさん”は「3年半の間、私と私の愛する人たちを支えてくれた皆さんに、どれほど感謝しているか言葉では言い表せません。今日、皆さんと一緒にいられたらよかったのに」と続けた。
この陳述は裁判官の心を動かした。「あのAIは素晴らしかった。ありがとう。あなたと同じように怒り、家族と同じように当然の怒りを覚えながら、私は許しの言葉を聞いた。そこに偽りはないと感じた」とトッド・ラング裁判官は評価している。
検察側の求刑は禁錮9年だったが、姉のステイシーさんは最高刑の10年6カ月を求めた。裁判官はペルキーさん本人のAI陳述も考慮した上で、ステイシーさんの訴えを認め、10年6カ月を言い渡した。
裁判でのAI使用を巡っては論議が尽きない。専門家からは、AIの影響力が大きすぎて判断がゆがめられたり、被害者本人の意に沿わない形で使われたりすることを懸念する声もある。
今回、遺族側の弁護士は、被害者が自分の望む形で陳述する権利を定めたアリゾナ州の法律に基づき、AI陳述の実現に協力したという。
AIのペルキーさんは、最後に家族を思いやって感謝の気持ちを伝え「さて、これから釣りに行こうかな。大好きな皆さん、向こう側で会いましょう」という言葉と船に乗った映像で、陳述を締めくくっている。
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