「絶対じゃんけんに勝つAIシステム」と勝負してきた 手を先読みできる秘密は……:CEATEC 2025
もしこのじゃんけんに、絶対に勝つことができたなら──学生時代、何かの決め事の際にこう考えたことはあるだろうか。普通に考えればなかなか困難な理想だが、AIの力でそれをかなえる技術が登場した。
もしこのじゃんけんに、絶対に勝つことができたなら──学生時代、何かの決め事の際にこう考えたことはあるだろうか。普通に考えればなかなか困難な理想だが、AIの力でそれをかなえる技術が登場した。
10月14日に開幕した技術展示会「CEATEC 2025」(幕張メッセ)では、電子部品メーカーのTDKがAI技術を活用した「絶対に負けないじゃんけんシステム」を展示。実際にじゃんけん勝負を挑むこともできたので、体験してきたところ、本当に勝てなかった。果たして、そのメカニズムは……。
10回やっても勝てない!
じゃんけん勝負のルールは簡単。モニターにじゃんけんのアニメ―ションが映るので、親指にベルトを巻き、スピーカーが発する「じゃん、けん……」というコールに合わせてグー・チョキ・パーを出すだけ。モニターには同じくグー・チョキ・パーのいずれかが表示されるが、ほぼ必ずこちらが出した手に勝つものを表示してくる。
記者は現地で10回ほどじゃんけんしたが、1回も勝つことができなかった。2回ほどあいこがあったが、ブースの担当者がタブレット端末をいじると、すぐにシステムに勝てなくなった。
実はAI活用の後出しじゃんけん その仕組みは
お察しの通り、このじゃんけんには仕掛けがある。指に巻いたベルトには加速度センサーがついており、親指の動きを基にグー・チョキ・パーのどれが出てくるかをAIで先読みし、それに勝てる手を出しているわけだ。
というのもこの展示、単にじゃんけんに勝てるシステムをアピールしたいのではなく、同社が開発した「リザバーAIチップ」のデモとして展示している。リザバーAIは、ディープラーニングに比べて複雑な演算ができない代わりに高速かつ電力消費を抑えた演算が可能な技術を指す。
データを受け取る「入力層」、その情報をいくつもの段階で細かく計算する「中間層」、そして最終的に答えを出す「出力層」からなるディープラーニングに対し、リザバーコンピューティングは入力層、「リザバー層」、出力層からなる。
リザバー層では、水面の波のゆらぎのような、時間とともに伝播(でんぱ)する自然現象を利用し、入力信号の特徴を出力層に伝えるため、学習に必要なパラメータの数を大幅に減らせる。これにより、従来よりも高速かつ低消費電力で処理を実現しているという。
TDKが開発しているのは、このリザバーコンピューティングが可能なAIチップだ。現地では実際に試作品のチップを使い、指の情報を高速に処理。後出しでほぼ絶対にじゃんけんに勝利できるようにしていたわけだ。何回かあいこが出たが、すぐに勝てなくなったのも、その場で記者の指の動きを学習させて、推論に反映させていたという。
この手のシステムは処理や通信速度の問題により「人間がグーを出した数秒後に、機械がパーを出してくる」という「そりゃ勝てるだろ」な事態も珍しくない。しかし、TDKの展示ではスピード感に違和感はなく、記者がグーを出すと同時にシステムはパーを出し、記者がチョキを出すと同時にシステムがグーを出せていた。
TDKの担当によれば、同社が得意とするセンサー製品とシナジーする技術として今回のAIチップを開発しているという。開発中のため、具体的な用途はこれからとしつつも、ロボティクスや、プレイヤーのコマンド入力を先読みして対応できる点を生かしゲーム分野での活用を見込むといい、5年後をめどに量産化する計画だ。
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