AI学習目的の海賊版収集・利用は著作権法違反になるか? 柿沼太一弁護士の見解(2/4 ページ)
生成AIと著作権の問題に詳しい柿沼太一弁護士が、日本弁理士会のセミナー資料「生成AIと著作権」を論評します。
セミナー資料の問題点を検討
セミナー資料が想定しているとみられる場面と問題の本質
セミナー資料の議論を検討するにあたり、まずセミナー資料が「海賊版のAI学習利用」としてどのような場面を想定しているのかを考える必要があります。
セミナー資料の記述からすると、おそらく漫画村のような海賊版サイトから漫画データを収集し、同じキャラクターや映像を容易に出力できるようなAIを作ること――このような場面が念頭にあるのではないかと思われます。仮にそうだとすると、そのようなケースが違法となることは明らかです。
しかし、仮にそのようなケースを想定しているのだとしても、そのケースが違法となる理由は、学習対象が海賊版だからではありません。学習対象著作物と同一・類似のAI生成物を出力できるような学習をすることに、享受目的が併存するとして30条の4が適用されないためです。仮に正規版を用いた学習をしたとしても全く同じ結論になります。
この点は極めて重要なので繰り返します。海賊版を使ったから違法なのではなく、AI学習に先立つ著作物の複製行為に当該著作物の享受目的があるから違法なのです。この違法性は、学習ソースが海賊版であるか正規版であるかとは無関係です 。
そして、「海賊版」とは単に「違法にアップロードされたもの」を意味するのであり、上記のようなケースに限られるものではありません。大規模言語モデル(LLM)の事前学習のためにWeb上のデータを大規模に収集したところ、一部のデータの中に違法にアップロードされたものが含まれていた場合も「海賊版の学習利用」に該当しますが、セミナー資料の解釈に従えば、このような場合にまで30条の4の適用が否定されることになりかねません。
したがって、セミナー資料の問題は、「海賊版の利用」という切り口で30条の4の適用有無を論じている点にあります。問題の本質は、学習対象が海賊版か正規版かではなく、当該学習に対象著作物の享受目的があるかどうか(つまり学習対象著作物と同じものを出力する目的があるか)です。
逆にいうと、セミナー資料において、海賊版利用によるAI学習に30条の4が適用されないケースとして、「漫画村のような海賊版サイトから漫画データを収集し、同じキャラクターや映像を容易に出力できるようなAIを作ること」を具体的に明示していただければ、何の問題もなかったということです。
海賊版のAI学習利用と30条の4
以上を前提に、セミナー資料に記載されている「AI学習目的の海賊版書籍データ収集利用行為について、30条の4の適用は否定される可能性がある」という点を法的に検討します。
日本法には「適法アクセス要件」がない
まず言えるのは、諸外国の情報解析規定と日本法30条の4の違いです。
諸外国の情報解析に関する権利制限規定においては、情報解析の客体が適法にアクセスしたものであることを条件とした立法例が多いです(英国法、欧州DSM指令、スイス法など)。そのような立法の下では、AI開発者が海賊版などをWebサイトから収集して開発・学習に利用した場合、当該収集行為自体が著作権侵害となります。
一方、日本国著作権法の30条の4にはそのような条件が設けられていません。
そのため、AI開発者が海賊版などをWebサイトから収集して開発・学習に利用する行為についても同条が適用されて原則として適法となります。
立法経緯からの確認
この点は立法時に意識的に選択された結論です。永岡文部科学大臣(当時)は、23年4月24日の衆議院決算行政監視委員会第2分科会において、「著作権法第三十条の四におきまして、著作物が適法であることは要件とされておりません」と答弁しています。
47条の5との対比
さらに重要なのは、同じく情報解析に関する規定である47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)には、違法著作物の利用を除外する規定が存在するという点です。
立法者は、権利制限規定ごとに海賊版利用の扱いを意識的に区別しており、30条の4に適法アクセス要件を設けなかったのは、意図的な立法選択です。この区別を無視して、30条の4にも海賊版利用の制限を読み込もうとすることは、条文の体系的解釈として成り立たないと考えます。
文化庁小委員会の議論
「考え方」の内容が議論された文化庁著作権分科会法制度小委員会においても、複数の委員から同趣旨の指摘がなされています。早稲田委員は以下のように述べています。
「(4)の海賊版のような権利侵害複製物について、これも著作権者の非常に御懸念があるということは重々承知ではございますけれども、単に情報解析をするということであれば、海賊版であっても情報解析をするという目的には非享受目的であれば該当するのではないかなと思っておりますので、これもただし書には該当しないのではないかなと個人的には思っております」
澤田委員も以下のように指摘しています。
「(4)の海賊版に関しても、30条や47条の5の1項のただし書で違法なものを用いるケースは権利制限の対象外ということは明記されているところです。そのため、法体系全体の整合性からすると、特にそういった明記のない30条の4については、(3)、(4)の事情があるという一事をもってただし書に当たらないということにはならないのではないかと考えております」
以上の通り、「考え方」は、AI開発者が海賊版などをWebサイトから収集して開発・学習に利用する行為についても30条の4が適用されて原則として適法となることを前提としていると思われます。
「考え方」の記載は「控えるべき」であって「違法」ではないこと
セミナー資料は、文化庁資料における「海賊版等と知りながらの学習データの収集を行うといった行為は『厳にこれを慎むべきもの』」という記載を根拠に挙げています。しかし、「厳にこれを慎むべき」という記載は、倫理的・道義的な観点からの推奨にすぎず、30条の4の法的な適用が否定されるという意味ではありません。
「考え方」やパブリックコメントに対する文化庁の回答においても、AI開発者が海賊版をWebサイトから収集して開発・学習に利用する行為が30条の4柱書但書に該当して著作権侵害になるという記載はどこにもありません。
「はじめにお断り」で述べた通り、「控えるべき」という倫理的な話と「違法である」という法律的な話は別問題です。
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