ポータルビジネスはソーシャル化されるのか?(下):ネットベンチャー3.0【第15回】(2/2 ページ)
佐々木俊尚氏が日本のベンチャーにおけるWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。米国発のSecond Lifeによってリアルマネートレードは悪だというMMORPGの常識が変わろうとしている。日本のRMTベンチャーはどう考えているのだろうか。
日本におけるMMORPGのRMT問題
先ほど、Second Lifeは3D空間というプラットフォーム上に形成されたオープンソース型MMORPGであると書いた。さらに言えば、このリアルマネーとの結合という意味で、Second Lifeは従来の日本のMMORPGが固く守ってきた一線を越えてしまっている。
日本のMMORPGの世界には、「RMT問題」という紛争がある。RMTというの「リアルマネートレード(現金交換)」の略で、オンラインゲーム空間の中で使われている仮想通貨やアイテムなどを、ゲーム空間外でリアルの現金によって売買する行為のことだ。かつてはネット上の掲示板などで個人と個人が細々とRMTを行っていたが、その市場が案外と大きく、ビジネスチャンスがあることに人々が気づきはじめ、ビジネスとして立ち上がってくるようになった。つまりRMTを事業として行うベンチャーが登場し、オンラインゲーム運営会社の意図とは離れた別のところで、それらのゲームのRMTを行うようになったのである。
私は今年5月、そうしたRMT企業の大手であるジーエムエクスチェンジの宇田川慎之介社長に、月刊誌「サイゾー」の連載の取材でインタビューした。この時、宇田川さんは次のように話した。
「日本のオンラインゲームって、プレイしている人口が少ないうえにかなり極端に偏ってるんですよ。すごく時間をかけてゲームに没頭するような『ヘビーゲーマー』と呼ばれるぐらいにならないと楽しめないんです。そうじゃない人にも楽しんでもらえる仕組みが、RMTなんです」
「大学生やフリーターなど比較的時間に余裕があって、ゲームを長時間遊んで通貨を貯めている人がいる。その一方で、オンラインゲームはやりたいんだけれど、でも時間がないからなかなかスキルアップができず、弱いままで『これじゃあ面白くないよ』と不満に思っている人がいる。忙しい会社員などが中心ですよね。そうした忙しい人たちが、ゲームに長時間没頭できる人からゲーム通貨を購入するというのは自然なことで、そうした市場が成り立つんじゃないかと思ったんです」
もともとネットマイルでネット上のポイントシステムなどを手がけていた宇田川さんは、ネット掲示板でRMTを個人で行っている人たちの存在を知り、ビジネス化できるのではないかと考えた。会社の設立は2004年8月で、ジーエムエクスチェンジはおそらく初めてのRMT企業だったと思われる。だがビジネスモデルとしてはそれほど複雑なものではなく、高い技術も必要としないことから参入障壁が低く、個人事業主なども含めれば現在は120社程度が乱立して、過当競争化しているという。
だがこのRMTに対しては、MMORPGの運営企業の側はきわめて過敏になっている。たとえば「リネージュ」を提供するエヌ・シー・ジャパンはプレイ上のご注意というウェブページで、以下のように書いている。
RMT(Real Money Trade)とは、ゲーム内のアイテムや仮想貨幣を、現実のお金と交換する行為を指す言葉であり、この行為はゲームのバランスを崩します。
しかも、RMTで得られるアイテムがアカウント盗用によるものであったり、また、お金を振込んでもアイテムや貨幣を得ることができないといった、現実世界の犯罪行為へと発展する事もあります。
RMTは自分自身だけの問題ではありません。
RMTによって販売されるアイテムや仮想貨幣を入手する為の行為は、様々な不正行為の温床となっています。
RMTは多数のお客様の正常なプレイの妨げに繋がり、ひいては自分自身の正常なプレイの妨げにもなるため悪循環を引き起こします。
RMTが引き起こす仮想空間での「出稼ぎ」
実際、RMTを使ったアジア各国からの「出稼ぎ」行為などというものもある。安価な労働力で大量に人を雇ってオンラインゲームをプレーさせ、スキルアップさせてゲーム通貨をどんどん貯め、それをRMTで換金して金儲けするという方法だ。「BOT」というモンスターを殺し続ける自動実行プログラムを放っているケースも多発していて、今やゲーム業界の社会問題にまでなっている。
しかし先の宇田川さんは、こう話している。「RMTを舞台に、違法行為や倫理上問題のある行為が行われているのは事実です。しかしそうした行為は今後もなくならないだろうし、完全に防ぐのは難しいと思うのです。そうであればRMTを完全否定するのではなく、一定のルールを敷くことによって違法行為の防波堤にすることはできるのではないかと考えています」
たしかにオンラインゲームの世界でいま起きているこれらのことは、インターネットの世界のある種の写し絵のようなもので、ネットには善人もいれば犯罪者もいる。だからといって犯罪者を除外するためにネットに中央コントロールを導入しようという話にはならない。ネットの世界には自由があるからだ。オンラインゲームの世界でも同じことで、犯罪者はある程度は横行するけれども、それ以上に自由なゲーム世界を確立していき、付随するRMTビジネスも認めようという方向に進んでいく可能性は少なくないだろう。
そしてその突破口がゲーム業界ではなく、インターネットのビジネスとして生まれてきつつある――それがSecond Lifeということなのだ。
Second Lifeは、ゲーム空間のオープンソース化とRMTの積極的導入というきわめてWeb2.0的なしくみをMMORPGの世界に持ち込むことによって、新たなパラダイムを提示した。そしてこのWeb2.0的仕組みは、リアルの人間関係やリアルの経済活動と結びつくことによって、SNSの次のステージを明確に示しつつあるように思われる。
(毎週金曜日に掲載します)
佐々木俊尚氏のプロフィール
1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。
著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)、「ウェブ2.0は夢か現実か?」(宝島社)など。
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