日本人は、サービスにお金を払わない:ずっと「安月給」の人の思考法(2/3 ページ)
あなたが勤めている会社の給料は低いですか? それとも高いですか? 前回は、業界によって給料に差が出ることを紹介しました。今回は、日本人のサービスについての考え方と技術の進歩について考えます。
理由5 技術が進歩すると労働者の価値を下げるから
効率化と技術進歩が進むほど、給料が安くなる。そして、技術進歩が頻繁に起こる業界は、給料がどんどん下がっていく構造になっています。さらに、技術進歩の恩恵を大きく受ける職種も、給料が下がっていく構造と言えます。
イギリスの経済学者のアダム・スミスは、生産性を高めるために、分業の必要性を説きました。ピンを製造する工場を見て、こういう言葉を残しています。
分業すれば10人で1日4万8000本のピンを造れる。しかし、分業していなければ、1人1本も造れないだろう。
分業によって、生産性が爆発的に高まるということです。すべての生産現場でそれほどまでに効率が高まるかどうかは分かりませんが、分業にはそれくらいの生産性向上効果があるということなのです。より多くの利益を得ようと、各企業は躍起になって生産性を向上させてきました。
しかし「生産効率が高くなる」ということは、その商品ひとつを作るのにかかる労力が減るということです。つまり、商品の価値が下がるのです。
これはスミスの時代に限った話ではありません。最近でもPCやテレビなどのデジタル商品が分かりやすい例です。かつては30、40万円もしたPCやテレビが、今では10万円以下という話も珍しくありません。では使用価値がなくなったのか、減ったのかというとそうではありません。むしろPCの性能は格段によくなり、テレビはより高画質、大画面になっています。使用価値はどんどん高くなっているはずです。でも、高値では売れません。
なぜか?
それは、生産効率が圧倒的に高まっているからです。デジタルの分野では技術改良が急激に進んでいます。それこそ3年前の技術は「使いものにならない」くらいでしょう。そのため、同じPCを製造するのにかかる手間が圧倒的に小さくなっているのです。
生産効率が上がり、たくさんの商品を製造できるようになったのはうれしいことですが、同時に価値が下がってしまうのです。日本の半導体メーカーや電気機器メーカーが経営不振に陥っているのは、商品に使用価値がないからではありません。一生懸命に「カイゼン」を重ねた結果、悲しいかな逆に「もうそれほど手間かけなくても製造できるんでしょ?」と思われてしまい、高いお金を払ってもらえなくなったから、なのです。
つまり、この技術進歩が給料が上がらない、むしろ下がっている理由になっています。生産やビジネスの現場が効率化し、技術が進歩しているから、給料が下がっているのです。
分業をしたり、業務をシンプルにすれば、労働者の仕事が軽減することになりますね。メーカーを思い浮かべていただくと分かりやすいと思います。
労働者の仕事が軽減すれば、少ない体力で仕事ができるようになります。そして「労働力の価値」が減る、つまり給料が減ることを意味します。いままでと同じ時間だけ働いていても、仕事の内容が楽になれば、体力を回復させるのに必要な生活手段も少なくなるからです。
例えば、土木工事の現場にブルドーザーや大型トラックが導入されれば、作業が圧倒的に楽になります。楽になった分、体力回復に必要なものも少なくなります。労働の再生産コストが下がるのです。
また、手作業で1つずつ行っていた計算も、表計算ソフトを使えば一瞬でできるようになりました。複雑な計算をする仕事は圧倒的に楽になりますし、そもそも複雑な計算をするための知識もいらなくなります。勉強する手間がなくなるわけですね。「仕事が楽になった〜!」などと、喜んでいる場合ではありません。
また、分業が進み、技術が進歩すれば、それまでの「熟練の技」はいらなくなりますね。職人さんが長年の経験でやっていた仕事もテクノロジーがカバーし、機械化されることもあり得ます。そして、その機械を操作するのに熟練の技はいりません。つまり職人のようなベテランはもういらないのです。
世の中全般で、さまざまな仕事が「トレーニングを積まなくてもできるようになる」ということでもあります。「仕事ができる人間」にまで育てる教育費は不要となり、労働力の価値を構成している「知力」が少なくて済み、その分労働力の価値が下がるのです。
さらに、生産性が高くなれば当然、その商品はそれまでよりも安くなります。ということは、労働者も安く手に入れられるということになりますね。となると「労働力の生産コスト(明日も働くために必要な経費)」も安くなります。この点からも労働力の価値が下がります。
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