「会社員がスーツを経費にできる」「スーツで節税」が実質的には使えない6つの理由
2013年(平成25年)から、会社員が節税できる制度ができました。一見、「スーツが経費に!」「スーツで節税」と思えますが、実質的に使えるのはよほど特殊なケースではないでしょうか。
本記事は、ブログ「EX-IT ExcelとITで効率化して、仕事と人生を楽しもう」より転載、編集しています。
2013年から、スーツを経費にできる制度ができたけど……
2013年(平成25年)から、会社員が節税できる制度ができました(正確には、節税の範囲が広がりました)。過去にこのような記事「会社員の書籍代、資格取得費などが経費になる<特定支出控除>は実際に使えるか?」を書いています。この件について、「スーツが経費になる」「スーツで税金が戻ってくる」という報道やニュースが多いですが、冷静に真実を把握する必要があります。
税金は、収入から経費を引いた利益(所得)によって計算されます。経費が増えると、税金は減るのです。
通常、会社員の場合は給料から一定額の経費しか引くことができません。年収500万円なら154万円、年収1000万円なら220万円の経費です。これを給与所得控除といいます。
これ以外に、書籍、交際費そしてスーツなどが経費に落とせるようになりました。中でも「スーツを経費にできる」のは以下の理由から注目されています。
- 仕事で必要とするシーンが多い
- 金額が大きい
- 税金が減らせる
- 一般的に経費として認められていないスーツが経費に落とせる
この1年、雑誌やネットの記事でも「スーツを経費にできる!」といったものをよく見かけました。しかし、そうそうおいしい話ではないのです。
スーツで節税するための6つのハードル
スーツで節税するためには、次のようなハードルがあります。
1. 会社の証明が必要
こちらに紹介されているような様式で、会社から証明してもらう必要があります。
ややめんどくさいでしょう。
2.確定申告が必要
レシートを保管しておき、年度末に確定申告をする必要があります。まあ、ここまでは節税のためならやれる範囲でしょう。
3.スーツを結構買わないと節税にならない
10万円のスーツを1着買っただけでは、節税になりません。年収に応じて、一定の金額以上でないと意味がないのです。
例えば年収300万円の方の場合、年間に54万円以上スーツを買う必要があります。
次の表を参考にしてください。スーツだけで節税するなら、年収に応じて節税基準額以上のスーツを買う必要があります。ここでいう「年収」とは、額面金額、所得税や社会保険料を引く前の金額をいいます。給与明細の「課税支給額合計」や、源泉徴収票の「支払金額」です。
1500万円超は、一律125万円となります。
4.スーツだけでは65万円の限度がある
「年収がもっとあるから、スーツ代はもっと使う」という人もいるでしょう。しかしスーツ代だけでは、年収380万円以上の方は節税できません。スーツだけでは65万円までしか経費に入れられないからです。(図はキリのいい200万円、300万円、400万円……で計算してます)。赤い部分が経費に含められる枠となります。
この制度はスーツだけではなく、次のものが対象です。
(1)通勤費
(2)転居費
(3)研修費(セミナー)
(4)資格取得費(1年間分しか落とせない)
(5)帰宅旅費(単身赴任などの場合で自宅に帰る旅費)
(6)書籍代
(7)衣服代(スーツ)
(8)交際費
ただし、スーツを含む(6)(7)(8)の合計は65万円が限度となります。
年収400万円なら67万円、年収500万円なら77万円、年収600万円なら87万円を超える必要があり、実質的には、スーツだけではなく、他の経費(上記(1)から(5)の合計額)を組み合わせるしかないのです。
5. 節税額は税率をかけたもの
さらに、基準額を超えた部分の金額だけ節税できるわけではありません。その金額に税率(所得により変わる)をかけたものが節税額となります。
年収300万円の方が65万円分スーツを買ったとしたら、その節税額は、65万円から基準額54万円を引いた11万円ではありません。11万円に税率(5%)をかけて計算した5,500円が節税額(所得税)です(住民税にも影響があります)。
65万円のうちの5500円ですので、かなり少ないといえるでしょう。もちろん戻ってこないよりはいいのですが……。
6. そもそもそんなにスーツを買えない(買わない)
そもそもスーツを65万円も買わないでしょうし、買えないでしょう。仮にスーツがたくさん必要となったとしても、今は安くていいスーツもありますし、セールで買えば安くで買えます。合計金額も少なくなるはずです。
派手だけど、実際は使えない制度も多い
「スーツが経費に!」「スーツで節税」と派手に報道されていますが、実質的には使えません。よほど特殊なケースではないでしょうか。
このように、「一見派手だけど使えない」「お得そうに見えてそうではない」というものが、税金にはよくあります。「節税も考えてますよ」というアピールだったり、週刊誌や新聞の売り上げを伸ばすためだったりするのです。
重々気をつけましょう。
筆者プロフィール
タイムコンサルティング代表取締役・税理士。会計ソフトfreee認定アドバイザー。総務省統計局勤務の国家公務員から税理士となった「ITと数字のプロフェッショナル」。Excelによる業務効率化を得意とする。日課は、早起き(4〜6時)、ブログ執筆、トライアスロンのトレーニング、料理、少々ゲーム。ブログは2007年7月9日より毎日更新中。
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