仕事の「リアル」をつかめるか:明日を変える働き方(2/3 ページ)
期待を胸に入社しても、自分が希望する部署に配属されるとは限りません。むしろ、希望どおりになることのほうがまれかもしれません。そういうときは、どういう姿勢で仕事と向き合えばいいのでしょうか?
広告会社、営業部のTさん(32歳、男性)の場合
広告業界の大手の会社に就職したTさんは、まさにそういう経験をしました。
Tさんは学生時代に、遊園地の「としまえん」が“プール冷えてます”というコピーで広告を出しているのを見て感銘を受け、「将来は自分も人に面白がってもらえるような広告をつくる仕事に就きたい」と思うようになりました。
そして広告会社を中心に就職活動を行い、見事に業界大手の会社に内定をもらいます。入社して希望したのは、企業の抱える課題を分析して、広告の戦略を立てるマーケティング部でした。しかしその希望は通らず、営業部に配属されることになります。
Tさんは「マーケティング部に配属になった同期は、優秀な人ばかりだ。自分が行けなかったのは仕方がない」と思いつつも、クライアントと会社の間でのさまざまな雑用を求められる新人営業マンの仕事に対しては、最初はあまり前向きな気持ちを持つことができませんでした。与えられた業務はきちんとこなすけれど、どこかマーケティング部やクリエイティブ部門の人たちに対して「うらやましい」という気持ちを持っていたそうです。
そんなTさんの気持ちに変化が起きたきっかけは、あるひとつの小さな仕事でした。
営業部に配属になってから2カ月ほど過ぎたある日、先輩から「ちょっと忙しいから、このチラシの仕事、お前が中心になって最後まで進めてくれ」と頼まれたのです。
それまでの仕事は、確認のためにクライアントにポスターのゲラを届けたり、撮影のときのスタッフのお弁当を手配するなどといった部分的な仕事ばかりだったため、はじめて1つの仕事を最初から最後まで担当できることに、Tさんはとてもやりがいを感じました。
そして先輩たちに分からないことを聞きながら、制作部門のデザイナーや印刷会社の人たちとやりとりし、経験も年齢も自分よりずっと上の人たちと仕事を進めていきました。
最後にチラシのデザイン案が3つ出てきたときに、クリエイティブ部門の先輩にどれがいいかと確認を求めたところ、「クライアントのところに一番足を運んでいて、現場をよく分かっている営業のお前が決めていいよ」と言われました。
そのときTさんは「こんなに若くて経験もない自分に任せてくれるのか。営業ってすごい! マーケティング的なこともクリエイティブなこともできる、奥深い仕事なんだ」と実感したのです。
マーケティングやクリエイティブの部署は、広告としての最終的なアウトプットをつくるためにあるセクションなので、「世の中を動かしたい」「人に感動を与えたい」というような希望を持って広告会社に入ってくる学生の多くが志望します。
しかしそのどちらの部署も、営業がクライアントから仕事をとってこなければ、何もすることができません。営業が、広告の仕事全体の中心に位置することを、Tさんは小さなチラシの仕事を通じて理解することができたそうです。
「新入社員の多くは『大きな仕事がしたい』といって入社してきますが、実際に現場で働きはじめると、任されるのは小さな仕事。その積み重ねでしかありません。その最初の希望と現実のギャップに戸惑う若い社員は多いと思いますし、かつての自分もそうでした。でも営業を続けているうちに、どんどんその積み重ねが大きくなって、最終的には、自分が昔思い描いていたような大きな仕事につながっていくことが、今では分かるようになりました」
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