仕事の「リアル」をつかめるか:明日を変える働き方(3/3 ページ)
期待を胸に入社しても、自分が希望する部署に配属されるとは限りません。むしろ、希望どおりになることのほうがまれかもしれません。そういうときは、どういう姿勢で仕事と向き合えばいいのでしょうか?
リアリスティック・ジョブ・プレビュー
Tさんは憧れていた広告会社に就職できたにもかかわらず、希望していた職ではなく、営業職に配属となったことで最初はショックを受けたようです。
しかし仕事の世界はよいことづくめではなく、厳しい現実があります。また入社前に、自分が思い描いていたような理想の職場が、そのままであることもまずありません。
一番いけないのは、人気職種のよい面ばかりを見て、その仕事の全体を理解したような気になってしまうことです。
その誤解のまま実際の職務に就くと、理想と現実のギャップの大きさに驚き、がっかりしてモティベーションが急激に下がるということがよくあります。むしろ、あまり大きな期待を持ちすぎずに仕事に取り組んだほうが、よりスムーズに現実に適応できるということも珍しくありません。
働く人がそのような現実を知ったときのショックを和らげるために、近年の会社ではあえてその職場が持つ厳しい側面を入社前に伝えることがあります。そのことを「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」、別名「採用時のリアリズム」と呼びます。
RJPを事前にきちんと見せて実態を理解してもらうことで、会社側も等身大の姿を示すことができ、働く社員は過度な期待や間違った幻想を持たずにすみます。
あるアメリカの保険会社では、エージェントを募集するのに使ったパンフレットに、
「自由な裁量が大きくあります」
「将来は独立も可能です」
「旦那さんの給料を上回る報酬が得られるかもしれません」
など、よいことばかりの文面を載せていました。しかし実際に入社してみると、それだけの報酬を得るためにはかなりの新規契約をとらねばならず、エージェントのほとんどは、はるかに低い給与で働くことになりました。その結果、数カ月が経つと、退職する人が大量に出てしまったのです。
そこで新たな採用活動では、パンフレットに一切よい話は載せずに、現在も残って働いているエージェントにあえて「つらいこと」を聞いて、その仕事の本当のところを記載することにしました。
例えば、次のような記述です。
「あるエージェントは、何時間もかけてある家族向けの、しっかりした保険の提案を準備したのですが、二度目の面談でにべもなく断られました」
「あるエージェントの場合、せっかく保険約款の成約をみたのに、加入者が引き続き保険料を支払わなかったために失効してしまいました」
「あるエージェントは、嵐の夜にわざわざ個人的な時間を犠牲にして営業のために足を運びましたが、行ってみると見込み客(プロスペクト)は約束を忘れてお宅にいませんでした」
(RJPの提唱者ワナウスの30年以上前の文献に引用された保険会社のブックレットから)
新しいパンフレットにはこのような厳しい話をたくさん掲載し、「それでも保険のエージェントはやりがいがある」と訴えました。するとそのパンフレットを見て応募してきたエージェントについては、短期間で辞める人を大幅に減らすことができたのです。
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