周りの人にどんどん見せる:困っている人のための企画術(2/2 ページ)
新しい企画を立てるとき、完璧にしようとして1人で考え込んでしまうと感覚が閉じてしまいがちです。思いついたそばから周りの人にどんどん見せて意見を聞いたほうが、多くの人に受け入れられるものができるのです。
10の視点を持って考える
私が企画を見せる人の中に、佐々木宏さんという人がいます。佐々木さんは、広告界では知らない人はいないぐらい有名なクリエーティブディレクターです。佐々木さんは「目が10個ついている」と言われるほど、いろんな視点でもって、企画について意見を言います。
あるときは、日本の総理大臣にでもなったかのように、「いまの日本に、こんなCMがオンエアされることが、本当に求められているか」みたいなことを言い出したり、あるときは、ただのタレント大好きなおじさんになって、「この企画に壇蜜(だんみつ)はだせないのか」とか、「ふなっしーが後ろのほうにいてもいいんじゃないか」とか言い出したり。
またあるときは、クリエーターというよりも営業のようになって、「広告主の宣伝部長が犬好きだから犬をだしておけ」とか、「もっと商品カットの秒数を長くしないと、広告主さんには通らない」とか、そういうことも言います。
かと思うと、遠い目をしながら「東北の被災者の人たちの気持ちも考えて企画しなさい」と言い出したり――。
そうして、つぎつぎといろんな人格に入れ替わりながら企画を検証していく。企画側としては、そんなにいろんな視点からの意見に対応していくのは大変ですが、CMというのはいろんな人がいろんな目で見るものですから、それに耐えうる「開かれた企画」になるためには、かなり有効なプロセスなのかもしれません。
佐々木さんはちょっと特殊な人なので、そんな検証マシーンのような人は身近にはなかなかいないでしょうけど、だからこそ、近くに佐々木さんがいないときは、企画ができたら周りの人たちにどんどん見せるようにしています。
例えば鶴の恩返しの鶴のように、「完成するまでは誰にも見せません」ということではなくて、「あー、私がはた織りしているところ、どんどんのぞいてください。まあ、そのときは私、鶴ですけど、気にしないで」と言ってしまうのです。
とにかく、どんどん見せて、いいことを言われたらどんどん取り入れる。そのくらい気楽にやったほうが、芸術作品ならぬCMには、合っているような気がします。
著者プロフィール:
福里真一(ふくさと・しんいち)
ワンスカイ CMプランナー・コピーライター。1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。
これまで1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本興業のタレント総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、ダイハツ「日本のどこかで」、東洋水産「マルちゃん正麺」などがある。
ACC(全日本CM放送連盟)グランプリ、TCC(東京コピーライターズクラブ)グランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー、など受賞。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを数多くつくりだしている。
著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)がある。
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