無線LAN〜その栄光への道のり(後編)

前回,かつて無線LANは,高くて遅くてかさばり,マイナーなものだったと記した。だが,その無線LANにも脚光を浴びる日がやってきた。

【国内記事】 2001年9月6日更新

 無線LANが使えるモノだと世間から認知されるようになったのは,やはり11Mbpsに高速化されたのが大きいだろう。オフィスで普及していたイーサネットの10BASE-Tと,どうにか同等といえる速度になったわけだ。

 無線LAN標準規格IEEE 802.11の高速版である,IEEE 802.11bの規格が採択されたのは1999年9月。これにより,無線LANの伝送速度は公称11Mbpsとなった。ちなみに5.2GHzを使いOFDM方式で伝送する高速無線LANの規格,IEEE 802.11aも同時期に策定が採択されている。しかし2Mbps版で製品化が先行していた2.4GHz帯を使う802.11b製品のほうが,いちはやく市場に登場することになった。対して,802.11a製品はメーカー各社が試作を行っているものの,いまだ製品は登場していない(おそらく,2002年初め頃までには登場するだろう)。

 こうした高速版規格の標準化の完了に加えて,日本国内でも大きな変化があった。1998年に電波法の規定が改定されたのだ。これにより,それまで2470.75〜2497MHzまでの間で1チャンネルしか使えなかった無線LANに,新たに欧米で使用されていた2400〜24 83.5MHzが割り当てられ,使える周波数帯がほぼ2.4GHz帯全体へと一気に広がったのだ。これにより,実効で4チャンネルの搬送波が確保できるようになる。11Mbpsに高速化された規格が,4チャンネルということで,キャパシティとしては(複数のアクセスポイントを設置した場合)全体で計44Mbpsの利用ができることになったのである。

 ここに至って,「遅い」という課題は克服された。

スマートになった無線LAN。決め手はアップル

 「遅い」のほかに「かさばる」という要素も,2Mbps製品の後期の製品からは,改善が図られていた。外部に取り付ける必要があった箱形のアンテナが小型化され,PCカードと一体化することになったのだ。PCカードからは,ちょっとした出っ張り(小型化されたアンテナ部)がつくのみとなった。

 これにより,無線LANアダプタは,無線LANカードと名乗ることが名実ともに可能になり,それまでとは打って変わってスマートな製品になった。ノートPCにインストールして,いつでもどこでも手軽に持ち運べる,そんな使い方が可能になった(もっとも慣れてしまえばあの出っ張りも邪魔という気がしてくるのだが,あれを引っ込めると電波の受信感度に影響しそうだ)。

 無線LANというものの存在を知らしめ,スマートな製品である印象を世間に与えたエポックメイキングな出来事としては,なんといっても,AppleがMacintoshのオプションとして採用したことだろう。その製品は,AirMac(日本以外ではAirPort)。

AirMacでMacユーザーはいちはやく無線LANが利用できた

 2000年1月,アップルは日本市場に向けてAirMacを販売することを発表した。iBookに,多くのユーザーはそのスマートな先進性に目を見張った。いちはやく時代を先取りする製品を常にラインナップに組み込んでアピールする。その着眼点はさすがといえる。

 しかも価格は,iMacやPowerBookにインストールするAirMacカードが1万2800円。AirMacのベースステーションは3万7800円。当時,この先進的なソリューションをMacintoshユーザーはいちはやく手軽に利用することができた。AirMacカードは,形状こそ同じだが,一般的なPCカードではない。Mac内部の専用スロットに挿入し,内蔵のアンテナと接続して利用するが,それゆえ,現在の無線LANカードのような黒い出っ張りもない。これはいまも優れた点だろう。

価格破壊を起こしたメルコ製品

 ところで,AirMacの1万2800円という価格,これは無線LAN製品としては破格の値段だった。AirMacはAppleと米Lucent Technologiesの共同開発製品であり,基本的な部分はLucent製品と同等だったと思われる。そのLucentの無線LAN製品(発売が早かったこともあり,市場でのシェアはかなり大きかった)の価格は,無線LANカードが国内ではまだ6万円台くらいしていた。もっともこれは,まだコンシューマー需要が顕在化せず,企業内や大学キャンパスでの利用に向け地道に細々と販売していた時点での価格であったわけだが。しかし,正直Lucent製品を売っているベンダーは驚いたに違いない。

 Windows向けも含めた汎用の無線LAN製品に価格破壊の波をおこしたのは,メルコだ。

 メルコはまず,1998年12月,2Mbps製品で市場に参入した。IEEE802.11b規格が登場すると,11Mbpsの製品を2000年1月に発売。しかも標準価格は2万6800円と,他社製品の半額近い価格を設定。無線LANカード2枚とアクセスポイントをセットにした「簡単導入パック」も9万5000円で提供するなど,コンシューマー層でも手の届く価格を設定した。

 それまでは企業・大学など限られた市場に高付加価値製品として(サポート料込み)販売されていた無線LANだったが,メルコはじめ多数のPC周辺機器ベンダーが参入したことで,利用者層は広がり,出荷数は一気に拡大した。現在は各社から,1万円を切る価格のカードが提供されている。

 無線LANに残された課題,「高い」は解決された。現在の無線LAN市場の隆盛は事実上,ここに始まったといえよう。

家庭向けワイヤレス市場で主導権を握ったメルコのAirStationシリーズ

 結果としてメルコは現在,無線LAN市場で圧倒的なシェアを占めるに至っている。単に価格破壊を起こしただけでなく,国内メーカーではいちはやく,802.11b準拠製品の相互接続認定である「Wi-Fi」も取得している。また,基本型であるブリッジタイプのアクセスポイントだけでなく,ISDNルータとの一体型製品や,ADSL,CATVに対応した製品を出すなど製品展開も多様だ。

相互接続を保証するロゴ「Wi-Fi」の誕生

 無線LANの普及を語る上で,1つ忘れてはいけないものがある。「Wi-Fi」の存在だ。これは上述したように802.11bの無線LANの相互接続認証の認定ロゴであり,802.11bの無線LANの代名詞として扱われることもある。

 このWi-Fiの認定を行っているのが,1999年8月に発足した,米国の業界団体WECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)である。前回述べたように,無線LANはIEEE802.11で標準規格が策定されたといっても,異機種間の相互接続を推進する場や主体がなく,アクセスポイントとカードで機種が違えばつながらないという状態が長く続いた。802.11bの登場の直後にできたWECAはそのような問題を解消し,無線LANの普及促進を図るために生まれた団体だ。Wi-Fiは,無線LANを普及させるため,多くのユーザーに親しんでもらえる名称が必要だということで,“Wireless Fidelity”を短縮して作られたものだ。

 Wi-Fiブランドを取得している製品は,アクセスポイントとカードの間の機種が異なっても使えるという安心のマークである。このWiFiが無線LANの使い勝手を普及を進める上では大きな役割を担っている。

 ところで,市場に出回っている全ての製品がWi-Fiを取得しているわけではない。Wi-Fi認定は取得していないカードのほうが多いかもれない。しかし認定を受けていなくてもつながるようにはなっており,いわば勝手接続が可能な状態となっている。もともと製品は多様でも,実は無線LANのチップを供給しているメーカーはごく限られている。これが事実上の相互接続が確立している要因の1つだろう。

無線LAN内蔵PCの登場──「ThinkPad s30」

 2001年になって低価格化競争の進展以外に,新たな動向が無線LANに登場した。ワイヤレスとブロードバンドの活性化を背に受け,WindowsノートPCでもあらかじめ無線LANを内蔵した製品が登場したのだ。それが,2001年5月に発表された「ThinkPad i Series s30」だ。同社では,今後発表予定のThinkPad全シリーズに無線LAN機能内蔵モデルを提供するとしている。

無線LANを内蔵した初のコンシューマー向けWindowsノートPCだ

 無線LAN内蔵ノートPCは,日本IBM以外にも東芝が,主に企業向けの製品を発売している。こうした無線LANの搭載が他社製品にも広がり,かつてのIrDAや,USBなどと同じPCの一般的な仕様となっていくかどうか。とりあえずは,日本IBMの“ワイヤレスブロードバンド”製品群のお手並みを拝見だ。

 2回に渡り,20世紀末に登場したコミュニケーション技術・無線LANの7年にわたる歩みを駆け足で追いかけてきた。「高い」「遅い」「マイナー」と言われた欠点を,業界努力で克服し,今日の隆盛に結びついたさまは,商品開発の1つの理想といえるのかもしれない。

関連記事
▼ 無線LAN〜その栄光への道のり(前編)
▼ 表面化する無線LAN“802.11b”の問題
▼ IEEE 802.11a製品は,なぜ出てこない?
▼ MSに振られたBluetooth,勢いを増す802.11b
▼ 無線LAN製品同士の互換性実現へ――標準化団体のWECAが「WiFi」認定

関連リンク
▼ Wireless Ethernet Compatibility Alliance
▼ AirStation.com(メルコ)
▼ AirMac(アップル)
▼ ThinkPad i Series s30(日本IBM)

[大水祐一,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


Special

おすすめPC情報テキスト

モバイルショップ

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!