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2003/07/03 23:59:00 更新 |
Networld+Interop 2003 Tokyo基調講演
“BB”から“BBB”へ〜韓国通信が考えるブロードバンドのその先
ADSLやVDSLの契約者が“飽和状態”となり、インターネット接続サービスだけでは成長が見込めなくなった韓国。日本でも遠からず迎えるであろう状況に対し、韓国最大の通信会社である韓国通信(Korea Telecom)はどう対応するのか。「Beyond Broadband Business」〜ブロードバンドの先にあるビジネスをKTのJong Lok Yoon氏が語った
「Networld+Interop 2003 Tokyo」の2日目となる7月3日、キーノートスピーチの壇上に上がったのは、韓国のNTTといわれるKorea Telecom(KT:韓国通信)のマーケティングプランニンググループ・エグゼクティブバイスプレジデント、Jong Lok Yoon氏だ。携帯電話の普及による固定電話の減益、2002年の民営化という大きな波を乗り越え、5年前と同レベルの株価を維持している同社。Yoon氏が語ったのは、その強さの秘密と今後10年の戦略だ。
Korea TelecomのJong Lok Yoon氏
KTの昨年の売り上げは、単体で100億ドル、グループ全体では150億ドル。携帯電話の普及で世界中の電話会社が軒並み業績を落としているなか、いち早くブロードバンド事業に注力することで業績を維持してきた。「Megapass」のブランド名で知られるADSLサービスにくわえ、2002年からはVDSLを使った50Mbps級の高速ネットサービスやFWAなど幅広いアクセス回線を提供。サービスの加入者は既に500万世帯を超えたという。
「KTも電話事業の収益は5億ドル分減少しているが、ブロードバンド事業でそれを補ってきた。100億ドルの売り上げのうち、ブロードバンド関連が20億ドルを占めている。3年半でここまで成長した」(同氏)。また韓国全体では、ADSLやVDSLの普及率は実に70%超となり、もはや「ネットワークはインフラではなくなった。空気や土壌、日光などと同じ“環境”そのものだ」。
しかし、その成長にも陰りが見え始めている。2003年の年末までにブロードバンド加入者は1250万世帯に達する見込みだが、そこで飽和状態となる〜つまり急速に成長が鈍化すると予測されている。この状態を、同氏は旅客機の長距離飛行に例えた。
「上昇は終え、巡航の状態に入った。そろそろシートベルトのサインを消し、映画やコーヒーを提供する時間だ」。これは、単なるアクセス回線事業(Broadband)から、その先にある各種のソリューションビジネス(Beyond Broadband Business:BBB)にシフトするという意思表示だ。
KTのBBB戦略
KTのBBB戦略は多岐に渡る。まず、「Bizmeka」ブランドで知られる中小企業向けのASPサービスを強化する。韓国には中小規模の企業が多く、オンラインコンテンツやアプリケーション構築をアウトソースするケースが多いうえ、政府がそれを後押ししているからだ。
例えば中古自動車の情報仲介サービス。「韓国には4万の中古車ディーラーがあるが、参加企業が増えると政府から補助金が出る」という。また、こうしたバーチカルなコンテンツに加え、SCMやERPといった水平型ソリューションビジネスにも手を広げる方針だ。
一方、コンシューマー向けに「比較的早いタイミングで提供する」としているのが「Integrated STB」の導入だ。高機能なセットトップボックスを使い、VoD、衛星放送、インターネット、Tガバメント(TVを端末とする電子政府構想)、Tコマースなど幅広いサービスを提供できる環境を整える。既にサムスンと提携し、STBを開発中という。
「Integrated STB」の概要。クリックで拡大
その動画コンテンツをSTBに届けるため、全国10カ所のローカルノードにキャッシュサーバを置き、CDNを構築する。また、IPマルチキャストを使用する放送型の動画配信サービスも導入。こちらは衛星中継によるバイパスでバックボーンの負荷を減らせるのが特徴だ。「この技術は、2002年のワールドカップ中継で実証済みだ。今後はTV会議などへの応用も予定している」。
NGNとNGcN
同社の考える「NGN/NGcN」(次世代ネットワーク)は、ADSLのMegapass、ホットスポットの「NESPOT」、それに来年にも韓国で開放される見込みの2.3GHz帯無線アクセスといった各種アクセス手段を統合し、その上でIPv6や固定的なモバイルIPを使ってPDAや携帯電話、車載端末などへも透過的にコンテンツを提供できる環境を整えることだ。
次世代ネットワークプラン
もちろん、NGcNの「c」は、コンバージェンス(融合)の意味。端末の違いを超えたシームレスなアクセス環境を提供できるネットワークインフラを構築し、自らのパートナーとなるサービスプロバイダーが利用者のパイを広げることを目指している。日本風に言えば、ユビキタス時代のプラットフォーム事業者といったところだろうか。
将来のDMB(Digital Multimedia Broadcasting)では、全国120カ所あまりにMediaGatewayを設置し、PDAやセルラーフォン向けにも高品位な放送サービスを提供するという。これもすべてIPベースだ。「さまざまな端末に一元的にサービスを提供できるため、サービスプロバイダーはカバレッジを大幅に拡大できるのがメリットだ」。
そして家庭内では、HGW(ホームゲートウェイ)を中心にネット家電やセキュリティシステムなどを統合する「HDS」(Home Digital Service)により、やはりコンバージェンスが進む。
DMB(Digital Multimedia Broadcasting)でPDAやセルラーフォン、車載端末向けにも高品位な放送サービスを提供
HDS(Home Digital Service)は、さまざまな事業者のサービスをHGWを通じて一括提供するためにKTが構築するプラットフォーム。車載端末などでの利用も想定している
ただ、IPv6への移行には障害も多く、IPv4のプライベートアドレスを使った「暫定的なソリューション」も研究中だという。また、飽和状態にあるブロードバンド市場でのISPの収益構造や、一部のヘビーユーザーだけでトラフィックの大部分を使っている状況を課題として挙げた。「将来的には、使ったトラフィックに応じた従量制の課金方法も検討していく」。
Yoon氏の講演は、近い将来、同じような状況になるであろう、テレコムキャリアに向けたメッセージで締め括られた。それは、ネットワークサービス一辺倒の事業から脱却し、ソリューションプロバイダーに転身する必要性。「将来はけっして楽観できるものではなく、また(BBBの実現が)難しいのは承知している。しかし、われわれは実行していきたい」。
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