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2003/12/05 23:59:00 更新 |
コピーワンスで録画スタイルが変わる
地上デジタル放送は、新しい時代の放送の幕開けを告げるものだ。しかし、その録画環境を考えたとき、既存のハイブリッドレコーダーやPCを使っているユーザーにとっては、少しばかり窮屈な時代がやってきたといえそう
12月3日に開始された地上デジタル放送は、新しい放送の時代の幕開けを告げるものだ。総務省によると、11月末日までに出荷された地上デジタル放送対応チューナーおよび内蔵テレビは約30万台。放送エリアの拡大とともに、高画質なデジタル放送の恩恵を受けるユーザーは増えていくだろう。しかし、既存のハイブリッドレコーダーやPCを使って番組を録画しているユーザーにとっては、少しばかり窮屈な時代になりそうだ。
周知の通り、2004年4月からBS/地上デジタル放送の無料番組にもコピーワンスの著作権保護技術が適用されることになった。基本的にはBSデジタル放送のコピーワンス番組と同じだ。簡単におさらいしておくと、番組には「一回だけ録画可能」というコピー制御信号を付加して放送され、デジタルレコーダーで一回録画すると、後は移動(ムーブ)しかできないことになる。たとえばHDDで録画した番組をDVDメディアにムーブした場合、元の録画データは消去される(詳細は7月の記事を参照)
さらに、CPRM(Content Protection for Removable Media)対応のレコーダーとディスクという組み合わせでなければ「ムーブ」も不可能だ。現在のところ、これに対応できるハイブリッドレコーダーは、DVD-RWの「VRフォーマット」もしくはDVD-RAMを搭載し、CPRMをサポートした機種に限られる(詳細は昨年12月の記事を参照)。最近、松下が「地上デジタル対応」をさかんに宣伝するテレビCMを流しているのはこのためだ。逆にCPRMをサポートしていないソニー「PSX」などは、HDDに録画することはできるがDVDメディアに書き出すことはできない。
もっとも、これらのレコーダーを使ってもデジタルハイビジョンの番組をそのままの画質で録画できるわけではない。チューナーからの入力がアナログで、しかもソースよりも低ビットレートのMPEG-2にエンコードされるからだ。既存のレコーダーで、28.2Mbpsもの転送レートを持つデジタルHDTVをストリーム記録できるものは、一部を除くD-VHSビデオデッキ、Blu-Rayレコーダー「BDZ-S77」(ソニー)、HDDレコーダーの「RecPOT」(アイ・オー・データ機器)、「VRP-T1」(ソニー)といったところ。ただし、HDDレコーダーは保存用途に不向きで、ディスクに残したければ高価なBlu-Rayしか手がない。10月の「CEATEC JAPAN 2003」では、シャープがハイビジョンのストリーム記録が可能なハイブリッドレコーダーを出展したが、今後はそういった製品が増えてくるはずだ。
メモリカードへの書き出しもムーブ?
一方、既存のハイブリッドレコーダーの場合は、HDDに録画した時点で“もとの画質”を維持できなくなるわけで、コピーワンスの対象にすることはないという意見もある。しかし、放送局側の究極の目的が海賊版の撲滅である限り、一度録画したあとは無劣化でコピーを量産できるデジタルレコーダーの存在は都合が悪いのだ。
これは同時に、テレビの視聴環境が地上デジタル中心になったとき、現在のハイブリッドレコーダーやホームサーバといわれる製品が持つ、便利な機能のいくつかが使えなくなることを示している。ディスクの焼き増しに便利な「ディスクバックアップ」のような機能は不可。また、ネットワークを使った動画ファイルの移動や配信、あるいはメモリカードへの書き出しなどの扱いについても、まだ不透明な部分は多い。
MPEG-4によるメモリカードへの書き出しについて、地上デジタル放送推進協会(D-Pa)RMP管理部の吉本秀明専任部長は、「DTCPなどの運用規定に基づけば、メモリーカードに書き出しが可能な場合はムーブになる」と話している。ただ、ユーザーにしてみれば、QVGA(320×240ピクセル)のMPEG-4に書き出すと高画質のMPEG-2が消えてしまうのはちょっとつらい。たとえば、通勤中に途中までみて、続きはテレビでみたくなったとき。ムーブによってHDDに戻すことができたとして、改めて視聴できる画質ではないからだ。
また、松下電器産業、地上デジタル推進センターの久保田純一参事は、MPEG-4動画の再移動は現実的ではないと指摘したうえで、メモリーカード録画の扱いは「放送局側とメーカー各社を交えて協議中」としている。「モバイルAVは松下だけではなく、ソニーなども関連製品を出している。機器メーカーだけでは決められないことだが、ユーザーの利便性に配慮した形にしたい」。
ビデパソの運命は?
一方、コピーワンスの拡大によって、さらに苦しい立場に置かれるのは、PC向けのキャプチャーカードや、それを標準搭載する、いわゆる“ビデパソ”のメーカーだろう。著作権者から白眼視されているパソコンだけに、コピーワンスの発表時には、放送関係者から“PC排除”とも受け取れる発言もあった。
久保田氏によると、「正確にいえば、PC分野でも地上デジタル放送チューナーを搭載し、録画するような製品を出すことはできる」という。ただし、「民生機器と同じ著作権管理機能を持ち、OSからは録画ファイルがみえないことが前提となる」。
これはつまり、パソコンの機能と録画機能を独立させるという意味だ。だが、OSやソフトウェアが録画ファイルにアクセスできなければ、現在の録画ソフトの持つ利便性の多くは失われ、OSと録画機能がHDDを共用することも難しくなる。HDDを物理的に分けるとなれば、コスト面のメリットもなくなるだろう。つまり「PCで録画することの魅力は失われる。そのような製品を作るメーカーは、ほとんどないだろう」(同氏)。そういった意味で、コピーワンスの導入は事実上の“PC排除”といっていいのかもしれない。
しかし、NECのようにBSデジタル放送を録画できるPCを販売しているメーカーもあり、一概にPC録画がなくなるとはいえない。家電も手がけているメーカーなら録画機器を家電に絞ることができるが、PC専業メーカーはそうもいかないからだ。「むしろ、難しいのはキャプチャーボードメーカーの方だと思う」。
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アナログ停波が予定されている2011年までは、まだ8年の猶予期間があり、録画の需要もしばらくはアナログ放送中心に推移するだろう。したがって、すぐにビデパソやキャプチャーカードの市場が縮小するとは考えにくく、その間により利便性の高いデバイスも多く登場するはずだ。しかし、これまで簡単にできていたことのいくつかは不可能になり、少し窮屈になることだけは確かだ。
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[芹澤隆徳,ITmedia]