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2003/12/11 23:59:00 更新 |
プロジェクトXScale:「WebCaster 7000」ができるまで
NTT東日本の「WebCaster 7000」といえば、多機能ブロードバンドルータの代表格。今でこそインテルの「IXP4xx」ネットワークプロセッサを搭載する機種が増えたがWebCasterの開発当時、ブロードバンドルータにIXP425を搭載するのは全く初めての試みだった。手探りに近い状態で開発を進めたのは……。
多機能なブロードバンドルータといえば、NTT東日本の「WebCaster 7000」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。インテルの「IXP425」を搭載する同機は、スピード競争と価格競争が行き着いた感のあるブロードバンドルータ市場において、高付加価値化という1つの方向性を示した。
実売3万円前後のWebCaster 7000は、決して“売れ筋”ではない。しかし、製造元のプラネックスが新製品「eXgate」シリーズで「IXP4xx」を大々的に採用するなど、確実にIXP搭載製品は増えている。WebCaster 7000開発の経緯と背景、そしてIXPについて、インテル通信事業本部「IXAコンピテンシ・センター」の友部昭夫部長に話を聞いた。
「WebCaster 7000」は、VPNの高速処理を活かしたリモートアクセス、外付けHDDをファイルサーバとして利用したり、メモリカード内のファイルをWebに公開できるなど、かなり“ゲートウェイっぽい”。ちなみに赤外線インタフェースは未だに用途不明
ホームゲートウェイのビジョン
インテル通信事業本部「IXAコンピテンシ・センター」の友部昭夫部長
同じくIXAコンピテンシ・センターの出村達彦リーダー、コンピタンス・センター・マーケティングエンジニアの岡田亜衣子氏
IXPは、StrongARMベースのXScaleコアに、IPSecのハードウェアアクセラレータや各種I/Oインタフェースを統合したものだ。当初はキャリアグレードの通信機器に向けたプログラマブルな“ネットワークプロセッサ”として登場し、シリーズのローエンドをコンシューマー製品に持ち込む形でブロードバンドルータなどに採用されるようになった。
現在のコンシューマー向けIXP製品ラインアップ
友部氏によると、WebCaster 7000の開発は、販売元のNTT東日本、開発・製造パートナーのプラネックス・コミュニケーションズ、そしてインテルの共同作業だったという。「とくに、仕様決定には、NTT東日本の影響が大きい。同社とは、3年前のFTTH実証実験)から協調しているが、当時からNTTはホームゲートウェイのあり方について、明確なビジョンを持っていた」(友部氏)。
それは、「ゲートウェイを中心として家庭内の機器がつながり、その上でNTTが提供するさまざまなサービスを使えること」。このビジョンはWeb Caster 7000にも反映され、最大100Mbpsの回線速度をスポイルしないスピードとともに、IP電話用の拡張スロット、動画発信用のUSBカメラなどに、その一端を見ることができる。
一方のインテルは、ある危機感を感じていた。「問題なのは、クライアントの性能がどんどん上がっているということだ。Pentium 4搭載のPCなら、HDTVをネットワーク経由で視聴するのは簡単。しかし、インフラやGWの性能が足を引っ張っていたら、サービスは成り立たない」。
動画配信のような“重い”アプリケーションが広がらなければ、インテルのメインビジネスであるPCにも影響を与えかねない。逆に、うまくIXPがブロードバンドルータ市場に食い込むことができれば、将来のホームゲートウェイという新しい市場の開拓にもつながるはずだ。
危機感という意味では、プラネックスも似たような状況といえる。ルータの価格競争は激化し、店頭で売れるのは数千円の低価格商品ばかり。だが、コストダウンが得意な競合他社と、身を削りながら勝負するのは得策ではない。そこで選んだ道が「ルータから多目的ゲートウェイへ」(プラネックスの久保田克昭社長)という高付加価値路線へのシフトだ。
いかにスループットを“落とさない”か?
立場は異なるが、光ファイバーによる高付加価値サービスの普及という目的で一致した3社。しかし、当時IXP425を搭載するブロードバンドルータは初めての試みであり、手探りに近い状態で開発を進めることになった。
「すべてが前例のない作業のため、インテルはシステムレベルにまで踏み込んだサポートを行った」。毎週のように打ち合わせを繰り返し、インテルのラボでもデバッグを行い、各種周辺機器のドライバも検証したという。
「もちろん、通常はそこまでやらない。WebCaster 7000の開発期間は7〜8カ月だが、設計の開始から量産に至るすべての行程に関わった」(友部氏)。
もっとも、素性は確かなIXPだけに、開発中にも手応えは感じていたようだ。昨年10月の「Intel Developer Forum Fall 2002」(IDF)にプロトタイプを出展したプラネックスは、「これまでは、“いかにスループットを向上させるか”ということを念頭においてチューニングしていたが、今回は“いかにスループットを落とさずにチューニングできるか”が問題になった」とIXPのスピードを賞賛している(記事参照)。
完成したWebCaster 7000は、間違いなくクラス最高レベルのスループットと拡張性を持つブロードバンドルータになった。発売当初はソフトウェア面の弱さが指摘される場面もあったが(記事参照)、11月のファームウェアアップデート)により、改善と機能の追加を実現している。
たとえば、USB 2.0ポートに外付けHDDを接続してファイルサーバとして使えるようになったこと、Webサーバ機能のPHPスクリプト対応、IEEE 802.11gサポートなど。また、それまで使えなかったIPSecのハードウェア処理も実現し、VPN接続時のスループットを最大40Mbps(カタログスペック)にまで向上させた。もちろん、これもクラス最高レベルだ。
「海外のスタッフにWebCaster 7000を見せると、“なぜ、そんなスペックが必要なのか?”と驚く。日本のブロードバンド事情を知らなければ、それも無理のない話だろう」。
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