社会貢献活動からICT農業まで 富士通と奥野田ワイナリーの“マリアージュ”

富士通がワイン作りに取り組んでいるのをご存じだろうか。山梨県の奥野田ワイナリーが運営するブドウ農園の一角に「富士通GP2020ワインファーム」を設け、従業員やその家族が年に数回足を運び、作業に勤しんでいるのだ。

» 2016年01月12日 10時00分 公開
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富士通がワイン作りに取り組む目的とは?

 富士通は今、ワイン作りに取り組んでいる。山梨県甲州市のワイナリー「奥野田葡萄酒醸造」(以下、奥野田ワイナリー)が運営するブドウ農園の一角に「富士通GP2020ワインファーム」を設け、そこで栽培されたブドウを使ったワイン「富士通GP2020ワイン」を作っているのだ。

 こう聞くと、ほとんどの方が「はて?」と思われることだろう。もちろん、富士通が本格的なワインメーカーとしてのビジネスを手掛けているわけではない。ワイン作りの主たる目的は、利益を上げることにはなく、その活動を通じた社会貢献や地方支援、あるいは社員に対する福利厚生にある。同社のこの取り組みの真意を理解するには、まずは「GP2020」について知る必要がある。

 GP2020とは“Green Policy 2020”の略で、富士通グループが2020年に向けて取り組んでいる、環境問題に対する中期的な取り組みのビジョンを指す。2008年に策定されたGreen Policy 2020では、「お客様・社会全体への貢献」「自らの変革」「生物多様性の保全」という3つの目標を掲げており、現在富士通グループではその達成に向けてさまざまな活動を展開している。富士通GP2020ワインファームの活動も、その一環なのである。

 そもそもこの取り組みが始まったきっかけは、山梨県が実施している「やまなし企業の農園づくり」という施策だった。地元農業への企業参入を誘致する取り組みとして、2009年から始まったものだ。この施策の一環として、山梨県が間を取り持つ形で、富士通と奥野田ワイナリーは初めて出会った。

山梨県甲州市にある「富士通GP2020ワインファーム」 山梨県甲州市にある「富士通GP2020ワインファーム」

栽培作業を通じて環境問題への意識を高める

 奥野田ワイナリーは、山梨県甲州市旧奥野田地区の地理的な特徴を生かして、高品質なブドウを自社農園で栽培している。このブドウを使い、製造工程にさまざまなこだわりと工夫を凝らして作られる自家製ワインは、今や欧州産ワインにも負けない「知る人ぞ知る高品質ワイン」として、ワイン愛好家の間で愛される存在となっている。

 2009年当時、奥野田ワイナリーは単にブドウを栽培したり、ワインを製造・販売したりするだけでなく、ワイン愛好家を招いたイベントや食事会、ブドウ栽培の体験会を開催するなど、さまざまな催しを通じた、いわゆる「都市交流型農業」に積極的に取り組んでいた。

一方の富士通も、Green Policy 2020のビジョンの下、社会貢献や地域貢献、生物多様性の保全といった活動を続けていた。特に生物多様性の保全という観点においては、農薬をほとんど使わずにブドウを栽培する奥野田ワイナリーの方針は、富士通が掲げる環境ビジョンと見事に合致していた。

 こうして2010年、富士通と奥野田ワイナリーは協働協定を締結し、富士通GP2020ワインファームの活動が正式にスタートした。奥野田ワイナリーが管理するブドウ農園の一角に専用のワインファームを設け、日本では栽培が難しいとされる品種「カベルネ・ソーヴィニヨン」の栽培に挑み、これまで毎年順調に収穫を得ている。これを使って毎年作られているのが富士通GP2020ワインだ。

 このワインファームでの栽培作業を、年間を通して体験できるイベントも定期的に開催されており、富士通グループの従業員やその家族が毎回大勢参加している。生物多様性や地域貢献の重要性を、単に知識として知るだけでなく、実際の農作業や現地の人々の話を通じて体験することで、より身にしみて実感できる。それにより、富士通グループ全体での環境問題への取り組みや社会貢献意識を高めることができる。富士通がワイン作りに取り組む真の目的は、まさにここにある。

ICTの力を使ってブドウ収穫時期の精緻な割り出しを可能に

 こうして始まった富士通GP2020ワインファームの取り組みだが、実は現在、当初の目的とは異なる領域で大きな成果を挙げつつある。一言でいえば、「農業ICT」の先進事例として、各方面から高い注目を集めているのだ。

 きっかけは、奥野田ワイナリーの中村雅量社長のアイデアだった。「富士通が持つICTの力を、ブドウ栽培に役立てることはできないか」。ブドウ栽培は、言うまでもなく天候の影響を大きく受ける。ブドウの発育は気温や湿度、降雨量などによって左右されるため、その年の天候を踏まえた上で収穫時期を見極めることが重要になってくる。適切な収穫時期にとれたブドウは程よく熟しており、その後出来上がるワインの色や味わいも奥深くなる。しかし、この収穫時期を大きく外してしまうと、最悪の場合は1年間の栽培作業が台無しにもなりかねない。

ブドウ畑に設置したセンシング・ネットワーク装置。気温や湿度、雨量などのデータを収集できる ブドウ畑に設置したセンシング・ネットワーク装置。気温や湿度、雨量などのデータを収集できる

 適切な収穫時期を見極めるために、ブドウ栽培の先人たちはさまざまな知恵を導き出してきた。例えば「花の開花日から数えて100日目」「開花日から、一日の最低気温と最高気温の温度差の積算が1200度を超えたタイミング」などがそれだ。こうした経験則に基づき、記録式の気温計を農園に設置し、そこで記録された気温データを集めて手動計算することで、収穫時期を割り出すというのが一般的なやり方だ。しかしICTの力を使えば、こうしたやり方よりはるかに効率的に、かつ正確に収穫時期を割り出せるのではないかと中村氏は考えたのだ。

 この相談を受けた富士通では、早速独自の「センシング・ネットワーク装置」を開発し、富士通GP2020ワインファームに設置した。この装置は、農園に設置する「子機」と、事務所に設置する「親機」で構成される。子機には温度計と無線機が備わっており、測定した気温データを無線で自動的に親機に送る。これを受信した親機側では、自動的にデータを集計して、Excelシートに出力して参照できるようにした。

 この仕組みを導入したことで、奥野田ワイナリーではこれまで手間が掛かっていた気温データの採取・集計作業を大幅に効率化できたとともに、ブドウの収穫時期をより正確に割り出せるようになったという。当然、収穫されたブドウを使って作られるワインの品質も向上する。こうした効果を目の当たりにして、奥野田ワイナリーと富士通は、この仕組みのさらなる高度化に着手した。

 当初は気温データのみの収集だったが、湿度と雨量のデータも収集できるよう、装置の機能を拡張した。また、データを10分間隔で取得し、リアルタイムで参照できるようにした。さらには、子機に小型カメラを設置して、農園の様子を撮影した画像をいつでも参照できるようにした。こうして収集・参照できる天候データの種類と量が増したことで、より正確な収穫時期の見極めが可能になったのである。

日本農業の未来を占う農業ICTのモデルケースとして

 2011年に始まったこのセンシング・システムの取り組みは、年を追うごとにバージョンアップを重ね、やがて当初は思いも寄らなかった大きな可能性を見出すことになる。現在、センシング・システムを通じて収集された各種天候データは、富士通が管理するシステム上ですべて管理されている。奥野田ワイナリーのスタッフは、PCはもちろん、自身のスマートフォンを使ってインターネット経由でこのシステムにリモートアクセスすることで、いつどこにいても農園の天候状況をリアルタイムで確認できるようになっている。

 こうした環境が実現したことで、スタッフの働き方に劇的な変化が生じたという。農園の管理作業は、何よりも初動が大事だ。例えば、異常気象が原因で湿気が多く発生すると、畑にはカビ系の病害が発生しやすくなる。そのため、そうした天候変化が生じた場合には一刻も早く対策を講じないと、あっという間に畑全体に病害がはびこってしまい、その年の収穫が大きなダメージを受けてしまう。

 それまで、農園の詳細な天候データを把握できるのは早くとも半日〜1日後。当然、病害の予兆を検知して対策に乗り出せるのも、その後になってしまう。しかしセンシング・システムを導入した後は、スタッフはいつどこにいても10分おきの天候データをスマートフォンから参照できるため、即座に天候異常を察知して、病害防止の対策に乗り出せる。事実、ある年にはこの仕組みが功を奏して、山梨エリアのブドウ園が軒並み病害に悩まされる中、奥野田ワイナリーだけが例年通りの収穫を上げることができたという。

 また、スタッフはいつどこにいても農園の状況を把握できるようになったため、必ずしも24時間365日、畑に張り付いている必要はない。出張やプライベートで農園を離れることも可能になり、きちんと休日を取ることができるなど、ワークライフバランス向上にも一役買っているという。

いつでもどこでも農園の状況を把握できるようになった いつでもどこでも農園の状況を把握できるようになった

 さらにこの取り組みは奥野田ワイナリー、あるいは山梨エリアだけでなく、日本全国の農業を救うことになるかもしれないとして、現在大きな注目を集めている。これまで紹介してきたように、ICTの力を使って栽培データを集めて現状をリアルタイムに可視化することで、農作業を大幅に効率化できることが実証された。しかし、こうして集めたデータを長年にわたって貯め込み、それに対して大規模な数理解析処理を施すことで、現状の可視化だけでなく、将来予測まで可能になることが分かりつつある。言ってみれば、「農業ビッグデータ」とでも言うべき取り組みだ。

 既に奥野田ワイナリーでは、5年間にわたるセンシング・システムの運用を通じて、多くのデータが蓄積されている。これらのデータに対して、富士通社員が分析を施すことで、ブドウ栽培と天候との間の事細かな相関関係が明らかになりつつある。こうした相関関係のパターンが明らかになれば、「現在、こうした天候パターンが表れているので、近い将来ブドウにこんな影響が及ぶ可能性がある」という予知が可能になる。

 既に奥野田ワイナリーでは、これが実用段階まで来ている。ブドウに悪影響が及びそうな天候パターンが現れると、その旨がスタッフに即座にメールで通知される。これにより、将来起こり得る天候リスクに対して、常に先手を打った対策が可能となり、よりリスクの低い農園運営が可能になるというわけだ。

 それだけではない。リスクの予兆を検知できるようになることで、本当に必要なときにだけ農薬を散布できるようになる。現在多くの農家では、病害を未然に防ぐために定常的な農薬散布を余儀なくされている。この散布を「本当に危険なときだけ」に限定することで、農薬散布のコストを抑制するとともに、生物多様性維持にも貢献できる。

 さらには、こうしたリスク予測の仕組みを導入して、よりリスクの低い農業経営のスキームを確立できれば、農業への参入障壁を大幅に下げる効果も期待できる。天候1つで収益が大きく変動する農業は、部外者の目には極めてリスキーな仕事に映る。しかし、ICTの力を使ってこのリスクを最小化できれば、新規参入のハードルを大幅に下げ、後継者不足に悩む日本農業の活性化に一役立てるかもしれない。

 このように、富士通GP2020ワインファームの活動は今や一企業、一地域の枠組みを超えて、さまざまな自治体、企業、学術機関から高い注目を集めている。現に、2015年6月に開催された数値解析の学会「第44回 数値解析シンポジウム」では、奥野田ワイナリーと富士通が共同で事例紹介を行っている。こうした取り組みは、少子高齢化や後継者不足、TPP(環太平洋経済連携協定)など、さまざまな課題に直面する日本農業の未来を切り開いていく上で、格好のモデルケースとなり得るだけに、今後もぜひ注目していきたい。

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提供:株式会社富士通マーケティング
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2016年2月11日