「思い込みは捨てよ!」――ライフネット生命・出口会長が斬る、日本人が働き方を変えなくてはならない理由

政府が躍起になって推進する「働き方改革」だが、日本企業の取り組みはまだこれからといった状況だ。企業で抜本的な働き方改革を進めるには、どうしたらよいのか。自社でいち早く、在宅勤務や同一労働・同一賃金、定年制廃止などの制度を取り入れてきたライフネット生命保険の出口治明会長に聞いた。

» 2017年06月12日 10時00分 公開
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 昨年8月に発足した第3次安倍第2次改造内閣は、経済成長のための最大のチャレンジとして「働き方改革」を位置付けた。サントリーや日立、リクルートなどはテレワーク(在宅勤務)を推進、第一生命保険ではワークライフバランスに対する活動を評価項目に取り入れるなど、さまざまな企業で取り組みが始まっている。

 しかし、メディアなどでは「働き方改革」という単語をよく聞くようになったものの、そう一気に状況が変わったわけではない。とりわけ中小企業ではいまだにサービス残業が一般的で、残業規制を行っている企業でも結局持ち帰る仕事が増えているだけ、といった声もある。日本企業で抜本的な働き方改革を進めるには、どうしたらよいのか。自社でいち早く、在宅勤務や同一労働・同一賃金、定年制廃止などの制度を取り入れてきたライフネット生命保険の出口治明会長に聞いた。

会社員に求められることが、野球とサッカーくらい変わった

――現在、国を挙げて推進しようとしている働き方改革についてどう思われますか?

出口会長: 今、日本が置かれている状況は、何もしなくても高齢化でお金が出ていくのですから、生産性を上げて成長する(GDP=人口×生産性。人口は簡単には増えない)、さもなければ貧しくなるか、の2択です。日本の生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟の35カ国中22位。G7の中では24年連続最下位で、OECD平均をも下回っています。

 労働生産性は、GDP÷(就業者数×労働時間)ですから、労働時間を減らすことが肝要で、そのために今できることが働き方改革なのです。そのことが、政府関係者の中でも重要課題として認識されるようになってきた、ということでしょう。実際、内閣府の働き方改革担当の方とお話したら、状況認識はまったく一緒でした。貧しくなるか生産性を上げるかしかないと。

――働き方を変えることで生産性は上がるのでしょうか。

出口会長: 今、日本のGDPの中で第三次産業が占める割合は73%です。つまり、サービス産業の生産性を上げることが、全体の生産性を上げることに大きくつながる。しかし、今の日本企業の働き方は、いまだに工場モデルのままです。

 例えば、ある出版社に編集者Aさん、Bさんがいたとします。Aさんは朝8時に出社して、夜10時まで真面目に作業をしています。帰宅の後は「メシ・風呂・寝る」の生活です。でも、企画した本はぜんぜん売れない。一方Bさんは、10時ごろ会社に顔を出すと、すぐカフェに出かけ、そのまま外部の人とランチを食べに行ってしまう。夜は6時に退社して趣味のサークルに参加。でも、ベストセラーを連発する。あなたが出版社の社長だったら、どちらを評価しますか?

――Bさんです。

ライフネット生命保険の出口治明会長 ライフネット生命保険の出口治明会長

出口会長: そうですよね。出版社なので「本のヒット」という成果が分かりやすいから誰でもそう答えるのですが、実は今、多くの企業で同じことが起こっているのです。

 Aさんは工場労働者であれば評価されたでしょう。長時間働けばたくさんの製品ができ上がりますから。でも今はそうじゃない。サービス産業はアイデア勝負なので、「メシ・風呂・寝る」の生活を「人・本・旅」の生活に切り替えないと。Bさんのように、たくさん人に会って、本を読んで、いろいろなところに出掛けて見聞を広げないと、アイデアは生まれないんですよ。「人・本・旅」で勉強し続けなければ、イノベーションは起こらず、生産性も上がらない時代です。これは同じ「仕事」といっても、野球からサッカーに変わったくらいの大きな変化。それに伴い働き方に対する考えも、ガラッと変えなければいけないのです。長時間労働のままでは、「人・本・旅」で勉強はできませんからね。

――仕事に関係することを学んだほうが、より直接仕事の成果につながるのかと思ったのですが。

出口会長: もちろん、自分の仕事を深掘りすることは重要です。自分の仕事を理解できない人に、イノベーションは起こせません。それは必要条件ですね。それと同時に、横に広く浅く興味のあることを学んでいくことが、十分条件になります。イノベーションのひらめきは、むしろ本来の仕事から遠いところから生まれるのです。でも、日本は先進国の中では大学進学率も低く(50%、先進国平均は約60%)、大学でも勉強をしない国なので、そもそも勉強が必要であることから意識を変えていかないといけませんね。

「徹夜するくらい頑張る人は仕事ができる」という思い込み

――イノベーションをどう起こすかということが働き方改革につながっていると考えると、分かりやすいですね。

出口会長: 女性の登用推進も同じです。なぜヨーロッパがいち早くクォーター制(企業の管理職などに女性を優先的に割り当てる制度)を取り入れたかというと、サービス産業の生産性を上げるにはユーザーと生産サイドのマッチングが必要だと考えたからです。サービス産業のユーザーは女性が6〜7割。それを発案、運営する側が50〜60歳のおじさんばかりでは、ヒット企画が生まれるはずがない。

 そして、女性の活躍を妨げているのはひとえに長時間労働です。特に日本では第一子の出産を機に約6割の女性が仕事を辞めてしまいますが、それは育児をしながら長時間働くのが難しいことと、パートナーが長時間労働で家事・育児・介護をシェアしてくれないことが原因です。さらにダイバーシティの観点から考えても、働き方改革が必要です。年功序列を廃止し、男性だけではなく、女性や外国人社員などのさまざまな視点を取り入れることでイノベーションが生まれやすくなるのです。

――今、働き方改革と言うと、残業規制が大きく注目されています。

出口会長: 残業規制から手を付けるのがベストだと思います。残業規制をすると、いろいろなことが解決されるからです。持ち帰り仕事が増えるだけだ、などと言う人もいますが、それは間違い。もちろん仕事を持ち帰る人もいると思いますよ。でもそうすると、実は確実に会社でやるよりも効率化されるはずです。だって、パートナーや子どもが話しかけてくるのに、それを無視して仕事するなんてことは不可能でしょう。短い時間でやらざるを得ない、さらには「これはやらなくてもいいんじゃないか」という仕事も見つかる。そうして、家にいたら男性の家事育児介護時間も必ず増え、パートナーも助かるはずです。

 国際社会調査プログラムの2012年の調査では、子持ちの有配偶男性の家事・家族ケアの分担率では、わが国は33カ国中最下位という結果が出ています。でも、日本人女性に対するあるアンケートで、夫が家にいたらうまくコントロールして家事をやってもらえると思っていると回答した人は6〜7割に達しています。つまり、男性が早く家に帰りさえすれば夫婦間での家事分担は進むのです。

――とはいえ、仕事が終わらず帰れないという人も多いのでは。

出口会長: それはマネジメントの能力不足です。グローバルに考えると、残業は上司が命令しないとできないものだというのが常識です。部下が勝手に残業することはできない。上司の仕事は、部下の能力を把握して、業務時間内に終わるよう仕事を上手に振り分けることです。終わらないほど仕事があるのなら、業務分担を見直すべき。残業で終わらせるというのが土台間違っています。

――若いころは長時間働くことで仕事のスキルが身に付くという意見もあります。

出口会長: 長時間労働で身に付く仕事のスキルとは何でしょうね。講演でもよく出る質問です。「話は分かるけれど、若いころは徹夜で仕事するくらいの根性があったほうがいい。そうしないと仕事を覚えない」とか。そういうときは、「そうかもしれません。僕の勉強不足だと思いますので、後ほど名刺交換しますから、若いときの徹夜や長時間労働がイノベーションを生んだ、生産性を上げた、その労働者のマーケットの価値を高めたなどというデータや論文があったら送ってください。勉強し直しますので」と答えるようにしています。データや論文を送ってくれた人は、これまで一人もいません。

効率化ができないのは、考えて仕事をしていないから

――生産性を上げて、定時帰りを実現するには何をすればいいのでしょう?

出口会長: やり方は“無減代”。ライフネット生命でも、実践している社員が何人もいます。昨年から、社員が2人、大学院に通い始めたのです。会社の命令というのではなく自主的に。ですが2人とも、仕事をちゃんと定時に終わらせて授業に出席しています。ワーキングマザーもそうですよね。お子さんを迎えに行く時間までには必ず仕事を終らせている。彼女たちをよく見ていると、さまざまな工夫で業務を効率化していることが分かります。例えば、上司から振られた指示をよく考えた上で無視したり(無)。

――無視してもいいのですか!

出口会長: その場の思いつきかもしれませんからね。もう2回ぐらい言われたらやろう、でもいいんじゃないでしょうか。あと、人は前任者が10枚のレポートを作成していたら、自分も10枚書かなければいけないと思いがちですが、もしかしたらそれは1枚にまとめられるかもしれない(減)。作れといわれたグラフも、状況によっては1カ月前のグラフで代用できるかもしれない(代)。要するに、「この仕事は何のためにやるのか」を突き詰めて考えたら、省略できる作業はいくらでも出てきます。

――そうはいっても、現実にはそううまくいかないのでは……。

出口会長: やり方は無減代だと言うと、「でも、それって出口さんが頭で考えただけでしょう」と言われることがあります。でも、これは創業100年、社員数3万人を超えて伸び続けている、ある大企業の会長さんから教えてもらったことなのです。その会社がなぜ伸び続けているのかと言うと、トップが“無減代”を常に考えているから。そうした会社では、社員も考えるようになりますよね。生産性を上げるというのは、常識を疑って考えるということ。そのためには、「昔の人はどう考えたか」という縦の視点と「世界の人はどう考えているのか」という横の視点を持つこと。そうすると、これまで見つからなかった答えが出てくると思いますよ。

――それはまず、トップやマネジメント層が根性論から脱しないといけませんね。10枚だったレポートを1枚にまとめたことを「手抜き」と評価する企業では、働き方改革は進まない。

出口会長: その通りです。トップやマネジメント層は、部下の何倍も、今の常識を疑い、考え続けなければいけません。トップが意識を変えれば、自ずと社内の風土も変わっていきます。そもそも、トップのリテラシーが高く、グローバル企業の成功例を把握していれば、働き方改革はとっくに進んでいるはずなのです。

 国内外の経営者にコンサルしている人が、今世界の経営者は2015年に国連のサミットで採択された、2030年に向けた17の持続可能な開発目標(SDGs)に焦点を絞っていると言っていました。2030年までにこの目標を達成するために世界中が動いていて、そこにさまざまな商機があるからです。しかし、日本の大企業のトップからSDGsの話が出ることはほとんどない。話を振っても「それは何ですか」という反応だそうです。クォーター制導入についても、雑誌の取材で某経済団体のトップクラスの人が「ヨーロッパのリーダーは、女性に弱いんだなあ」というコメントを出していたとか。そういったリテラシーの低いトップがいる会社では、働き方改革は進まないでしょうね。

 でも、そもそも自分のアタマで考えることはとても楽しいことです。勉強することもね。働き方改革で、日本の生産性が上がり、リテラシーも向上するとしたら、それほど素晴らしいことはありません。


 今後の日本の経済成長には、個人1人1人が生産性を上げていくことが不可欠だ。そのためには、企業のトップ、そして部下をマネジメントする立場にいる人が、改めて今の働き方の常識を疑い、自ら率先して改善を進めることが必要となってくる。

 見方を変えれば、まだまだ日本企業には業務を効率化する余地があるということ。この働き方改革の機運を逃さず、抜本的に働くことへの意識を変えることで、日本企業はまた成長することができるはずだ。

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今回のインタビュー記事の中でもライフネット生命保険・出口会長が指摘しているように、もはや日本の将来にとって働き方改革は避けては通れません。では、日本企業は何をするべきなのでしょうか。

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働き方シンカ論

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2017年7月11日

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