老舗の企業向け宅配弁当屋が“営業マンなし”でも急成長する理由ITとの融合で新規の問い合わせが殺到・年間100万食を販売

東京都・葛飾区に本社を置く、老舗のオフィス向け宅配弁当屋「あづま給食センター」。弁当業界全体が衰退傾向にある中、宅配弁当にITを融合させたことで同社の業績は急成長しているという……。

» 2017年10月10日 10時00分 公開
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 「営業マンがいないのに、新規の問い合わせ件数が増え続けているんですよ」――。2017年で創業50周年を迎えたあづま給食センター社長の古川直氏はこう語る。

 同社は都心で働くオフィスワーカー向けに、弁当の製造から配達までを手掛けている(宅配エリアは、葛飾区・江戸川区・墨田区・台東区・北区・足立区・江東区・新宿区・千代田区・港区・品川区・渋谷区・中央区・文京区・荒川区・船橋市・市川市・浦安市)。

 メニューを日替わりの1種類に絞り効率よく製造しているため、1食450円でボリュームと健康にこだわったお弁当を、低価格で提供できるのが特長だ。東京都・葛飾区に本社を置き、10年前から米国ニューヨーク、ニュージャージーでも販売を始め、日本の弁当文化を広めている。

 社員食堂をもたない企業も増え「ランチ難民」という言葉があるほど、オフィス街周辺は飲食店が混雑していたり、選択肢が限られていたりする中、毎日メニューの違う健康的なメニューを安い価格で届けてくれる宅配弁当の存在は大きい。

 しかし古川氏によると、注文の取りまとめや、集金が総務担当者の負担になるため宅配弁当を取り扱わないという企業も多かったり、オフィスビルのセキュリティが非常に厳しく、宅配弁当の営業が大変困難な状況だったという。同社もその点は非常に苦労し、さまざまな対策を模索していた。

 そうした中で、たどり着いたのが「ITと弁当の融合」だった。企業向け宅配弁当の市場は大きい。急激に進化するテクノロジーを活用することで活路が見い出せると考えた。

 実際、ITを活用してからは急成長している。2014年はインターネットからの新規問い合わせ件数がわずか1件だったが、IT化に踏み切った15年からは22件、16年は78件、17年は80件(7月時点)、今期予想で140件以上と右肩上がりで新規顧客を増やし続けている。その成功要因は、ITと弁当の融合によって「業界の仕組み(常識)」を大きく変えたことにあるという。

photo 「あづま給食センター」のお弁当

宅配弁当とITの融合でサービスを展開

 同社が弁当とITの融合に挑戦し始めたのは、15年6月である。当時はクラウドやスマートフォンを活用した少額決済、電子マネーによる支払いが急速に普及していたこともあり、古川氏は「そのテクノロジーを使えば、総務担当者を介さずに、企業内の顧客一人一人と宅配弁当業者が直接結び付き、注文、支払、集計ができるのではないか」と考えたという。

 同社はまず、システムフォワードが提供する「弁当注文.com」を利用した発注システムを導入した。各社員の注文の登録から取りまとめ、発注、精算までを自動集計、支払いも給与天引きで済ませることができるサービスである。

 同時に宅配弁当業界で初となる専用アプリも開発。ユーザーがスマートフォンで注文、決済をすることができ、自動集計をする弁当配達サービス「あづま弁当」の運用を開始した。

 利用方法は、「ユーザー企業それぞれに発行された専用URLにスマホでアクセスし、弁当を注文するだけ」。当日の午前10時まで注文することができる(1社当たり最低4食から)。いつでも、どこからでも「3タップ」で簡単にお弁当の注文ができる。

 また、決済手段についても、「PayPal(ペイパル)」に加え、「Yahoo!ウォレット」「楽天ペイ」にも対応できるサービス「POINT・BENTO(ポイント・ベント)」を開始。お弁当をスマートフォンで購入する時、これらの決済サービスを活用することで、「Tポイント」や「楽天スーパーポイント」が貯まり、そのポイントでお弁当を購入することも可能になった。業界では初めての取り組みであり、画期的なサービスである。

 さらに、同年12月には、新しい弁当注文システム『OBENTO-PIT(オベント・ピット)』を発表。「Suica」や「PASMO」など計12種類の電子マネーによる注文に対応した。ユーザーに必要な手続きは、オフィスに「iPad」と決済端末を設置するだけ。購入者はiPadの注文ボタンを一度押し、電子マネーを決済端末にタッチ、最後にiPadの完了ボタンを押すだけ。この3タップであっという間に注文、支払、集計が完了する。これも業界初の新サービスだ。

 古川氏は、「開発したどのサービスも、3タップで完了することにこだわった」という。数多くの注文アプリはあるが、どれも選択肢が多く何回もボタンを押さないと購入画面までにたどり着けないといったデメリットがあった。その点、あづま給食センターの「日替わりメニューの1種類」というメリットを生かすことで、選択するボタンの数を大幅に減らすことができた。この効果も非常に大きいという。

photo あづま給食の新サービス:「OBENTO−PIT」「POINT・BENTO」「弁当注文.COM」

「常にIT関連の雑誌や動画サイトで最新情報を学ぶ社長」

 前述した「宅配弁当×IT」の取り組みは、先進的な技術を活用しているわけではなく、他の業界では当たり前に取り組まれているものだ。しかし、IT化が進んでいなかった企業向け宅配弁当業界の仕組みを大きく変える動きになるかもしれない。

 古川氏によると、宅配弁当業界には「アナログ」を敢えて大事にする企業が多く、営業するにしても“飛び込み営業”がほとんどだという。しかし、セキュリティが厳しい昨今は、オフィスビルに入ることも難しい。同社も14年まで2人の営業体制をとっていたが、問い合わせが増えることはなく、業者同士で顧客の取り合いになり、値下げをする以外に顧客を増やす策がなくなっていた。

 一方、弁当注文サイトの「ごちクル」(スターフェスティバル)や「bento.jp」(ベントー・ドット・ジェーピー)のように、IT企業が宅配弁当サービスに参入し業績を上げているのを見て、古川氏は「宅配弁当の需要はなくならない」と確信したという。ごちクルのようなプラットフォーム型のサービスは、販売額に応じた手数料が主なビジネスモデルである。その場合、手数料が価格に上乗せされるため、弁当がかなり割高になってしまう。

 古川氏は「宅配弁当屋自身がIT化すれば、安くおいしいものを提供できるのではないかと思った」とIT化の取り組みのきっかけを語る。

photo あづま給食センターの古川直社長

 最初は周囲に反対され、軌道にも乗らなかった。だが、専用アプリの開始やYahoo!ウォレット、楽天ID決済への対応によって徐々に注目を集めたことで、営業人員をゼロにしたにもかかわらず新規問い合わせ数が増加。売り上げを伸ばすことに成功した。

 IT化する前の1日の平均販売食数は約3500食だったが、17年8月には4400食を超え、増え続けている。月次ベースでは、1万7000食も増加したとしている。以前の増加量の約30倍である。

 IT化が進まない旧態依然とした業界の中で、なぜここまで新しい情報を取り入れ、挑戦することができたのだろうか。実は「IT関連の最新情報は、毎日、情報雑誌や動画サイトで学んでいる。平均2時間(多い日は4時間)を情報収集に当てている」と語るほど、古川氏はテクノロジーの進化に“ワクワク感を抱いている”人間だった。

 また、古川氏自身が歩んできたキャリアも興味深い。明治大学の政治経済学部を卒業後、営業力に定評があった電子機器メーカーのキーエンスに就職し、3年間コンサルティング業務に従事した。その後は経営大学院に入り2年半国際マーケティングを学び、01年にMBA(経営学修士)を取得。父親の後を継いであづま給食センターの社長となった。

 古川氏は「物事の本質をつかむ視点をキーエンスと大学院で学んだことが今につながっている。特に大学院で『弁当×マーケティング』に関する論文を執筆するため、さまざまな企業を研究したことも大きな経験になっている」と語る。

 検索エンジン最適化(SEO)対策についてもそうだ。最初はSEO業者とともに自社のWebサイト改修を行っていたが、飛躍的な効果はなかった。しかしSEO対策について専門的に学ぶうちに、リンク数が多いサイトへの記事広告の掲載やプレスリリースを多く配信することが効果的であることに気付いたという(現在は、サービスを開発する度に年間で4回のプレスリリースや記事広告の掲載を行っている)。

 また、プレスリリースや記事内の文章にも自社に結び付くキーワードをできる限り加えることで、「企業 宅配弁当 葛飾区」「企業 弁当 スマホ」などの検索ワードでは、同社の記事やWebサイトが上位に表示されるようになった。

 新規の問い合わせ数が大幅に増えたのは、これらのSEO対策による効果も大きいといえる。今後もSEO対策には最優先で力を入れていくという。

長期的には「システムのオープンソース化」「AIの管理栄養士」を

photo あづま給食センターは今年で創業50周年を迎えた

 あづま給食センターが見据える未来には、テクノロジーの進化に対する“ワクワク”が詰まっているように見える。古川氏が今後の展開の1つとして挙げたのは、「OBENTO-PIT」のオープンソース化だ。現在はiPadと決済端末が必要だが、「iPadだけで決済までを可能にするシステム」を18年中をめどに開発しているという。

 このシステムを外販し、弁当が売れるごとに手数料をもらうビジネスモデルを確立することで「自社工場を増設せずに全国展開を目指したい」と話す。

 また、長期的には「人工知能(AI)の管理栄養士」を作りたいとしている。既に同社はインターネット上の料理・調理内容に関する情報や、あづま給食センターの過去50年分のレシピを集約させている最中である。数年後には膨大な情報の中から主に、新作メニューに関する情報収集、日替わりメニューの作成、カロリー計算をAIで行う考えだ。そして、今まで以上に健康的で、斬新なメニューを開発し、人力で考えていたメニュー作りの手間を削減するとしている。

 このようにIT導入による省人化などを進めることで、古川氏は「より美味しい弁当作りに注力したい」と強調する。同社はもともと、弁当の中身に力を入れていたことで、営業をそれほど強化しなくても売り上げを維持できる会社だった。

 しかし、時代が変わりそうも言っていられなくなった。拡販するために新たな一手が必要となる中、古い考え方を持つ業界にITを融合させるだけでなく、“弁当作り”という会社の本質を問い続ける古川氏の功績は大きい。

 新たな技術を次々と取り込みつつ、本質を突き詰めることもやめない。宅配弁当業界で挑戦を続ける古川氏は最後にこう語り、目を輝かせた。

 「テクノロジーはもっと急速に進化すると思っている。他の人がやっていないことにどんどん取り組んでいき、テクノロジーで宅配弁当業界の仕組みを変えていきたいと思う。そして最も重要なことは、それを生かして顧客に常に満足していただけるお弁当を提供し続けていくことだ」

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提供:株式会社あづま給食センター
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2017年11月9日

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