快進撃を続けるヤッホーブルーイングはなぜ「働き方」上手なのか?

日本のクラフトビール市場をけん引するヤッホーブルーイングは、この12年間、増収増益を続けている。同社はなぜここまで成長しているのだろうか。彼らの「組織」と「働き方」にそのカギがあった。

» 2017年11月06日 10時00分 公開
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 欧米では広く普及しているクラフトビールが日本でも新たなビールのカタチとして根付き始めている。ここ数年間で全国各地のクラフトビールを楽しめる専門店は増えていて、国内のクラフトビールメーカーも大小合わせて200を超える。若者のアルコール離れなどでビール市場全体が低迷する中、クラフトビールの市場は毎年数パーセント成長を続けていて元気だ。

 そのクラフトビール市場で断トツのトップを走るメーカーが、長野県佐久市に醸造所を構えるヤッホーブルーイングだ。看板製品「よなよなエール」をはじめ、「水曜日のネコ」や「僕ビール、君ビール。」など、ユニークなネーミングおよびパッケージデザインの製品を出しており、ご存じの方も多いだろう。

ヤッホーブルーイングが販売する主な製品 ヤッホーブルーイングが販売する主な製品

 同社は現在、12年連続で増収増益、ここ数年間の売り上げの伸びは前年比30〜40%増となっている。直近では岩手県のクラフトビール会社である銀河高原ビールを買収するなど、国内クラフトビールの雄として飛ぶ鳥を落とす勢いだ。同社の経営におけるミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」。単にビールを飲むだけではなく、ビールを通じて生活や人生そのものを豊かにしていこうという考え方が社員に浸透している。

 また、「顧客は友だち、社員は家族」を合言葉に、それぞれが親密な付き合い方をしている。スタッフ全員にニックネームが付いているのもその表れの1つだろう。そして顧客の多くは熱狂的なヤッホーブルーイングファンで、その熱量が同社のビジネス成長に大きく寄与していることは疑う余地もない。年に1度、軽井沢で開催する野外ファンイベント「超宴」には毎回1000人以上が集う。今年秋には初めて東京でも実施するほどの盛況ぶりなのだ。

 そんなヤッホーブルーイングだが、最初から順風満帆だったわけではない。組織はバラバラ、赤字の連続で、どん底期が長らく続いていたのだ。それを変えたのが、社運を懸けたチーム作りであり、そこから生み出された働き方改革である。

トップダウンでチーム作りに没頭

 ヤッホーブルーイングは1996年に星野リゾートのグループ会社として設立。当時は「地ビール」ブームの真っただ中で、それを追い風に同社はぐいぐいと販売数を伸ばしていった。しかし、2000年ごろにブームが去ると瞬く間に売り上げが冷え込んだ。すると社内で何が起きたか。社員から笑顔は消え、愚痴や不平不満、他の社員への陰口が横行した。社員は一人また一人と辞め、残った社員もやる気がほとんどなく、ギスギスした雰囲気の毎日だったという。

 当時の様子をヤッホーブルーイングの井手直行社長はこう振り返る。

 「皆、他人任せで、チームでする仕事は消極的。何よりも元気がありませんでした。当社では毎日の朝礼を行っているのですが、当時はお通夜みたいに暗かったのです」

ヤッホーブルーイングの井手直行社長 ヤッホーブルーイングの井手直行社長

 そうした中でもビジネスを何とか立て直そうと奮起していた井手社長は、インターネット通販に乗り出し、試行錯誤の末、ネット通販によって再びビールが売れ始めたのである。その実績が認められ、2008年に社長に就任したのだ。

 就任後、井手社長がいの一番で取り組んだのが、強いチーム作りである。これは以前からずっと思い描いていたことだったが、トップダウンで改革しないと、きっとうまくいかないはずだと考えていたという。

 「社員が相互理解し、全員で目標を共有する、社員それぞれの得意な部分を伸ばし、苦手なところは皆でフォローする、そうしたチームを作るために最初の3年間はそれに没頭しました」

 明確な目標はあった。従来から社内にはびこる課題――「元気がない」「自ら進んで行動しない」「誰かがやるだろうと他人任せ」「自分の仕事はやるが皆で協力してやる仕事は消極的」「目指す理想の会社像がバラバラ」――これらをすべてひっくり返そうとしたのだ。

 では、具体的に何をしたのだろうか。まずは井手社長が外部の研修を受け、コーチングやチームビルディングを学んだ。それを社内に持ち帰り、次に「自分もやりたい」と立候補した7人の社員とともに取り組んだ。

 ここで問題が勃発する。そのころの社員数は20人程度だったので、業務中に社員の半数近くが抜けることになる。当然、ほかの社員からは猛反発があった。しかし一度決めた覚悟を取り下げるわけにはいかない、ここで改革の歩みを止めてはいけないと、井手社長は反対する社員に対して何とかやらせてほしいと頼み込んだ。その後も社員は疑心暗鬼だったが、あることがきっかけで風向きが変わり始めた。

 それは研修を受けた社員がそれぞれの部門に戻ると、明らかに仕事に取り組む姿勢や、日々のコミュニケーションの仕方などが変わったのである。そして大きな成果を次々と上げたのだ。この姿を見て、反対していた社員も徐々に考えを改めるようになり、研修を志願する者も出てきたという。

 このチーム作りが功を奏し、黒字化、そこから12年連続のビジネス成長へとつながっていったのだ。

働き方を変えるのは必然だった

 今やヤッホーブルーイングは「働き方改革」の先進企業として紹介されることが増えている。実際にGreat Place to Work Institute Japanが実施する2017年版「働きがいのある会社」ランキングでも、初のエントリーでベストカンパニーに選ばれたほどだ。

 しかし、井手社長に言わせると、働き方改革を大々的に唱えて、推進したということはないという。そうではなく、良いチーム、強いチームを作っていく中で、自ずと社員の働き方に考えが及ぶようになったのだとする。

 「チームで働くようになると、例えば、ある社員が家庭の事情で休んだり、早退したりすると、必ず誰かがカバーしなくてはなりません。日ごろからお互いの仕事を知っておくのはもちろんのこと、どんな状況でも柔軟に対応できる体制を作っておかないといけないと気付いたのです」

 特に同社は女性社員が多くなり、小さな子どもが熱を出して保育園から呼び出されたりするようなケースが増えてきた。実は井手社長もその一人で、夫婦共働きのため、奥さんの代わりに子どもを迎えに行ったり、遠足に連れて行ったりすることが多々あったという。そうした実体験によって、他の社員にフォローしてもらうだけではなく、無駄な時間を排除して、効率的に仕事することで、どの社員でも早く帰ることができる、急遽休むことになってもさほど影響が出ないような働き方の変革が重要だと感じたのである。

 そこで今では、就業時間の変更を可能にし、個人や家庭の事情に合わせた柔軟な働き方を実践している。目を見張るべきなのは、基本的に就業時間の変更に事務手続きは不要で、もし何らかの事情で遅刻、早退、欠勤する必要があれば、当日でも上長やメンバーにその旨と理由を伝えれば問題ないという。さらに、それを聞いたチームメンバーも快く了解するという。「突然社員に休まれると困る」という会社は多いだろうが、ヤッホーではこのような体制を作っているため、たとえ社員が1、2日休むことになっても、他の社員がすぐにフォローに入れるのだ。

制度ではなく文化を作れ!

 そして、ヤッホーブルーイングがユニークなのは、働き方に関する制度はほぼ皆無だということだ。子どもを持つ女性社員が働く日数と時間を自由に選択できる「すくすくエール制度」くらいだろう。

 働き方改革が叫ばれる昨今、まずは新たな人事制度などに着手しようとする企業は少なくない。しかし、制度化すれば働き方改革が進むということはないと井手社長は言い切る。

 「働き方は制度でどうこうするものではありません。ヤッホーブルーイングの場合は、今のような働き方が文化と習慣になっているからこそ、成り立っているのだと思います。この根っこの部分が社員に浸透し、お互いに共有されていないと、本当の働き方改革は難しいのではないでしょうか」

 ヤッホーブルーイングの働き方を支えるのは社内文化。これは一朝一夕で真似できるものではないし、これが他社との競争優位につながっているのである。

 井手社長によると、柔軟な働き方を続けるにはテクノロジーの力も大いに役に立っているという。同社は東京にも事務所があり、日常的にやり取りする必要がある。当然、メールや電話もするが、直接顔を見ながらのコミュニケーションを重視する同社では、しばしばテレビ会議を利用するそうだ。

 また、もっとカジュアルなコミュニケーションをとるためのツールとして、3年ほど前に「やまびこ」というシステムを構築した。これは4カ所の拠点に定点カメラを付けておき、それぞれがモニターで別拠点にいる社員の在籍確認をしたり、単に「おはよう」「元気?」などと呼び掛けたり、画面越しに目があったら手を振ったりして使っているそうだ。実際に使ってみたところ、東京の事務所にいる社員たちが突如仮装をするなどして和ませてくれた。こうしたコミュニケーションを日ごろから当たり前のようにやっているのがヤッホーブルーイングの文化なのである。

働き方改革が加速する、ITでの仕組み作りを

 今後の働き方についてはどのように考えているのだろうか。ヤッホーブルーイングは社員が現在約150人と増え続けていて、事業の幅も広がってきた。結婚したり、子どもが生まれたりする社員も多くなっている。そうした中で井手社長は働き方についてはより本腰を入れて取り組む必要性を感じている。これまでは文化として根付いていることが前提条件としてあったので、何も言わなくても個人の裁量で柔軟に対応できていたが、今一度現状を見つめ直すとともに、これからはある程度の仕組み化が不可欠だという。それを実現する上で必要だと感じているのがITの活用だ。

 それに向けた足がかりとして、年内に創業後初めてIT部門を設置し、在宅勤務ができるインフラ環境の整備や、セキュリティ対策の強化などに取り組んでいくとする。

醸造所の前でスタッフたちと。チームワークの良さが見てとれる 醸造所の前でスタッフたちと。チームワークの良さが見てとれる

 「今後さらに働き方改革を推進するためには、IT活用によって仕事を効率化、自動化し、社員のルーチンワークを減らすことが重要です。そこで浮いた時間をクリエイティブな仕事や顧客とのリレーション作りに当てるなどして、より魅力的な会社を作っていきたいと考えています。また、通信販売ビジネスの成長によって増え続けている顧客データをしっかりと管理するためのセキュリティ対策にも力を入れ、企業としての責任を果たしていくべきです」

 働き方改革と一口に言っても、さまざまなアプローチがあるし、企業によってもそれぞれ事情が異なるだろう。ただし1つだけ共通するのが、その改革によって目に見える成果を生み出せるかどうかだ。そうした観点でヤッホーブルーイングの取り組みは大きな成功例として参考になるはずである。

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