吉野家が「空前の人手不足」にAIで仕掛けた“次の一手”とは店長は「本来やるべき業務」に集中

吉野家はいかにして空前の人手不足を乗り越えようとしているのか。吉野家の未来創造研究所 未来施設・設計担当の廣橋誠さんに話を聞いた。

» 2019年02月01日 10時00分 公開
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 飲食業では人手不足が続いている。帝国データバンクの調査では、非正社員の「従業員が『不足』している上位10業種」の1位が「飲食店」という結果も出ているほどだ。

 そんな中、吉野家はテクノロジーへの投資を強化しており、シフト作成・管理ソフトの開発を手掛けるセコムトラストシステムズ社、人工知能(AI)ベンチャー企業のエクサウィザーズ社と協力しながら、AIを使ったシフト管理システムの導入を始めている。2018年11月より埼玉営業部の約80店舗、約1000人が使える環境を整えた。このシステムは、従業員がシフトの希望をスマートフォンやPCから入力すれば、店長はボタン一つでシフトを設定できるものだ。

 吉野家はなぜシフト管理に着目し、いかにして空前の人手不足を乗り越えようとしているのか。吉野家でシフト管理システム導入の舵とりを担った未来創造研究所 未来施設・設計担当の廣橋誠さんに話を聞いた。

photo 廣橋 誠 ひろはし・まこと 吉野家の店長、SV(スーパーバイザー)を経て、商品部バイヤーを経験し、外販事業部(現外販事業本部)でEC事業の立ち上げに従事。2017年5月より、未来創造研究所にて、主にテクノロジー系の課題に取り組む。43歳

シフト管理がなぜ大切なのか

――外食や小売り大手では勤務シフト作りを自動化する動きが出ています。なぜそれほどシフト管理が大切なのでしょうか?

 飲食業にとってシフトの作成は店舗運営の肝になる部分だからです。例えば1カ月単位でシフトを組むときに、その月の来店客数や売り上げ、従業員の教育計画などを全て反映させたものがシフトです。ですから、もし店長が不適切なシフトを組んでしまうと、店舗の運営自体が成り立たなくなってしまいます。それでは店長が思い描く店舗作りはできません。

 もちろん地域差はありますが、「人手不足」がささやかれている中で、店長の仕事の7〜8割はシフトの作成に割かれています。1カ月で30時間ほどシフト作成に掛かっているといわれています。店長たちは「明日のシフトをどうしようか」と、常に悩みながら働いているのです。

――なるほど。シフトを作成することは単に従業員に仕事を割り当てる作業ではないのですね。

 そうですね。非常に泥臭い作業でもあります。その際に重要になってくるのが店長のマネジメントの仕方で「コミュニケーション能力」です。パートアルバイトの従業員たちといかに信頼関係を結べるかが重要なのです。

 従業員たちは、店長が出勤してから帰るまで、ずっと店長の働きぶりを見ています。店長は、さまざまなところで常に従業員から評価されていて、その上で信頼関係を結ばねばなりません。当社は1200店舗を有していますが、どうしても店長のスキルや能力にばらつきが出てしまいます。だからこそAIを使ったシフト管理システムによって、個人のスキルにかかわらず店長たちをサポートしていければいいなという問題意識を数年前から持っていたのが背景にあります。

――開発の発端は何だったのでしょうか?

 もともと慢性的に人が不足している地域がありました。その地域に1人の若手店長を配属したところ、それまでは一度も人材が足りていなかったその地域の人手が充足するようになったのです。その店長が優秀だったこともありますが、彼の取り組みを共有することで地域全体の充足率が高まりました。つまり店長のマネジメントスキルが高ければ、店舗の人員不足も補えることが分かったのです。

 それで「その優秀な店長に全社のシフトを組んでもらおう」と考えましたが、さすがに現実的ではありませんでした(笑)。そこで優秀な店長のシフト作成ノウハウをAIに学習させ、それを「仕組み化」できないかという計画が持ち上がったのです。

――そのような流れだったのですね。廣橋さんは10数年前まで店長もやられていたのですね。当時もやはり人手不足だったのでしょうか?

 飲食業ですから、もともと人手が豊富だったわけではありません。人が少なくても店長のスキルによってやりくりをしていた部分があります。吉野家は当時、「24時間年中無休」を掲げていましたから、基本的には「看板の灯を消さない」方針でした。どんなに人がいなくてもシフトを作り、店舗を運営するためのノウハウを蓄積していて、それが吉野家の強みでもあったのです。今回のシフト管理システムも、飲食店の運営やシフト作成についてのノウハウを持つ当社の強みと、セコムトラストシステムズさんなどの強みを掛け合わせて「共創」したのです。

――店長時代にはシフトを管理する際に、どんなことで困っていましたか?

 よくあったのは何かしらの事情によって、アルバイトの方が急に来なくなったりしたことですね。そういうときに他の従業員に電話をして、「出てきてくれないか」と交渉するのです。しかし当然ながら、皆が協力的なわけではありません。それぞれに予定があるからです。

 だから店長は従業員一人一人の暮らしぶりを常に想像していないといけません。例えば主婦の方に「深夜勤務はできませんか?」と聞いてもハードルが高いですよね。お子さんが何歳くらいで、保育園には何時に迎えにいかないといけないのかなど、普段の会話の中から状況を理解している必要があります。その上で、この時間であれば大丈夫だろうと推測して、従業員に連絡をします。そうやって交渉をしていくのです。

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