モノのインターネットと呼ばれるIoTにおいて、多彩な利用が期待されている位置情報のトラッキング。衛星通信とGPSを組み合わせることで、地上の携帯電話のカバーエリアにとらわれず、全世界でトラッキング可能なデバイスが、国内でも利用できるようになっている。
モノのインターネットと呼ばれるIoTにおいて、多彩な利用が期待されているのが位置情報のトラッキングだ。物品の盗難管理から、人の見守り、山岳などでの遭難防止、さらには動物や流氷などに設置することで、生態系の解明や潮の流れの解析ができたりと、利用用途は幅広い。
しかしこれまでのトラッキングIoTデバイスにはいくつかの制約があった。1つは、取得した位置情報を送信するために携帯電話網を使うため、海洋や山岳では圏外になってしまう場合があることだ。さらに、潮流研究など長期間のトラッキングに利用する場合は電池の持ちも重要だ。衛星携帯電話と接続して使えば圏外を大幅に減らせるが、電源の問題とともに、システムが複雑で大きく、高価なものになってしまっていた。
こうした課題を解決したのが、2018年7月から日本でもサービスを開始したGlobalstarのトラッキングIoTデバイスだ。
Globalstarは、世界に4社しかないグローバルな衛星携帯電話サービスを提供する米国企業だ。1991年に会社設立、サービス開始以来、現在122カ国で利用でき、世界中で75万余りの端末が使われている。
日本でも、サービス開始当初から企業向けBCP対策としてGlobalstarの衛星携帯電話(GSP-1700)を販売しており、今年から本格的に衛星IoT市場へアプローチしてきた。
Globalstarの特徴的な製品が位置のトラッキングに特化した「SPOT Trace(スポット・トレース)」と、アスリート向けの「SPOT Gen3(スポット・ジェン3)」だ。
いずれもGPS受信機能を備え、位置情報を衛星通信網を使って送信する。そのため、地上の携帯電話の圏外エリアでも、随時、その位置をGoogleマップ上でほぼリアルタイムに追跡することが可能だ。また、日本国内に限らず、海外であってもそのまま利用できる。
単4リチウム乾電池4本で稼働し、1250回の位置情報送信およびメッセージの送信が可能。用途に応じて送信間隔を変更できるため、例えば最も頻繁な2分半間隔の追跡の場合、約7日間、頻度を60分間隔に落とせば実に52日間の連続追跡が実現できる。また、外部電源を利用すれば連続した利用も可能だ。
モーションセンサーも搭載しているため、例えば物品の盗難管理であれば、「コンテナなどに取り付けておいて、コンテナが動かされたら位置を送信する」(Globalstar Japanの小林盛人取締役)といった使い方も可能だ。こうした使い方なら、送信回数を減らせるため、さらに長時間の稼働が可能になる。
既に国内でも、GlobalstarのSPOT端末を使ったトラッキングが成果を挙げ始めている。ある大学では、海上のブイに端末を設置。長期間に渡ってブイの動きを追跡することで、近海の潮流の状況を調べている。また船舶に設置することで、位置を遠隔監視するという用途にも使われ始めている。
さらに、山岳地帯の工事現場や林業で働く作業員にSPOT Gen3端末を持たせ、遠隔地にいる管理者が作業員の安全を管理するために採用され始めている。
これまでこうした用途には、衛星携帯電話とGPSユニットを接続して自動送信する仕組みを使うことが多かった。しかし、「従来は1セットあたり50〜100万円かかっていた。GlobalstarのSPOT Traceを使うと約10万円以下で実現できる」(小林氏)と低コスト化が実現した。
通信契約が必要なく、通信料込みのパッケージとして販売されていることも利点だ。企業や大学が契約を結ぶとなると、手続きが面倒なことが多いが、売り切りの販売方式であれば買ってくるだけで済む。もちろん、追加の通信料分を購入することもできる。
アスリート向けのSPOT Gen3は、登山や山岳レースでは定番のデバイスになっている。緊急時にワンボタンで捜索救助を要請することもでき、エベレスト登山では誰もが持って登るデバイスだという。国内でも、山岳レースの「2018年ハセツネCUP」「白山ジオトレイル2019」などで利用され、携帯電話が圏外になってしまう山間部でも位置情報をしっかり送信することが評価された。
他の衛星携帯電話網に比べて、低コストで低消費電力なのは、Globalstarの技術的特徴に理由がある。衛星携帯電話に使われる衛星は、高度3万6000キロに上げられた静止軌道衛星を使うものと、高度2000キロ以下の低軌道(LEO)衛星を使うものに分けられる。
低軌道衛星を使う場合、世界各地をカバーするために複数の衛星が必要になるが、地表との距離が近いため送信電力が小さくて済み、遅延も小さくなる。Globalstarでは高度1414キロに32機の衛星を打ち上げ、全世界をカバーしている。
Globalstarは、システムの「頭脳」を地球上の基地局に持たせる「ベントパイプ」アーキテクチャを採用しており、ネットワークをより簡単にアップグレードして、常に技術的に進歩した衛星サービスを利用可能。また、端末と基地局が同一の衛星を見ており、無線区間を最小にし、通信の遅延を最小限にすることができる。
端末価格もSPOT Traceで2万円程度と、「ほかの衛星通信デバイスの10分の1から20分の1」(小林氏)と安価だ。これは、通信速度を抑え機能を限定し、敢えて成熟した技術を利用しているためだ。
SPOT Traceは購入するだけですぐに利用できるトラッキングIoTデバイスだが、用途に応じてカスタマイズ可能なモジュール「SmartOne C(スマートワンC)」もラインアップしている。こちらは、位置情報送信のレポートタイミングや、送信間隔などを設定できるほか、外部のセンサーとの接続も可能だ。
太陽電池を搭載した「SmartOne Solar(スマートワン・ソーラー)」もトラッキングの可能性を大きく広げるデバイスだ。内臓のバッテリーをソーラーパネルで充電するため、最大10年にわたって動作するため、電源の取りづらい設備やコンテナ、トレーラー、海洋のブイなどでの利用が期待される。さらに通信チップという形でも供給しており、自社の通信システムに組み込むことでGlobalstarの衛星通信網に接続することも可能だ。
低価格で低消費電力なGlobalstarの製品が、国内でも利用可能になったことで、トラッキングIoTの世界がさらに広がりそうだ。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2019年10月9日