手元に膨大な顧客情報や販売データがあっても、思うように分析できていないビジネスパーソンは多いのでは。ソニーネットワークコミュニケーションズ(東京都品川区)は、データさえ準備すれば数クリックで高度な予測分析を自動で実行してくれる「Prediction One」を提供している。どのような仕組みになっているのか、担当者に話を聞いた。
「これまで、アプローチした顧客の成約や資料請求といった予測精度は56%でした。しかし、あるツールを導入したところ79%まで精度が伸びたのです。改善率は約1.4倍にもなりました」
このように説明するのは、ソニーネットワークコミュニケーションズISP事業部の磯崎直樹氏だ。磯崎氏はマーケティング部の一員として社内データの活用や、デジタルマーケティングの推進などを行っている。
同社はインターネットサービス「So-net(ソネット)」などを提供しており、ブロードバンド会員数は240万を超える。これまで、リテンション(既存顧客の維持)施策のためにテレマーケティングなどを実施してきたが、もっと成約率を上げたいと考えていた。そんな中、ある分析ツールを導入することで、予測精度が向上したという。
磯崎氏が導入した分析ツールとは「Prediction One」だ。これは、データさえ用意すれば、数クリックで高度な予測分析を自動的に実行できるソフトウェア。統計アルゴリズムや機械学習を用いて、過去の実績から将来の結果を予測してくれる。
Prediction Oneを使う前、磯崎氏はどんなことに悩んでいたのか。テレマーケティングの事例で説明しよう。
社内にある膨大なデータから情報を抽出し、働きかけを行う顧客リストの作成を行っている。マーケティング予算は限られているので、電話をかけられるリストの精度を上げたいと、担当者は考えていた。しかし、アプローチをする顧客の中には“関心が薄い”人も一定割合含まれてしまう。この割合を下げるのがマーケティング上の課題だった。
磯崎氏はデータアナリストとしての経験が豊富なのだが、データ解析の精度を高めるためには、業務やサービスなどのデータ内容の理解が重要で、そのための十分な時間が確保できなかったという。
そんなとき、Prediction Oneの存在を知り、実際に試してみることにした。すると、リストの精度が向上しただけでなく、データ解析に詳しくない社員も簡単に使えるものだったため、社内全体の予測分析業務にプラスの影響があったという。
そもそも、Prediction Oneとはどのようなソフトウェアなのか。ソニーネットワークコミュニケーションズAI事業室でPrediction Oneのプロジェクトリーダーを務める高松慎吾氏が解説する。
「もともとは、ソニー本社の研究開発組織である『R&Dセンター』が開発したものです。データ分析の依頼がグループ各社から数多く寄せられたことから、自分たちの行っている業務を他の社員でも簡単に行えるようにするために生まれたのです」
Prediction Oneは、ソニーグループ内だけで既に10社以上で利用されている。導入しているのは「ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング」(半導体の製造)や「SREホールディングス」(不動産流通)、「ソニー損害保険」(損害保険業)などがある。予測できる内容も、「ダイレクトマーケティング・CRM」「マッチング、推薦(購入確率の高い商品を顧客に提示)」「コールセンター入電予測」「人事(業績や退職の予測)」などと多岐にわたる。
使い方は簡単だ。まず、公式Webサイトからソフトウェアを無料でダウンロードする。次に、顧客の入会時期、年齢、性別、過去の購入額などがまとまった表形式データを用意する。そして、データをドラッグ&ドロップでPrediction Oneに読み込ませ、予測したい情報の項目を予測ターゲットとして設定し、学習開始のボタンをクリックする。すると、高度な予測モデルの構築、評価、予測理由分析を自動で行ってくれる。予測用の表形式データを読み込ませ、予測ボタンをクリックすると、算出した予測結果から「どの顧客が退会しやすいか」「再来月の需要はどれくらいか」といったことが分かる。
なぜ、これほど簡単な操作で、高度な予測が可能なのか。高松氏はその理由として「ソニーグループ内などで蓄積した膨大なデータを利用しているためです。また、ユーザーとなるグループ会社から多数のフィードバックを受けて改良を重ねてきました」と説明する。例えば、人事やマーケティングといった職種や、金融・不動産・製造などの業種で利用されていたものが含まれる。
このように、幅広いデータを網羅しているため、様々なユーザーのニーズを満たすことも可能なのだ。
シニアデータアナリストの磯崎氏はPrediction Oneをこれまで使ってきて、「予測分析の根拠を周囲に説明しやすい」「社内で横展開しやすい」というメリットを実感している。
Prediction Oneは、「なぜこのような結果が出たのか」という予測理由を見える化してくれる。例えば、顧客の「過去購入額」「クーポン利用回数」「年齢」などさまざまなデータがある中で、実際の購入につなげるための「寄与度の詳細」を明示してくれる。そのため、他部署や上司も予測分析の結果に納得しやすい。「データマイニングツールの中には、予測精度は確かに高いのですが、計算過程がブラックボックスになってしまうものもあります。予測結果だけを示しても、納得されにくいケースもあります。逆に、『なぜこうなったのか』を知って次の施策に活かしたい、という声が増えてきました」(磯崎氏)
寄与度の詳細が分かることで、メリットが生まれる。ある企業が、「会員の退会抑止をしたい」と考えていたとする。Prediction Oneを使うことで、退会しやすい会員に「一定期間内のログイン回数が5回以下」「20代女性」といった傾向が見えてくる。すると、担当部署はログイン回数を増やすための施策や、20代女性にササるような施策を立案できるようになるというわけだ。
こういったメリットがあるため磯崎氏は「これまでは、経験やシンプルな数値結果に基づいて施策を決定していたこともあったが、より多くの客観的な根拠に基づいて意思決定できるようになりました」と説明する。
操作方法が簡単なので、誰でも機械学習を業務に活用できるようになったのも思わぬメリットだった。専用ツールを使うのは限られたメンバーだったり、ライセンス数の制限もあったりする。しかし、Prediction Oneでは、むしろ、どんなデータを使うかを決めれば、担当者が自分でデータの集計・分析を行い、企画立案の精度を上げられるようになる。「あらゆる部署での業務遂行やさまざまな目的を達成するために、誰でもデータ分析が可能になります。つまり、一部の人だけがデータを扱う状況とは真逆の『データ分析の民主化』にもつながるでしょう」と磯崎氏は期待する。
Prediction Oneは通常スペックのノートPCやデスクトップPCでも動作するので、新たにPCを購入する必要がない。そのため、他部署の担当者でも気軽に利用できる。
磯崎氏は「社員の間で、『自分でデータ分析や予測業務をやってみたい』という意識が高まっていると感じます。Prediction Oneの導入は、会社全体にとってもメリットがあるのではないでしょうか」と語る。データ分析ができるようになるには、専門知識を習得したり、外部研修を受講したりするのが一般的だ。しかし、Prediction Oneには、様々な業界における典型的な分析事例のチュートリアルとサンプルが豊富に用意されているため、専門知識のない社員であってもすぐに高度な予測分析ができるのだ。
会社全体でさまざまなデータを利用することで、データ漏洩(ろうえい)などのリスクは生じないのだろうか。Prediction Oneプロジェクトリーダーの高松氏は「デスクトップアプリケーションなので、クラウドのサービスと違い、社外のサーバにデータを転送する必要がありません」と説明する。個人情報を扱う機密性の高いマーケティングデータも、自社PCの管理にさえ気を付ければ、比較的安全に扱えるというわけだ。
Prediction Oneの強みは他にもある。それは、日系メーカーが開発し、国内のユーザーからフィードバックを受けて改良を重ねてきたため、UIが日本のユーザーになじみやすいことだ。同様の機能を提供するソフトウェアは他にもあるが、海外ベンダーが開発しているケースが多い。
「データ分析というと、大規模なデータベースが前提と考える方もいるかもしれません。しかし、回答者数が100人程度のアンケートであっても、分析は可能です。無料でダウンロードして利用できますので、まずは気軽にトライしてもらえればと考えています」(高松氏)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2020年3月30日