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» 2020年03月18日 10時00分 公開

「世界」から取り残されないために:新時代のリーダーの役割 「大企業のイノベーター」に必要なマインドセットとは

[ITmedia]
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 日本の大手企業やベンチャーが業種や規模の枠を超えて集い、デジタル技術を駆使したビジネスイノベーションを起こす開発拠点、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)――。大企業にイノベーションを起こすために、イノベーターの育成を行っている。具体的には日本を代表する34社のメンバー企業の社員に、トレーニング活動やプロジェクト実践のプログラムを提供している。

 DBIC共同創設者の西野弘氏は「大企業をはじめとする多くの日本企業は、イノベーションを起こすために必要なマインドセットをまだまだ理解していない」と喝破する。なぜ日本の企業でイノベーションが起きにくいのだろうか。西野氏と、DBICでディレクターを務める渋谷健氏に、その理由と、ビジネスにおける「壁を破るための考え方」を聞いた。

phot DBICの入口

日本企業が世界から取り残される危機感

 DBICが設立されたのは2016年5月。メンバー企業には金融やメーカー、日本郵政グループなど、日本を代表する大企業34社が名を連ね、これらの企業で働く社員は約150万人に及ぶ。その中からイノベーター候補となる若手社員や、中間管理職を対象に、イノベーションを起こすためのプログラムを実施している。

 母体となっているのは、日本経済団体連合会の情報通信委員会のメンバーによって09年7月に立ち上げられたNPO法人CeFIL(設立当時の名称は高度情報通信人材育成支援センター)。日本の企業に高度のIT人材が不足している現状を踏まえ、産学協同で人材育成を始めた。しかし、数年で大学との連携は縮小し、CeFIL理事長の横塚裕志氏と理事の西野弘氏は日本の将来を危惧していたという。

 「当時、GAFAの台頭に限らず、ビジネスや社会にデジタルが本格的に入ってくる時代が来ることは感じていました。ところが日本の企業は相変わらず“シリコンバレー詣で”をしている状況でした。シリコンバレーの活動を見ても、日本の会社にそのまま持ち込めるわけではありません。このままだと日本は世界から取り残されると痛感しました」

phot 西野弘(にしの・ひろし)早稲田大学教育学部卒業。全日空商事株式会社を経て、1991年に株式会社プロシードを設立し、代表取締役に就任(現在HI3代表取締役)。特定非営利活動法人CeFIL理事・DBIC共同創設者。特定非営利活動法人ITサービスマネジメントフォーラムジャパン副理事長など

 こう話す西野氏は、IT産業の黎明期から多くの民間・政府が関わるプロジェクトに携わり、日本マイクロソフトやアップルのコンサルタントを務めてきた人物。日本の大企業がシステム開発などをベンダーに依存して、経営者がIT部門を理解していない状況を憂慮していた。

 西野氏は15年、横塚氏とともに世界各地を訪問。すると、デジタル技術を活用した新たな動きが各地で起きていた。世界の変化についていかないと日本の大企業がイノベーションを起こすのは難しくなる――。そんな危機感を抱いた横塚氏と西野氏は、企業の意識を変え、知識を提供する組織が必要だと考え、共同でDBICを設立した。

イノベーションには個人の「アンロック」が必要

 ただ、DBICがさまざまなプログラムを用意しても、当初はうまくいかなかったと西野氏は話す。

 「始めてみると、想像していた以上に日本の大企業は駄目だということに気が付きました。一番の理由は、大企業の社員は一人ひとりの感性を仕事に生かせていないことです。人間には五感がありますが、同じ会社に10年もいると、見える範囲の仕事だけをしていれば毎月給料がもらえるので、五感を使わなくなります。しかし、イノベーションや新規事業を起こすには、感性や認知力が不可欠で、それがなければ何もできません。

 もう一つの理由は、大企業の社員があまりに世の中のことを知らないことです。業界のことは知っていても、業界の外のことは知らない。自分は◯◯社の◯◯部の人間だと肩書で考えるようになって、一人の人間であることを忘れています。これでは新規事業を起こすのは無理でした」

 ハッカソンを実施してみると、大企業の中間管理職はスタートアップに「金を出してやる」と上から目線の姿勢を見せる。何度も資料を作成させ、3カ月ほど引っ張った揚げ句に「部長に駄目だと言われた」と言って事業が頓挫することも多かった。

 さらに、経営者や上層部はデジタライゼーションとデジタルトランスフォーメーション(DX)を混同していることも多かったという。

 「DXはデジタル技術を使うことではなく、ものの考え方、組織の在り方、働き方を変えることです。イノベーションを起こすためには、個人のアンロックが必要です。組織の枠をこえて、自分は誰で、一人の生活者であるという原点に戻らないと、イノベーターとして前に進めないのです。

 いわゆる創業社長は自分自身をアンロックして、資産も能力もつぎ込みながら事業を起こしています。そこで、大企業の社員にもこのマインドセットを持ってもらうためのプログラムを開発しました」(西野氏)

マインドセットを変える「ブートキャンプ」

 DBICでは、イノベーションに関する知見を独自に体系づけた「4Dモデル」とよばれるメニューを提供している。「4D」は4つのメニューの頭文字が「D」であることから命名した。「デジタルトランスフォーメーション」「デザインシンキング」「ディスカバーマイセルフ」、それにシンガポールと日本で事業創出に挑む「ダイビング・プログラム」の4つだ。

 これらのプログラムに取り組む入口として、「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」を実施している。担当しているのはDBICディレクターの渋谷健氏。2日間にわたって開催されるブートキャンプは、参加者の意識を変えることに重点を置いている。

phot 渋谷健(しぶや・たけし)東海大学政治経済学部卒業。アクセンチュア株式会社、株式会社エイチ・ビーアイ、株式会社ゼンリンを経て、2014年にフィールド・フロー株式会社設立。DBICディレクター。事業脚本家。国・自治体の事業のプロデューサーなどを務める

 「ブートキャンプはマインドセットを変えるプログラムです。最も大きなテーマは、ブートキャンプを通して、自分の器を会社の器よりも大きくして帰ってもらうことです。それができなければ、イノベーションは諦めてくださいとはっきり言っています」(渋谷氏)

 マインドセットを変えるといっても、精神論を押し付けるわけではない。自分の認知能力を意図的にコントロールできるように、自ら変わることを促す。

 そのためにまず、参加者には認知能力の発達の仕組みを論理的・体感的に理解してもらうことから始める。物事を認識するプロセスを分解し、自分がどのように物事を捉えているかを客観視する。いわゆるメタ認知の能力を学ぶのが、1日目のプログラムだ。

 2日目は、自分自身が課題として直面しているケースを扱って、対話形式で課題を明確化し、解決に向けたアクションをデザインする。この実践によって、認知発達システムを自分で扱えるようになる。重要なのは自分をどれだけ探求できるかだという。

 「重要視しているのは、次の6つの点です。いまあなたが行っていることは、本当に世界に必要なのか。そのことを実践するときに、お金に関係なく信頼を寄せてくれる仲間はいるのか。あなたがその事業を行う理由があるのか。全身全霊をかけてできるのか。自分の人生にとって喜びとなるのか。明日死ぬことになっても、心から笑えるくらいにやり切っているといえるのか。この6つの問いに対して常にイエスといえる状態を作ることが最低ラインです。

 大企業に勤める人は、why(なぜ)を聞く力が弱いです。新規事業はwhyをきちんと語れないようではうまくいきません。金儲(もう)けのためだけでは、他社から『事業として大丈夫なのかな』と思われるので、なぜその事業に取り組むのかを探求できるように対話をします」(渋谷氏)

シンガポールで実践する「ダイビング・プログラム」

 ブートキャンプに参加した後は、「4Dモデル」によって実践的なプログラムが用意されている。デザインシンキングは、海外から講師を招いて、4日間にわたって実施する。ローカライズすることなく、通訳をつけて質の高い講座を提供している。

 「メンバー企業の中には、『すでにデザインシンキングは経験している』と話す会社もありますが、よく聞くと半日のセミナーを受けただけでした。マインドを変えるのに、半日で変わるはずがないですよね。しかも、世界最高のものを提供しようと考えて4日間のプログラムを組んでいるのに、忙しいので2日でできないかと言ってきます。日本の企業は教育を甘く見ていますね」(西野氏)

 さらに、DBICの最大の特徴ともいえるのが、「ダイビング・プログラム」だ。短期間で事業創出に挑むこのプログラムは、シンガポールに半年近く滞在して取り組む「シンガポールイノベーション実践プログラム(SIP)」と、日本で半年間、週1回イノベーション実践プログラムに取り組む「JIP」の2つがある。

 特にシンガポールで取り組む「SIP」は、事業を完全に立ち上げることを目標にしている。所属している会社は関係なく、カルチャーが違う現地のパートナーと関係を作りながら、個人でゼロから事業の立ち上げを目指す。

 「参加者がシンガポールで苦労するのは、就職の概念が違う点です。日本の場合は『就社』ですが、向こうでは会社は関係なく、あくまで自分がどんな職についているのか、何ができるのかが問われます。もちろん新規事業は簡単に進まず大変ですが、自分を徹底的に見つめ直す貴重な機会になると思います」(西野氏)

大企業だからこその挑戦を

 「ブートキャンプ」や「ダイビング・プログラム」の参加者の中には、すでに新規事業を立ち上げて活動している人たちがいる。

 住友生命保険の社員は、シンガポールで障害者向けのコワーキングスペースを開設する実証実験を19年9月に実施した。国内では、日本ユニシスの社員が、DBICの長野県版ともいえる「一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)」の立ち上げに、地元経済界などとともに参加。まちづくりとイノベーションの拠点となる「地域共創ラボ」を19年10月に開設している。

 DBICが用意しているプログラムは、内容によって若手から中間管理職を対象としたものまであるが、SIPやJIPに参加しているのは30代が中心だという。

 「20代は少し若いし、40歳を超えると少し考えが鈍くなるので、入社10年を超えた人が多いです。その世代が、いまの日本の大企業を変える、最後の砦じゃないでしょうか。プログラムを受けた人の中には、会社に戻って何も変えようとしない50代を見て、この組織にいる価値がないと思って独立する人もいます。

 その問題点は、上層部も理解してきています。ですから、若手からの提案を受けた部長クラスに、『こういうことを社内で実施してもいいのでしょうか』と聞かれたときには、『もちろん』と答えています。日本の企業は予算や人事に口を出さなければ、何でもできます。大企業においても、イノベーションの環境を作ることは可能だと思っています。

 上層部に理解があれば、若手は本当にやりたいことができるし、個人で自分の預金通帳を気にしながら進めるよりも、組織を利用した方がメリットは大きいでしょう。居直ってイノベーションに取り組めばいいのです」(西野氏)

phot

いまこそ日本人には「素直さ」が必要

 DBICは現在もプログラムの内容を試行錯誤しながら、大企業のイノベーター候補の育成に取り組んでいる。今後、日本の企業がイノベーションを起こすためにはどのような人材が求められるのか、西野氏に聞いた。

 「日本人はここ20年くらいボーッとしていたので、学び直しをしないと厳しいのではないでしょうか。これまでの延長線上で考えるのではなく、明治時代のように外からもう一回学び直して、日本人のいい部分をどう生かすかを模索する必要があります。

 それを偉そうにやっていたら駄目ですね。だから、いまの日本人にとって何が一番大事かと言うと、素直さです。素直に事実を認めて、いま起きていることを理解すべきです。 好奇心があって、勉強して分かったことを素直に認める。そのときに認知能力が高いと、いろいろなことが見えるので、行動に移すことができます。この連鎖によって人は変わり、成長します。個人が成長していくことで、大企業にもイノベーションは生まれてくると思っています」

phot DBICのオフィス

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