脱「紙とハンコ」で注目を集める電子契約サービス そのメリットと、見落としがちなポイントとは?弁護士に聞く

政府を中心に20年以上前からペーパーレス化への動きはあったものの、これまで「紙とハンコ」から抜け出せなかった日本企業。その理由はどこにあるのか、そして今、注目を集める電子契約のメリットなどについて、デジタルに関する法律に詳しい天野文雄弁護士と電子契約サービス「Adobe Sign」を提供しているアドビの担当者に聞いた。

» 2020年07月17日 10時00分 公開
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 新型コロナウイルスの影響をきっかけにテレワークが急速に広まっている中、日本企業の問題点が明らかになりつつある。特に、総務や法務といった分野を担当しているバックオフィスの人たちが、書類の処理やハンコを押すために、感染のリスクを抱えて電車に乗っているとニュースで放送され、注目を集めたのは記憶に新しい。こうした事態を受けて、各社が提供するクラウドを介した電子契約サービスの導入を検討する企業が増えている。

実は20年以上前から進んでいた法整備

 新型コロナの感染拡大で脚光を浴びたかに見える電子契約だが、実は政府では企業のペーパーレス化を進めるべく、20年以上前から法体制を整備してきている。1998年に「電子帳簿保存法」、2001年に「電子署名法」、2005年には「e-文書法」が施行された。電子帳簿保存法では、国税関係の書類をデータで保存できるようになった。タイムスタンプを付けたり、文書の管理規定を設けたりするといった要件の下で、スキャナーで電子化することが認められたのだ。05年のe-文書法では、より広い業種で紙の書類をデータ化するための要件を規定している。

 直接的に電子契約と関係するのが、認証業務に関する電子署名法だ。一般に、契約書にハンコが押されると、本人の意思に基づいて作成されたことが推定される。つまり、本人が内容を確認・承認した証明がハンコとなるわけだ。あくまで契約は口頭などでも成立するが、仮に裁判となった場合には成約した証拠として、押印された契約書が存在するかどうかが焦点ともなりえる。電子署名法によって、この押印に関する解釈が広がったのだ。

 コーポレートガバナンスや、デジタルに関する法律分野に詳しい天野文雄弁護士は「特殊な事情がなければ、ハンコが押されていれば、本人の意思が表れているということが推定されます。これは、電子署名法が制定される以前には、ハンコ以外だと実現できないものでした。それが電子署名法によって、一定の要件を満たした上で本人が署名をすれば、ハンコと同等の効力があると規定されたのです」と話す

弁護士の天野文雄氏

なぜ、民間で電子契約は浸透してこなかったのか?

 政府で20年以上も前から法整備が進み、企業でも機運が高まりながらも法務業務、特に契約関連業務のペーパーレス化が進んでいない理由はどこにあるのだろうか。天野氏は、2つの要因があると解説する。

 一つ目は、先述した電子署名法で規定された、電子でなされた署名がハンコと同じ効果を持つための「一定の要件」だ。天野氏は「電子署名法の第三条は、本人による電子署名にハンコと同じ効力を与えています。そのため、ハンコと同じ効力を持たせるには、利用者自ら認証局への認証手続を行う必要があります」と話す。これはどういうことなのだろうか。

 一般に、電子契約を巡っては「電子署名」と「電子サイン」という言葉が使われている。同じように見える2つの単語だが、厳密には異なるものだ。電子署名とは、認証局に本人確認書類などを提出し、本人であるという証明書を発行してもらい、それを基に行う署名のことだ。一方、電子サインはメールアドレスなどによる本人確認と、プロセスなどを記録して改ざん防止措置を取った形でなされるものを指す。

 書類によっては本人による電子署名が必要なケースもあるが、多くの書類では電子サインでも問題ないと天野氏は話す。ただ、電子契約の導入に際して、企業が最も気にするのが「締結した電子契約が法的に有効なのかどうか」ということ。そのため取りあえず、より安全そうな本人による電子署名の方がよいのではないか、という流れになっていたのだ。

 しかし、本人による電子署名をする際には、認証局に本人確認書類を出して登録するだけでなく、更新の作業もしなければならない。その都度登録料や更新料が発生するうえ、その作業自体も手間になる。一方、従来のハンコであれば1本作るだけで以降も更新料などはかからず使うことができる。こうしたコストが、電子契約導入のネックになっていた。

 また、日本企業の文化も、電子契約が進まなかった要因だ。特に大規模な企業だと、ハンコに関する印章管理規定などを定めていることも多い。どのハンコをどの文書に誰がどのように使うのかを規定しているものだが、この規定を改定するのには大きな労力がかかる。わざわざこうした手間をかけて、電子化するほどでもない、と現状維持をした企業も多かったのではないかと天野氏は解説する。さらに、契約となれば自社だけではなく、相手方の同意も必要となる。社内は説得できても、相手企業の説得もしなければならないと考えると、二の足を踏む企業が多かったのは仕方ないといえるかもしれない。

電子契約のメリットとは?

 ただ、電子契約を導入することで得られるメリットは数多い。まず分かりやすいメリットは、印紙を貼らなくて済むことだろう。契約書にはさまざまな条件で印紙を貼る必要があるが、こうした面倒な作業がなくなるのはありがたいところ。もちろん、印紙の代金を節約できるというのも大きなメリットだ。

 契約締結までのプロセスがスピーディーになるというのも見逃せない。契約書を紙で作成してハンコを押して、送付し、相手が押印して返送してくれるのを待つ……というのが、従来における一連の作業。一方、電子契約を導入すると、相手のメールアドレスに署名依頼を送り、相手は確認して署名ボタンを押すという作業で済むようになる。

 さらに副次的な効果として、紙の契約書を保管する手間もなくなる。大量の紙をラックに保存しなくて済むので、スペースの節約になるだろう。契約書を電子化することで、検索しやすくなるのもメリットとして挙げられる。従来であれば、日付順で並べて保管しても、目当ての契約書を探し出すのには手間がかかっていた。電子化していれば、キーワードを入れればすぐに検索できる。コスト面でも業務効率の面でも、紙とハンコの契約書を電子契約に切り替えるのはとても大きなメリットを得られるのは明らかだと天野氏は話す。

効率化だけでなく、証拠保全性も重要

 数ある電子契約サービスだが、どういったポイントに注目して導入を決めればいいのだろうか。「Adobe Sign」を提供しているアドビでビジネスデベロップメントマネジャーを務める昇塚淑子氏は、「電子契約を導入する際、契約業務の効率化だけが取り上げられる傾向にあります」と指摘する。

 昇塚氏は「電子契約で本当に重要なのは、締結した5年後、10年後にその書面を閲覧できるかどうかです」と、証拠保全という点も重視すべきだと話す。せっかく契約しても、万が一裁判などになった際、その書面を参照できなければ意味がないからだ。

 契約書のほとんどは、最終的にPDFの形で保存されることが多い。そのPDFの閲覧環境を提供しているアドビのAdobe Signは、証拠保全の観点からも安心できるだろう。

内閣府などが示した「押印についてのQ&A」、一部抜粋

 一気に広がったテレワークで表面化した「ハンコ問題」を受け、内閣府・法務省・経済産業省は6月19日に「押印についてのQ&A」を公開した。メールアドレスや本文などの送受信の記録を記録していれば、文書の成立の真性を証明する手段となるとしたのだ。これを受けて、民間企業ではこれまで以上に電子契約が広がっていくものと推測される。

 「ハンコや紙の問題は、法務部門だけに関係する話ではなく、全社的な課題です。対外的な文書をいきなり電子化するというのは難しいこともあるので、まずは社内向けの小さな文書からスモールスタートで効率化し、全社のテレワーク体制を構築していくのもいいでしょう」(天野氏)

 

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提供:株式会社大塚商会・アドビ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2020年8月17日