起業家育成、プログラミング教育、デジタルコイン サツドラが北海道で仕掛ける地域コネクティッドビジネスとは?「変化できる企業」に

» 2020年12月02日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 札幌市に2020年10月、地域をリードする起業家やエンジニアを養成しようと「G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO」が開校した。札幌市に本社があるサツドラホールディングス(HD)のグループ会社シーラクンスが、「G’s ACADEMY」(ジーズアカデミー)を運営するデジタルハリウッドとともに立ち上げたものだ。

 サツドラHDは1972年にサッポロドラッグストアーとして創業し、北海道内を中心に「サツドラ」ブランドで200店舗以上を展開。2014年に北海道の地域共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」を導入したほか、プログラミングを中心とした教育事業なども手掛けている。

 ドラッグストアがポイントカードサービスを運営する事例はあるものの、起業家やエンジニアを養成するのは、一見ビジネス的にはつながりのないようにも見える。しかし、同社では一連の事業を「地域コネクティッドビジネス」と定義し、新しいビジネスを展開。旧来のドラッグストアの枠にとどまらない独自の立ち位置を築くことによって、業界で存在感を示している。「北海道が抱える課題を解決する」という地域コネクティッドビジネスの狙いを、サツドラHDの富山浩樹社長に聞いた。

phot 富山浩樹(とみやま・ひろき) 1976年生まれ。札幌の大学を卒業後、日用品卸商社に入社。2007年株式会社サッポロドラッグストアーに入社。営業本部長を経て2015年5月に代表取締役社長に就任。2016年8月にサツドラホールディングス株式会社を設立し、現在代表取締役社長兼CEO。北海道札幌市出身

「地域の新しいOS」を作る

 G’s ACADEMY UNIT_SAPPOROが開設されたのは、札幌市東区に今年9月に完成したサツドラHDの新社屋だ。新社屋の1階はドラッグストア店舗。2階は「EZO HUB SAPPORO」というエリアで、会員制のシェアオフィスや知識のインプットの場として3000冊以上の書籍が並ぶ「BOOK LOUNGE」、共有型のオープンスペース「HUB SPACE」などがあり、G’s ACADEMY UNIT_SAPPOROの受講生は「HUB SPACE」を無料で利用できる。

 10月31日には第1期生20人が入学した。新規事業の立ち上げを目指す起業家、不動産業などの経営者、市役所の職員、大学の医学部生など幅広い人材を集めた。北海道にいながら東京や福岡のジーズアカデミーと同じ授業をリアルタイムに、かつ双方向で受講し、プログラミングを基礎から習得できる。卒業制作のプロトタイプとビジネスプランで、1社最大500万円の投資をサツドラHDから受けるチャンスもある。

 サツドラHDは「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」というビジョンを掲げている。G’s ACADEMY UNIT_SAPPOROの開設はその一環だと富山社長は説明する。サツドラが現状の立ち位置から「規模拡大」にフォーカスして業界のナンバー1を目指していくには高いハードルがある。そういう状況で自分たちの価値をどう出していくかを考えたときに、「地域のインフラ産業をチェーンストアが担う」ことをコンセプトとした戦略を取っていくことを考えたのだ。

 「サツドラのビジョンを言い換えると、北海道地域の新しいOSのようなものを作っていくことです。ドラッグストアを大きな核にしながら、新たなビジネスを進めるためには、“場”が必要です。ジーズアカデミーを開設した新社屋は、インキュベーションとして機能させる場として立ち上げました」

phot G’s ACADEMY UNIT_SAPPOROが開設

イノベーションを生み出す場づくりと、IT人材の確保

 富山社長によると、この新社屋では2つの課題解決を考えているという。1つはスタートアップによるイノベーションを社会実装すること。5年前から企業コミュニティーを作る活動をしてきたものの、スタートアップと企業がコラボしようとしても、うまくいかないケースも少なくないという。

 「ある程度の規模を持つ企業がスタートアップに投資をした場合、最初は良好な関係ができるけれども、途中から『前例がない』と言われたり『本業に還元がない』と言われたりして、なかなか稟議が通らないという話もよく聞きます。

 でも、主体的に何かに取り組まなければ何も始まらない。僕らはさまざまな会社と連携を取りながらサツドラの中で生まれたクラウドPOSを会社として独立させたほか、小売店向けのAI(人工知能)カメラシステムをAIソリューションの会社と協業しています。

phot サツドラHDは小売店向けのAIカメラシステムをAIソリューションの会社と協業している

 エジソンの発明のようにゼロから生まれるものは、なかなかないですよね。1社の知見だけでは初めから面白いことを成し遂げるのは難しい。だからいろいろな人が交流できるインキュベーションオフィスを作りました。場を作ってただ貸すだけではなく、多様な人や企業がコラボレーションしていくことがこれからのイノベーションの種だと考えています」

 もう1つの課題は北海道のIT人材不足を解消することだ。子会社のシーラクンスは、小中学校のプログラミング教育をはじめ、地域のICT教育を担う目的で18年に立ち上げた。その取り組みを知ったデジタルハリウッドSTUDIO札幌の森田宣広社長から声をかけられたという。

 「北海道にIT人材が少ないことは、多くの方が課題と感じています。せっかく同じ地域にいるのにバラバラに人材育成をしても仕方がないので、『一緒にやっていこう』という話になり森田さんと意気投合したのが、ジーズアカデミー開設のきっかけです。新社屋ができるタイミングとも合致して、うまくつながることができました」

phot G’s ACADEMY UNIT_SAPPOROの受講生、竹内信二さん「現在サツドラホールディングス入社2年目で、店舗業務にあたっています。プログミングは全くの未経験ですが、サツドラの現場からの課題解決に加えて北海道に貢献したいという想いが強くあり、想いをプロダクトにつなげたいと思います」
phot 吉田陽香さん「旅行会社で給与計算事務をしています。業務の中で、RPAというAIのシステムを使い始めて、プログラミングの未来を感じました。プログラミングで、この世界に『楽しく楽(ラク)できるもの』を創り出したいと思っています」
phot 東山博計さん「高校卒業後、札幌市の市役所に勤務し、現在は南区の地域振興課でスポーツイベント等の企画・実施を行っています。G’s ACADEMYでは、『地域を明るくする』プロダクトをつくりたいと思っています。図書館に入り浸っている高齢者の方々やスーパー銭湯に集まって時間を過ごす地域の方々を、地域社会に参画させるプロダクトをつくります」

地域コネクティッドは道州制単位の経済圏で

 サツドラHDが掲げる地域コネクティッドビジネスは、どのような発想から生み出されたのか。最初の取り組みは14年の北海道地域の共通ポイントカード「エゾカ」の立ち上げだった。買い物でたまったポイントを、現金の代わりに利用できるほか、共通お買い物券などに交換できる。

 エゾカの活用は年々広がり、自治体とタイアップして子育て世帯への特典を提供するほか、サッカーJリーグの北海道コンサドーレ札幌など、スポーツチームとコラボしたカードも用意。発行手数料や利用額の一部をチームに還元させる仕組みを作っている。現在ではドラッグストアと並び、事業の大きな柱に育った。

 エゾカを運営している子会社をリージョナルマーケティングと名付けたが、この社名には「地域コネクティッドビジネスへの思いを込めた」と富山社長は語る。

 「リージョナルの意味はローカルでもナショナルでもない、地域の生活圏の単位です。日本では今後、道州制の単位程度の経済圏を作っていく必要があるのではないでしょうか。市町村単位では成り立たないけれど、北海道の規模であれば経済圏として成り立ちます。北海道を全国のモデルケースにしようという思いを込めて、あえて社名にも北海道とは入れずにリージョナルマーケティングと名付けました」

 エゾカはドラッグストアとともに、サツドラHDが目指す「地域のOS」のベースになる。もともとドラッグストアとしての知名度がある中で、エゾカや教育事業を面として広げていく。あくまで経済の側から地域づくりをしていく発想だ。

 「大阪や福岡などは行政が引っ張っている感じを受けますが、本来は民間企業が地域を引っ張っていくべきではないかと思っています。特に新しい分野を生み出す時にはスピードが重要で、民間の方がやりやすいのではないでしょうか。地域の民間企業が経済圏を形成して、もし乗っていただけるのであれば、自治体は後から乗ってきてもらえればと考えています」

phot 北海道コンサドーレ札幌をサポートするプログラム「コンサドーレEZOCA」

ビジネスとしてのマネタイズとエコシステム

 北海道の広い経済圏で地域コネクティッドビジネスを展開すると、投資にはかなりの費用がかかる一方、利益を生み出すのは難しいのではと疑問が湧く。しかし、富山社長は「あくまでビジネス戦略として進めています」と胸を張る。

 「地域コネクティッドビジネスを進めることは経営面でも意義があります。地域の生活インフラを担っている業者だからこそ、還元モデルが成り立つと考えています。

 確かにエゾカはポイントカード事業だけで考えると非常に薄利です。大手のポイントカードに比べると、半額くらいの手数料で提供していますし、地域の企業も高い手数料は払えません。

 ただ私たちには、利益が薄くても、面を広げることによって経済圏を広げれば、ドラッグストア側でマネタイズできるモデルがあります。エゾカをブロックチェーン技術でデジタルコイン化するプロジェクトも進めています。人もデジタルもつながることで、エゾカのデータを生かした循環モデルが実現できると考えています」

 教育事業についても子会社のシーラクンスを立ち上げると、すぐにビジネスとして成立させた。シーラクンスではデジタル社会に通用する人材の育成を目的に、幼児からシニアを対象とした「D-SCHOOL」などを道内で展開。北広島市の札幌日本大学学園とはパートナーシップ提携を締結し、21年度の中学校のプログラミング教育必修化に向けて共同でカリキュラムを作成している。

 また、恵庭市の北海道テクノロジー専門学校ともIT人材育成のために提携し、共同で講師の派遣やイベントなどを企画。シーラクンスの小中学校向けのプログラミング教室を専門学校で実施し、専門学校の学生が講師をするというエコシステムも構築した。

 「学校との連携もビジネスとして実施しています。北海道内でIT人材が育ってくれば、地場企業からも人材が欲しいという声が出てくるでしょう。シーラクンスは人材事業も展開しているので、そこでもマネタイズができます。教育事業に厚みが出ることで、新社屋のシェアオフィスも満室になりました。地域コネクティッドビジネスは、一石何鳥にもなっていると思っています」

小売業は単一事業では残れなくなる

 富山社長は札幌などの都市部だけでなく、町村や離島も含めてビジネスの面を広げている。過疎地域といわれるような場所であっても、地域コネクティッドビジネスが貢献できることは「まだまだある」という。

 「25年には北海道内の179市町村のうち、50%以上の自治体が人口5000人以下になります。5000人以下で成り立つ小売業がどれほどあるでしょうか。小売業だけでなく、全てのサービス業、行政インフラ、生活インフラも成り立つものは少ないでしょう。

 人口減と高齢化率の上昇といった課題を解決しようと考えたときに、『選択と集中』というような言い方をする人もいますが、サービス業が単一事業で残るのは難しいと考えています。ではその町から人がいなくなるかといえば、そんなことはありません。医療、健康、移動、生活インフラなどの問題を全てつなげて、面で取り組むことによって、持続可能なまちづくりができるのではないでしょうか」

 2050年代には日本の人口が1億人を切ると見られている。国は仮想空間と現実空間を融合させたシステムによって経済発展と社会課題の解決を図る「ソサエティー5.0」という考え方を提唱。サツドラHDは北海道から「ソサエティー5.0」を実践しようとしている。

 「北海道は全国の中でもいち早く人口減と超高齢化が進んだ状態になります。日本の地方はどこも遅かれ早かれ同じ状況になり、多くの社会課題が顕在化するでしょう。ソサエティー5.0に私たちのビジネスがどうフィットするのかを見ながら進めていきたいですね」

phot

いかに変化できる企業になれるか

 サツドラの地域コネクティッドビジネスは、今後日本が抱える課題の解決を視野に入れている。その際に必要なのは、理解者や仲間を増やすことだ。

 富山社長はメディアプラットフォームの「note」に、北海道経済コミュニティーの「えぞ財団」を立ち上げた。参加しているのは北海道内の企業のほか、自治体の首長や職員、医師、主婦などさまざまだ。オープンスクールの開催や、副業のプロジェクトなどの活動をしている。

 特徴は、実際にプロジェクトを動かしている途中で情報発信を行うことだ。その情報を知った人がまたそのプロジェクトに集まってくる。大事なのは「フラット」で「オープン」であることだという。

 「経済団体のようなものは別に悪いわけではないですが、誰かの講演を聞くためにスーツを着て集まって、名刺交換はするけれども、その後は何もしないこともありますよね。昭和時代にできた仕組みは、地域経済を動かすためには変えていかなければならないと感じていました。そのためにフラットでオープンなコミュニティーをつくっています」

 では、同じ志を持つ仲間を見つけるにはどうすればいいのだろうか。コラボレーションの秘訣を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

 「草の根運動じゃないですかね。企業に対してだけでなく、これからは人に対して草の根運動をする必要があります。意思決定が遅く、新しいことを受け入れない人が多い企業でも、内部には共鳴してくれる人が必ずいるはずです。そういう人たちが企業を超えてつながっていくのではないでしょうか。

 変わることができない企業は、中にいる人が飛び出しますよね。サツドラも変わらない企業になれば、変わらないことが好きな人が集まる会社になるし、変わろうとすれば、変わることに共鳴する人が集まるようになると思っています」

 ドラッグストアから地域コネクティッドビジネスへと大きな転換を遂げているサツドラHDは、これからもさまざまなコラボレーションを進めていく。それは20年後、30年後の未来を見据えてのことだ。

 「iPhoneが世の中に出てきて、まだ13年しか経(た)っていないことを考えると、どんな未来になるかは誰にも分からないですよね。その未来を生き抜くためには、いかに変化できる企業になれるかが必要なことだと考えています」

phot 北海道を盛り上げたい企業や個人が、共に学び、行動していくためのコミュニティー「えぞ財団」(「えぞ財団」のnoteより)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:アトラシアン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2020年12月15日