福岡市から日本のDXを進める高島宗一郎市長を直撃「福岡がロールモデルとなり日本を変える」脱ハンコ完了

» 2020年12月17日 10時00分 公開
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 国に先駆けて、2年前から行政書類の押印廃止を進めた福岡市。市が単独で見直せる約3800種類の書類について、「脱ハンコ」を完了したのが2020年9月。くしくも国が「脱ハンコ」に取り組む方針を打ち出したのと同じタイミングだった。

 福岡市は全国の政令指定都市でいち早く、コンビニでの証明書(住民票の写し、印鑑証明書など)の交付を実現したほか、LINEと連携した住民サービスの提供など、さまざまな形で行政手続きのオンライン化を進めている。デジタル化を推進しているのは、2010年に民放のアナウンサーから転身して初当選し、現在3期目の高島宗一郎市長だ。行政のデジタル化は全ての世代に利便をもたらすとして、「脱ハンコ」を契機にさらなるDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める方針だ。

 「福岡市でロールモデルを作ることが、日本を最速で良くすることにつながる」と語る高島市長に、行政のDXに取り組んできた経緯と、実現するための組織のマネジメントを聞いた。

phot 高島宗一郎(たかしま・そういちろう)1974年大分県生まれ。大学卒業後は九州朝日放送に入社し、アナウンサーとして朝の情報番組などを担当。2010年に退社後、福岡市長選挙に出馬し、史上最年少の36歳で当選。14年と18年、いずれも史上最多得票を更新し再選。14年5月に国家戦略特区(スタートアップ特区)を獲得、スタートアップビザをはじめとする規制緩和や制度改革を実現し、福岡市を開業率3年連続日本一に導く。17年、日本の市長では初めて世界経済フォーラム(スイス・ダボス会議)へ招待される

ハンコレスは住民サービス向上のため

――高島市長は、全国に先駆けて行政手続きのオンライン化を進めています。どのような問題意識から、行政のデジタル化に取り組んでいるのでしょうか。

高島市長: 今の社会の大きな課題は、少子高齢化が進んで、支える側と支えられる側のバランスが崩れていることです。若者の数が増えない中、テクノロジーやロボットなどが、支える側として大きな力になるのではないかと思いました。そうすることで、福祉や高齢者対策など人のぬくもりが必要な分野に多くの職員を充てていきたいと考えています。

――現在ではマイナンバーなども活用して、さまざまな手続きのオンライン化を進めているそうですね。

高島市長: 手続きのオンライン化は、IT国家のエストニアを参考にしています。エストニアのユリ・ラタス首相とは2018年のダボス会議をきっかけに友人になり、オンラインでさまざまな行政サービスの手続きができる電子政府の取り組みをプレゼンしてもらいました。同じことを福岡市でもやろうと思った時に、障害になったのがハンコでした。

phot ユリ・ラタス首相とエストニア・タリンにて

――ハンコ自体が、オンライン化の障害ということですか。

高島市長: なぜかというと、ハンコを押すためにはまず紙が必要になります。ハンコを押して提出してもらった書類は、職員がPCに情報を入力しなければなりません。電子化して(定型業務を自動化する)RPAなどで作業を進めれば、その職員は浮きますよね。繰り返しになりますが、そこで浮いた人員を人のぬくもりが必要な分野に充てるという発想です。だから、紙からオンラインに変えるために、ハンコを押すという物理的な作業をなくすことにしました。

 国もハンコレスの方針を示していますが、何のためにやるのかを意図している人は少ないのではないでしょうか。ハンコレスによる合理化は行政からの見方です。役所に手続きに来る必要がなくなるという市民の利便性向上、そして、福祉や高齢者支援分野などへの人員の配置という意図が理解されると、ハンコレスの意味がもっと伝わると思っています。

――ハンコを手続きからなくすことについて、職員から不安の声はなかったのでしょうか。

 職員は幅広い部署に1万6000人もいますので、ハンコを押さないと不安だと思う人がいたのは事実です。押印がない書類は、訴訟になった際に証拠として使えるのかなどの声もありました。そうした不安を一つ一つ解消していきました。もしかしたら、今回、福岡市が全国に先駆けてハンコレスを実現したと報じられたことによって、初めてその意義を理解した職員もいるかもしれません。

――変化を前にすると、何が起きるか分からないが故の不安も大きいということですね。逆に言うと、変化の中身が分かれば、不安も解消されるのでしょうか。

高島市長: そうですね。ハンコレスに限らずですが、例えば、福岡市では、市職員や学校教員の採用の申し込みをオンラインでできるようにしています。その結果、今では8割以上の方がオンラインを利用しています。つまり、便利だということが分かれば、新しい方法であっても利用したいという人が、それだけいるということですね。

phot 福岡市役所

LINEと連携した住民サービスも提供

――福岡市では他にもオンラインで済むことがたくさんあり、LINEとも連携して住民サービスを提供しています。また、LINEの福岡市公式アカウントには人口約160万人に対し、170万人以上が友達登録をしています。LINEとの連携はどのように始めたのでしょうか。

高島市長: 福岡市にLINE Fukuokaが設立されたのがきっかけですね。LINEの開発部門の人たちがいらっしゃるので、LINEでできる住民サービスを一緒につくっています。例えば、自宅の前の道路に穴が空いている、ガードレールが壊れているといった不具合を見つけた時に、写真を撮ってLINEで送ってもらえれば、その日のうちに担当部署が現地に行って仮の補修をします。

 生活に密接したサービスも多く、粗大ごみを出す時には、取りにきてもらう日をLINEで予約して、支払いもLINE Payで終わらせることができます。コンビニで粗大ごみの処理券を買う必要はありません。それ以外では、災害支援での活用ですね。

phot LINEの福岡市公式アカウント
phot 道路に穴が空いている、ガードレールが壊れているといった不具合を見つけた時に写真を撮ってLINEで送れば、担当部署が現地に行って確認するという

――災害支援にどのように活用しているのでしょうか。

高島市長: 災害支援の現場はすごくアナログで、前時代的です。聞き取ったことを紙に書いて、それぞれの組織が紙で持って帰るので、自衛隊、自治体、NPOなどで情報が重複しますし、お互い共有もされていません。その結果、支援のニーズが分かっているのに、誰が支援に行くのかが明確にならずに、見逃すことも起こりえます。

 この問題点を、2016年の熊本地震の支援活動に参加した際に強く感じました。災害情報がデジタルになって、クラウドで全ての組織がアクセスできるようになればと思い、災害時の情報共有にLINEを活用しました。

phot 熊本地震の際のLINEのやりとり

福岡市でロールモデルを作って日本を変える

――高島市長は2010年に36歳で初当選する直前まで、福岡県内の放送局のアナウンサーをしていました。政治家を目指したのはいつ頃からだったのでしょうか。

高島市長: 学生時代に中東問題に関心があって、エジプト、イスラエル、パレスチナを訪問したことがきっかけでした。海外に行くと、日本を客観的に見ることができます。中東から日本を見ることで、これまで先人が築かれてきた日本のすばらしさを実感し、自分も日本をもっと良くしたい、政治家になりたいと思うようになりました。

――学生の頃に政治家を志して、なぜアナウンサーに?

高島市長: 学生時代に読んだ本に、「選挙に強くないとやりたいことができない」と書かれていて、なるほどと思いました。選挙に強くなければ、任期中の4年間は、政策を進める政治活動ではなく、票集めに奔走する選挙活動になってしまうのです。

父がサラリーマンでしたので、私にはジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)といった政治家になるための、いわゆる「三バン」がありませんでした。それで、まずはアナウンサーになって、皆さんに顔を知っていただくことを目指しました。

――そうだったのですか。

高島市長: アナウンサー時代は朝の情報番組に出演していたのですが、午後から時間があったので、九州大学の大学院で政治学を勉強していました。そして、アナウンサーになって13年がたった時に、福岡市長選挙に出馬しないかと声がかかり、選挙に出馬して、初当選したのがちょうど10年前の11月です。

――政治家を目指していたということは国政も考えていたと思いますが、福岡市長選に出馬したのはなぜでしょうか。

高島市長: 出馬の話をいただいたときに、福岡市長という道に導かれているのだと直感的に思いました。

 ちょうどその頃、橋下徹さんが大阪府知事、東国原英夫さんが宮崎県知事で、日本の政治はなかなか変わらないのに、地方は首長によって大きく変わるのはなぜだろうと疑問に思っていました。その理由は、日本と言っても、個性がバラバラな地域の集まりだからです。各地域が一律によくなることは現実にはありませんが、それぞれの地域が良くなって、それが合わさった時に日本全体がすごく良くなるのではないかと思いました。

 こうしたさまざまな思いがパズルのように組み合わさり「これだ!」と直感的に思ったのかもしれません。

――10年たって、どのように感じていますか。

高島市長: その考えは間違いではなかったと思っています。もしも10年前に国会議員になっていたとしても、今のようにいろいろなことを変えることはできなかったでしょう。政党に入ったらその方針に従わなければならないですよね。自分の考えで行動できるのは良かったと思います。

 日本では総理大臣であっても、ものごとを変えることは非常に難しいです。それは、ものを変えにくい仕組み、制度になっているからです。それに対して地方は、予算権と人事権を持つ首長が直接選挙で選ばれます。大統領制に近いですよね。だから地方はやろうと思えば変えることができます。福岡でロールモデルを作っていくことが、日本を最速で良くする方法だと、時がたてばたつほど確信が深まっています。

今の福岡市役所は「最強の組織」

――とはいえ、アナウンサーからの市長。当初は市の職員からの抵抗もあったのではないでしょうか。

高島市長: 職員は生え抜きで、60歳まで在籍しますよね。職員からすれば、私は4年間の任期付き職員のようなものです。そうすると「別にこの人の言うことを聞かなくてもいい」と思いますよね。

 私自身も、放送局の平社員から、突然社長のような存在になりました。当初は自分がプレイヤーとしてどれだけのパフォーマンスを出せるかを考えて、プレイヤーの感覚で口出しをしていたので、現場の皆さんとの溝がなかなか埋まらない状況が何年も続きました。

――その状況は、いつ頃から変わってきたのでしょうか。

高島市長: 就任当初は36歳。まだまだ若造で、どうせ4年間の腰かけだと思われていたのが、選挙で再選することによって、福岡市長としてやっていく私の覚悟が伝わったのではないでしょうか。それと、5年が過ぎた頃から、人事によるマネジメントを本気で考え始めました。攻めが得意な人は攻めの分野に、守りが得意な人は守りの分野に配置する。あるいは、攻めの人と守りの人をうまく組み合わせる。こうして、少しずつ職員の皆さんも変わってきたように思います。

 今では私のやり方や考え方も、職員の皆さんには十分に理解していただいています。それと、10年間人事が変わっていないのは私だけです。そのため、職員よりも私のほうが詳しくなっていることも多々あります。私自身が成長し、職員のフォーメーションもできて、内部での意思疎通も円滑に行えているので、今の福岡市役所は最強の組織になっていると思いますよ。

phot 高島市長(画面右下)へのインタビューはオンラインで実施した

デジタルは全ての世代に利便をもたらす

――デジタル化を進めるにあたって、高齢者などからは「デジタルは使いにくい」といった声もあると思います。どのようにフォローしているのでしょうか。

高島市長: それは2つの角度から考えています。ひとつは、移行期ですので、デジタルとアナログを両方準備しておく必要があるということです。デジタルネイティブの世代が大人になるまでは、タイムラグが生じるのは当然です。

 もうひとつは、この議論は、「デジタル対アナログ」の話に見えますが、私はそうは思っていません。ユーザーインタフェース(UI)の問題だと思っています。例えば、高齢者向けのスマートフォンと、通常のスマホは何が違うのでしょうか。

 違うのは、通常のスマホはアイコンがたくさんある一方、高齢者向けのスマホには「電話をかける」「写真を撮る」などのよく使うアイコンしかない点です。大きな文字、少ない選択肢という見た目の違いであり、中身はどちらもスマートフォンで変わりはないのです。

 だから私は、デジタルは高齢者であろうが子どもであろうが、デザインの力をうまく活用すれば、全ての世代にとって利便をもたらすものだと思っています。使いやすくするために、UIデザインが大切になるのです。

――デジタル化を進めるにあたっては、特別な組織を作っているのでしょうか。

高島市長: 2020年11月に、デジタル化を推進する組織「DX戦略課」を新設しました。UIデザインのコンセプトを全ての部署が理解して作り上げていくのは非常に大変な作業です。部署単位で個別にデジタル化を進めるのではなく、「DX戦略課」が横串を刺し、UIを意識したデジタル化を進めていきます。

――「福岡でロールモデルを作り日本を変える」といわれていましたが、どうすれば全国の行政、自治体にデジタル化を広げることができると考えていますか。

高島市長: 新たに生まれているサービスやビジネス、テクノロジーは、現在ある法律や規制ができた時には想定されていなかったものです。だから既存の仕組みでは対応できません。対応できないときに行政はどうするかと言うと、他都市の状況を見ます。よく議会の答弁で「他都市の状況を見ながら研究してまいります」と言いますよね。

 他都市に例がなければ動かなくていられますが、事例があった場合にはやらざるを得ません。「福岡市はできているのに、なぜうちの市はできないのか」という話になって、これが一番のプレッシャーになるからです。

 私はやはり日本を良くしたいと思っています。福岡市が先頭を走って実践することが、他の自治体にとって何よりの刺激になるはずです。そうすることで、日本を最速で変えていければいいなと考えています。

(終わり)

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