不確実な時代に本当に必要なデータ活用は、「社員の幸福度の可視化と改善」にありハピネスプラネットCEOに聞く「幸福への投資の大いなる価値」

» 2021年06月07日 10時00分 公開
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 ハピネスプラネットは、日立製作所(以下、日立)の外に「出島」方式で創設された、日立の先進技術や信用、営業チャネルを活用しながら、ベンチャーの俊敏さを併せ持つ新会社だ。人が無意識に起こす身体の動きから幸福度を計測するスマートフォンアプリ「Happiness Planet」を軸に、企業の従業員が前向きに行動する組織づくりのためのアプリ事業を展開している。

 そのCEOでHappiness Planetの生みの親でもある矢野和男氏に“幸せな組織”を築くための要点を聞いた。

矢野和男(やの かずお) 日立製作所フェロー/ハピネスプラネット代表取締役CEO、工学博士IEEEフェロー。1984年に日立製作所に入社し、中央研究所に配属。1993年に単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功。 2004年からウェアラブル技術とビッグデータの収集・活用技術の研究・開発に力を注ぎ、350件を超える特許を出願。開発したウェアラブルセンサー「ビジネス顕微鏡(Business Microscope)」が「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌で「歴史に残るウェアラブルデバイス」として紹介される。日本データマネジメント・コンソーシアム先端技術活用賞、Rakuten Technology Award/HEAD Award、2020 IEEE Frederik Phillips Awardなど国内外のアワードを数多く受賞。著書には2014年のBookVinegar社ビジネス書ベスト10に選ばれた『データの見えざる手〜ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(発行・発売:草思社)や『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』(同)などがある

「成功して幸せになる」のではなく「幸せだから成功できる」

 組織のパフォーマンスは、そこで働く従業員の「幸福度」、あるいは「前向きさ」で決定づけられる──。こうした考えから、従業員の働く満足度を高めようとする動きが日本企業の間で活発化しつつある。メディアの間でも、従業員の満足感や幸福感を表す「マインドフルネス」「ハピネス」「ウエルビーイング」といった用語を目にする機会が増えてきた。

 ただし、従業員の幸福度を向上させる手法や働く幸せが何によってもたらされるかについて共通の認識・理解が広く確立されているわけではない。加えて、「そもそも何に幸せに感じるかは人によって異なる」といった考え方もある。ゆえに、企業の中には待遇面の充実以外に従業員の幸福度や前向きさを増進する良策を想起できないところもある。

 言うまでもなく、従業員に対する待遇を厚くするには相応の原資が必要であり、業績が好調である、あるいは上向きであることが条件となる。となれば、全ての企業が従業員の待遇を厚くして、各人の幸福度や前向きさを高められるわけではなく、とりわけ新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響によって経済の先行きの不透明感が増している今日では、それができる企業はこれまで以上に限定的になるとの予測も成り立つはずだ。

 もっとも、日立のハピネスプロジェクトリーダーであり、昨年7月に設立した新会社ハピネスプラネットでCEOを務める矢野和男氏によれば、人から与えられた境遇・待遇が人の幸せにもたらす効果は小さく、その影響度は全体の10%程度でしかないという。

 「報酬がアップした、会社での地位が上がった、あるいはビジネスで成功して評価されたといった事象によって人が幸せを感じるのは一時(いっとき)のことで、その期間は非常に短いことがデータで検証されています。そうした与えられた境遇よりも、はるかに人の幸せに対する影響度が大きいのは、個人が持つ幸せになる力であり、持続的な幸せを得るための能力です。別の言い方をすれば、職場での境遇やビジネスの成功が人を幸せにするのではなく、幸福感を持続できる能力を持つ人が、より良い境遇や成功を手にできるということです」

 矢野氏によれば、持続的な幸福感を得る能力は、誰でも簡単な訓練で伸ばすことができ、それは科学的に証明されているという。ゆえに従業員の幸福を追求する企業が成すべきことは、持続的な幸福を得るための従業員の能力を育むことだと矢野氏は指摘する。

ハピネスプラネットが居を構える日立研究開発グループの「協創の森」

心の資本「HERO」の経営価値

 では、幸福感を持続できる能力とは果たしてどのような力なのか──。

 矢野氏によると、この能力は、道は見つかると「信じる力」である「Hope」と、現実を受け止めながら「踏み出す力」である「Efficacy」、困難から逃げずに「立ち向かう力」である「Resilience」、そしてどんな状況でも「楽しむ力」である「Optimism」という4つの力で成り立っているという。これらは幸福になるための「心の資本」であり、それぞれの頭文字をとって「HERO(ヒーロー)」と呼ばれる。

 日立における矢野氏の研究チームは、過去約17年間・1000万日分を超える大量のデータを収集し、クリエイティブで生産的な組織とは、どのような状態にある組織かを分析してきた。結果として判明したのが、HEROのマインドセットを持つ人が多い組織ほど、クリエイティブで生産性が高いという事実だった。それは、変化の激しい今日では当然の結果でもあると矢野氏は指摘する。

 「過去数十年間、テクノロジーの発達で世の中が変化するスピードは猛烈に速くなっています。変化が激しいということは、過去の経験やデータをいくら駆使したところで未来は読めず、会社の誰にも“道が見えない”ということです。そうした中で企業を成長・発展させる原動力となるのが、どこかに道があると信じて踏み出し、困難にも立ち向かい、楽しむHEROのマインドセットです。そのマインドセットを育み、高めることが、結果的に組織の創造性と生産性、そして収益の向上へとつながっていきます」

 先にも触れた通り、HEROという心の資本は簡単な訓練によって増やすことができる。そのことは、矢野氏の研究チームが2018年から83社・約4300人を対象に実施したHappiness Planetの実証実験でも証明されたという。

 この実験では、人が前向きになるための行動メニューを用意し、約4300人に毎日1分・3週間にわたって、そのメニューの中から好きなものを選び、実践してもらうという訓練が行われた。その結果をHappiness Planetで計測したところ、83社におけるHERO値が平均して約33%向上していることが判明したという。組織におけるHERO値と営業利益が正の相関にあることは科学的に証明されており、その法則に基づくとHERO値の33%増は営業利益が10%上向くのに相当する値であるという。

 「簡単な訓練でHEROの値(人の前向きさ)が33%も上昇すると聞き『そんなはずはない』と疑う方もいますが、人は誰でも100個の出来事のうち1つでもネガティブな出来事があると、99個のポジティブな出来事を忘れて1つのネガティブな出来事に注目を向けて落ち込んでしまう習性を持っています。しかも、人が物事に注目する処理速度はコンピュータのようには速くなく1秒間で1つの物事にしか注目できません。つまり、普段の私たちはかなり偏りのあるレンズで周囲の世界を捉えていて、そのせいで必要以上にネガティブになりがちになるわけです。ゆえに、そのレンズの偏りを修正する簡単な訓練をするだけで、世の中の見方をネガティブからポジティブへとガラリと変えることができるのです」(矢野氏)。

「簡単な訓練で誰でも幸福感を持続させられるようになります。それは科学的に実証されたことです」と語る矢野氏

組織の幸福を阻害する古い発想

 以上のようにHEROを育む訓練は簡単であるものの、HEROを育むための組織文化を醸成したり、マネジメントの在り方を変えたりするのはそれほど簡単なことではなく、旧来方式のマネジメントがHERO育成・開発の阻害要因になることもあると矢野氏は指摘する。

 「例えば、過去の実績に基づいて計画を立てて予算を組んで管理したり、業務を標準化して効率化を図ったり、管理したりする旧来方式のマネジメントは企業にとって大切な営みですし、ルール順守も重要ですが、それにこだわるあまり、HEROのマインドセットを圧殺してしまうおそれが多分にあります。仮に、そうなれば組織は不幸せになり、生産性は間違いなく低下します」と、矢野氏は説き、こう続ける。

 「何事も不確実ないまの時代は、過去のデータを分析しても未来は見えず、前例に従っても成功は約束されず、データに基づくPDCAサイクルが無意味化したり、全ての事業計画が見直しを迫られたりすることがいつでも起こりえます。その前提に立って、現場で働く人たちが自分の直感に従って行動できたり、これまでの社内の常識や前例から外れたようなアイデアでも、声を大にして自由に公言できたりするようなチーム・職場・働き方を実現することが大切です」

 矢野氏によれば、人の価値観の多様化やテクノロジーの発達によって、企業のビジネスを取り巻く環境は大きく変化してきたにもかかわらず、多くの日本企業の仕組みは大量生産・大量消費時代の20世紀型からなかなか抜け出せず、世の中の変化に対応できずにきたという。

 背景には、企業の仕組みは他のさまざまな仕組みと相互依存の関係にあり、何か1つを変えることが難しかったからだと矢野氏は指摘する。それがコロナ禍の影響により、ほぼ全ての企業が自分たちの存在理由は何なのかという原点に立ち戻り、あらゆる仕組みをリセットして再構築する必要に迫られているという。結果として、新しいことに挑戦するHEROのマインドセットを受け入れる素地が企業全体を通じて出来上がりつつあると、矢野氏は付け加える。

幸せな組織のコミュニケーションパターン“FINE”

 一方、HEROのマインドセットを持つ人の中にも、組織を不幸せにする「悪いHERO」がいるという。これは実際に、組織によく見受けられることがデータに出ており、自分の幸せのために人を犠牲にするのを厭(いと)わず、自分の考えや信念を押し通して、自分だけが幸せでいようとする種類の人間だという。

 その逆に「良いHERO」は自分の周囲もHEROにし、幸福にする、ないしは、そのための環境を整えようとするタイプであり、このタイプの人が多い組織は共通してコミュニケーションのパターンに「FINE(ファイン)」の特性が見られるという。

 ここで言うFINEとは「Flat(フラット)」「Improvised(即興的)」「Non-verbal(非言語的)」「Equal(平等)」の4つの特性を持ったコミュニケーションを指し、それぞれの特性については表に示す通りだ。

表:FINEなコミュニケーションを成す4つの特性

 これらの特性をまとめると、組織を構成する全員が上司・部下の関係を超えてフラットにつながり、相互の対話が自由・活発に行われ、相互信頼・共感に基づくかたちで非言語の意思疎通が有効に機能し、かつ、誰もが平等な発言権を持ち、誰に対しても安心して自分のアイデアや意見が言えるコミュニケーションとなる。

 「こうしたFINEなコミュニケーションは、“悪いHERO”が支配するような不幸な組織では起こり得ないものです。つまり、コミュニケーションがFINEであるかどうかは、その組織が幸福で生産的であるかどうかを測る有効な指標であり、組織を不幸で非生産的にしたくなければ、コミュニケーションをFINEにする努力が必要になるということです」(矢野氏)。

組織の健全性へ一層の投資を

 ハピネスプラネットが開発・提供しているHappiness Planetは、組織における上述したFINEやHEROの状態を、人の無意識な身体の動きから計測する仕組みだ。その計測には、組織の従業員が所持するスマートフォンの加速度センサーが使われている。

 Happiness Planetの仕組みは、組織の幸せの状態を「レントゲン写真」のようにデータで可視化する装置といえ、その結果に基づいて改善の療法を適用することで、普遍的な変化を組織にもたらすことが可能になると矢野氏は説明する。また、Happiness Planetでは、個々人の計測結果から改善の療法を個別化して提案・提供する機能も備えている。 Happiness Planetを市場に投入した理由について、矢野氏は次のように述べる。

 「これまで国も企業も人の身体的な健康の維持には力を注ぎ、国は国費の多くを医療に費やしています。その一方で、集団・組織の心の状態を健全に保つための投資はほとんど行われていない状況で、その健康状態を測る手法も、状態を改善する手法も実にアナログで科学とは程遠いものでした。Happiness Planetはそうした状況を打開する一手として世に送りだしたものです」

 さらに同氏は、集団・組織の心の健全性を保つことの大切さについて、あらためてこう指摘し、話を次のように締めくくる。

 「社会的な成果を生み出すのは個人ではなく集団・組織であり、集団・組織のマインドが健全な状態にあるかどうかで、個人の心と身体の健全性が大きく左右されると言えます。ゆえに、集団・組織の健全性をどう保つかの問題を脇に置いたまま、個人の身体の健康だけを守ろうとする投資は非常に偏ったもので、人と組織の未来のためには集団・組織の健全性の確保にも大きく投資すべきだと考えています」

 このように考えるのは、もちろん矢野氏ばかりではない。多くの日本企業の経営層が矢野氏と同様の考えの下で動き始めており、結果としてHappiness Planetの引き合いも増え続けているという。Happiness Planetの動静には今後も目が離せそうにない。

矢野氏が今回語った内容の多くは、同氏が記した書籍『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』(発行・発売:草思社)で詳細に語られている。人・組織の幸せづくりに活用できる一冊だ

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