月額わずか数万円、3カ月の超スピードでアプリをリリース。ガス会社の事例に学ぶ『クラウド時代の新規事業のやり方』とは

» 2021年07月08日 10時00分 公開
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 コロナ禍においてビジネス環境が大きく変わる中、顧客視点の非対面コミュニケーションを見直す「外向きのDX」と、距離を越えた企業間コラボレーションを経て開発プロジェクトを進める「内向きのDX」の両方を成功させた企業がある。

 自社サービスの「お客さまポータル」(ウチ住まるごとナビ)の新規リリースをわずか3カ月という極めて短期間で実現した東北・茨城地区を拠点とする東部ガスと、同社のシステム開発を請け負って遠隔での開発を推進した九州を拠点とする西部ガス情報システム、そして同ポータルのUI・UXデザインを手掛けたgazの3社だ。

半年以内の「お客さまポータル」リリースに挑んだ東部ガス

 今回のプロジェクトがスタートした背景には、東部ガスの他社とのアライアンスによる電力販売開始がある。同社は2016年4月から東京ガスの取次店として茨城地区での電気販売を行っているが、21年6月からは新たに東北電力との協業で東北地区の利用者に対して都市ガスと電気のセット販売を開始している。

 茨城地区での電気販売に当たっては、Web上で電気の利用実績を確認できるサービスとして、東京ガスが提供する取次店向けのシステム「Enability Portal」の仕組みをそのまま提供していた。しかし、東北電力ではこうした取次店が利用できる顧客向けの利用実績の確認のための仕組みが存在しないという問題があった。

 このままでは同じ東部ガスのサービス提供地域でありながら、その内容に格差ができてしまう。また、既存の茨城地区においても「Enability Portal」ではガス料金やリース料金などの確認が行えないなど、利便性の面で課題があり、これらを解決すべく総合的な情報ポータルの開発が検討された。

あえての「スクラッチ開発」で超短納期開発と最高の顧客体験を両立

 開発期間の短縮を考えると、システムのパッケージ導入が有力な候補になる。しかし、同プロジェクトを主導した東部ガスの吉田教弘氏が選んだのは、スクラッチから開発する道だった。プロジェクト開始からサービスインまで半年しか期間がなかった状況下で後者を選んだのはなぜか。

 「もともと半年しか期間がないということで、パッケージを導入してすぐに稼働するイメージを描いていましたが、20年末の段階で『お客さまポータルはどこでも持っているもの。後乗りにもかかわらず、パッケージ導入で特徴のないものを提供するのはいかがなものか』と判断し、今風のデザインで、かつ直感的でシンプル、個性のあるものを作っていきたいと考えました。基本的には、お客さま向けに使用量や請求金額を出すのが中心ですので、基幹システム側からお客さま側に情報を移すという仕組みになります。期間は限られますが、当社の基幹システムの開発を担当する西部ガス情報システムにお願いすれば短期間での開発が可能ではないかと白羽の矢を立てました」(吉田氏)

東部ガス 情報システムグループ システム企画・開発チーム サブマネージャーの吉田教弘氏

 なぜ開発を西部ガス情報システムに依頼したのか。もともと東部ガスでは情報システム部門の規模が小さく、システムの運用と保守が中心。基幹システムの開発は過去10年来にわたって西部ガス情報システムに依頼していた。

 つまり、下地となる連携要素があっての「お客さまポータル」開発依頼だが、今回の開発を依頼する先は基幹システムではなく、一般ユーザー目線に近いWebアプリケーションの開発部隊。開発プロジェクトを担当した上野伸一氏とも初顔合わせとなる。また、Webやモバイル向けのUI・UXデザインの制作にあたっては、gaz代表取締役CEOの吉岡泰之氏が、西部ガス情報システム側からの紹介で参加している。

実際に作り、触って、動かしてを繰り返し、最適な顧客体験(UX)を追求

 今回のシステム開発にあたって最重要ポイントは「顧客体験(UX)の改善にある」と吉田氏は話す。「ユーザーインタフェース(UI)に関しては、『利用者が自分の使用量を見る』ということ自体は、いまの基幹システムでも実現できています。しかし、大多数のお客さまに対しては利便性は必ずしも良いとはいえません。そこで、改めてユーザー視点で UXを検討し、全体の改善を進めていきました。UIおよび、その操作方法を含めて、何度も何度も作り直しました」

 gazはUIとUXに特化した福岡を地場とするデザインファームで、同市内のオンライン申請やデザインアプローチを担当したという。今回のプロジェクトではユニバーサルデザイン(※)を意識して、視認性の高い色やフォントを組み合わせつつ、ユーザーの行動を意識し、今後の拡張が可能なデザインを提案しつつ、運用におけるルール決定などを行ったと吉岡氏は説明する。

(※)年齢や障害の有無などにかかわらず、できるだけ多くの人が利用できることを目指したデザイン


 シンプルなデザインでありながらも、実際に開発中のプロトタイプを体験しての東部ガスの社内からの評判は高かったようだ。一方で、吉田氏は「あまりにもモダンすぎると高齢者の方になじみづらいデザインになる。長年のノウハウでわれわれの方がお客さまの指摘の蓄積を持っていることもあり、その判断で変更をいただいた部分もある。操作性や見やすさの部分でいろいろワガママを言わせていただいたが、迅速かつ効率的に対応できたと思っています」とも述べていた。まさに「何度も何度も」顧客体験を追求し、試行し、実際に触って動かし、変更を繰り返すことで、納得のいく形まで落とし込んでいったのだった。

お客さまポータルのメイン画面

ランニングコストはわずか2万5000円!? 超低コストを実現した「Azure Static Web Apps」

 今回の「お客さまポータル」を技術面から俯瞰すると、サービスイン直前の21年5月に一般提供が開始されたばかりの「Azure Static Web Apps」を利用しているなど、開発に最新技術が惜しみなく使われている点も大きな特徴だ。

 Azure Static Web Apps は、コード リポジトリからアプリをビルドすることによって、Web アプリケーションをデプロイする。このWebアプリケーションは世界各地の地理的に分散したポイントから提供される。これにより、エンドユーザーに最も近い拠点からのファイル転送が行われることにより、ユーザーはより高速にWebアプリケーションを利用することができる。さらに、API エンドポイントはサーバレスアーキテクチャである Azure Functions によってホストされるため、完全なバックエンド サーバが不要になるサービスだ(なお、フリープランも存在する)。

東部ガスが提供する「お客さまポータル」の全体アーキテクチャ。最新の「Azure Static Web Apps」が利用されている

 上野氏は「もともとパッケージ導入で始まったプロジェクトがスクラッチ開発に移行したことで予算的な制約が大きかったと思いますが、Static Web Appsであればコスト的な問題をクリアできるため『これしかない』ということで提案させていただきました。クラウド サービスはお金を使えばいくらでもリッチに作れますが、コストを抑える構成というのはアーキテクチャ、デザインに工夫が必要です」と背景を説明する。ランニングコストは月額2万5000円程度ということで、一般的なWebアプリケーションのシステム基盤と比較して、大幅に抑えられているのが分かる。

互いの拠点は東北と九州 遠距離のアジャイル開発を成功に導いたVisual Studio Code、GitHub Enterpriseそして Microsoft Teams

 「開発の具体的な進め方ですが、実はウォーターフォールとアジャイルのハイブリッドです。双方の考え方を取り入れて進めています。ウォーターフォールで最初の仕様を決めた後は、アジャイルで施行錯誤を繰り返していくというやり方でした」(吉田氏)

 実際、3カ月という短期間でプロジェクトを実現できた理由として「アジャイル開発」を上野氏も挙げている。「メンバーの人員配置を考えるとウォーターフォールの方が一見無駄がなくリソースを配分できるように思えますが、アジャイル形式でプロトタイピングを進めて先にダッシュボードの仕様を固めて目に見える形を作ることで、途中での巻き戻しを防ぐことができます。イテレーション(Iteration)というか、当初のダッシュボードは現在の形とは全然異なっていますが、いろいろな意見を集めてプロトタイピングで少しずつ修正を加えていきます。遠隔でのTeamsのやりとりですが、いつでもチャットでの反応があって、すぐに対応できました」(上野氏)。

 顧客体験を繰り返し試行しながらより良い形にブラッシュアップしていくというビジネスニーズに、このイテレーションがぴったりはまったといえるだろう。

西部ガス情報システム システム開発本部 システム統括部 開発技術グループ スペシャリストの上野伸一氏と同開発技術グループの末永樹里亜氏

 開発の上野氏とデザインの吉岡氏の部隊はともに九州を拠点としているが、東日本を拠点とする吉田氏のチームとは当然距離的なハードルがある。そこで吉田氏はチーム編成が決まった21年初頭に福岡を訪れ、まずは1泊2日で腹を割ってさまざまなことを話し合ったという。そしてある程度人間関係を構築した上で、残りの連携作業はMicrosoft Teams (以下 Teams) で行うことにした。「(コミュニケーションの)100%をTeamsを通じて実施するのではなく、まずは最初に対面して相手を理解することに努めました。デジタルとアナログをうまく調和することでコミュニケーションが円滑に図れたと考えています」と吉田氏は振り返る。

 以後の開発は、3つのチームがTeams上で情報共有を行うことでスタートした。週1回のサイクルで進捗ミーティングを行い、必要な情報をTeams上に残していくことでチーム全体が作業内容を確認できるよう努めた。

 吉田氏によれば、東部ガスではもともとコロナ禍に突入する前にMicrosoft 365のサブスクリプションをテスト的に50ライセンスほど持っており、テレワークの可能性を探る予定だったという。本来であれば3年ほどテストを行い、支社に順次展開していって本格稼働するつもりだったが、結果としてそれが前倒しで実行されることとなった。

 なお、2021年6月現在、管理職以上は全員アカウントを所持してTeamsを利用しており、現場に赴かずともある程度はTeamsでまかなえる段階に達しているという。同年7月には全社員にまで範囲を拡大する計画で、より活用が進む見込みだという。

 デザイン変更にまつわるコミュニケーションについて吉岡氏は「以前までは対面で細かく調整していくことが多かったのですが、コロナ以降は8割がテレワーク形態に移行しており、Teams上でも問題なく作業を進めることができました」と述べる。Teams によるコミュニケーションが、変更と改善の迅速なサイクルの繰り返しを支え、実現したのだった。

gaz代表取締役CEOの吉岡泰之氏

クラウド環境を使い倒すことで超短納期の遠隔開発を実現

 そして、開発作業にあたってもクラウドサービスをフル活用しているのがこのプロジェクトの特徴だ。東日本〜九州間の、Teamsを通じた遠隔コミュニケーションに加え、無料コードエディターであるVisual Studio Codeによるコーディングとソフトウェア開発のプラットフォームであるGitHub Enterprise上でのCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)、Azure仮想マシン上のRedmineによる進捗管理、Azure Functionsで仮想ネットワーク(VNet)を通じてのオンプレミス環境下のシステム連携まで、クラウドからオンプレミスまで、フルクラウドサービスを使い倒した環境を実現している。

開発環境も全てクラウド
実際のAzureの画面

 上野氏は「開発者にとって、ツールからサービスまで、開発のために必要なものが全てそろっていることがMicrosoft環境の魅力です。それはTeams、Visual Studio Code、そして GitHubであり、クラウドサービスが一元化され、まとまって使えることでもある。これが非常に大きいです」と述べている。

 こうして、わずか 3カ月。九州〜東日本間の2社の連携によりUXを突き詰めた新たな「お客さまポータル」が完成した。主要機能である料金表示や契約内容の確認、キャンペーンやイベントのお知らせなどは、6月のサービスローンチのタイミングで提供される。今後も各種案内や契約変更、各種支払いにまつわる機能などを追加していく予定だという。

 超短納期での実装、九州〜東日本間の「距離」を超えて実現した緊密なコミュニケーションによるコラボレーション、改善とアウトプットリリースのサイクルの高速化。そして顧客のニーズに即応できる拡張性――これらの実現は、Visual Studio Code や GitHub といった開発ツール、Microsoft Teams などのコミュニケーションツール、そして Microsoft Azure を代表するクラウド サービス群を使いこなし、つねに改善し続ける姿勢がもたらしたといえる。「外向きのDX」と「内向きのDX」の成功を支えた“クラウドネイティブ”の価値は、今後ますます高まっていきそうだ。

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