観光庁に聞く! 日本企業が「よく働き、よく休む」ためのワーケーション/ブレジャー入門数多くの企業メリットとは?

昨今、脚光を浴び始めているワーケーション/ブレジャー。本稿では、観光庁でワーケーション/ブレジャーの普及に努める桃井参事官に話を聞き、ワーケーション/ブレジャーが企業にもたらす数多くのメリットや普及のカギについて解説する。

» 2021年09月30日 10時00分 公開
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 コロナ禍以前から少しずつ広がっていた「ワーケーション」。ここにきて、テレワークの急激な普及に伴い、脚光を浴び始めている。また、最近ではワーケーションと似た概念として「ブレジャー」という言葉も出てきた。一方、ワーケーション/ブレジャーが多様化する中でそれらがどういったものか、また企業や働き手、そして地域にもたらす価値を理解している人はまだ少ない。中には「ワーケーション? ウチには関係ないから」と感じている人もいるのではないか。

 そんな状況を打開するべく尽力しているのが、観光庁の桃井謙祐氏(国際観光部参事官)だ。桃井参事官によれば、ワーケーション/ブレジャーは何も特別なものではなく、そして何より企業にもメリットが期待される取り組みなのだという。

 そこで今回は、ワーケーション/ブレジャーが企業にもたらすメリットや、普及のために必要なものなどについて桃井参事官に話を聞いていく。

これまでの旅のスタイルを「ワーケーション」が変えていく

――観光庁として、ワーケーションを推進している背景を教えてください。

桃井謙祐参事官(以下、桃井参事官): これまで、日本の旅行スタイルは、特定の時期に一斉に休暇を取得する、そして宿泊日数が短いといった特徴がありました。そのため、旅行需要が特定の時期や場所に集中しやすく、観光消費額の伸び悩みにもつながっていました。これは、日本人の休暇取得に対する意識や、特定の時期以外に長期休暇を取得しづらい、といった環境に起因しているものと考えられます。

これまで、日本国内の旅行は「長期休暇」に集中していた

 これらの課題を解決するための検討を進めている段階で、コロナ禍によりテレワークが浸透し、場所を問わない働き方が可能となりました。自宅や職場などに捉われず、自分の好きな場所や、行ったことがない地域など、場所や気分を変えながら仕事ができるような環境が整ってきたわけです。

 これは働き手にとって大変意味のあることです。自宅や職場以外で、仕事のみならずさまざまな経験をすることで、モチベーションが上がったり、新しい発想を得たりします。そして、いうまでもなく所属する企業にもさまざまなメリットがあるのです。そこで、ワーケーションが可能となってきた環境を最大限活用して、皆さんの新しいライフスタイル、旅のスタイルと働き方の可能性を広げていきながら、企業のさまざまな経営課題の解決にもつなげていただきたいと考えています。

――最近では「ブレジャー」という言葉も出てきました。これは、ワーケーションとどう違うものなのでしょうか。

桃井参事官: ブレジャーは、ビジネスとレジャーを組み合わせた造語です。欧米では一般化しつつあるともいわれていますが、出張などの機会を活用し、訪問先で滞在を延長するなどして余暇を楽しむことを指します。業務出張をベースとしたものではありますが、観光庁では、旅行需要の拡大や分散化に資する形態であるという点で、ワーケーションと同様に普及を進めているところです。

――コロナ禍の影響で、ワーケーションが急速に認知された印象があります。具体的に、どのような変化があったとお考えでしょうか。

桃井謙祐氏(国際観光部参事官)

桃井参事官: もちろん、コロナ禍に伴うテレワークの普及で通信環境やアプリケーションなどのインフラが整い、遠隔地で仕事がしやすくなったということが大前提としてあります。ただ、私はそれ以前からも“兆し”があったように思います。

 例えば、ここ数年で旅行スタイルの多様化が進んでいます。単に観光地に行き、名所を見て回って帰る、という旧来型の旅行だけではなく、訪れた先で暮らすように楽しむ、また、民泊やゲストハウスなどで人と交流しながら過ごす、というスタイルも徐々に広がりを見せていた気がします。一方で、SNSにより普段離れている人とも交流がしやすくなったり、また仕事での人とのコミュニケーションも、オンラインでずいぶん行われるようになったりしてきました。

 ワーケーションは、この「暮らすように楽しむ」という新たな旅のスタイルや、コミュニケーションスタイルの変化にもマッチしているように思います。わざわざ休日に出かけなくても、仕事をしながら平日に日常と別の場所で過ごすことが実現しやすくなりました。また、必ずしも何かを見て回ることが出掛ける動機ではないことから、観光資源が豊富ではない地域も含め、さまざまな場所に滞在の可能性が生まれます。

「これこそがワーケーション」という決まりごとはない

――ワーケーションにはさまざまな形があるように感じます。いくつかの類型に分けてご紹介ください。

桃井参事官: まずは、休暇色や福利厚生色の強いものがあります。例えば平日に海を眺めながら仕事をしたり、あるいは温泉地に長期滞在し、仕事をしながら疲れをいやして健康になったり、といった形のワーケーションです。

 一方、「ワーク」がメインのスタイルでは、出掛けた先で自分のスキルや知見を生かし、例えばその地域の良いところを発見・発信するなど、課題を解決するお手伝いをすることも可能です。また、古民家などを貸切にして合宿を行い、いつもと違う場所で気分を変えながら、新しい企画やアイデアを生み出すというような場合もあります。

 その他、出張先で用務を終えた後もその地域に滞在するといったブレジャー型も含め、さまざまなスタイルがありますし、多様な可能性があるといえますね。

さまざまな形があるワーケーション/ブレジャー

――企業のスタンスもそうですし、あるいは個人がやりたい形や過ごしたい形に沿って、さまざまな形のワーケーションやブレジャーがあるということですね。「型にはめる」というよりも、自由な発想の中で過ごしながら広がっているというイメージでしょうか。

桃井参事官: まさにおっしゃる通りで、観光庁として類型を示してはいますが、型にはまったものを定義して「これこそがワーケーションだ」というつもりは今のところありません。もともと「ワーク」と「バケーション」が組み合わさった造語というだけなので、決まったコンセプトに当てはまるものを推進するというよりは、人それぞれの仕事やライフスタイルの中で、仕事もしながらいつもと違った場所で過ごしていただくことで十分なのです。

ワーケーションが企業にもたらす豊富なメリットとは

――ワーケーションを導入することにより、どのようなメリットが生じるとお考えでしょうか。

桃井参事官: 働き手からすれば、働く場所に自由度が増すことで、時には場所を変え、職場でも自宅でもない場所で過ごせるようになり、新しい気分で仕事ができるようになります。平日に混んでいない温泉や海などに行ってみたり、あるいは山々や川の流れ、田園風景などを眺めたりしながら、ゆったりした環境の中で仕事もしつつリフレッシュできて、ストレスも軽減できるということもあるでしょう。また、アイデアが出ず困っていたときに、普段と違う場所に行ったり、普段と違う人と会いに行ったりすることで、新たな発想で物事を考え直せるようになり、それがイノベーションのきっかけになることもあるでしょう。

 また、こうした柔軟な仕事のスタイルを認めてくれる企業に対して働きやすさや信頼感を感じ、「この会社で働き続けよう」という気持ちにもなるので、「モチベーションやエンゲージメントの向上」「優秀な人材の確保」という観点で、企業側にも大きなメリットがあると考えられます。

 企業側のメリットはその他にも、従業員の成長などの効果が挙げられます。ワーケーションやブレジャーを行うことで、従業員はどこにいようと成果を出せるよう成長するきっかけにもなりますし、また、従業員が日常とは別の地域のコミュニティーで交流するきっかけが生まれ、新しい体験ができたり、これまでの経験を生かし訪問先の地域にも貢献でき、仕事に新たなやりがいを感じたり、あるいは普段と違う文化や価値観、考え方に触れることで、コミュニケーション力が向上したり、多面的な角度で物事を考えるきっかけにもなると思います。

 特にコロナ禍により、オフィスへの出勤の必要性や、人と人とのコミュニケーションの在り方も大きく変わりつつある中、ワーケーションやブレジャーは、多様な人の可能性を広げ、新たな交流や学びの機会となり、長期的に企業の競争力や価値を大きく向上させるきっかけにもなり得ると考えています。

 また、受け入れる地域にもメリットがあります。これまで人出が多くなるのは長期休暇の時期などでしたが、ワーケーション/ブレジャーが普及すれば、平日の来訪者も増えるでしょう。先ほどもお話しましたが、「暮らすように楽しむ」という旅行スタイルも浸透してきており、訪れた人が「良い場所だな」と感じれば、他に滞在する人も出てきたり、またその地域のために何かしようと考える人も出てきたりするかもしれません。いわゆる関係人口が増加するということです。

――良いことづくめのように思えるワーケーションやブレジャーですが、日本の企業において、まだ導入が進んでいないようにも感じます。この点について、どういった要因があるとお考えでしょうか。

桃井参事官: 一つの理由は、ワーケーションの意義や効果がまだ企業に十分感じられておらず、組織のマネジメントスタイルが変わっていないことにあるのではないでしょうか。従業員が仕事をきちんとしているのかをなるべく管理しようとしたり、対面でのコミュニケーションの方が効率的であると考えたりする企業や、自由な働き方を認めることが結果としてパフォーマンスを下げるのではないかと考える企業は、まだまだ一定数あると思います。

 これからワーケーションやブレジャーが広がっていくためには、企業が従業員の多様な働き方を認め、それぞれの人に十分能力を発揮してもらうべくどこでも働けるようにすることで、組織としてのパフォーマンスも高めていけるよう、マネジメント手法も見直していくといった、新たな働き方に対応した規範づくり・ルールの見直しも重要となってくるでしょう。

 また、「不公平感の解消」も課題だと思います。職種などによりワーケーションやブレジャーができる人、できない人の間で生まれる社内での不公平感を問題視するご意見もあります。ただ、必ずしも職場や自宅でなくても働ける人にはその人の可能性を広げていく、働き方の多様性を認めていくといった、柔軟な考え方も採り得るのではないでしょうか。

 まずは、一気に全社で導入するのではなく、期間や部署を限定したトライアルを実施するなど、導入しやすいと思われる部門や職種からスタートさせることです。規程についても、一から社としてのワーケーション制度を構築しようとするとハードルが高くなりますが、例えば、現状の自社のテレワーク規程を見直し、職場や自宅以外の場所での勤務も認め、試行してみることから始めれば、比較的簡単にワーケーションが実施できるようになると思います。

 また、導入してみて、こうした働き方は社としてもっと広く推進すべきと感じられた後には、「定着」に向けた取り組みも必要になるでしょう。これには、経営者層のコミットメントや上司の理解も不可欠です。経営者層や上司の方々が実際に自らワーケーションを体験し、その意義やメリットを実感してもらうといったことも重要でしょう。観光庁としても、来年度はそのような事業も実施できればと考えているところです。

これから必要な「自律的な働き方」をワーケーションが育む

――ワーケーション/ブレジャーの普及に向け、観光庁として企業にどのような働きかけをしていこうと考えていらっしゃいますか。

桃井参事官: ワーケーション/ブレジャーの普及に当たっては、働き手の勤務先である「企業への普及啓発と働きかけ」が重要だと考えています。実際のところ、ワーケーションはまだ十分普及していません。「ある一部の特殊な人がやることだ」というイメージもあるようです。ただ、先ほども申し上げたように、ワーケーション/ブレジャーは何も特別なものではないのです。

 例えば、中小企業や地方の企業では、「ワーケーションはウチの会社には関係ない」と考えている方も多いのではないでしょうか。一方、「ウチで働けば、ワーケーションやブレジャーも実施可能です」といった形で柔軟な働き方ができることをPRし、人材不足の中でも優秀な人材の確保につなげたいという地方の中小企業が、われわれのモデル事業に応募いただいたケースも出てきています。観光庁として、こうした取組事例もフォローし、また効果検証を続け、成果や多様な実例を発信していきながら、ワーケーションの裾野を広げていきたいですね。

――導入企業が増えれば、働き手も「働くなら、ワーケーションやブレジャーができる企業がいいな」と考えるようになり、好循環が生まれていきそうですね。

 上司の指示を待つのではなく、自分で考えて行動し結果を出せるような人が、日本でももっと必要になってきていると思います。そういう意味で、どこにいても必要なコミュニケーションはとりつつも自分で考えて動くという働き方や、そうした働き方の自由度を認め、自ら積極的に行動する人を活かせるマネジメントは、これからますます必要になってくるのではないかと考えています。

 自分に日頃求められる役割や仕事だけでなく、個人の人間力にプラスとなるような経験や体験をしたり、自分から進んで学びに行ったり――そうして仕事の幅も広げていく、能力を高めていく機会にもなるワーケーションやブレジャーは、企業にも地域にも、ひいては日本全体にもプラスの影響を与え得るはずです。ぜひ、各企業でも、それぞれの目的や問題意識に沿った形で、経営上の課題解決のための一手として、ワーケーション/ブレジャーを試行・活用していただけたらと思います。われわれ観光庁も、モデル事業の実施や事例紹介などを通じて、企業の皆さまの取り組みを引き続き支援できればと考えています。

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提供:観光庁
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2021年10月31日