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» 2021年10月20日 10時00分 公開

量子コンピュータが「ベテラン従業員の勘頼み」の企業を救う!? AIとの相乗効果がもたらす未来

[ITmedia]
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 日本政府は、仮想空間と現実空間を融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を目指す「ソサエティー5.0」を推進している。いうなれば、デジタルツインにより社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現しようという壮大な取り組みだ。

 そのようなソサエティー5.0の推進に欠かせないのが、強力なコンピューティングパワーだ。なかでも「量子コンピュータ」への期待は高い。NECは、量子コンピュータのコアとなる「量子ビット」の製造に世界で初めて成功した企業として、「量子アニーリング」と呼ばれる動作方式の量子コンピュータの開発に取り組んでいる。

 NECが開発中のアニーリング型は、膨大な選択肢から制約条件を満たした上で、ベストな選択肢を選び出す「組合せ最適化問題」に適している。SF小説のような話に思えるかもしれないが、実用化はすぐそこまで迫っているのだ。

 NECが9月に主催したオンラインイベント「NEC Visionary Week 2021」では「事例で解る量子コンピューティングとAI技術の相乗効果」というセッションを実施。量子コンピュータで何ができるのか、研究・開発の第一人者が現状と展望を語った。本記事では、その模様をお届けしよう。

量子アニーリングとAIの相乗効果で、“熟練工の経験頼み”を効率化

 量子アニーリングによる組合せ最適化は、具体的にどのような課題を解決してくれるのだろうか。量子アニーリングが解決する問題の代表例が、AI(機械学習)と組合せて運用する、多品種少量生産における「生産計画最適化」だ。

photo (図1)AI(機械学習)と量子アニーリングマシンを組合せることで、従来の計算手法ではデジタル化が難しかった領域に対応する

 IoT、AIを導入している工場では、大量の過去データを収集し、機械学習を活用したシミュレーションを行うことで、納期に間に合わせるための1日の生産量など「何をどれだけつくるべきか」を割り出せる。

 しかし、機械学習だけでは「どの順番で、どの製品を加工すべきか、いつどのような手順で作るのか、設備、人員などをどう配備するのか」といった組合せ最適化の領域に関する答えを導き出すことは困難だ。

 つまり、仮想空間で算出した予測結果を現実世界にフィードバックし、実際のアクションにつなげる部分の課題を解くことが難しい。この課題を解決するのが量子アニーリングマシンによる、組合せ最適化である。 AIとは得意な領域が異なり、いわば互いにカバーし合うような関係だ。

photo (図2)IoT、AIによる見える化、未来予測だけではなく、量子アニーリングによる組合せ最適化も活用すれば、デジタルツインの価値が飛躍的に増大する

 量子アニーリングマシンは、3Dプリンタやレーザー加工装置、表面実装装置などを導入した、多品種少量生産を実現する工場での生産計画立案に適している。このような工場では、加工製品の切り替えにかかるセッティング時間(段取り替えロス)をいかに最小化するかが、工場の競争力を左右する。

 従来は、熟練工が経験則に基づいて計画を作成していたが、複数の生産ラインにおける計画など、要件が複雑化すればするほど、作成に時間がかかっていた。加えて、要件を100%満たせないというジレンマも抱えていた。それだけに、量子アニーリングマシンによる効率化と競争力強化に期待が高まっている。

photo (図3)量子アニーリングマシンは、多品種少量生産の工場で生産計画を立案するのに向いている

「熟練工でも1時間」の作業が数秒に 計画の無駄も削減

 NECの関連会社工場における導入事例から、量子アニーリングマシンによる最適化の様子を紹介しよう。この工場では、SMT(表面実装)という方式で電子機器の基板を生産するラインの生産計画に量子アニーリングマシンを導入した。米粒のような電子部品を基板上に並べ、一気にはんだ付けする生産ラインでの「組合せ最適化」を実施した。

 ただ、要件は複雑だ。締め切り日が異なる数百品種のオーダーに対応するためには、電子部品、実装パターン、フローはんだの温度などをオーダーごとに設定変更する必要がある。さらに、各オーダーの締め切り日が異なるだけでなく、同じグループの品種を連続的に生産して効率化を図りたい、切り替え時間を最小化したい、といった他の条件を組合せると生産計画は複雑化を極める。この領域は、システム化・アルゴリズム化が困難なだけに、量子アニーリングマシンに期待が寄せられている。

photo (図4)SMTによる基板製造ラインの生産計画最適化にアニーリングマシンを導入
photo (図5)熟練工が1時間を有していた作業が数秒で完了した
photo NEC 量子コンピューティング推進室の千嶋博氏

 そこで1つのラインの最適化に、量子アニーリングマシンを導入した。NECの千嶋博氏(技術価値創出本部 量子コンピューティング推進室)は「それまで、熟練工でも1時間を要していた計画立案が、数秒で達成するという驚きの成果を得ることができた」と胸を張る。しかも、熟練工と比較して数%無駄の少ない計画を立案できた。

ノウハウやスキルの属人化などの課題も解決

 そこで同工場では、最適化のスコープを拡大すべく、複数ラインへの導入も検証した。複数ラインともなると、条件はさらに複雑化する。例えば、図6にあるように、ライン1とライン2を同時並行で稼働させた場合、ライン1の「C」とライン2の「E」の工程(グレー表示)は同時刻帯で重なっている。

 この工程では、工場で1つしか準備されていない特殊な治具を使用する必要があり、このように時間が重なってしまうと、同時にラインを動かすことができず、他のラインがその間稼働できないという悩みを抱えていた。従来の熟練工による生産計画では、このような複雑な条件下での計画立案は困難を伴っていた。

photo (図6)複数の生産ラインに適用するなど、条件が複雑化するほど、量子アニーリングマシンが威力を発揮し、効率化とコスト削減効果が増大する

 しかし、量子アニーリングマシンによる最適化を実施した結果、図6の右側部分のように、ライン1の「C」とライン2の「E」の工程が重なることなく、最適解を提示してくれた。まさに、熟練工が培ってきた匠の技を超える結果を導くことに成功したわけだ。さらに、工程の重なりをなくしただけでなく、段取り時間の削減にも寄与している。

 このように、生産ラインの数が増えるなど、条件が複雑化するほど、量子アニーリングマシンの導入効果が期待できる。段取り作業員の削減や生産中断時間の削減という課題解決に有効な手段であることが証明された格好だ。

 また、量子アニーリングマシンの導入は「効率化・最適化といった観点だけでなく熟練工の不足、後継者育成問題といった、ノウハウやスキルの属人化の解決にも貢献」(千嶋氏)できるという。

中小企業でも十分利用可能な「現実的な金額」で提供へ

 生産工程の最適化を実施する上で、量子アニーリングマシンの有効性は理解できた。ただ、最先端のコンピュータ技術ともなると、導入にどの程度のコストが発生するのか見当もつかない。ましてや、導入後の保守や運用に必要なコストまで入れると、とてもではないが、投資対効果の観点から実用化は程遠いのではないかと心配してしまう。

 この疑問に対し、千嶋氏は「確かに量子コンピュータそのものを導入しようとすると、数十億円のコストが発生する。しかし実際に運用する場合には、サーバーから提供される計算資源を時間単位で購入するクラウド型のサービス提供になる予定。1件、1件の利用料はリーズナブルになると思うので、中小企業でも十分利用可能な現実的な金額になる」と力説する。

 「現時点では、クセのあるシステム構築になるので、いきなり導入すると難しい課題に突き当たる可能性は捨てきれないが、われわれの方でパートナーとコラボレーションして知見を蓄積している最中だ。比較的近い将来、多くの企業が使えるようなソリューションを構築し提供する予定だ」(千嶋氏)

 前段では、工場の生産ラインにおける導入事例を示したが、量子アニーリングマシンは、「巡回セールスマン問題、集合被覆問題、ナップサック問題、ジョブショップ問題、勤務シフト問題といった、企業が抱えるあらゆる組合せ最適化問題に対応することができる」(千嶋氏)という。

photo (図7)量子アニーリングマシンは、通常の計算アルゴリズムが苦手としている課題解決に有用なソリューションだ
photo 慶應義塾大学理工学部の田中宗准教授

 その一方で、そのような強力な量子コンピュータを中小企業でも利用できるような時代になると、人の仕事を奪い、余剰人員などの雇用問題を引き起こすのではないかと危惧する向きもある。この問題について、慶應義塾大学理工学部の田中宗准教授は「そうした心配を耳にすることはよくある。しかし、その心配は杞憂である。量子アニーリングマシンは、幾通りかの回答を導き出すもので、その中からどれを選ぶかという最終判断は人間にしかできない」という。

 さらに「前述の事例のように、生産工程の最適化といった仕事に人間が何時間もかけるのであれば、その部分はコンピュータに任せてしまい、余った時間で、人間にしかできない、もっと付加価値の高い仕事を行うべきだ。量子アニーリングマシンはそれを可能にしてくれると期待される」(田中准教授)と付け加える。

「明確な目的を設定することで、初めて有用なツールとして機能する」

 「コストがかかりすぎる」「仕事を奪う」というのは杞憂とのことだが、量子コンピュータの導入を視野に入れたとき、企業はどのように向き合うべきなのだろうか。

 この問いに対し、千嶋氏と田中准教授は、口をそろえて、「どんな課題を解決したいのかという、目的を明確化する必要性がある」と明言する。というのは、量子コンピュータを導入して、課題を解決したいという漠然とした思いはあっても、目的そのものが明確化されていないと感じることが多いそうだ。

 「量子アニーリングマシンは、SF小説に登場するような、なんでも手助けしてくれるロボットとは異なる。使う側が明確な目的をもって、初めて有用なツールとして機能する」(田中准教授)という。

 千嶋氏は「最初に量子コンピュータありきではなく、まずは、解きたい問題や課題を整理し、どのようにすれば、価値の最大化を行えるのかという、教科書には載っていない問いに向き合うことが大切だ。それらを顧客企業などと共に考えることで量子コンピュータの普及を図っていきたい」と締めくくった。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2021年11月4日