南昌宏社長に聞く「りそなHD流」両利きの経営 DXのカギは“人財”と“テクノロジー”の融合にあり新たなリテールバンク創出に挑む

» 2021年10月25日 10時00分 公開
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 日本の金融業界にあってデジタルトランスフォーメーション(DX)に先駆的に取り組むりそなホールディングス(以下、りそなHD)。同社では、既存事業の競争力強化を図りながら、データとデジタル技術(以下、デジタル)を活用した銀行のイノベーションを推し進めている。

 まさに「両利きの経営」というべき同社の取り組みは、さまざまなハードルを乗り越えながら“次世代”のリテール(中小企業と個人)サービスの実現へと着実に歩を進めているという。

 その全容について経営トップの南昌宏社長に話を聞いた。

南 昌宏(みなみ まさひろ) りそなホールディングス 取締役兼代表執行役社長 事業開発・DX担当統括。1965年生まれ。1989年にりそなグループ入社。以降、りそなホールディングス グループ戦略部グループリーダー(2009年)、同グループ戦略部長(13年)、取締役兼執行役オムニチャネル戦略部担当兼コーポレートガバナンス事務局副担当(19年)などを歴任し、20年4月から現職

既存事業の強化と「脱・銀行」への挑戦を両輪で回す

 りそなHDは、りそな銀行と埼玉りそな銀行、そして2021年4月に100%子会社化した関西みらいフィナンシャルグループなどを傘下に置くホールディングカンパニーだ。21年3月末時点における連結の従業員数は2万人を超え、地域密着型のリテールバンクとして100年の歴史(*1)を有する国内最大の信託併営商業銀行グループであり、個人1600万人・法人50万社の顧客基盤を形成している。

 そうしたりそなHDが力を注いでいるのがDX──すなわち、データとデジタルの活用による事業変革であり、新たな価値の創出である。

 18年2月に、これまでリーチできていなかった個人に向けて「銀行を持ち歩く」をコンセプトにしたスマートフォンアプリ(以下、スマホアプリ)「りそなグループアプリ」をリリースし、すでに410万ダウンロードの実績を上げている(21年8月時点)。そうした成果を背景に20年4月から始動させている3カ年の中期経営計画では、データとデジタルを活用しながら、従来の銀行の常識・枠組みにとらわれないお客さま起点の“次世代”のリテールサービスの実現を目指すとしている(図)。

図:りそなホールディングス 2020年4月- 22年3月「中期経営計画」の全体概要

 上図にある通り、この中期経営計画では、“次世代”のリテールサービスの実現に向けて、伝統的な金融業務を徹底的に「差別化」していく「深掘」と、オープンイノベーションなどによる"脱・銀行”への「挑戦」、そしてリテールに内在する高コスト体質を打破するための「基盤の再構築」という3つの取り組みが並行して進められている。すでに20年9月、オープンイノベーションの創発・共創拠点「Resona Garage(りそなガレージ)」も開設されている。

 このように、既存事業の維持・強化を図りながら、一方で事業の変革を推し進める、あるいは新規事業を立ち上げて成果を手にする「両利きの経営」は「一人で二兎を追い、二兎とも捕らえる」ような難度の高い取り組みとされる。そうした取り組みを、りそなHDではいかにして成功させ、それによってどのような銀行への転換を果たそうとしているのか――。以下、経営の当事者である南昌宏社長に一問一答形式で聞く。

オープンイノベーションの創発・共創拠点「Resona Garage(りそなガレージ)」

(*1)りそなグループの中核銀行、りそな銀行(大和銀行)の前身、大阪野村銀行は1918年設立。

人財の力をテクノロジーで拡張する

――まずは、DXに乗り出した理由について確認させてください。背景には既存の事業に対するどのような問題意識、あるいは危機感があったのでしょうか。

 私たちがDXに乗り出したきっかけは、既存事業に対する危機感というよりも、既存事業の成長・発展のために足りていない要素を獲得しようとしたことにあったと言えます。ここでいう「足りていない要素」とは、オンラインを介した、お客さまとのデジタルの接点であり、そこから得られるデータです。

 当社のリテール・信託事業を支える顧客基盤は、各地域のお客さまとのフェース・トゥー・フェース(対面)のリレーションによって築かれ、維持されてきたものです。

 対面方式は、お客さまとの密接なつながりを生み、維持するうえで極めて有効で重要な手法ですが、日々アプローチできるお客さまの数にはどうしても限界があります。そこで、対面での接点に加えて、非対面方式のデジタルの接点を拡充し、より多くのお客さまにアプローチしてリレーションを築き、そこから得られたデータを既存事業の変革に生かしていこうと考えたわけです。

――とすると、りそなグループのDXは、顧客との接点を全てデジタル化し、合理化する施策ではないということでしょうか。

 まったく違います。むしろ、対面でのリレーションを強化することにDXの大きな目的の1つがあります。

 もちろん、預金の出し入れや送金、公共料金・税金の支払いなど、お客さまによる日常的な銀行の活用については、可能な限りデジタルへとシフトしていただきたいと考えていますし、そうしたシフトを加速させることはDXの大きなテーマの1つです。なぜならば、銀行の日常的な利用のデジタル化が進展することで、店舗へ1時間かけて来ていただくといったこともなく、ご自宅の端末で手続きができるようになります。これはお客さまの時間を開放し、価値を創出することにつながると思います。

 またわれわれとしては、バックヤード処理の省人化が進み、リテールサービスに内在している高コスト体質の変革へとつながります。

 こうした取り組みは続けますが、融資・資産運用などのリテールサービスは、あくまでも対面での密接なリレーションによって成り立つものです。そのリレーションを一層強固にするための一手がDXであるということです。

――その点についてもう少し具体的にお話しいただけますか。

 対面を通じたお客さまとのつながりを強固にするには、お客さまへのより深い理解に基づく課題解決の提案力・コンサルテーション力を向上させることが大切です。そこにデジタルのパワーやデジタルの接点を通じて日々収集されるデータを生かそうというのが、私たちの考え方です。

 また、対面でのコミュニケーションを通じて、お客さまのニーズや課題に関する詳細で深いデータが得られます。そのデータとデジタルで収集したデータを掛け合わせることで、デジタルの接点を強化して新しいお客さまの開拓に生かしたり、新規サービスの創出へとつなげていったりすることもできます。まとめれば、人財とデータ、あるいはテクノロジーの掛け合わせによって、人の能力とデジタルの能力をともに拡張していくことが、当社のDXの目指すところということです。

りそなグループコミュニケーションキャラクター「りそにゃ」のぬいぐるみ

事業の「1丁目2番地」に踏み出すことから始める

――りそなグループのDXは「りそなグループアプリ」のリリースが出発点のように思えます。このアプリの開発からDXを始動させた理由は何だったのでしょうか。

 確かに「りそなグループアプリ」の市場での定着が、DXに本格的に乗り出すための土台を成しています。その意味で、当社のDXの取り組みがこのアプリの開発から始まったといえるかもしれません。当社が本アプリの開発に乗り出したのは16年のことですが、DXの必要性はそれ以前から感じていました。ただし、DXをどう始動させるべきかは難しいテーマで、検討の末にたどり着いた結論が「りそなグループアプリ」の開発だったということです。

――どのような判断から「りそなグループアプリ」の開発が始まったのですか。

 DXは既存の確立された事業モデルを変革する取り組みですが、成熟企業における確立された事業モデルはいわば「精密時計」のようなものです。銀行の場合でいえば、何万人もの従業員がそれぞれの役割を正確にこなしながら、相互に連携して必要とされるアウトプットを出していきます。その完成された事業構造をデータとデジタルでいきなり大きく変えることには無理があると考えました。

 しかも、かつての私たちにはDXで事業構造の何をどう変革すべきかの方向性も見えていませんでした。そのような状態で精密時計に手を加えるようなことは到底できず、これまで手をつけていなかった領域でDXの取り組みを始動させようと判断しました。

 つまり、既存の事業領域を「1丁目1番地」とするなら「1丁目2番地」で、のちのDXにつながるサービスを立ち上げようと考えたわけです。そうすれば、既存の事業モデルに手を加える必要はありませんし、たとえ、試みが失敗に終わったとしても既存事業に負の影響が出ることもありません。こうして「りそなグループアプリ」の開発が始まりました。

――既存事業の隣(となり)の「番地」とはいえ、そこは御社にとって新しい領域であり、“土地勘”はなかったはずです。となれば、「りそなグループアプリ」を開発し、軌道に乗せるまでには相応の苦労があったと想像しますが。

 おっしゃる通り、かなりの苦労を強いられました。先に申し上げた通り、当社では伝統的にお客さまとのリレーションを対面式によって築き上げてきましたので、あらゆる経営資源(ヒト・モノ・カネ)が対面でのリテールサービスを支える仕組みになっていました。

 そのため、新しいお客さま層にアプローチするためのデジタルの接点を構築するノウハウやスキルの蓄積が一切なく、UI/UXにこだわったスマホアプリを立ち上げるためには、組織の体制や評価の在り方を含めて、全てをゼロから創り上げる必要がありました。それに相当の時間と労力を費やすことになったということです。

――その中で、具体的にどのような組織体制の下で「りそなグループアプリ」を開発し、軌道に乗せたのでしょうか。

 一口にいえば、既存の事業から切り離された新しいチームを組織し、社外の協力会社・エキスパートとの共創によってアプリを作り上げていく体制を築きました。

 「両利きの経営」における組織論でも指摘されることですが、既存の確立された事業を「深掘」する組織と、新しい事業・新しい試みを立ち上げ、推進する組織とでは求められる能力がまったく異なります。

 例えば、既存事業の競争力を高めていくうえでは、同質の考え方を持った人が集まり、オペレーションを突き詰めながら改善を重ねていくことが必要であり、着実な実行力が重要になります。

 それに対して新しい何かを立ち上げる際には、異なる知見・視点・バックグラウンドを持った社内外の人たちとの連携が必要とされますし、従来型の発想を柔軟に変えられる能力が組織に必要になります。また、組織には「リーンスタートアップ」でいうところの将来的な大きな構想に向けて仮説を立て、一歩目を踏み出す実行力とスピードも求められます。加えて、新しい試みは失敗する確率が非常に高いので、失敗を許容して、そこから学ぶ文化も不可欠といえます。

 このような能力を、既存事業を支える組織に持たせることはできません。その観点から「りそなグループアプリ」の立ち上げに向けては、既存事業から切り離された新たなチームを組織したわけです。

異なる能力・知見の融合で地殻変動を引き起こす

――異なる能力を持った組織を社内で併存させるうえでは、それによってどのような企業を目指していくかの共通理解も全社的に必要になるように思えます。その意味で“次世代”リテールサービスに対するグループ全体の理解は、どの程度まで進んでいるのでしょうか。

 言葉を通じた理解はかなり進んでいると思います。一方で、グループ内の全員が、DXによって何がどうなるかを具体的にイメージできているかといえば、そうとばかりは言い切れないのが現状です。というのも、データやデジタルによる変革は、“現物”を実際に見たり、体験したりすることで初めて理解できるものだからです。例えば、スマートフォンにしても、現物を実際に見たり、触れたりしなければ、言葉でいくら説明されても、それがどういうものかは分らなかったはずです。

 さらに、変革の大きなムーブメントも、成功体験によって初めて引き起こされるものです。ゆえに、変革に挑む当事者たちは、素早く自分のアイデアをかたちにし、実績値を見ながら、粘り強く試行錯誤と改善を繰り返していくことが大切になります。実際、「りそなグループアプリ」にしてもリリースしてから800カ所以上を修正しています。そうした泥臭い努力の積み上げが成功につながり、変革の大きなムーブメントにつながっていくわけです。

――異なる能力を持った2つの組織――つまり、DXを前提に変革を推進する組織と、既存事業を支える組織との融合については、今後どのように進めていくお考えですか。

 当社では21年4月に、デジタルチャネル(デジタルの顧客接点)や決済を軸とした新たなビジネスモデルの企画を担う「DX企画部」と、新規UXの提供を担う「カスタマーサクセス部」を設置しました。このようにしてDXに取り組む組織を拡充し、デジタル人財の絶対数を増やすこと、社内の人財が社外の人財と共創する機会を多く設けることが、結果的に伝統的な事業を支える組織へのデジタル人財の流入の推進につながると見ています。また、それによって既存事業の地殻変動が引き起こされると考えています。

 このようなDXの進め方は、少しスローに思えるかもしれませんが、確立された事業モデルを有する当社のような企業が組織全体にDXを浸透・定着させるうえで最も効率的で現実的な道筋だと考えています。

――そのようにして異なる能力を持った組織の人的な融合が進むことで、両利きの経営を推進する必要はなくなるのでしょうか。

 実のところ、私たちには自分らが両利きの経営を推進しているという意識はないのですが、今後、「1丁目2番地」「3番地」へとDXによる新サービスのカバー範囲を拡張していくことも十分に考えられます。そうなれば、やはり既存事業を支える組織とイノベーションを推進する組織を併存させることが必要とされます。また、DXによってコア事業の差異化を進めつつ、それによって得られた収益をデータとデジタルを使った変革にさらに投資していくつもりです。そうした二兎を追い続ける姿勢も両利きの経営といえるかもしれません。

――最後にあらためていまDXを推進する意義について確認させてください。

 新型コロナウイルス感染症の流行により、あらゆる領域でデジタル活用が急速に進み、生活者がそれぞれのニーズに応じてデジタルとリアルのチャネルを使い分けるのが当たり前の時代になっています。そうした時代の変化に銀行だけが取り残されるようなことはあってはならないはずです。

 とりわけ、私たちは03年に「りそなショック(*2)」を経験し、「りそなの常識は世間の非常識」というイメージは是が非でも払拭すべきという変革のDNAを受け継いでいます。いまこそ、そのDNAを再度奮い立たせて、次の世代につなぐイノベーションに力を注ぐタイミングではないかと感じています。

<注釈>(*2)りそなショック:1990年前半の経済バブル崩壊後に日本の株価が最安値を更新し、それを憂慮した国が、生活者の預金保護のために、りそなHDへの巨額の公的資金が注入された出来事を指す。

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