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» 2021年11月08日 10時00分 公開

ワークマン土屋専務が見通す「100年続く凡人経営」 経営者がいなくても自走する自律分散型組織はこう作れ残業はしない。ノルマは作らない

[PR/ITmedia]
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 ワークマンが積極出店を続け、売上高と利益をともに伸ばしている。従来の作業服専門店に加え、アウトドアに特化したWORKMAN Plusや、女性をターゲットにした#ワークマン女子などの新業態も展開。2021年3月期のチェーン全店売上高は1466億5300万円と、5年間でほぼ倍増し、21年9月末での店舗数は924店舗にまで増加した。

 そんなワークマンの躍進を主導しているのが土屋哲雄専務だ。三井物産に30年以上勤務したのち、12年にワークマンに入社すると、データ分析によって店舗の仕入れと在庫を最適化するエクセル経営を導入して同社の成長をけん引した。加盟店の発注の手間をなくす完全自動発注システムも開発し、約半数の店舗に導入している。

 ワークマンでは店舗の95%をフランチャイズチェーン(FC)によって運営している。土屋専務が進めている改革の目的は、ワークマンと加盟店がともに100年以上続く競争優位を構築し、社員一人ひとりが自走する自律分散型組織にすること。その先には、経営者が凡人でも安定した経営ができる「凡人経営」の実現がある。

 土屋専務に加え、データ分析や自動発注システムを担う同社店舗エンジニアリング部の森池翔さんと、石原侑佳さんに、同社が目指す組織の在り方を聞いた。

土屋哲雄(つちや・てつお)ワークマン専務取締役。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役を経てワークマンに入社。常務取締役経営企画・情報システム・ロジスティックス担当としてアウトドアウェア新業態店「WORKMAN Plus」を企画。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。20年10月に初の著書『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)を上梓

最も重要な仕入れをデータ経営で最適化

 ワークマンは作業服と作業用品の専門店として1980年に群馬県伊勢崎市に1号店をオープンした。以後、順調に店舗数を増やして、40年間にわたり業界で圧倒的なシェアを取っている。

 土屋専務が入社したのは、全国の店舗数が700店を突破した12年。三井物産で国内外の子会社社長を歴任するなど30年以上勤務していたが、ワークマン創業者で叔父の土屋嘉雄会長に声をかけられて入社した。ただ、入社するなり「会長からは良い会社だから何もしなくていいと言われた」という。

 「何もしなくていいと言われ、本当にすることがなかったので、最初の2年間は全国の店舗を飛び回りました。ワークマンはほとんどがフランチャイズの加盟店です。何も分からなかったので、加盟店店長が何を考えていて、社員がどんなことをやりたいのかを聞き続けました。

 話を聞いて理解したのは、店長にとっては仕入れが一番大変だということでした。仕入れる商品は全て加盟店の買い取りです。真面目な店長は、店を閉めた後に全ての棚を見ながら小さい端末に入力して、2時間もかけて発注作業をしていました。

 しかし、それでも売れている商品を正確に把握できていない場合があります。あるお客さまが4カ月おきに購入していた商品を、そのお客さまがすでに職を離れていることも分からずに仕入れ続けていたこともありました。それで、品ぞろえと発注作業にボトルネックがあることがはっきりしたので、ここをITで変えていこうと決意しました」(土屋専務)

 土屋専務は全国の店舗を訪れる一方、社内で全社員を対象にエクセルの教育を始めた。外部の講師は呼ばず、2年4カ月かけて社内で関数やピボットテーブルを扱える人材を育成する。上級者はAIも扱うようになる。その準備期間を経て、14年からデータ分析を駆使した「エクセル経営」を導入した。

 データ分析チームのリーダーを務める森池翔さんは10年に入社。入社当時はまだ、店舗運営や加盟店巡回の際にデータは参考にしていなかったと話す。

 「当時は店舗を巡回しているスーパーバイザーが感覚的に発注していました。『この商品は売れていますか』と店長に聞いて、『売れていますよ』と答えがかえってくると、それなら10着発注してもらうといった感じでした」(森池さん)

 ワークマンの社員は入社後2年間、直営の店舗に配属される。14年以降は並行してエクセルの教育が行われるようになり、2年目の社員は毎月店舗の分析レポートを作成している。本社でのデータ分析と合わせて、売り上げアップにつながる取り組みが積極的にされるようになった。石原侑佳さんが15年に入社した際には、すでにデータによる分析が進んでいたという。

 「ベテランのスーパーバイザーの中には感覚で発注を決める人もいましたが、多くの社員はデータをもとに店長と話をしていました。入社3年目くらいでスーパーバイザーになったばかりの社員でも、データを分析した上で具体的な指示を出していたと思います」(石原さん)

データ分析チームの石原侑佳さん(左)と、リーダーを務める森池翔さん

売り上げをアップさせた自動発注システム

 データベースの次に土屋専務が導入したのが、現在約半数の店舗が使っている完全自動発注システム。店舗の売り上げや在庫、本部が推奨する商品、新製品や古い商品の廃盤などのデータを本部が分析して、店長がボタン一つ押すだけで一括発注できる。17年4月から導入を進めて、924店舗のうち約470店舗に導入されている。

 導入を半数の店舗にとどめているのは、使っていない店舗との差を比較するABテストによって効果を検証するためでもある。

 この470店舗分の自動発注システムを管理しているのは、20人の分析チームのうち4人。森池さんはリーダーで、石原さんもそのメンバーだ。森池さんはシステムによる効果の大きさを次のように説明する。

 「運用を開始して4年ほどで、使っている店舗の売り上げの伸び率は通常の店舗を上回っています。通常の店舗を100とすると、使っている店舗は105くらいで売り上げを伸ばしています。

 自動発注システムによって、店舗在庫の中身も良くなりました。その結果として売り上げを伸ばすことができて、在庫を維持しつつ回転率を上げることにもつながっています」(森池さん)

 ワークマンでは土屋専務の発案で、18年9月からアウトドア専門店のWORKMAN Plusを新業態として展開。既存店からの業態変更も含めて、すでに330店舗を突破した。20年10月から女性をターゲットにしたアパレルの#ワークマン女子も展開している。

 自動発注システムは当初、既存店だけに対応していたが、改修を重ねて第3次のシステムでは全ての業態に対応できるようになった。データ分析と自動発注システムは、新業態の展開に欠かせないと土屋専務は考えていたという。

 「データ経営で一番の肝になるのは店舗の最適な品ぞろえです。作業服の専門店は働く人のための店で、お客さまは建設現場や工場、農業、林業、水産、サービス業まで幅広い業種に及びます。100坪しかない店舗に最適な商品をそろえて喜んでもらうことが、私たちの最大の目標です。品ぞろえが良ければ当然売り上げも上がりますよね。

 ただ、長年作業服だけを売ってきたので、一般客向けの商品の作り方や売り方は分かりませんでした。経験も知見もないので、新業態の店舗を運営するにはデータ分析が必要でした。特に女性ものの商品はほとんど扱ったことがなかったので、#ワークマン女子ではどんな商品をそろえるのが正しいのかを店舗ごとに実験して、データで絶えず分析しながら舵とりをしています」(土屋専務)

現場での異変をデータを見ることによっていち早く察知し、検証して調べる(WORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店)

売上目標よりも100年続く経営を目指す

 ワークマンの18年3月期の売上高は797億円、純利益は78億円だった。それが21年3月期は売上高が1466億5300万円と倍近くに伸び、純利益は170億円と倍増した。店舗数は17年に800店を突破し、それから120店舗あまり増えているが、店舗数の伸びよりも売り上げと利益の伸びがはるかに大きい。エクセル経営と自動発注システムの効果が出ていると考えられる。

 ところが、これほど売り上げを伸ばしているのに、ワークマンは売上目標や経営計画を特段作っていない。土屋専務は、新業態も具体的なプランを持っていたわけではなかったと明かす。

 「当社は数字の目標がありません。自然体でいいという会社です。売り上げはあまり意識せずに、お客さまの数を増やすことを考えています。新業態の店舗も出そうとは思っていましたが、どういう業態かは直前まで決めていませんでした。

 もしかしたら靴屋になったかもしれないし、雨具屋になったかもしれない。結果的にアウトドアのニーズが高まったので、アウトドアウェアを展開しました。新業態でも分析によって最適な品ぞろえをすればお客さまが増えて、遅れて売り上げも上がっていくと考えています」(土屋専務)

 自動発注システムには訪れる客に喜んでもらうと同時に、もう一つ大きな目的がある。それは加盟店の負担を減らすことだ。前述の通り、土屋専務は入社後最初の2年間で、品ぞろえと加盟店の膨大な発注作業を課題と捉えた。発注の負担をなくすことも、自動発注の大きな効果だと説明する。

 「それまで発注は店を閉めてからやっていましたが、店を閉めたら一括発注ボタンを押して、5分後には帰ってもらっています。自動発注システムを導入したのは、加盟店のためでもあります。店舗業務では品出しとレジ打ちだけが価値を生みます。接客はレジを打ちながらお客さまと会話するだけで十分で、商品がどこにあるか分かりやすい店をつくればいいのです。

 自動発注が実現したこともあって、加盟店の契約更新率は現在99%です。また、店長が子どもに店舗を引き継ぐ率も50%になっています。子どもに引き継ぐためには、親が残業する姿を見せてはいけません。店長が残業しなくて済むように、自動発注システムの精度を森池や石原が高めているのです」(土屋専務)

 ただ、自動発注といっても、発注した商品は加盟店の店長が買い取る。自動発注1回で購入する金額は50万円から100万円に及び、抱える在庫は3000万円から4000万円分にもなる。自動発注システムを信頼していなければとてもボタンは押せない。それでも導入店舗の9割以上が自動発注をしているという。土屋専務は、本部と加盟店の間で信頼がなければ自動発注は成り立たないと話す。

 「加盟店の店長は独立した店舗の経営者ですから、いいものでなければ自動発注は使わないですよね。私たちもしっかりしたシステムを作らなければならないし、一括発注ボタンを9割以上使ってもらっているのは信頼感があるからではないでしょうか。一括発注以外に自分で発注を付け加える店長もいて、それはそれでいいことだと思っています。

 この信頼感を作るためには人間性も重要です。私たちは社員の採用では、親切心があるかどうかを見ています。加盟店の店長を決めるときも、人柄を見ています。人柄が良ければ、お子さんも息子さんも人柄がいいかもしれない。そうすると加盟店がずっと続く可能性があります。

 メーカーさんも1度決めたら変えません。国内のメーカーさんとは40年以上のお付き合いをしていて、常に当社のことを考えていただいています。データで理詰めの話をするのも大事ですが、親切心や人柄、長期のお付き合いによる信頼感の方が大事です。当社も、加盟店も、取引先も100年以上経営を続けられることが目標です」(土屋専務)

「当社も、加盟店も、取引先も100年以上経営を続けられることが目標です」と土屋専務は話す

自律分散型組織で実現する「凡人経営」

 ワークマンを100年以上続く企業にするために、土屋専務は誰でも経営できる状態をつくる「凡人経営」を目指しているという。

 「経営や商品開発についてトップがあれこれ指摘すると偏りますし、属人的になります。1人の優秀な指導者が周りの人を指導しても、その指導者を超えることはありません。

 それよりも、現場にいる社員の能力を引き上げることができれば、経営者や指導者に能力がなくても会社は成長できます。目指しているのは、凡人でも経営者になれる状態ですね。

 データ分析ができる社員を育てているのはそのためです。企業の成長の限界は、社員の能力の限界でいい。だからこそ社員を伸ばす必要があると思っています」(土屋専務)

 凡人経営は、言い換えれば社員一人ひとりが自分の頭で考えて、現場で実験をしてデータで検証して、自律分散型で結果を出していくこと。この組織づくりを進める上で土屋専務が心掛けていることがある。それは、社員にストレスを与えないことだ。

 「あまりストレスは与えない方がいいと思っています。社員はストレスをかけない方が、それぞれ自分が好きな方向に動きます。社員が育つのを待つ感じですね。自分で走っている社員を後ろから押したり、時間の制限を作ったりしてはいけないと思っています。

 上司から部下にプレッシャーを与えないことは、フラットな議論ができる環境づくりにもつながっている。データ分析チームを率いる森池さんは、チーム内での議論は活発だと話す。

 「全員で提案し合って、最適なシステムのパラメーターを決めていくような組織ですね。上司でも部下でも関係なく、意見し合う文化はあると思います。部下の方が強い意見を出しているかもしれないですね(笑)」(森池さん)

 石原さんは、チーム内で議論する上で最も大事なのは、店舗のためになっているかどうかだと感じている。

 「自分たちが設定している発注システムが100点満点なのかどうかは全く分かりません。どんどん変わっていく状況に合わせられるように監視していく感じなので、誰かの意見が正しいからどうしようという決め方はしないですね。店舗のためにはどのように設定するのがいいのかを常に考えています」(石原さん)

WORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店

自律分散型組織だからできる店舗展開

 土屋専務の「凡人経営」の成果が顕著に現れているのが、新業態の店舗だ。アウトドアとスポーツ、レインウェア専門店のWORKMAN Plusは、18年9月に1号店をオープンすると、既存店からの転換も含めわずか3年で300店舗以上を展開している。

 「私の役割は新業態の1号店をショッピングモールに出しただけです。WORKMAN Plusのときは1カ月後にもう2号店を路面に出店しました。私としては早すぎて、そんなに残業をしてまで出店をしなくていいと言ったんですけど、みんなであっという間に200店舗、300店舗と出しました」(土屋専務)

 ワークマンは長年作業服の専門として業界トップシェアを誇ってきた。にもかかわらずこれだけのスピードで新業態を展開できているのは、ワークマンが持っていた強みが自律分散型組織によって生かされたからだと土屋専務は説明する。

 「入社して最初の2年間に店長や社員の話を聞いて分かったのは、ワークマンは愚直に作業服だけを売ってきたこともあり、超深掘り型の会社だということです。標準化レベルは小売業のトップで、オペレーション能力も非常に高い。だから、1店舗新業態を作れば横展開は容易で、WORKMAN Plusも#ワークマン女子もすぐに複製できます。

 その際に必要なのは、データで検証しながらマニュアルを改定し続けて、完成度を常に保つことですね。標準化はしたいのですが、現場が変化する時代なので、固定化したマニュアルでは現状に合わないことがよくあります。また、お客さまが多様なので、地域によっては求められる商品が違います。本部でコントロールしながら、地域の特徴や多様性を踏まえて、品ぞろえを変えていくことが必要だと思っています」(土屋専務)

 自律分散型組織にすることで、役員は以前の6人から3人に減らした。現在の役員は全員データを分析して活用する力と改革マインドを持っているという。

 「自分で走って、分析ができて、検証ができる人は登用します。部長クラスまで全員そうなると経営者はいらないですよね。経営者は超凡人でいいのではないでしょうか」(土屋専務)

 残業はしない。ノルマは作らない。社員にストレスを与えず、加盟店にも売上のプレッシャーをかけない。自律分散型のチームづくりによって爆発的な成長を遂げているワークマンの進化はまだまだ続く。

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