あらゆる業界においてDXの機運が高まっているが、そのための人材確保に多くの企業が頭を抱えている。いわゆる「DX人材」の争奪戦が日々激化している中で、企業はどのように人材戦略、あるいはDX戦略を考えていけばよいのか。アデコグループの日本法人が運営する「Spring転職エージェント」のトップである板倉啓一郎氏(アデコ株式会社執行役員Spring事業本部長)と、IT紹介部門の責任者である市野友氏(アデコ株式会社Spring事業本部 IT紹介事業部長)に話を聞いた。
DX人材を巡る獲得競争は激化の一途をたどっており、Spring転職エージェントでは企業側からDX人材の獲得に関する相談が過去に例を見ないほど増えているという。求人数はこの3年で30倍に増えたというから驚かされる。多くの企業がDX人材を求める傾向は、コロナ禍による社会環境の変化やオンラインシフトによってさらに加速し、競争優位性を確保するためにDXを推し進めたい企業側のニーズは増すばかりだ。
では、DXを推進できる人材、そしてDX人材を生かせる組織とは、どのようなものなのだろうか。
「これまでの日本のビジネスは、従来の手順やプロセスを重視し、まず始めに物事や言葉を定義するところから始めることが多い傾向にあったと感じますが、今後デジタルを駆使して持続的に成長するためには、『ラテラルシンキング』(水平思考)が必要です。
これは、既成の概念や手法にとらわれず自由な発想で物事に取り組むことを指す言葉で、『必要があれば、とにかく手を動かしてみよう』という考え方。もちろん、概念や言葉をしっかりと定義し、綿密な検討や議論を重ねていくこともビジネスでは重要ですが、こと環境変化が著しい今、そうした姿勢のままでは時代に取り残されてしまうリスクは高いでしょう。
昨今、日本のビジネス業界で『アジャイル』という言葉がよく聞かれるようになったのもこうした考え方が背景にあるかと思います。単なるデジタル化にとどまらず、ビジネス環境の変化に素早く適応し、新たな価値を生み続けること。今、まさにこうした『本質的なDX』をけん引できる人材が求められています」(板倉氏)
そもそも、「DX」という言葉の定義は非常にあいまいであり、「DXを声高に叫ぶ企業の中には、その本質が何かという点まで考えが至っていないことが多い」と板倉氏は指摘する。
「多くの企業が、まず『DXをしなければいけない』というところから入ってしまっており、DXの本質である『デジタルによるビジネスの変革で競争優位性を確保する』という視点が抜け落ち、今までアナログで処理されていたものを単に電子化するだけのデジタイゼーションにとどまってしまっているケースも散見されます」と市野氏は危機感を表す。
取りあえず「DXを実現できる人材が欲しい」「DX=ITのプロが来れば、何とかなる」――このように考えている企業はまだまだ多いのが実情だ。
こうした状況で求められるものは何か――それは、「DXを通じて何を実現したいのか、というビジョンを明確にすること」だと板倉氏は断言する。
市野氏もこれに同意し、「DXは、ITで実現する部分と、ビジネスを変革する部分の融合がなければ実現しません。また、IT領域は複雑化を見せており、経営と現場が一体となって、自社のビジョンやパーパスを明確にする必要があると考えています」と付け加える。
「企業側も、人材側も、ビジョンやパーパスの重要性は高まっています。DX人材の獲得が激化する今、企業が発信するビジョンにどれだけ共感してもらえるか、がポイントです。この点がしっかりした企業が、優秀な人材を獲得できている傾向にあります」(板倉氏)
板倉氏と市野氏が担当するSpring転職エージェントは、サービス設立当初から企業のビジョンやパーパスに着目し、人材側のキャリアビジョンとのマッチングを意識してきたという。
「現在の人材市場は売り手市場となっており、せっかく内定を出しても断られてしまったり、早期退職となったりするケースも増えています。こうした時代だからこそ、人材側のキャリアビジョンと企業側のビジョンやパーパスがよりマッチして、共感を持って入社してもらうことが重要です。それが、入社後の定着や満足につながることは、サービスを立ち上げる前から身に染みて理解していたので、ビジョンに基づくマッチングを仕組みとしてサービスに組み込みました」(板倉氏)
企業のビジョンと人材のキャリア観に向き合うため、Spring転職エージェントでは、大手の人材紹介会社としては異例のシステムを導入。それが、転職希望者に対するキャリアコンサルティングと、企業に対する人材コンサルティングを1人のコンサルタントが担う「360度式コンサルティング」だ。
「企業側と人材側の担当を分ける分業スタイルでは、それぞれの担当者がもう一方とは直接やりとりをしないため、伝言ゲームのようになってしまいます。一方、360度式コンサルティングであれば、1人のコンサルタントが現場で活躍している人材と毎日話をすることができますし、企業側の動きもリアルタイムでアップデートできます。それによって、鮮度の高い情報を直に提供できるのです」と板倉氏は語る。
360度式コンサルティングと併せて特筆すべきなのが、「職種別専門部門制」だ。従来の転職エージェントは業界ごとに担当者を置くことが多いというが、それを職種ごとにすることで担当者が得られる情報の密度が濃くなり、より早く担当領域に精通したコンサルタントに育つという。「Spring転職エージェントではAIを活用した人材マッチングも取り入れていますが、企業と人材のビジョンを結ぶきめこまやかなマッチングは、業界に精通するコンサルトが介在することで初めて実現できると考えています。それが仕組みになっているところが、われわれの大きな強みです」(板倉氏)
企業と人材の双方を見ながら専門性の高い職種別のコンサルティングを提供し、より的確にニーズへ応えてきたことから、顧客からの評価も高いという。
「第三者を介したNPS(ネット・プロモーター・スコア)を定期的に取っていますが、クライアントの満足度と人材側の満足度のどちらも伸びています。もちろん現状に満足することなく、ユーザーの書き込みやアンケート結果を毎週分析して、現場にフィードバックしながら常にサービスの向上を図っています」(板倉氏)
こうしたSpring転職エージェントの特徴は、DX人材不足の時代となり、さらに力を発揮している。なぜなら、DX人材の採用・転職には、専門知識を持ち、企業と人材の両方に精通したIT専任のコンサルタントの存在が必要不可欠となるからだ。
記事冒頭で紹介した通り、Spring転職エージェントに寄せられるDX人材獲得の相談は、爆発的な増加傾向にある。そうしたニーズに応えるため、IT部門を担当するコンサルタントを大幅に増員。「IT100プロジェクト」と銘打ち、IT関連領域に精通したコンサルタントを100人以上配置している。
専門性の高い領域のためコンサルタントにも高いレベルが求められるが、グループ企業のリソースを活用してクオリティーを担保している。
「アデコグループにはIT人材に特化した教育を行う部門があります。このリソースを生かしてSpring転職エージェントのコンサルタント教育を実施しています。IT専任のコンサルタントのトレーニングを行うに当たっては、IT業界を細かく分析し、マトリクスのように細分化している点も特長です。これによって、ITの“ジェネラリストコンサルタント”ではなく、もう一段深い専門性を身に付けたコンサルタントを育成できます」(市野氏)
企業と人材、双方のビジョンを意識し、業界に精通するコンサルタントが対応すると、同じマッチングでも何がどれほど違うのか。それを正しく理解できる事例として、東証一部上場のサービス業を展開している企業のケースを紹介したい。
このクライアントでは、DX部門の部門長ポジションを募集しており、当初は、同業界かつ同じような規模の組織で、DXに関する成功体験を持つ人材を求めていたという。しかしSpring転職エージェントでは、担当のコンサルタントが詳細をヒアリングした結果、当初のリクエストとは異なる、異業界かつベンチャー規模のSIerでプロジェクトマネジャーを担当していた人材を推薦した。
「『旗を振ってもなかなか現場が動かない』という課題感をお話しいただきましたし、お付き合いの長いクライアントなので、企業のカルチャーもよく理解しているつもりです。ですから、単にどこかの企業で同じような成功を体験したというだけでは、おそらく再現性を得られないであろうと判断しました。クライアントが求める技術力に加え、発信力やタフな巻き込み力などといったビジネス推進力を持つ人材が必要だと考え、あえて当初のリクエストとは違う人材を提案しました」(市野氏)
その結果、紹介した人材のプロジェクトマネジメントのスキルや、プロジェクトリードで培った推進力、周囲を巻き込む力などが狙い通りにクライアントとマッチ。無事、内定に至ったという。
「もちろん、そこがゴールではなく、重要なのは入社後です。保守的なところもあった企業カルチャーの中で、応募者はしっかりその点を分かっていながら打破するという熱意を持ち、クライアントが目指すビジョンに共感を持って入社したことから、そのビジョンに向かってビジネスを推進しているそうです。社内にフォロワーもずいぶん増えて、『DXに関する社内ムードも着実に変わってきた』と高い評価をいただきました」(市野氏)
表面的な要件だけではなく、企業のカルチャーを正しく把握し、かつ人材側の事情にも精通しているからこそ、双方のマッチングに成功した好例といえるだろう。
「私たちが掲げるビジョンは、『人財躍動化を通じて、社会を変える。』というものです。われわれのサービスを通じて人材が躍動し、それが企業、やがて社会の変革につながると考えています。まさに今、市野からお話した事例も、人材が躍動し、そして企業が躍動していますよね」(板倉氏)。
企業と人材をビジョンやパーパスに基づいてマッチングし、それぞれの躍動を実現しているSpring転職エージェント。さらに躍動する人材、企業を増やしていくために、今後はどのようなことに取り組んでいくのか。
市野氏は、「入社後の“躍動”まで踏まえると、単なる応募者集めではなく、明確なビジョン、パーパス、ミッションをクライアントから引き出し、総合的にコンサルティングしていくことが非常に重要だと考えています。直近では部門長レベルの人材紹介が多いのですが、今後はチーフデジタルオフィサー(CDO)や経営層に近いところに関わるレベル感の人材紹介にも力を入れていきます」と話す。
板倉氏は「直近では、ビジョンが明確でない場合は一緒にビジョンを作り上げるサポートへ本格的に取り組み始めました。まだまだ発展途上なサービスですが、その先にある、働く人の躍動、そして企業や社会の躍動に貢献していきたいと思います」と締めくくった。
日本だけにとどまらず、他国の拠点と連携しながら海外のIT人材を国内の企業に紹介するケースも出てきているというSpring転職エージェント。単なる電子化ではない、本当の意味でのDXを実現するにはどうすればいいのか。そのためには、どのような人材を獲得するべきなのか。Spring転職エージェントはその答えを持っているはずだ。
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提供:アデコ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年1月11日