シウマイ弁当の崎陽軒・野並社長に聞く市場変化を乗り越えるためのヒント売り上げよりもブランドを重視

» 2022年02月02日 10時00分 公開
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 1908年に初代の横浜駅(現・桜木町駅)構内の売店として創業した崎陽軒。それからちょうど20年後、当時はこれといったものが何もなかった横浜に新しい名物を作ろうという思いで崎陽軒が商品開発した「シウマイ」は、今ではすっかり横浜の顔として定着している。

 さらに、崎陽軒の名を広めるきっかけとなったのが、54年に発売した「シウマイ弁当」だ。同社の主力商品としてコロナ前には1日に約2万7000個を売り上げるほど、全国屈指の駅弁として人気を博している。

「シウマイ弁当」(写真提供:崎陽軒)

 地元・横浜の人たちだけでなく、日本中に熱烈なファンの多い崎陽軒のシウマイは、「まさにお客さまに支えられている」と同社の野並直文社長は話す。

 この「顧客第一主義」は同社の人材育成や組織マネジメントにも大きく関わっている。野並社長へのインタビューから、その勘所をひもといていく。

野並直文社長

客の声を商品開発に生かす

 コロナ禍で通信販売にも力を入れているとはいえ、崎陽軒の売り上げの大部分を占めるのが、駅店舗などでの対面販売だ。店こそが顧客との最大のタッチポイントであり、営業の最前線である。この場所で得られるさまざまな情報の価値は代え難く、それが同社のビジネスの根幹を支えている。

逗子銀座通り店(写真提供:崎陽軒)

 「新商品を作るときには販売スタッフの意見を聞くんですよ。日ごろからお客さまの声が店に直接届いているためです。それを商品作りに反映させているのです」と野並社長は明かす。

 試作品が出来上がると、多くのスタッフに試食してもらいアンケートを取る。販売スタッフは忌憚(きたん)のない自由な意見をどんどん出していき、それに基づいて中身をブラッシュアップしていくのが新商品開発の基本的なプロセスだ。

 崎陽軒はなぜこんなことをやっているのか。一つには、社内の誰よりも顧客のことを熟知しているのが販売スタッフだからということがあるが、ほかにも理由がある。実はこの取り組みが販売スタッフのモチベーション向上につながっているからだ。

 「販売スタッフにとっては、自分たちの意見が反映された商品なわけですよ。私はただ店で商品を売っていればいい人、ではなく、間接的に商品作りに携わることで、責任を持って販売しなければならないという自覚が芽生えます。店長クラスのスタッフはそれをモチベーションとして販売に精を出し、その先輩の姿勢を若い販売スタッフも見習うようになります。こうした相乗効果が生まれています」

 野並社長によると、「お客さまが人を育てる」というのは、顧客の崎陽軒愛に対して応えよう、裏切ってはいけないと販売スタッフが感じて、レベルアップしていくことだという。

 新商品開発において、以前は消費者を集めて覆面調査のようなこともやっていたが、それでは本心を引き出すことは難しいと痛感した。それよりも、商品販売という日常業務の中で、常に顧客の声がフィードバックされる仕組みを社内に設ける方が大事だと考えるようになった。

 とはいえ、顧客の声を自動的に収集するシステムがあるわけではない。どうやっているのか。この答えは店頭に行けばすぐに分かると野並社長は言う。

 「よく商品ケースの前で、お客さま同士が会話をしていることがあります。私もお客のふりをしながら見ていると、何やらゴニョゴニョと話をしているのです。『こんなのを売っているわよ』とか、『最近出た商品が値上げした』とか。そういう声を販売スタッフは日常的に聞いています。これこそがお客さまの本音であり、いかに吸い上げていくかが大切です。単に品物とお金のやりとりだけなら、お客さまが何を感じているのかなんて分かりませんよ」

過度の現場主義は禁物

 ただし、販売現場の意見を重用しすぎるあまり、“想定外の事態”が起きてしまったこともある。それは、リーマンショックの余波による不況でシウマイの販売が伸び悩んだ時のことだ。

 「最近、シウマイ弁当は値頃感がなくなってきたな」という顧客の声が増えてきたため、野並社長は営業部長クラスを集めて商品の値下げを打診したが、猛反発を食らった。そこで今度は、東京エリアの店長クラスを7、8人集めて意見を求めたところ、「ぜひともやってください!」と満場一致で賛成だった。それを受けて2010年9月の価格改定で、30円の値下げに踏み切ったところ、見事売り上げは回復した。

 それから1年後、野並社長は値下げの後押しをしてくれた店長たちを呼んで、ねぎらいの言葉をかけることになった。当然、意気揚々とやってくるのかと思いきや、皆浮かない顔をしている。聞けば、値下げを勧めたことに責任を感じているという。

 実は、値下げによるシウマイ弁当のV字回復があまりにも世間で注目されたため、「自分たちの意見でこんなことに……」と重荷になってしまったようだ。

 「もしかしたら他の社員から『あんたたちが余計なことを言ったから、社長が値下げしたのよ』などと責められたのかもしれません。難しいことを聞いてしまってはだめだと痛感しました」

 値下げの判断によって会社の業績が伸びたことに対しては胸を張るが、現場に委ねすぎてしまうのも考えようだと、野並社長は反省した。

売り上げよりもブランド

 とはいえ、店舗の販売スタッフが同社のコアコンピタンスであることは変わりない。そうした営業現場を統括するリーダー社員へのマネジメントにおいて、野並社長が心掛けているのは何か。それは売り上げよりもブランドを重視することだという。

 「営業というと、とかく数字に走りがち。そこで注意しないといけないのは、一番大事なのは売り上げではなく、ブランド価値だということです。ブランド価値とは、長年のお客さまからの信頼の積み重ね。それが崎陽軒の一番の財産です。これを維持させるだけでなく、いかに磨きをかけていくかを、会社としては常日ごろから考えなければなりません」

 ブランドを守るための一例として、崎陽軒ではその場しのぎの値下げをしないという掟(おきて)がある。

 「よくデパ地下で閉店間際に値下げするでしょ。お弁当や総菜など、日持ちしないものは廃棄処分しないといけないから。でも、うちは一切やりません。値下げしたものを買ったお客さまは得した気分になるかもしれませんが、定価で買ったお客さまは逆に損した気分になってしまいます。崎陽軒は常に同じ価格なので、お客さまも安心します。歯を食いしばってでもそれを守り抜くことが、ブランド価値につながっていくのだと思います」

 野並社長が売り上げよりもブランドだと考えるに至った背景には、過去の失敗もある。

 崎陽軒はかつて、「真空パックシウマイ」を全国の百貨店やスーパーで販売していた。しかし、売り上げ拡大を重視するあまり、商品の販売管理にまで行き届かず、例えば、シウマイが総菜コーナーに乱雑に置かれていたり、トイレの前の商品棚に山積みになっていたりといった様子を、野並社長自身も目の当たりにした。

 「シウマイがかわいそうな売られ方をしていました。これはブランド毀損になると思い、すぐに全国展開をやめることを決意しました。お客さまのためにも、崎陽軒というブランドをもっと大事にしていかねばいけないなと実感しました」

 決して売らんかなではない。ここにも、顧客を最優先に考えるという同社の原理原則が生きている。

「真空パックシウマイ」(写真提供:崎陽軒)

社長自らがコミットしてCIを管理

 ブランドを守り、その価値を高めることが、崎陽軒に対する顧客の信頼につながっていることは分かった。では、そうした理念や考えをどうやって末端の社員にまで浸透させているのだろうか。これが非常に難しいと野並社長は言う。

 そのため、崎陽軒ではこれまで野並社長がCI(コーポレートアイデンティティ)を全て担当してきた。CIに関するものは、たとえ費用がゼロ円でも社長決裁が必要だという仕組みにしている。つまり社長の許可が下りなければ、ロゴやパッケージなどのデザインはもとより、店舗の演出や商品陳列などを進めることはできない。

 当然のように、野並社長が考えるブランドイメージの全てを、社員が一朝一夕に理解できるわけがない。当初は社員がやっている仕事を追いかけ回しては、「あれがだめ、これがだめ」と指摘していたこともあった。ただし、何度もやり取りを重ねるうちに、社員も自然と学んでいき、今では野並社長が口を出すことはあまりない。これは崎陽軒のブランドに対する共通認識が社内に浸透した証左と言える。

 また、ブランドが持つ世界観がブレないようにするために、崎陽軒は社内にデザイナーを抱えて、意識の統一を常に図っていることも大きいだろう。

崎陽軒のグッズ

社員の自立で、成熟した組織に

 このように、さまざまな社内改革に取り組んできた野並社長だが、社長に就任してから30年が過ぎた。長きにわたって経営トップを務めることで、社員に甘えや慣れが生まれてしまうといったマネジメント上の課題はないのだろうか。

 この点に関して、野並社長はキッパリと否定する。

 「むしろ逆で、私がだんだん甘えるようになっています。以前は社員の仕事に対して細かいことを言っていましたが、今はある程度任せても問題はありません。長い年月が社員の自立を促したのです。組織が成熟して、自分の思い通りの会社になってきたなという実感があります」

 崎陽軒がここまでの企業に育ったのは、ひとえにブランド価値を守り抜いてきた結果だと野並社長は考える。

 「社会に出て、いろいろな人と交流する中で、自分が考えている以上に、崎陽軒という会社は存在感があることを知りました。例えば、『天下の崎陽軒』などという言われ方をされることもあるのですが、われわれはそんなコマーシャルを打ったわけでもありません(笑)。まさにブランド価値の大きさがそうしたイメージを形作ってきたのでしょう」

 ただし、これは決して経営トップ個人の力によってなし得たことではない。社長のリーダーシップと、社員一人ひとりの自立。これらがうまく噛み合って崎陽軒のブランドを築き上げたのである。どれか一つが欠けていても成立しない。崎陽軒の成功は、まさにチームの力だということを証明してみせたのだ。

崎陽軒の経営理念
崎陽軒本社

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