サイバーエージェントのとあるワーケーション風景 群馬県の湯治文化が仕事にもたらす“効能”とは?今年こそ、旅するように働きたい!

「観光地でテレワークをしながら休暇をとる」という、ワークとバケーションを組み合わせた造語「ワーケーション」。夢のような取り組みであるにもかかわらず、「本当に効果があるのか」「逆に生産性が落ちるのでは」という声が根強く、なかなか浸透するに至っていない。しかし、本当にそうなのだろうか。サイバーエージェントのワーケーションに密着し、その答えを探った。

» 2022年02月15日 10時00分 公開
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 テレワークやWeb会議など、コロナ禍をきっかけに広まった新しい働き方の中でも、「ワーケーション」は特別新鮮に響いたワードであった。企業にとっては創造性や生産性の向上、自治体にとっては観光需要回復など、ワーケーションにはさまざまな効果があるといわれているが、実態を把握できず足踏みする企業はいまだ多い。

 しかし、観光庁が行ったモデル事業調査によると、ワーケーション中は「集中・覚醒」「モチベーション」「創造性」が高まる傾向にあることがデータとして出ている。実践する前から、不確かな印象評価だけで敬遠するのは、もったいないのではないだろうか。

※観光庁「『新たな旅のスタイル』促進事業(中間報告)令和3年2月5日」資料より

 そこでここからは、群馬県で実施されたサイバーエージェントのワーケーション風景に密着。業界大手のIT企業がワーケーションに見るメリットとは何なのか? 「温泉王国」群馬県で得られる“効能”に迫った。

photo 左からサイバーエージェントの淵之上弘氏(インターネット広告事業本部 デジタル・ガバメント推進室、AI事業本部 DX本部 GovTech開発センター 統括)、三宿仁氏(AI事業本部 DX本部 GovTech開発センター プロダクトマネージャー)、田上敬祐氏(インターネット広告事業本部 デジタル・ガバメント推進室 デジタル市役所研究所 所長)。宿泊先のルルド内にある「ブックケイブ」にて

滞在地は四万温泉! “熱源”創出地、群馬県で過ごす1泊2日

 今回サイバーエージェントが選んだ滞在地は、県境稜線として連なる山間につつましく広がる四万温泉だった。

 群馬県といえば草津や伊香保が有名だが、ここ四万温泉は国民保養温泉地「第一号」に指定されており、江戸時代から日本有数の湯治場として賑わったという、同県名湯の地。奥四万湖からなだらかに続く四万川沿いには、老舗旅館やレトロな遊技場が立ち並び、その古式ゆかしい風情が観光客を魅了している。

※温泉の公共的利用増進のため、温泉利用の効果が十分期待され、かつ、健全な保養地として活用される温泉地を「温泉法」に基づき、環境大臣が指定するもの(環境省HPより)

 滞在地が群馬県なのには理由がある。今回のワーケーション・ステイは、群馬県が運営する官民共創スペース「NETSUGEN」の、あるサービスを活用しているのだという。

 NETSUGENとは、群馬県が県庁32階に設けている有料会員制の官民共創スペースのことで、コワーキングスペースを会員企業のテレワークなどに提供したり、会員向けのさまざまなセミナーを開催したりしている。またテレワークやワーケーションなど新しい働き方を普及させようと、県内に点在する同様の施設を相互利用できる「NETSUGENアライアンス」、県外の会員向けに提携宿泊施設を5000円割引で利用できる「NETSUGENアライアンス+plus」といったサービスも開始した。

 今回サイバーエージェントが宿泊する「SHIN湯治 スパゲストハウス ルルド」(以下、ルルド)もアライアンス+plusの提携宿泊施設の一つ。NETSUGENの会員企業でもある同社が群馬県でワーケーションを体験するには、最適なセレクトだったわけだ。

【1日目】非日常空間で議論も進む“詰めきり会議”

 2022年1月某日、サイバーエージェントと共に東京駅から高速バスに乗り込み約4時間。昼過ぎにはルルドにチェックインを済ませ、1泊2日のワーケーションがスタートした。

 三宿氏にワーケーションのスケジュールを問うと、1日目は参加した3人が顔を合わせて“詰めきり会議”を、翌日は出発時刻まで個々でテレワークをする予定だと話す。テレワークが根付いている同社にとって、顔を合わせて話し合える機会は貴重だ。部屋に荷物を置いて、さっそく雪の中、散策をしながらブレストを行うという3人についていく。

photo 『千と千尋の神隠し』のモデルにもなったといわれる、創業元禄七年の旅館、積善館(せきぜんかん)前にて。周辺をゆっくり歩き景色を楽しみながら、会議前にアイデア出しを行う時間を過ごした

 ルルドに戻ると、和室にこもってPCを開き、会議をスタート。ポータブルプロジェクターでPC画面を壁に投映し、ブレストで出たアイデアや、各自仕入れてきた情報を整理しながら資料に落とし込む。ポータブルプロジェクターは、ルルドが提供するファシリティの一つだ。大スクリーンで画面共有をしながら進む活発な議論は、19時頃まで続いた。

photo ポータブルプロジェクターで資料を投映し、会議が進んでいく。外部モニタがなくても画面共有ができるのは、ワーケーション中にはありがたい

 夜は大浴場と露天風呂を満喫。四万温泉の名前は「四万(よんまん)の病を癒す霊泉」であるという伝説に由来するといい、胃腸病・神経痛・皮膚病・擦り傷などを癒すとされている。雪景色の中、源泉掛け流しで名湯を堪能したあと、温泉街へ夕食をとりに出かける3人を見送って初日が終了した。

【2日目】雪景色に包まれ各自でテレワーク

 翌朝、1階のカフェ&ダイニング「シマノネ」には、朝食後にさっそく散らばってテレワークを行う3人の姿があった。オープンスペースになっている「シマノネ」には、ソファ席やテーブル席がゆったりと並んでおり、PCに向かい集中するには最適な環境だ。オーダーは、各テーブルにあるQRコードをスマホで読み取り、メニュー選びから注文まで行える。支払いはもちろんキャッシュレス可で、隅々までデジタル化されていることに驚く。

 よく観察してみると、ルルドにはワーケーションに配慮した工夫が随所に見られた。館内のさまざまな所にテーブルと椅子が設置されており、どこでも自由に仕事ができる環境が整えられている。ゲストハウスである点もワーケーションには最適で、食事の時間や場所に縛られることがないため仕事に集中しやすいといえる。

大浴場のほか、露天風呂(左写真)も楽しめる。また、1階にはカフェ&ダイニング(右写真)だけではなく、ライブラリーコーナー「ブックケイブ」やコインランドリー、2階には客室のほかシェアキッチンなどを完備。カフェ&ダイニングの利用は任意なので、自炊も可能。長期滞在が多いワーケーションを快適に過ごせる

 では、2日間のワーケーションを通してサイバーエージェントはどのような効果を得たのか? 東京に戻る前に話を聞いてみた。

合宿文化が根付くサイバーエージェントが考える「非日常空間」の効果

――あらためて、ご担当の業務内容をお聞かせください。

photo 官公庁自治体向け組織のデジタル・ガバメント推進室とGovTech開発センターを統括する淵之上弘氏。まだ新しい同部署では、現在、採用活動にも力を入れているという

淵之上:デジタル・ガバメント推進室は20年4月に新設された部署です。官公庁・地方自治体向けに行政DXを推進することを目的としており、各種入札案件に向けたソリューション提供やプロジェクト進行などを担っています。その活動の中で、必要となる新しいサービスを開発する組織として「GovTech開発センター」を同年11月に発足しました。

三宿:AI事業本部にはDX本部含めて全3つの部署があるのですが、そこを横断してAI研究開発を行う「AI Lab」という組織があります。GovTech開発センターでは、彼らや外部の有識者と連携しながら、統計学や行動経済学といったアカデミックな知見を基にサービス開発を行っています。

田上:民間サービスでいうユーザーを公共サービスに置き換えると「住民」、公共サービスのタッチポイントは「市役所など各基礎自治体の役所」であると、僕らは考えています。その市役所業務をデジタルで改変していくことで皆さんの役に立つ、そのためにデジタル時代にあるべき市役所の姿を研究する機関として、22年1月には「デジタル市役所研究所」も新設しました。

淵之上:具体的には、AIを用いた電話応対の自動化、遠隔対話ロボットによる非接触接客など複数の取り組みをしているのですが、現在はまだ検証、研究の段階です。僕らの目的は「住民を主語とした行政DX」を実現することで、そのためにサイバーエージェントが持つデジタル領域における知見、技術といった強みを生かして研究し、サービス提供につなげるため日々活動しています。

三宿:群馬県さまとは、こういった取り組みの中で接点を持たせていただいて、NETSUGEN会員となったことで今回のワーケーション実施につながりました。

――正直「会議やPC業務なら都内でもできるのでは?」という意見もあると思うのですが、今回ワーケーションで感じた効果があれば教えてください。

淵之上:実はサイバーエージェントには、ワーケーションではなく「合宿」で会議をする習慣が創業時から根付いていて。例えば都内で会議があるとして、前日に「何を話そうか」と考えますよね。でも、合宿だと「何を決めようか」というマインドに変わるので、1週間前には準備を始めます。これは大きな効果です。今回も、次はどこの大学に研究協力をお願いしようかとか、どういう人材を何人採用するかとか、具体的に詰めきりました。

photo GovTech開発センターでプロダクトマネージャーを務める三宿仁氏

三宿:事前に“たたき”資料を作ったり、情報を仕入れたり、会議前の「インプット」にかける時間が自然と増すので、議論も活発になります。淵之上がいうように、来たからには「何か決めて帰らなきゃ」という意識が働きますしね。

田上:ゴールがあるんですよね、時間的にも。都内の会議だと「もっと詰めてから決定しよう」となるんですけど、合宿だと「やることは決定」となることが多くて。だから合宿形式で効果的なワーケーションをするなら「決定権を持つ人間も参加すること」はポイントかもしれないですね。まさに「デジタル市役所研究所」は、京都合宿で設立が決まった機関なんですよ。

淵之上:あとは参加メンバーの距離が近くなるのも合宿のメリットで、例えば食事は宿泊先で済ませるんじゃなくて、みんなで外に出て現地の飲食店を探します。美味しい料理を食べたいという目的もありますけど、一番重要なのは体験を共にすることなんです。

三宿:そこでの交流は、都内に帰ったあとも生きてくるんですよね。普段話す人なら仲が深まるし、話さない人なら距離が縮まる。すると、その後の業務でも相談しやすくなったり、雑談が生まれやすくなったりするので、仕事の進め方も変わります。

田上:仕事って余白というか、意外と雑談が大事だったりするじゃないですか。1時間都内で会議してもアジェンダ以上の話はしないけど、合宿だと話が広がりやすい。それはやっぱり景色がガラリと変わるからだと思うので、そういった効果は今回のワーケーションでも感じました。

――では、ワーケーションは合宿形式にこそ有用なんでしょうか。

photo デジタル市役所研究所の所長を務める田上敬祐氏。デジタル市役所研究所は、22年1月に新設されたばかり

田上:1人で集中して業務に向かう時間としても、有用だと思いますよ。オフィスや在宅ワークをするよりは、連絡がきたり声をかけられたりといったノイズが格段に減りますから。

三宿:非日常な環境なのでリフレッシュできて、結果的に意識を切り替えて集中できる環境は構築されやすいですよね。

淵之上:僕らも合宿をするとき、部屋から見える景色にはすごくこだわるんですよ。ちょっとPCの前やデスクから離れたときに限って何かをひらめく、そういう経験がある人は多いと思うんですけど、それが合宿だと360度の視界を非日常的な景色が埋めるわけですから、やはりその効果はワーケーションにも期待できると思います。

――今回のワーケーションで印象に残ったことがあれば教えてください。

淵之上:都内でここまで雪が積もることはあまりないので、目に映る雪景色はやはり新鮮でしたし、その中で入る露天風呂も格別でした。四万温泉は奥まった山間にあるので、群馬県の「都内から近い」という利点、そしてワーケーションに期待したい非日常感のバランスが良いと感じますね。

 あとは、1日目に夕食をとった地元のとんかつ屋さん。コロナ禍であることを思うと来店を控えるべきか心配していたのですが、都内からだと話すと「よく来てくれた」と快く出迎えてくださって。お土産にその土地のお酒まで持たせていただいて、思わぬ交流を図れたことは3人の中でも共有できる良い思い出になりました。NETSUGENを通し、またメンバーを変えて群馬県には足を運びたいと思います。

ワーケーション促進を通して「群馬県をデジタル先進県に」

 サイバーエージェントがNETSUGEN会員になったのには、「お互いのビジョンが一致した」(三宿氏)という理由もある。というのも、NETSUGENのコンセプトの中には「デジタル技術を活用してアイデアを形にする場にする」という目的も含まれており、行政DXを推進するサイバーエージェントの取り組みと親和性が高かったのだという。群馬県の横堀氏は、NETSUGENの取り組みの根底にある狙いを次のように話す。

 「NETSUGEN運用を担当するわれわれデジタルトランスフォーメーション課では、“23年度までに群馬県を日本最先端クラスのデジタル県にしていく”ことを目標にしています。その一環として『デジタルとアイデアが融合して新しい価値を生み出していく場所』NETSUGENを運営しているのですが、では、そのNETSUGENでテレワークやワーケーションを推進しているのはなぜか。

 それは、こういった新しい働き方を広めることで、取り組もうとしている企業や、受け入れ先である宿泊施設、さらにはそれらを含めた地域全体でDXのレベルを高めることができるのではないか、という期待があるからです。テレワークが普及することで、例えば企業側にはペーパーレス化、打ち合わせや会議のオンライン化、チャットの活用、施設では高速インターネット回線の整備や外部モニタ、プロジェクターといった機材の充実など、身近なところからDXが進んでいく。そんなイメージを持っています」

photo 群馬県の横堀知明氏(知事戦略部 デジタルトランスフォーメーション課 補佐 NETSUGEN運用係長)

 大正時代や明治時代までさかのぼれば、群馬県の温泉地は太宰治、与謝野晶子といった文豪が逗留する地として有名であった。都会の喧騒から離れ、豊かな自然や温泉でその身を癒し、執筆に没頭できる地として都会の文化人たちを魅了した群馬。「かつては一部の職業でしか実現できなかった、時間にも場所にもとらわれない自由な働き方。今ではDXによって、さまざまな仕事の分野で実践していくことができます。そんな働き方が広がっていく中で、群馬県が一定の存在感を発揮できるようにしたい」と横堀氏はいう。

 デジタル技術を用いて都心と変わらず仕事ができること、ネット回線を用いて滞りなく外部とコミュニケーションが取れることは必須であり、その環境を整えてはじめて、外部のノイズを遮断できる“地方”としての魅力がワーケーション効果として生きてくる。

 群馬県は都内から気軽に足を運べる距離にあり、かつ自然や温泉といった東京にはない景色が広がる“小旅行”先としては代表的なエリア。非日常に身を置き新たなアイデアを発想する、喧騒を離れ長期の事業計画を思案する、メンバーを募ってチーム・ビルディングを始めるのもいい。きっかけさえつかめば、これ以上ないワーケーション先になるといえるだろう。

自然あり、温泉あり、集中できる環境あり! 群馬県で“効果的な”ワーケーションはいかが?

 最後に「群馬県でワーケーションをする魅力とは何か」、横堀氏に聞いてみたところ、湯治文化になぞらえて次のように話してくれた。

 「古くから交通の要衝、温泉地として栄えた群馬では、さまざまな事情を持つ旅人、そして長期間滞在する湯治客を多く受け入れてきました。そんな中で育まれたのが、お客さんのニーズに合わせた接客サービスです。上げ膳据え膳のサービスもあれば、必要なときだけ手を差し伸べるさりげない接し方もある。そんな程よい距離感を保てる群馬のもてなしが、仕事に集中する時間と息抜きを楽しむ時間を併せ持つワーケーションの受け入れにも息づいているのではないでしょうか。

 NETSUGENが提供しているアライアンス事業では、県内各地のさまざまなタイプのコワーキング施設、ワーケーション施設をご案内しています。提携も拡大予定となっておりますので、ぜひ会員になっていただき、多くの方に群馬県で実施するワーケーションの効果を体験してもらいたいですね」

photo 22年1月現在、「NETSUGENアライアンス」対応コワーキングスペースは11カ所、「NETSUGENアライアンス+plus」提携宿泊施設はルルド含めて3カ所。提携先はどちらも拡大中だ

 現在、日本ではオミクロン株感染拡大による「第6波」への警戒・備えが最優先事項ではあるものの、休暇取得の分散化にもつながるワーケーションは企業が積極的に取り組んでいくべきトピックなのかもしれない。NETSUGENを通し群馬県でワーケーション、検討してみてはいかがだろうか。

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提供:群馬県
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年2月23日