旅行業界を巻き込むJTBの「PMSデジタルソリューション連携システム」構想とは? 観光事業の“再起動”を目指す仕掛け人に直撃

» 2022年03月09日 10時00分 公開
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 新型コロナウイルス流行に伴う人流の減少により、さまざまな業界が影響を受けているが、そのうち最もダメージが大きいものの1つが旅行業界だ。コロナ禍突入直後の2020年4〜6月期に比べれば復調傾向はあるものの、ウイルスの新型株出現による再流行もあり予断を許さない状況だ。そして何より、近年の旅行業界を潤していたインバウンド需要が壊滅状態にあるため、当面は国内での観光需要に頼らざるを得ない。

いまできることは、やがてやってくる需要回復を待つだけでなく、従来ながらの商慣習に根付いた旅行業界においても、デジタル技術を使って業務を改革し、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)を実践することにある。これにより生産性や収益性、顧客満足度を高め、来るべきタイミングに備えることが重要だ。

 こうしたまさに“逆風”の観光事業において、旅行業界全体を巻き込むDXを構想しているのがJTBビジネスイノベーターズ(以下、JBI)である。同社は旅行代理店最大手JTBのグループ内において、金融・決済サービスを通じ、宿泊施設や顧客の問題解決を行うことを主眼に事業を展開している。

例えば、宿泊施設での事前決済機能や、現地支払いにおけるカード決済端末を含めたシステムの提供、そして精算用のバーチャルカードの発行など、宿泊施設まわりで発生する各種精算業務のキャッシュレス化を後押ししている。旅行先の検討(旅マエ)から宿泊施設での滞在(旅ナカ)、そしてチェックアウト(旅アト)まで、旅行者の宿泊体験に存在するさまざまな課題をデジタルで解決するのが同社のミッションだ。

 JTBは2月3日に「PMSデジタルソリューション連携システム」の名称で、この一連の流れの中で必要となる各種システムやサービスのデータ連携を共通化する実証実験の実施を発表した。PMS(プロパティ・マネジメント・システム)とは、顧客名簿やサービス利用状況などを一元管理する仕組みで、多くの宿泊施設で導入されている。

 一方で、PMSには仕様を含めて業界的な標準がないのも事実であり、飲食や購買、サービス利用状況、鍵の管理まで、それに付随する「マイクロサービス」と呼ばれる仕組みが数多存在し、PMSとの標準接続インタフェースもないため、宿泊施設内で流れるデータを有効活用できているとは限らないのが実情である。

 JTBが発表した構想は、一種の「ハブ」のようなものを用意し、これら数多あるマイクロサービスと複数ベンダーが提供しているPMSとを相互接続し、両者がより密に機能する共通プラットフォームを構築していくというものだ。

JTBが推進する「PMSデジタルソリューション連携システム」構想

 今回、この構想の背景と旅行業界が現在置かれている状況について、JTBビジネスイノベーターズの加藤氏に話を聞いた。

旅行業界がDXで解決すべき課題とは

 宿泊施設のDXといわれたとき、「いまだ紙の作業フローが残っていて、そもそもデジタル化されていないのでは?」などと思われるかもしれない。だが実際は多くの施設で前述したPMSのようなシステムが導入されており、そうした面での問題は解消されつつある。

JTBビジネスイノベーターズ システム・カスタマーサービス部 システムソリューションユニットでユニット長を務める加藤建吉氏

 一方で、それぞれの宿泊施設には習慣的に根強く残っている仕組みがあり、「そうした部分が汎用化されずに個別対応の形で取り組みが進められている」というのがDXの阻害要因だと加藤氏は指摘する。PMSは導入していても、宿泊施設の個々の事情によってPMSではカバーしきれていないのが現状だ。

 また、PCなどのハードウェアのリース期限に合わせてPMSも5年周期などで乗り換えが発生することが多く、そのたびに独自のカスタマイズ作業や外部連携作業が発生するのも課題となっている。結果として、こうした独自部分がコスト負担や効率性の面でマイナスに作用しているわけだ。

 宿泊施設にとってPMSは基幹システムと呼べるものだが、前述の通り複数の大手ベンダーに加え、地域ごとに中小さまざまなベンダーが存在し、業界標準的な仕組みは存在しない。

 JBIも「INCHARGE7」というPMSを提供しているが、これもまた複数ある大手PMSの1つでしかない。PMSを拡張していけばこれら個々の宿泊施設のニーズを取り込めるものの、システムそのものが肥大化してしまう。それならば、基本となる顧客管理の部分に注力したPMSを中心に据え、その周囲を個々のニーズに応えるマイクロサービスで補完していくのがスマートな姿だろう。

 実際、JTBが21年2月に実施した事業者へのヒアリングでは、コロナ禍における密回避のためのソリューションの導入、不十分な他システムとの連携強化、顧客価値を高めるソリューションの優先導入などが課題に挙がったという。宿泊客へのサービスの高度化と運営の効率化を目指せば目指すほど、活用システム全体が複雑・肥大化するという宿泊施設とPMS事業者共通のジレンマを解消するために生まれたのが、この「PMSデジタルソリューション連携システム構想」だ。

宿泊事業者向けマイクロサービスの市場と課題
PMSとマイクロサービスの間のデータ連携パターン

 現時点ではまだ実証実験(PoC)の段階だが、信南交通のAssistとJBIのINCHARGE7という2つのPMSに対し、非接触型多言語コミュニケーションツール「Kotozna In-room(コトツナ イン ルーム)」が同プラットフォームを使って連携させる仕組みを4つの宿泊施設で導入する。

 KotoznaにPMSのデータをつなげることで、宿泊者が未精算額をリアルタイムで把握し、チェックアウト時にオンライン精算が可能になる。精算業務の効率化を図りつつ、それに伴うカウンターでの密回避のほか、利用客の利便性向上を同時に実現する仕組みだ。現在はまだ2つのPMSと限られたサービスの連携にとどまるが、本稼働時には「業界のPMSシェアで3割程度をカバーする仕組みにしたい」(加藤氏)とのことで、賛同するベンダーが増えれば宿泊施設はより効率なデータ連携が可能になり、顧客体験を向上する新たなサービスの導入も容易になるだろう。

 一方でこの仕組みは、PMSを提供するベンダーにどんなメリットがあるのだろうか。加藤氏によれば、PMSベンダーにとって固有のカスタマイズ案件は、ビジネスチャンスである半面、開発に一定のリソースを消費されてしまい、逆に商圏を広げるチャンスを失っている側面もあるという。

 実情として、PMSが年数を経ることでどのベンダーもおおよそ同じようなサービスを提供しており、逆にカスタマイズをアピールすることで顧客を獲得するという逆説的な状況が生まれているようだ。JTBが構想する「PMSデジタルソリューション連携システム」によって、PMS事業者ごとの競合優位性は次第に失われていくことも考えられるが、本来のニーズを取り込むのであれば、外部連携の部分に着目すべきなのではないかというのがJBI側の考えだ。

 実際、こうした試みが受け入れられるようになれば、プラットフォームへの接続を目指したベンダー参入とマイクロサービス拡充も考えられ、国内旅行者に対する新たな体験や価値の提供など、旅行業界全体を活性化させる可能性を秘めている。

構想から半年でスピード構築へ カギは日本マイクロソフトの支援

 こうした構想がJTBで持ち上がり、実際にJBIにシステム化の話が持ち込まれたのは21年8月ごろ。JBIではすでにMicrosoft Azure上でさまざまなソリューションを構築していたこともあり、その中でAPIマネジメントの仕組みが用意されていたことから日本マイクロソフトへ相談を持ちかけたという。そこで実現に向けた検討を進めながら1カ月ほどでシステム全体の骨子が出来上がり、JBIの要件定義が1カ月、その後にテスト込みで開発期間が2カ月とトントン拍子で開発は進み、21年内にはおおよその形が完成した。

 これだけスムーズに開発が進んだ背景には「日本マイクロソフト側で提供しているソリューションとJBI側で実現したいと考えていたシステムの内容が合致したことが大きかった」と加藤氏は振り返る。各PMSが提供するマイクロサービスをJBIの共通プラットフォームで連携させるには、バックエンドにあるAPIを一元管理し、アクセス処理や流量制限、監視などのさまざまな処理を行う仕組みが必須。AzureにはAPIを管理するPaaSサービス「Azure API Management」が用意されていた。

PMSデジタルソリューション連携システムの概要図

 今回、このJTBの構想を実現する上で中核となったのが日本マイクロソフトの「Solution Competency Center」(SCC)だったという。SCCは21年6月に発足したばかりの組織で、「DX、コスト削減、システムのモダナイズの無償よろず相談、承ります」をキャッチフレーズとし、主にレガシーアプリケーションやソリューションのモダン化を支援するコンサルティングを提供している。「経営層に突然データ分析やAIをやれといわれて頭を抱えているDX担当者も対象」といえば、相談を持ち込むハードルの低さが分かるかもしれない。

 SCCには取材時点(22年2月現在)で20件ほどの案件が走っているということだが、今回のJBIのプロジェクトはSCC発足直後に始まったこともあり、成功事例の第1号だそうだ。開発メンバーとしてはSCC側で常時3名体制のほか、データ連係部分で2名、システム連携で2名、そしてPMSの製品自体に2名という体制で取り組んでいる。SCCの実態は日本マイクロソフトのパートナーということから、SCCで具体的なアークテクチャを作成後、構築に向けてそのままパートナー支援を活用しやすい。今回は富士ソフトが担当し SCC 支援後構築までをサポートした。

日本マイクロソフトの「Solution Competency Center」(SCC)

 当初の実証実験はこの3月で終了し、次年度は「PMSシェア30%のカバー率」を掲げ、さらなるPMSとマイクロサービスの接続を目指して開発は進んでいくことになる。大手のJTBグループが旅行業界全体の活性化を目指して旗を振ることに対し、宿泊事業者やマイクロサービス開発社からは好意的な意見が寄せられているという。

 そのきっかけとなったSCCの支援に対し、加藤氏は「いままさに観光事業はコロナ禍の影響を大きく受けているが、今回のように業界活性化に向けた取り組みをテクノロジーの力で支えてくれる日本マイクロソフトのようなDXパートナーの存在は非常に心強い」と話す。

 今回はAzureをベースとしたSaaSの仕組みとなるが、宿泊施設の業務としてはバックオフィスの中でExcelやPower Platformのような分析や集計ツールがあり、さらに新たな従業員コミュニケーション手段としてのTeamsの活用も始まっている。その点においても、PMSに限らず旅行業界のDXに寄与できるデジタルソリューションは多く、今後もさまざまなツールを組み合わせた提案が行われていくだろう。ウイルスの新型株流行を抜けた先にある国内需要の復調と、22年度以降にやってくることが期待されるインバウンドの復活に向け、DXによる旅行業界の“基礎体力づくり“は着々と進んでいるようだ。

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年3月15日

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