「福岡らしさ」を世界へ 今、エンジニア×コミュニティに大注目なワケ福岡・天神「エンジニアカフェ」の挑戦

ビジネスとの結び付きが強いことで知られる福岡市。「起業」のイメージも強いが、昨今ではエンジニアのサポートにも注力している。中でも注目なのが、「福岡をエンジニアの聖地へ」をコンセプトに、福岡市の中心地である天神に立ち上げ、ハードとソフトの両面でエンジニアとそのコミュニティを支援する「エンジニアカフェ」だ。

» 2022年03月29日 10時00分 公開
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 近年、エンジニアのコミュニティ活動が活況を呈している。中でも活発なのが、福岡市だ。同市は「エンジニアフレンドリーシティ福岡」を標ぼうし、エンジニアと一緒になって、エンジニアの活動を支援する取り組みを展開している。その一環として、中心地である天神に構えるのが「エンジニアカフェ」だ。

 本記事では、そもそも「なぜエンジニアとコミュニティの相性がいいのか」といった点や、エンジニアのコミュニティ活動支援に特化しているエンジニアカフェの魅力や挑戦について、企画・運営責任者である村上純志氏や運営人の鈴谷瑞樹氏、そして福岡市の担当者にインタビューしていく。

エンジニアとコミュニティの親和性とは

 そもそもなぜ、エンジニアはコミュニティという「場」を求めるのか。エンジニアカフェのコミュニティマネージャーである鈴谷瑞樹氏は、コミュニティの意義について次のように話す。

エンジニアカフェでコミュニティマネージャーを務める鈴谷瑞樹氏

 「人によってコミュニティの活用方法はさまざまです。コミュニティに対して感じている価値もいろいろあると思いますが、若いエンジニアには『自分が勉強した内容をアウトプットする、要するに自分が他のエンジニアへ価値を提供することを日常化していくと、アウトプットが上手になる場だよ』と伝えています」

 アウトプットを前提にエンジニアがコミュニティに集まり勉強会を開くと、自分が勉強したことを1時間かけてアウトプットするだけでなく、同じく他の人の1時間分のアウトプットも入ってくる。

 「自分と同じような興味を持っているエンジニアが勉強したことを共有できる場に参加することで、自分の1日=24時間だけでは追いきれない情報を手に入れたり、(1人では)解決できなかったことが解決できたりするようになります」(鈴谷氏)

 日々新しい技術に触れ、新しいことを勉強し続けなければならない環境に置かれているエンジニアにとって、コミュニティ活動はとても効率のよい“情報の圧縮方法”なのだ。

 そうした観点から見れば、同じ会社の人間同士ではなく、あくまで多様な経験を持っている人が集まっているコミュニティの方が適しているといえる。

 「社内のエンジニア同士で勉強会を行っている会社もありますし、それに向いている内容もあると思います。しかし、例えば同業他社のエンジニアが集まっていれば、同じキーワードに関しても自分が持っていない、あるいは持ちようがない視点から技術やトピックに対する解決方法にアクセスしやすいはずです。社外や似たような課題を持つ他のエンジニアと情報交換をすることによって、自分では見えていなかった側面に気付く機会になるのではないでしょうか」(鈴谷氏)

コミュニティ活動に重要なスペースづくり 福岡市だからこそ実現できた

 エンジニアのコミュニティが生まれ、活性化するには、いくつかの条件がある。特に必要なのが、集まるためのスペースだと、同じくエンジニアカフェを運営する村上純志氏はいう。

 「コミュニティで活動をする上で、特定企業のスペースを借りると制約が生まれてしまいます。例えばA社のオフィスを借りて活動しているコミュニティが、A社の競合に当たるB社のビジネスモデルや技術を勉強するのがなかなか難しい、というようなものです。ですので、コミュニティが活動していくに当たっては、中立な立場である行政が場所を提供してくださると、非常にやりやすくなります」

 こうした場所の提供を積極的に進めているのが福岡市だ。同市はもともと、IT関連産業の集積を図ってきたというが、さらにエンジニアが活躍し、成長し、集まる街を目指しエンジニアフレンドリーシティ福岡というコンセプトを打ち出している。

 「新しいデジタル関連の技術がどんどん生まれている中、さまざまな領域でエンジニアの力が欠かせない状況になっています。私たちもエンジニアの後押しをする中、エンジニアの皆さんから『技術力を向上し、活動できる場所がほしい』という声をいただき、エンジニアカフェという場所をつくりました。福岡市としては、エンジニアと一緒になって、エンジニアやコミュニティの活動などを活発にしていきたいという思いがあります」(福岡市担当者)。

 福岡市から委託を受け、エンジニアカフェを運営するのが、前出の村上氏と鈴谷氏。

エンジニアカフェの企画・運営責任者である村上純志氏

 「私はもともとエンジニアで、15年ほど前から福岡市のエンジニアコミュニティに参加していました。そこで現在エンジニアカフェのコミュニティマネージャーをしている鈴谷にも出会い、コミュニティという場の面白さを知り、より深く携わるため、エンジニアなどのコミュニティを支援するNPOに転職しました」(村上氏)

 NPOでの活動をしていく中で、福岡市がエンジニアのコミュニティ活動が盛んな土地であることや、先述した「中立的な活動場所の確保」だけでなく、さまざまな形のコミュニティ支援が求められているという声を、多くのエンジニアからヒアリングしてきた村上氏。福岡市がエンジニアカフェを始めることになった際、こうしたエンジニアの声を基に企画提案を行ったという。

 「ある種トップダウンである行政の取り組みと、ボトムアップのコミュニティ活動の二輪がうまく回ってエンジニアカフェが立ち上がりました」(村上氏)

 村上氏は、エンジニアにとって、何がよいのか、何があったら成長できるのかを考え、エンジニアと話しながら環境をつくっていくことが重要だとも話す。この点にも、エンジニアと福岡市がタッグを組むメリットがあると説明する。

 「何か新しいことを行うときに福岡市さんはすぐに理解を示し、後押しをしてくださいます。普通だったら『先例がないから』と断られてしまいそうなことも、背中を押してくださるので非常にやりやすく、提案をしやすいと感じています」(村上氏)

 この点について、福岡市の担当者は次のように話す。

 「福岡市役所では、先例がないことにもリスクを取ってチャレンジする姿勢を大切にしています。また、福岡市は民間主導で発展してきたところもあり、民間と行政の距離が近いのも特徴で、民間の皆さんが最大限に力を発揮できる土壌を整えることが重要な役割だと考えています」

 こうして生まれたエンジニアカフェ。その役割について、あくまで「入り口」にすぎないと鈴谷氏は話す。

 「私たち(エンジニアカフェ)が主体になって何かを提供する、サービスをするということも当然行いますが、それはあくまでも入り口でしかないと考えています。そこから、福岡市を拠点に活躍しているエンジニアの方やコミュニティにおつなぎし、活動を支援していくのがわれわれの目指す姿です」

モノづくりも、オンライン活動も さまざまな形でエンジニアを支援

 ここまで、主にエンジニアカフェの成り立ちやコンセプトを説明してきた。ここからは実際に、エンジニアカフェという場が、一体どのような施設でどのような価値を提供しているのかを紹介していく。

 エンジニアカフェは、福岡市の中心地である天神に位置し、築113年の歴史的な建造物である福岡市赤煉瓦文化館内にある。利用は基本的に無料で、ふらっと立ち寄ることもできるところも魅力の一つだ。

福岡市赤煉瓦文化館の外観

 中には大人数でイベントを行えるメインホール、集中して作業したい人向けのスペースを皮切りに、4〜8人ほどの少人数でミーティングを行うことに適したミーティングスペース、リモート会議などに使え、防音室のような静かなスペース、ソファに座ってリラックスしながら作業ができるアンダースペース――など、幅広い個人での作業スタイルやコミュニティ活動に合わせたファシリティを備えている。よりリラックスして歓談できるようなカフェバーも併設しており、至れり尽くせりだ。

コミュニティ活動を活発にするさまざまなスペースを用意している

 ユニークなのは、モノづくりのスペースとしてレーザーカッターや、3Dプリンタなど、普段ソフトウェアのエンジニアが使うことがないであろう設備も用意している点だ。

 「ソフトウェアのエンジニアがつくったものは、何かしらのハードウェアで動きます。自分がつくったソフトウェアでハードウェアを動かしながら『こういう世界を実現したい』というビジョンを、形として表現できるような環境をつくろうと考えました。これが意外と好評で、これまでモノづくりは家で一人で黙々と作業する、といったイメージだったのが、他の人と話しながら作業ができて楽しい、といった声も上がっています」(鈴谷氏)

モノづくりスペースの様子

 コロナ禍となり、「集まる」ことが難しくなった中で、オンライン上の活動も活発に行っている。

 「新しいコミュニケーションの手段として、試験的にDiscord上でオンラインコミュニティを立ち上げました。そこでは例えば、今困っている技術のことやエンジニアカフェ近辺にあるおいしいランチのお店など、さまざまなことを気軽に書き込むことができます。

 立ち上げ当初は、運営側が積極的に盛り上げていましたが、少しずつ参加者が増え、今では参加者が主導してコミュニケーションが活発に生まれるなど、とても大きなコミュニティになっています」(鈴谷氏)。

外国人スタッフも常駐

 エンジニアカフェを運営するスタッフは、さまざまなバックボーンを持った人が集まっている。経験豊富な村上、鈴谷両氏に加え、コミュニティマネージャーとして英国出身のグリフィス・ローリー氏が常駐している。

英国出身で、村上氏がスカウトしたというコミュニティマネージャーのグリフィス・ローリー氏

 「10年ほど前、私が運営を担当していたスペースで知り合ったエンジニアである彼に声を掛けて、参加してもらっています。幅広いコミュニケーションやコミュニティ活動を考える上で、やはり海外のエンジニアは外せないという思いがあります。

 彼は海外の掲示板などから情報を収集・発信するだけでなく、地元にいる海外のエンジニアの方とつながってオンラインイベントも実施してくれています。役割としては鈴谷と同じく、コミュニティマネージャーですが、英語での対応もできるので、海外のエンジニアやコミュニティもエンジニアカフェを利用してくれるようになりました」(村上氏)。

新技術や次世代の育成にも注力 「福岡ならでは」を追求していく

 福岡市の後押しと運営スタッフの情熱により、進化を続けてきたエンジニアカフェ。もちろん勢いは、この先もとどまることはない。

 「直接運営に関わっているスタッフやコミュニティマネージャーとは別に、先端技術を習得している現役のエンジニアに『ハッカーサポーター』という非常勤のメンバーとして参加してもらっています。2022年4月からは、このハッカーサポーターを増員し、より専門的な技術を扱うイベントや勉強会を増やしていこうと考えています」(村上氏)

 福岡市が標ぼうするエンジニアフレンドリーシティの実現を考えると、取り組みたいことは山積みだ。

 「多様性の中で、多くのアウトプットが生まれることを期待し、これまで以上にハッカーサポーターやコミュニティマネージャーとの交流に注力することを第一に考えています。さまざまなサポートや仕掛けを、福岡市とともに行っていこうとしています」(村上氏)

 「『東京みたいに』ではなく『福岡ならでは』の、新しいプロトタイプやプロダクトが生まれたらいいなと思っています。そのためには、村上が話した通り、福岡市で活動するエンジニアの多様性がとても重要になります。『福岡で生まれるモノは毛色が違っていてやっぱり面白い』と思われるのが理想ですね」(鈴谷氏)

 以前は飲食店で働いていながら、「もっと世の中のDXが進んでほしい」という思いをきっかけにエンジニアカフェへ携わるようになったという寺元力氏も「私がいたような飲食業界や、ITリテラシーが低いといわれてしまう人たちにまで広く、ITが届く世の中になってほしいと考えています。新しい技術がエンジニアカフェをきっかけとして生まれるととてもうれしいので、そのサポートをしていきたいと思っています」と語る。

 運営メンバーの言葉に呼応するかのように、福岡市の担当者も熱く語る。

 「福岡市としても、エンジニアカフェを中心にエンジニアの皆さんとどんどんチャレンジしていきたいという思いを持っています。本気で福岡市から新しいサービスの発信を目指していきたいですね。そのためにも多様な方に福岡市へ集まってもらい、パワーをいただきながら、私たちもともに成長していきたいです。

 今までスタートアップ企業やこれから成長する企業の支援施策をメインに行ってきましたが、これからはより一層、エンジニアのサポートにも取り組んでいく考えです。特にコロナ禍となり、ITがこれまで以上に身近なものとなっているので、今後は“エンジニアドリブン”な世の中になると考えています。世界を見渡しても、大きな企業はエンジニアが起業しているケースが増えています。日本ではまだそういったケースが少ないように感じますので、世界に羽ばたくようなエンジニア起業家が福岡市から生まれてくるといいですね」

 ちなみに、エンジニアカフェの利用者は、エンジニアだけではない。寺元氏のように、他業種からエンジニアになりたい人や、学生も多いという。最近では、教育機関と共同で、文系学生向けのプログラムを立ち上げるなど、次世代エンジニアの育成にも注力する。

子どもがエンジニアという仕事やITに興味を持ってもらえるような取り組みにも注力する

 もともと、ビジネスが強い街として知られる福岡市。そこにエンジニアが強いという地域特性が加味されることで、“ビジネス×エンジニアリング”を軸に世界へ発信できるサービスや企業が生まれる可能性も高まっていくのは間違いない。エンジニア同士の交流が活発になって、エンジニアがさまざまなスキルに触れながら、その中で新しい、そして画期的なサービスや世の中を変えていくようなプロダクトが生まれ、羽ばたいていくことを期待したい。

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提供:福岡市
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年4月8日